勇者育成学校でトップの自称パンピー【凍結】

決事

第三十六話 皇女さんに聞く覚悟があるのでしょうか

「人間の国の皇女よ。私の話を……人間と魔物による抗争の真実をお知りになる覚悟は、おありですか?」


「やはり、お前が魔王か、いざ!」

剣を振り上げて足を踏み出そうとしたところに足払いをかける。
ずてん、と無様に転がった彼女を見て笑ってしまうのは仕方のないことだ。

「くっ! 貴様何をする!」

脳筋もここまで行くと尊敬に値するというものだろう。

「あのなぁ……。ほら、よく見ろよ。あの構え、全く隙が見つからねえだろ? 戦闘態勢に入ってるわけでもないのに。そんな手練れを相手に闇雲に飛びかかっても返り討ちにあうだけだ。手を出すのはよく見極めてからにしろ」

「しかし現れた時と同じように、一瞬で消えられては困る! しっかりと縫い止めて逃げられないようにせねば!」

皇女さんの弁には、一理くらいはあるが二理三理は無い。

「実力が拮抗してりゃあとどまらせることが出来るかもだが、今のお前は無理だ、とこの前も言った」

「……なん、だと?」

一方的に火花を散らし始めた彼女の逆鱗に触れたのか、俯いて鞘に収まった剣の刃をちらと見せてくる。
そんなんじゃ牽制にもならない。
もっと気迫が無ければ相手の足を竦ませることはおろか、逆に自分が格下だと証明するということにも繋がる。

「はいはい、止めなさい。ミネル、折角私が女性二人の諍いを鎮めたというのに貴方から挑発してどうするんですか。ーー皇女さん、お話なら部屋で伺いましょう」


謁見の間ではなく、あっさり魔王の私室に通された俺たちが座るなり発言しようとした皇女さんを遮るかの如く力強く重々しい声を出した魔王。
それが冒頭の台詞となるわけだが、どういうわけか魔王はあまり言いたくなさそうだ。
人間にとって不都合な歴史を公開することにどんな後ろめたいことがあるというのだろう。
今はとっくに魔物である彼が気に病む必要は1ミリもない。
それでも心の底から淵まで、溢れ出すほどの優しさの持ち合わせがある彼は確認する。
本当に聞いてもいいのかと。
一瞬の逡巡の後しっかと頷いた皇女は現実を、知らない。

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