なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~
第3話 両親
幼馴染と別れ、俺は家に帰った。俺の家は小さな道具屋だ、昔はもっと何かしていたらしいが、今は小規模な商売で細々と食いつないでいる。当然家も小さい。
「ただいまー」
ドアを開けて入ると狭い家なので誰がいるかはすぐにわかる。折よく家族全員揃っていた。
「あらおかえり……あら?」
「む? 誰だ君は」
「お兄ちゃんのお友達?」
陽気な母、厳格な父、そして妹。皆一様に俺の顔を見て訝しがった。見慣れない少女がただいまと帰ってきたらそうなるだろう。
「俺だよ、セイ。ちょっと事故があってさ、こんな体になっちゃったんだ」
「えー!?」
「なにがあったらそうなる……」
「セイなの? あなたが?」
想像通りの反応だが、我が家に関しては俺がセイであることの証明は簡単だ。母さんのスキルがある。
「ちょっと待ってね……【ステータス】」
皿洗いをしていた母さんがエプロンで手を拭いてから俺に近寄り手をかざす。すると母さんの前面に文章が浮かび上がった。
この文章は俺のステータス、諸々の情報を示したものだ。これが母さんのスキルである。
そうして表示された今の俺のステータスはこんな感じだった。
なまえ:セイ・ブルーム
せいべつ:女
ねんれい:15
ちから:よわめ
すばやさ:ふつう
かしこさ:なかなか
がんじょう:まあまあ
まほう:よわめ
こころ:なかなか
すきる:【美少女化】
すきるのつよさ:すっっっごーーーい!
じょうたい:【美少女化】
母さんの性格上表記はちょっとあれだが精度は高い。今の俺の状態を正確に表しているはずだ。
「おお、本当にセイなのね。この、びしょうじょか? ってスキルのせいなのかな」
「知らないスキルだな。強度は……母さん、これなんになるんだ?」
「わかんない、でもとにかくすごい奴よ」
「まあ、とにかくセイであることは間違いないようだな」
母さんのスキルへの信頼度は高いので、家族は俺がセイだとあっさり信じてくれた。
とその時、とてとてと妹のサナが歩み寄ってくる。
「ふーん、お兄ちゃん、いやお姉ちゃんか。ちっちゃくなっちゃって」
サナは13歳になる妹で、ツインテールの黒髪を揺らし丸っこい瞳できょろきょろと俺を見ている。俺より一回り以上小さかったはずのサナだが俺は【美少女化】に伴い背が縮んだので、目線がほぼ同じ、むしろ俺の方がやや低いくらいになっていた。
「ふふっ、かわいい!」
「わっ!?」
いきなりサナは俺に抱き着いて頭を撫で始めた。
「お姉ちゃんっていうより妹みたいね。お兄ちゃんもいいけどこっちもかわいいなー」
「やめろってサナ、てかお前力強いな! ぐぐぐ」
「セイが弱くなってるんだよ、『ちから:よわめ』だったじゃん? 女の子だもんね」
兄を好き放題撫でまくる妹を振りほどこうとするも力負けする俺。兄として、男として色々とまずい気がする。
「わ、おっぱいもある。私より小さい……よね? 小さいことにしておこう」
「お、おいサナ触るな、なんか変な感じが……んんっ」
「髪サラサラだし肌きれいだね、スキルの力なのかな? うりうり」
「ひっははは、や、やめろくすぐったい!」
散々俺を弄ぶサナだったが、コンコンとノックの音がしたのでようやく俺から離れた。抗議の意思を睨んで示す俺にサナは舌を出し目を「の」にしてごまかす、かわいいが許さんぞ覚えてろ。
「はいはーい」
来客には母さんが応対した。ドアをノックしたのは白いローブを着た小さな少女だった。
「あらあなたどうしたの? サナのお友達? こんな遅くに1人で……お母さんは?」
「とりあえず、セイはおるか。その方が話が早い」
「ん? あ、神官様じゃん」
そう、我が家を訪ねてきたのは例の神官様だった。俺のスキルで【美少女化】して、俺よりさらに小さな白い髪の少女になっている。
「え、このちいさいのが神官様なの?」
「わーかわいい」
「なんともはや……恐ろしいスキルだな」
「どうしました神官様、何かありましたか?」
尋ねると、神官様はぐったりした様子で言った。
「神殿を、追い出された……」
俺らはとりあえず神官様を家に入れた。なにはともあれ夕食時、神官様も入れて夕食にすることにした。息子が1人娘になったというのに、母さんの適応力はさすがである。
神官様は小さな口でパンを食べながら事の顛末を説明してくれた。
「そもそも神官の職につくには、僧侶系のスキルの十分な習熟と、40歳以上という条件があるんじゃ。だがしかし、今のワシの体はどう見ても10歳そこらの女児。神殿の者たちにはワシであることはなんとか理解してもらったのじゃが、この年齢では神官にはなれぬ、神官でないものを神殿に置いておくのは神への冒涜である、と……」
要するに幼くなったので神官でいられなくなったらしい。神官様はパンを千切り食べようとしたが、自分が思ってたより口が小さいことに気付いたのか、さらに半分に千切ってようやくもぐもぐと食べた。たしかにこのかわいい仕草では神官の風格はない。
「でも、大切なのは体の年齢よりも心の年齢なのでは?」
「うーむ、女神様への礼儀の問題なのでな、神殿ではその両方備わってこそとの結論が出たんじゃ。もう20年も神官のみをやってきたワシは他に行く宛もなくてのお……夕食を馳走してくれて感謝しておるよ」
神官様は小さな背でテーブルの上に手を伸ばし、シチューを飲もうとして持ち上げた。だがその手からつるんと皿を落としてしまい、シチューをぶちまけてしまった。
「うわっ!? あ、あつっ……」
「あらあら大変!」
慌てて母さんがふきんを持ってきて神官様の服を拭う。その姿はもう子供にしか見えず、自覚があるのか神官様も恥ずかしそうだった。
「す、すまぬな。慣れない体のせいかどうも……手の大きさ、指の長さ、筋力全て違うのでな、いらぬ世話を掛けた」
「いえいえいいですよ。うちの子のスキルのせいですからね、ご遠慮なさらずに。私があーんって食べさせましょうか?」
「それは勘弁してくれ……中身はワシなのじゃぞ」
「うふふ、かわいいですからねー。お着替え、子供のお古でよかったら用意しますけど」
「結構じゃ、すぐ乾くじゃろ……」
世話好きの母さんは相変わらずで、神官様もたじたじだ。しかし思えばもう神官じゃないのだから神官様と呼ぶのはおかしいか? まあ俺が生まれてからずっと神官様でずっとそう呼んできたから神官様でいいか。
「おほん、と、とにかくじゃ!」
神官様は誤魔化すように咳払いする。だが『おほん』と口で言ってしまっていた。かわいい声で。
「セイ、ワシらはお主のスキルを解除する方法を探さねばならん! ワシはまだいいがこの先スキルが暴走し取り返しがつかないことになるやもわからんしな」
「そうですね、俺も元に戻りたいですし」
「えーいいじゃんお兄ちゃんそのままで! かわいいのに」
「お前は黙っててくれ」
神官様の言った通り、俺はまずこのスキルを自由に解除する方法を探さなくちゃならない。俺が元に戻るのもそうだが、やはり変化したら戻せないというのは不便すぎる。
「ふむ、そうすると、解呪魔法を使える人間を探すことになりますね。それもセイのスキル強度だとかなり高度なものが必要でしょう」
父さんは商売であちこち回っているので情報通でもある、その知識はいつも頼りになる。今回もそうだった。
「まずはここから東にあるクローバーの街ですかね、あそこには魔術師がいるはずですから、少なくとも情報収集はできるでしょう」
「おお、ありがたいの。神殿もワシ以外に神官候補がいないことじゃし、早いとこ戻らんといかんな」
「じゃあ明日、その街に行ってみましょうか。マットも誘うかな」
ひとまず話は決まり、俺らはクローバーの街へ向かうことになった。隣町はそう遠くないので手始めにといった感じだ。
とその時、話が一区切りしたのを感じたのか、母さんがとんでもないことを言い出した。
「ねえセイ、そのスキルって女性にも使えるの?」
「え? うん、そうみたいだよ、試してはいないんだけど」
「じゃあさー、ちょっとお母さんにも使ってみない?」
「ええっ!?」
俺と父さんが同時に驚きの声を上げてシチューを吹き出した。あらあらと母さんが拭く。一番驚いていたのは父さんだった。
「お、お前、何を言っているんだ!?」
「だってー、最近お肌のたるみとか心配でね、若い頃はよかったわって思ってたとこなのよー」
「そ、それとなんの関係が……」
「ほら神官様はおじいちゃんからこんなに小さな子供になってるじゃない? 私も美少女だった頃に戻れるはずよきっと!」
「わーすごい! 若いお母さん、見てみたい!」
「し、しかしだなあ……」
「どうセイ、できる?」
母さんの思わぬ要望に俺はうーんと唸る。つくづく適応力の高い母である。
「で、できるかどうかでいうと、できるけど……変化後の体は俺の意思でちょっとは調整できるみたいだし。でもまだ不安定なスキルで、俺や神官様もスキルの暴走でこうなったんだよ? 望みどおりにできるかはわかんないよ」
「じゃあ尚更、私を実験台にして練習すればいいじゃない? 他の人に迷惑かけるよりはいいわよー、我ながら名案だわ」
はしゃぐ母さんを見て、俺と父さんはため息をついた。こうなったら誰にも母さんは止められないのだ。
「わかったよ母さん、やってみる。保証はしないよ?」
「大丈夫よ、セイはできる子だって知ってるわ。さ、さっそくやってみて」
母さんは立ち上がると両手を広げて迎え入れるような体勢をとる。隣にいる父さんはなおも不安そうだったが、母さんの期待に応えるべく俺もスキルを使うことにした。
「あんまり小さいと家事とか不便だから18歳ぐらいね。顔はそのままでいいわよ、母さん若い頃はすごい美少女だったんだから」
「了解。えと……」
そもそもスキルを使用すること自体不慣れなので、俺は慎重に母さんに手をかざす。なんとなく使用法は感覚でわかっていたが、暴走しないよう気を付ける。
「じゃあいくよ……えいっ!」
意を決し、俺は母さんに向かってスキルを発動する。辺りが光に包まれた。
結果からいうと、母さんへの【美少女化】は成功した。光が晴れた時、そこには母さんの面影をそのままにした18歳ぐらいの少女が立っていた。豪語するだけあって目鼻立ちの通った美少女だ。
「わあすごい! 見てあなた、これ……えっ?」
若返りに喜んで隣を見た母さんは固まる。俺も固まった。
母さんへの【美少女化】は成功した俺だったが、スキルの調整という初めてのことをやった弊害か、少し力加減を間違ったらしかった。その結果。
「……えっ?」
父さんがいた席には、神官様と同じくらいの大きさの少女がちょこんと座っていた。
「な、なんだ、急に椅子が小さく……? こ、この声、俺の声なのか? まさか俺まで……」
「きゃーっ!!」
「うぶ!?」
母さんは目をハートマークにして元父さんの少女をぎゅっと抱きかかえた。少女父さんは今の俺とサナの中間みたいな見た目で、サナは母さん似なので、さながら年の離れた姉妹にも見えた。
「あなたったら、こんなにかわいくなっちゃって! たくましいあなたもいいけどこっちもいいわ~!」
「や、やめろ……お、おいセイ、どうなってるんだ!?」
「あー、すまん父さん。ちょっと手が滑っちゃって……悪気はなかったんで許して」
「おま、実の父をこんな姿に……」
「いいじゃない、あなたも最近体が重いって言ってたじゃない! 若くていいわよー」
「うぶ、む、胸に顔を押し付けるな! 子供と神官様の前で!」
「だいじょうぶよお、うふふっ」
世話好きの母さん的に、今の父さんの姿がどんぴしゃだったらしい。きゃーきゃーいいながら弄び、その度に父さんは恥ずかしそうに身をよじっていた。
さすがに父親を美少女にしてしまったのには俺も複雑だ。目の前で顔を真っ赤にして騒ぐ美少女が実の父親とは自分でも信じられないようだった。
「お兄ちゃん、どうするのこれ」
「セイよ、また元に戻る方法を探す理由が増えたの」
「そうだな……」
結局、美少女だけになってしまった我が家には、楽しげな母さんの声がしばらく響き続けたのだった。
「ただいまー」
ドアを開けて入ると狭い家なので誰がいるかはすぐにわかる。折よく家族全員揃っていた。
「あらおかえり……あら?」
「む? 誰だ君は」
「お兄ちゃんのお友達?」
陽気な母、厳格な父、そして妹。皆一様に俺の顔を見て訝しがった。見慣れない少女がただいまと帰ってきたらそうなるだろう。
「俺だよ、セイ。ちょっと事故があってさ、こんな体になっちゃったんだ」
「えー!?」
「なにがあったらそうなる……」
「セイなの? あなたが?」
想像通りの反応だが、我が家に関しては俺がセイであることの証明は簡単だ。母さんのスキルがある。
「ちょっと待ってね……【ステータス】」
皿洗いをしていた母さんがエプロンで手を拭いてから俺に近寄り手をかざす。すると母さんの前面に文章が浮かび上がった。
この文章は俺のステータス、諸々の情報を示したものだ。これが母さんのスキルである。
そうして表示された今の俺のステータスはこんな感じだった。
なまえ:セイ・ブルーム
せいべつ:女
ねんれい:15
ちから:よわめ
すばやさ:ふつう
かしこさ:なかなか
がんじょう:まあまあ
まほう:よわめ
こころ:なかなか
すきる:【美少女化】
すきるのつよさ:すっっっごーーーい!
じょうたい:【美少女化】
母さんの性格上表記はちょっとあれだが精度は高い。今の俺の状態を正確に表しているはずだ。
「おお、本当にセイなのね。この、びしょうじょか? ってスキルのせいなのかな」
「知らないスキルだな。強度は……母さん、これなんになるんだ?」
「わかんない、でもとにかくすごい奴よ」
「まあ、とにかくセイであることは間違いないようだな」
母さんのスキルへの信頼度は高いので、家族は俺がセイだとあっさり信じてくれた。
とその時、とてとてと妹のサナが歩み寄ってくる。
「ふーん、お兄ちゃん、いやお姉ちゃんか。ちっちゃくなっちゃって」
サナは13歳になる妹で、ツインテールの黒髪を揺らし丸っこい瞳できょろきょろと俺を見ている。俺より一回り以上小さかったはずのサナだが俺は【美少女化】に伴い背が縮んだので、目線がほぼ同じ、むしろ俺の方がやや低いくらいになっていた。
「ふふっ、かわいい!」
「わっ!?」
いきなりサナは俺に抱き着いて頭を撫で始めた。
「お姉ちゃんっていうより妹みたいね。お兄ちゃんもいいけどこっちもかわいいなー」
「やめろってサナ、てかお前力強いな! ぐぐぐ」
「セイが弱くなってるんだよ、『ちから:よわめ』だったじゃん? 女の子だもんね」
兄を好き放題撫でまくる妹を振りほどこうとするも力負けする俺。兄として、男として色々とまずい気がする。
「わ、おっぱいもある。私より小さい……よね? 小さいことにしておこう」
「お、おいサナ触るな、なんか変な感じが……んんっ」
「髪サラサラだし肌きれいだね、スキルの力なのかな? うりうり」
「ひっははは、や、やめろくすぐったい!」
散々俺を弄ぶサナだったが、コンコンとノックの音がしたのでようやく俺から離れた。抗議の意思を睨んで示す俺にサナは舌を出し目を「の」にしてごまかす、かわいいが許さんぞ覚えてろ。
「はいはーい」
来客には母さんが応対した。ドアをノックしたのは白いローブを着た小さな少女だった。
「あらあなたどうしたの? サナのお友達? こんな遅くに1人で……お母さんは?」
「とりあえず、セイはおるか。その方が話が早い」
「ん? あ、神官様じゃん」
そう、我が家を訪ねてきたのは例の神官様だった。俺のスキルで【美少女化】して、俺よりさらに小さな白い髪の少女になっている。
「え、このちいさいのが神官様なの?」
「わーかわいい」
「なんともはや……恐ろしいスキルだな」
「どうしました神官様、何かありましたか?」
尋ねると、神官様はぐったりした様子で言った。
「神殿を、追い出された……」
俺らはとりあえず神官様を家に入れた。なにはともあれ夕食時、神官様も入れて夕食にすることにした。息子が1人娘になったというのに、母さんの適応力はさすがである。
神官様は小さな口でパンを食べながら事の顛末を説明してくれた。
「そもそも神官の職につくには、僧侶系のスキルの十分な習熟と、40歳以上という条件があるんじゃ。だがしかし、今のワシの体はどう見ても10歳そこらの女児。神殿の者たちにはワシであることはなんとか理解してもらったのじゃが、この年齢では神官にはなれぬ、神官でないものを神殿に置いておくのは神への冒涜である、と……」
要するに幼くなったので神官でいられなくなったらしい。神官様はパンを千切り食べようとしたが、自分が思ってたより口が小さいことに気付いたのか、さらに半分に千切ってようやくもぐもぐと食べた。たしかにこのかわいい仕草では神官の風格はない。
「でも、大切なのは体の年齢よりも心の年齢なのでは?」
「うーむ、女神様への礼儀の問題なのでな、神殿ではその両方備わってこそとの結論が出たんじゃ。もう20年も神官のみをやってきたワシは他に行く宛もなくてのお……夕食を馳走してくれて感謝しておるよ」
神官様は小さな背でテーブルの上に手を伸ばし、シチューを飲もうとして持ち上げた。だがその手からつるんと皿を落としてしまい、シチューをぶちまけてしまった。
「うわっ!? あ、あつっ……」
「あらあら大変!」
慌てて母さんがふきんを持ってきて神官様の服を拭う。その姿はもう子供にしか見えず、自覚があるのか神官様も恥ずかしそうだった。
「す、すまぬな。慣れない体のせいかどうも……手の大きさ、指の長さ、筋力全て違うのでな、いらぬ世話を掛けた」
「いえいえいいですよ。うちの子のスキルのせいですからね、ご遠慮なさらずに。私があーんって食べさせましょうか?」
「それは勘弁してくれ……中身はワシなのじゃぞ」
「うふふ、かわいいですからねー。お着替え、子供のお古でよかったら用意しますけど」
「結構じゃ、すぐ乾くじゃろ……」
世話好きの母さんは相変わらずで、神官様もたじたじだ。しかし思えばもう神官じゃないのだから神官様と呼ぶのはおかしいか? まあ俺が生まれてからずっと神官様でずっとそう呼んできたから神官様でいいか。
「おほん、と、とにかくじゃ!」
神官様は誤魔化すように咳払いする。だが『おほん』と口で言ってしまっていた。かわいい声で。
「セイ、ワシらはお主のスキルを解除する方法を探さねばならん! ワシはまだいいがこの先スキルが暴走し取り返しがつかないことになるやもわからんしな」
「そうですね、俺も元に戻りたいですし」
「えーいいじゃんお兄ちゃんそのままで! かわいいのに」
「お前は黙っててくれ」
神官様の言った通り、俺はまずこのスキルを自由に解除する方法を探さなくちゃならない。俺が元に戻るのもそうだが、やはり変化したら戻せないというのは不便すぎる。
「ふむ、そうすると、解呪魔法を使える人間を探すことになりますね。それもセイのスキル強度だとかなり高度なものが必要でしょう」
父さんは商売であちこち回っているので情報通でもある、その知識はいつも頼りになる。今回もそうだった。
「まずはここから東にあるクローバーの街ですかね、あそこには魔術師がいるはずですから、少なくとも情報収集はできるでしょう」
「おお、ありがたいの。神殿もワシ以外に神官候補がいないことじゃし、早いとこ戻らんといかんな」
「じゃあ明日、その街に行ってみましょうか。マットも誘うかな」
ひとまず話は決まり、俺らはクローバーの街へ向かうことになった。隣町はそう遠くないので手始めにといった感じだ。
とその時、話が一区切りしたのを感じたのか、母さんがとんでもないことを言い出した。
「ねえセイ、そのスキルって女性にも使えるの?」
「え? うん、そうみたいだよ、試してはいないんだけど」
「じゃあさー、ちょっとお母さんにも使ってみない?」
「ええっ!?」
俺と父さんが同時に驚きの声を上げてシチューを吹き出した。あらあらと母さんが拭く。一番驚いていたのは父さんだった。
「お、お前、何を言っているんだ!?」
「だってー、最近お肌のたるみとか心配でね、若い頃はよかったわって思ってたとこなのよー」
「そ、それとなんの関係が……」
「ほら神官様はおじいちゃんからこんなに小さな子供になってるじゃない? 私も美少女だった頃に戻れるはずよきっと!」
「わーすごい! 若いお母さん、見てみたい!」
「し、しかしだなあ……」
「どうセイ、できる?」
母さんの思わぬ要望に俺はうーんと唸る。つくづく適応力の高い母である。
「で、できるかどうかでいうと、できるけど……変化後の体は俺の意思でちょっとは調整できるみたいだし。でもまだ不安定なスキルで、俺や神官様もスキルの暴走でこうなったんだよ? 望みどおりにできるかはわかんないよ」
「じゃあ尚更、私を実験台にして練習すればいいじゃない? 他の人に迷惑かけるよりはいいわよー、我ながら名案だわ」
はしゃぐ母さんを見て、俺と父さんはため息をついた。こうなったら誰にも母さんは止められないのだ。
「わかったよ母さん、やってみる。保証はしないよ?」
「大丈夫よ、セイはできる子だって知ってるわ。さ、さっそくやってみて」
母さんは立ち上がると両手を広げて迎え入れるような体勢をとる。隣にいる父さんはなおも不安そうだったが、母さんの期待に応えるべく俺もスキルを使うことにした。
「あんまり小さいと家事とか不便だから18歳ぐらいね。顔はそのままでいいわよ、母さん若い頃はすごい美少女だったんだから」
「了解。えと……」
そもそもスキルを使用すること自体不慣れなので、俺は慎重に母さんに手をかざす。なんとなく使用法は感覚でわかっていたが、暴走しないよう気を付ける。
「じゃあいくよ……えいっ!」
意を決し、俺は母さんに向かってスキルを発動する。辺りが光に包まれた。
結果からいうと、母さんへの【美少女化】は成功した。光が晴れた時、そこには母さんの面影をそのままにした18歳ぐらいの少女が立っていた。豪語するだけあって目鼻立ちの通った美少女だ。
「わあすごい! 見てあなた、これ……えっ?」
若返りに喜んで隣を見た母さんは固まる。俺も固まった。
母さんへの【美少女化】は成功した俺だったが、スキルの調整という初めてのことをやった弊害か、少し力加減を間違ったらしかった。その結果。
「……えっ?」
父さんがいた席には、神官様と同じくらいの大きさの少女がちょこんと座っていた。
「な、なんだ、急に椅子が小さく……? こ、この声、俺の声なのか? まさか俺まで……」
「きゃーっ!!」
「うぶ!?」
母さんは目をハートマークにして元父さんの少女をぎゅっと抱きかかえた。少女父さんは今の俺とサナの中間みたいな見た目で、サナは母さん似なので、さながら年の離れた姉妹にも見えた。
「あなたったら、こんなにかわいくなっちゃって! たくましいあなたもいいけどこっちもいいわ~!」
「や、やめろ……お、おいセイ、どうなってるんだ!?」
「あー、すまん父さん。ちょっと手が滑っちゃって……悪気はなかったんで許して」
「おま、実の父をこんな姿に……」
「いいじゃない、あなたも最近体が重いって言ってたじゃない! 若くていいわよー」
「うぶ、む、胸に顔を押し付けるな! 子供と神官様の前で!」
「だいじょうぶよお、うふふっ」
世話好きの母さん的に、今の父さんの姿がどんぴしゃだったらしい。きゃーきゃーいいながら弄び、その度に父さんは恥ずかしそうに身をよじっていた。
さすがに父親を美少女にしてしまったのには俺も複雑だ。目の前で顔を真っ赤にして騒ぐ美少女が実の父親とは自分でも信じられないようだった。
「お兄ちゃん、どうするのこれ」
「セイよ、また元に戻る方法を探す理由が増えたの」
「そうだな……」
結局、美少女だけになってしまった我が家には、楽しげな母さんの声がしばらく響き続けたのだった。
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