デフォが棒読み・無表情の少年は何故旅に出るのか【凍結】

決事

32 好き嫌い

「お前、獣じゃないよね」
「何を言う。人間の方が余程獣らしいとは言え、私はこの通りただの狼である」
「自称、だよね」
「しつこい」

フークが寝床に入り込んだ時、外から扉を叩く音がした。
きっちり三回。
私と顔を見合わせてから入るよう促した。
姿を見せたのは昼、フークと揉め事があったーー確か……ナイケ、といったかーー少年。
夕食を食べて戻ってきたフークから事のあらましを聞いていて、何故豹変したのかの当たりはついていた。
そのせいで自然、此奴を見る目線が険しくなる。
「おお怖い。昼間の事も僕は望んでしたわけじゃなかったんだ。だからそんなに睨まないでおくれ。僕はこの狼ヅラしてる怪物と話がしたい」
「ゴルテは怪物じゃなけれど、ゴルテがいいなら」
「では少し話を聞いてきてやるかな。ちゃんと寝ておけよ」
「おーけー……ゴルテおやすみ。ナイケも、ね……」
すぐにスウスウと安らかな寝息には思わず苦笑いしてしまう。
真顔にしてからナイケを連れ立って廊下に出た。
肩を竦めていたのを視界の端に捉えたが、無視してこの建物の玄関を潜り、そこで立ち止まった。
「用件は早く済ませてくれ」
「お前、獣じゃないよね」
そこからはのらりくらりと答えるのが続く。
あちらも決定的な証拠は掴んでいないために強く踏み込めないでいる。
「認めようよ、そろそろ。こんな時間だしさ」
「……お前こそ証拠がないのだから追及を諦めてはどうだ」

「魔物だろう、お前は」

…………。
こんなに鋭い奴がいるとは思わなかった。
今黙り込んだことで不覚にも後手に回ってしまった。
「……だとして、どうする? 言いふらして歩くか?」
精一杯の強がりと取られてもおかしくな言葉に意外な返答が寄越された。
「いやいや。そんなくだらない、時間の無駄になるようなことはしない。が、僕は魔の付くものが大っ嫌いでね。何もしなければ、僕も何もしない」
昼のこと、彼から聞いているんだろ?

悠々と背を向け帰ってゆくやつの背中を見て、私は反対に歩き出した。
警戒するべき対象を見つけ、腕が鈍らないようするには練習が欠かせないことを久しく忘れていたことに気付いたからだった。
私のことが嫌い?
はっ、私だってあのような生意気な子供は好かん。

のそりと夕闇に溶けたゴルテを気味の悪い爛々光る目で見つめる何者かは、暫くじっと身じろぎせず立っていた。

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