底辺冒険者

あちこち

第三話 その試験官、凶暴に尽き



イルム王国 準都市マタリア 冒険者ギルド試験場ーー

試験開始の合図が鳴り、アルドとダリルは構えたがそこからどちらもピクリとも動かなかった。いや、アルドに関しては動けなかった。ダリルは様子を伺っているだけだ。
ダリルは軽く構えているがどこにも隙がなく、攻めようにも攻めれなかった。
様子を伺っていたダリルが突如動きだし、アルドとの間合いを瞬く間に詰めて中段で左から右へ剣を薙ぎ払うかの様に放ったがアルドは遅れながらそれを右手の籠手で受けつつ左手でダリルの顔を狙い拳を振るったが、予期していたかの様に躱され先ほど受けた剣に力を込めて、アルドは受けた体制まま後方へ吹き飛ばされた。

「なんつーバカ力だよ…。籠手で防いでんのに骨まで痺れてんぞ」

と、アルドは手を振るい痺れを取りながら憎々しげに吐き捨てたが、ダメージは然程なかった。

「防御をしつつカウンターまで狙ってくるとはな。すぐに終わらせる予定だったがもう少し試験を続けるぞ!次は少しレベルを上げて行くぞ!」

ダリルはそんな事を言い、ニヤリと笑ってまたも瞬く間に間合いを詰めてきた。
今度は上段からの振り下ろしだったが、アルドは背中に酷く冷たく、ゾッとしたものを感じそれを避けた。落雷の様な音が響き渡り、アルドは先ほど自分がいた場所を見ると、1m程のクレーターができていた。

「今の食らってたら死んでたぞ!!これは試験じゃないのかよ!!」

先程の光景を目にし、死を直感したアルドは叫んだ。それに対してダリルは飄々とした態度で、応えた。

「ああ、悪い悪い、状況判断能力も冒険者には、必要な能力だからそれを確認する為にやったんだよ。それに一応加減をして死なない程度にやったぞー?」

余りにも悪びれの無い態度に、アルドは何も言えなかった。

「まぁ、合格だ。さっきの攻撃を防がないで避けた時点で冒険者の素質は十分だ。だから今日から冒険者を名乗っていいぞー」

唐突に合格と言われ、アルドは深い溜息をこぼした。安堵の溜息を吐いた瞬間、ダリルがまたも剣を振り下ろしてきた。アルドは反応に遅れ、回避できず籠手で防ごうと両手を交差させ、防御の構えで剣を受けた。

パキィィンーー、と軽やかな音をたてて、剣が半ばから折れた。先程の地面を陥没させる程の威力に剣が耐えられずに折れてしまったのだ。

「合格とは言ったが、試験終了とは言ってないだろド阿呆。この剣は折れちまったが、本来の俺の剣なら、死んでたぞ。冒険者になるなら常に気を張って、油断するな。試験終了だ」

アルドは足が震えていた。本来なら死んでいた。その言葉が延々と頭の中に響き、震えていた。その後の事は、よく覚えていない。気が付けば、ギルドの受付にいた。先程の死の恐怖を頭の中から追い出し、アルドは冒険者登録を再開した。

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