アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第二十四話 勇者が残したものって……

「ぬわーーーー」

「マキ! 大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」

 私は、ほとんど進めず、完全に行き詰まっていた……
 皆の技とかそういったものはコピーできても、風を読んだり長い鍛錬で得られる経験がない……
 中身がない……

『主、私の力をなぜ使わない?』

「……だってぇ……」

『私は主と共にある。私の力は貴方の力だ』

 なんとなく皆が楽しそうだったから、自分だけチートでクリアするようで嫌だったとは言いにくい。

「わかった……」

『良かった。私は必要ないのかと思ってしまった。それでは目を閉じるのだ主』

 ヘイロンに言われるがままに目を閉じると、風の流れ、うねり、変化を心の目で視えるようになる。

『私は風と相性が良いからな』

「皆にはこう見えてるのかー、凄いなー」

 こうしてようやく私もみんなと同じところに立てるようになりました。
 慣れてくればヘイロンに力を借りなくても自らの力として取得できるそうなので頑張る。

 こうして試練に挑む日々は続く。
 一番筋が良かったのはナツだった。
 暴風の中を器用にするりと抜けてメーリアからのちょっかいにも器用に対応する。

「今度こそ行ってみせる!」

『ふむ、それでは最後の試練じゃ! これを超えればお主はクリアじゃ!』

 メーリアが羽ばたくと今までと比べ物にならないほどの羽が舞い散る。
 風に飲み込まれ凄まじい勢いでナツへと迫る。

「……見えた!!」

 まるでひとつの踊りを舞うが如き動きで羽の波を乗り越えていった。
 美しい聖獣の羽を超えると、風の嵐も止み目の前で聖鳥が穏やかな笑みを持って迎えてくれていた。

『うむ。おめでとう』

「よっしゃーーーー!!」

 ナツ。一番乗り!

 その直後にハル、フユと続く。
 そしてなんとか私が魔法・遠距離陣と同じくらいにクリアできた。
 結局2ヶ月近く時間がかかってしまった。

『おお、見事なものじゃな。それでは風を止めてやろう。どうじゃ?』

「あれ? なんか身体が軽い!」

『日常的に私の風を受けていましたからね、普通の人間なら立ってもいられない暴風ですよ?
 その中で普通に動けるようになっていれば日常生活は、推して知るべしですよ』

「すげーすげー俺、壁走れる!」

「槍が綿毛のように軽いぞ!」

「魔力が溢れるようだ!! 今ならなんでもできる!」

 皆飛んだり跳ねたりはしゃいでる。
 私自身も生まれてこの方こんなに快適に動けるのははじめてってくらい動き回れる。

『さて、無事に試練を超えましたから、私も聖女のもとに仕えましょうか。
 ……貴方は私の力を上手く活かしてくれそうですね』

 今度の聖獣はアキちゃんとの相性が良いみたい。
 リッカかアキちゃんだとは思ったけど。鳥だし。

 聖獣が私の身体に入り込むと体の芯から熱くなるような感覚がする。
 アキちゃんも同じように感じているらしく身体を動かして確かめている。

「これが聖獣の力なんやなぁ……これはずるいで、ほんまに……」

 アキちゃんは身体にめぐる聖獣の力を体感し、その作用に驚きを隠せない。
 確かに軽く確かめるように動かしている何気ない動作一つ一つのキレは以前の物とは別次元だ。

「これで後衛にも聖獣の力が生かされてバランスが良くなりますね」

「まかしときー!」

「それにしても、今回の成長は今後の糧になりますね」

「トウジさんの言う通り。僕ももっと頑張ります!」

「聖鳥だったからもしかしたらと思ったんだけど~ミーはまたの機会ですね~」

『そうそう、外からちょっかい出してきたやつを閉じ込めておいたので開放しますよーちゃちゃっと倒しちゃってくださいね~』

 その言葉と同時に、目の前の空間に亀裂が入る。

【クソが!! あの鳥野郎はどこだ!! ぶっ殺してやる!!】

 中から黒いローブを着た男が大層お怒りで飛び出してきた。怖い怖い。

『やだやだ、弱い者ほど強い言葉を使おうとするんですから……
 舐めてかかってくるからそういう目に会うんですよ~』

【この糞鳥やろう!! ぜってぐちゃぐちゃにしてやるからな!!】

「えっと、こちらの方は?」

【ああん? なんだテメーは? ん?
 おお、テメーが聖女かぁ! 丁度いい!
 その鳥とまとめてぶっ殺してやる!!】

 ローブを広げるとその下にはローブとおそろいの真っ黒な鎧、ローブの内側から大量のコウモリが飛び出してくる。
 真っ白な肌、怒りで歪んだ顔からちらりと覗く鋭い八重歯、そしてコウモリ。
 ヴァンパイアと思わしき風貌だ。

【ヴァンパイアロード、ウランドール様が貴様らを血祭りに上げてやる!!】

 飛び出したコウモリの一部は人間へと姿を変えて襲い掛かってくる。
 突然ヴァンパイアの軍勢が現れたようなものだ。

「わ、わ、み、皆、倒すよ!」

 とりあえず、ヴァンパイアと言えば銀の武器とか聖なる武器。
 なんかそんな感じの強そうな武器を想像して作り出す。

「マキ殿かたじけない! てりゃああ!!」

 槍を受け取るとフユは迫りくる敵に横薙ぎで槍を振り回す。

 ジュワー

 槍に触れたヴァンパイア達の身体が蒸発してしまった。

【な、なんだそりゃ!!?】

「えっと、ロンギヌスの槍?」

「おお、この剣も凄いぞマキ!」

「えっとそっちはエクスカリバーだね。有名だからね!」

「ほんとマキはマンガ脳っていうかゲーム脳っていうか……ポコポコ聖遺物を作り出すなよな……」

【ふ、ふざけるな! 俺の不死の軍勢が、軍勢が……ぐへぇ!】

 ウランドールさんの肩に大穴が開いている。
 振り向くとアキちゃんが放った矢が作ったらしい。なにそれ怖い。

「さすがヴァンパイアにアルテミスの加護はよく効くなぁ……ほんとマキちゃんはおっそろしいわぁ」

【お、おのれぇぇ!!】

 さすがヴァンパイアロード、不死身の体はジュワジュワと大穴を塞いでいく。

「さて、どっちが早いか勝負やでぇ」

 次々と放たれるアキちゃんの矢が空中を超高速で飛び回るウランドールさんの身体に風穴を開けていく。ウランドールさんも必死に攻撃をしてくるけど、それさえもアキちゃんに全て叩き落されている。

【こ、こんな馬鹿な! 魔王軍最強の不死の軍勢の長である俺が……俺がぁ……】

 結局、なーんにもさせないでその自慢の不死の大群も、ウランドールさんも灰にしてこの世から消滅させてしまいました。
 逃げ出そうとする敵をこの空間ごと完全に包囲遮断してからの神聖魔法は凄かったなぁ!!

「随分とあっさりでしたね」

 その聖魔法の核をなしたナギちゃんが涼しい顔で近づいてくる。
 確かに、今回の戦闘は苦労らしい苦労もしなかった。

「あまり強くない敵だったのかな?」

『いえ、本人の言う通り魔王軍でも1・2の実力者です。
 相手が悪かったですね。不死やら闇やらの天敵は聖ですから』

「なるほどー」

『まぁ、以前の勇者では想像もできない武器を次から次へと作り出したのは予想外でしたけどね。
 なんにせよ、この場に保存された勇者の遺物は回収できたわけですから、次の場所へ行きましょう!』

「え? なんにも手に入っていませんよ?」

『何言ってるんですか、私ですよ私。
 勇者の育ての親にして勇者の翼として世界を飛び回った私、聖鳥メーリアこそが勇者の残した遺物ですよ』

「ああ、なるほど! それではこれからもよろしくお願いいたします!」

「ところでメーリア様、育ての親というのは?」

『ああ、あなた達にやったみたいなことを隙があればやってあげて勇者をビシバシ鍛えたのよ。
 あなた達も覚悟しておきなさい!』

 メーリアママ爆誕の瞬間である。
 この日を境に私を含めた8人はスパルタ教育を受けて成長していくことになる。
 スパルタ&スパルタ教育によって肉体的にも精神的にも成長していくのはもう少し先のお話。





 

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