勇者育成学校でトップの自称パンピー【凍結】

決事

第十三話 俺は皇女を舐めてました

俺は、なんとか平凡な学生生活を送っていた。
というのも、この前のVS皇女の時に俺のパンピー人生が終わったかのように見えたが、マリセをボコボコにすることでギャルハゲと他生徒に対する見せしめとしたためだ。
しかし…一つ、大きな懸念があった。
それは皇女さんというパンピー人生を送るにおいて最大の障害。
俺は、皇女さんの口には、戸どころか布切れすら立てることはできないと思っていた
この2年ちょっと、俺が手を抜きまくっていたーー
皇女さんを蹴ったーー
などという話を誰の口からも聞いていないのはどういうことなのだろう。
彼女の言動を予測することは、知り合いの変態占い師でも不可能なのではないか。

「マース。お前はどう思う」
「何だ、ミレ。この前の授業でお前に絞められた首をまだ痛めている俺に、これ以上何を求める」
「皇女さんの考えが読めない。それに、よく皆貝みたいに閉ざしてるな。誰か1人くらいうっかり口を滑らしそうなもんなのに」
「……最近ミレが俺の台詞を無視する……」

マリセはがっくりと肩を落とすが、この俺がそんなことを気にするはずもなく。
彼は溜息を吐きつつ、首を悲しそうに抑えてから答えてくれた。
俺も大概溜息の数が多いと思っていたが、マリセにはそろそろ抜かれそうだ。

「皇女の考えか読めないのは俺も同じだ。けれど、皇族らしくプライド高そうだし、自分が負けたことをわざわ吹聴しなかった、という解釈でいいんじゃないか。誰も噂しないってのは……まあ、うん。そういうことだ」
「ん?どういうことだ?」
「え〜っと……。ようするに。つまり。結論。皆お前に絞め殺されやしないかとビクビクしてるんだ」

結論を言うまでが長い、とかはどうでもいい。
重要なのは。

「パンピーが人殺しなんてするわけないだろ」

そう言い切る。
と。
マリセが宗教勧誘のおばさんを見るような目で俺を見ていた。
解せぬ。
子供を説き伏せるように口を開くマリセ。

「何もしていない。清廉潔白。無実も無実。そんな俺を見せしめに使うようなお前をひ弱な一般人などと言える奴は、少なくともこの学校にはいないね」
「俺がいる!」
「や、お前はカウントしないから。皇女をあんな簡単に伸びさせることが出来る奴も、一般人だなんて言えない」

それこそいやいや。
皇女さん、弱いじゃん。
弱いの倒してもパンピーはパンピーだ。
そう反論した。
ら。

「へ?」

マリセが目をひん剥き、

「お前…ミレ。本気で言ってんのか?」

殆ど悲鳴と言っていいだろう声を上げた。
女子か。

「マジもマジ。マジ本気。お前こそ、何言ってるんだよマース」

俺が真剣に答えると、思案顔で黙り込んだ。
だってあれだよ?
初っ端から某超有名ラノベと被せてくるわ、俺をストーキングするわ、一蹴りで仰向けにすっ転ぶわ。
まあ、手加減したとはいえ蹴ったあとすぐ立ち上がってきたから“激”弱認定はしないでおいてやろう。
そんな感じでただの変態自称強者の皇女さんかと思ってたけど。
逸話とかあったりするの?
俺の心の声が聞こえたわけでもなかろうが、赤子に喋りかけるようにゆっくり話し始めた。
……あれれ?
さっきよりも俺への対応がダウングレードしてね?

「さすがのお前でも、皇女がこの国の第一皇女なのは知ってるよな。で、国王が第一第二皇太子よりあの皇女を溺愛してるってのは?」

知るか。
マリセは呆れた、と呟いてから続きを解説してくれる。

「この国……というか国王はそれ程実力主義ではないが、当たり前の心理として有能なやつを重宝する。
で、娘。つまり皇女は有能だった。実力があったんだ。
他国との争いの時は前線を駆け抜け勿論大活躍。
一番重要なのがこれ。
数年後には勇者になって魔王を倒せるんじゃないかってレベルで圧倒的に強いんだ、彼女。話に聞いた感じだと勇者不在の今、はりきって勇者になろうとしてる連中の中でもとびっきり強いってさ。
次期国王は彼女だって噂もあるらしいぞ」

俺の目を覗き込む彼を直視できない。

「今の話聞いて分かったか?
まあそういう素晴らしい経歴の彼女を軽く倒したお前は圧倒的に圧倒的を重ねて、さらにあと10個ぐらい積み上げても足りないぐらい強い奴って皆に認識されたんだよ」

圧倒的×12でも足りないぐらい強い奴って皆に認識されたんだよ。
強い奴って認識されたんだよ。
されたんだよ。
だよ。
だよ…………

椅子から腰を上げ、教室の窓に向かう。
気の毒そうな目線を送ってくるミリセは徹底無視。
手を伸ばし、窓を開ける。
大きく息を吸って。


「俺はぁぁぁああああ!!
       パンピーだぁぁああああ!!!」


空に虚しく響いた。

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