アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第十四話 四天王的な敵って少し燃えます……

 敵はパワータイプ。
 定石通りならここはスピードで対抗するべし!
 ってとこなんだけど、相手は軍。こちらは少数。
 そうすると、考えられる戦法は……

「持てる最大の火力を出来る限り撃ってとにかく数を減らす!」

 全員がトウジの指示に頷く。それしか無いよね。

「トウジ、リッカさん合わせて行きます! お願いします!」

 あーナギちゃんが張り切っててかわいい。

「分かりましたナギ様! リッカ君頼むよ!」

「了解! 精霊よ、我が友よ! 今汝が力を我が友に貸した給え!」

 トウジが構築していく魔法陣をナギが組み上げてリッカがそれを強化していく。
 本来ならこの世界で生まれることもない強力な魔法が組み上げられていく。

「……ここ、にこれ入れてこうすればもっといいよねー」

 ついつい手を出してしまう。
 この世界では2層構造の立体魔法陣による魔法でも数十人の魔術師の長年の鍛錬によって成し得るもの。
 そこに私がちょこっと手を加えて8面体くらいの立体魔法陣をささっと構築してみた。
 気がついたんだよ、これ、私がはまってるソーシャルゲームのパズルゲームに似ているって。
 自慢じゃないけど、これ、課金力も含めて全国屈指の腕前なんだよね。
 推しキャラのライテ君が弱キャラって言われるのが悔しくていつもランキングに乗せてたんだよ!

「ま、マキ君!?」

「マキさん!! これは、どうやって!」

「えーっと、取り敢えず、撃っちゃお!」

「あ、ああ……しかし、なんだこれ、詠唱がわからん……ナギ様、わかりますか?」

「えっと……《ライテ君が弱いわけ無いだろ……使い方が悪いだけだから、やりようによってはこんなに強いんだぞー》……?」

 ナギちゃんの詠唱とともに魔法が発動する。
 敵陣の中心に展開された魔法陣は、周囲の魔獣や魔物を絡め取りながら巨大な氷柱へと変化する。
 否応なしに周囲にいる凄まじい数の魔物、魔獣がその氷柱内部へと取り込まれる。

「そうそう、ライテ君の良さが現れるのは散り際なの!」

 その氷柱が先端から細かな欠片となって散っていく。
 この端の散り際のような技がライテ君の技。氷華散月。美しいわ!
 さらに、散った花びらのような氷のかけらは竜巻のように旋回し、周囲の敵を刻み始める。

「散り際が最も美しく、散った後にももう一度咲く。これが氷華散月……」

 ああ、美しい……
 範囲は広いけどダメージが低くて弱キャラ扱いとか酷いよ、鍛えればかなりのダメージ叩き出すんだけどね。ま、鍛えるために私の夏のボーナスは消えたんだけどね!!

「マキさん……こんな魔法……めちゃくちゃな詠唱すぎて……」

「何というか、すごいのだが……すごいのはわかるのだが……」

「はっはっは! 芸術的だよ! こんな魔法は初めて見た!」

 リッカは陽気に踊りだしているけど、二人の魔法使いは納得いかない顔をしてる。

「さっきの魔法は氷華散月ってことで」

「あの、まきさん……詠唱どうにかならないですか……」

「んー、じゃぁ……」

 私はさっきの魔法陣を構成してちょこちょこといじる。
 多分これで詠唱が変わるはずだ。なんでこんなことわかるんだろう?

「氷華散月!」

 ちょっとライテ君のモノマネをしながら大穴の空いた敵の集団にもう一発魔法を発動させる。
 さっきの教訓から必死に魔法陣から逃げようとしているが、流石にそれは無理って話だ。
 またも大量の敵が氷の柱に飲み込まれ散っていく。

「詠唱……改変……」

「す、すごい……」

「マキっちは本当の天才だねぇ~」

「なんかアッチは盛り上がってるな……」

「はっでやなぁあちらさんは、まあナツやんもハルやんに置いてかれてふてくされてる場合ちゃうで、ほらほら敵からウチを守ってや~」

「ふ、ふてくされてない!」

 アキはマイペースに弓矢で敵の前方を削っている。
 ハルとフユが無双状態だが、たまに漏れてくる敵はナツが始末していた。
 最初は敵の数にびびったけど、始まってみれば終始圧倒している。

「それにしても、あのキラキラしたとこをなんとかしないと無限に敵が湧いてきそうだね」

「魔法も物理も素通りでは打つ手がない……」

 さっきから敵を生み出す空中の霧みたいな場所をどうにかしようとしているんだけど、攻撃は素通りしてしまって効果が薄い……

『主殿、その腕輪の力を使うのじゃ』

「これってつけてると強くなるだけじゃないの?」

 女神の腕輪をつけていると、全体的な能力が上がっている気がする。
 身体はより軽いし、魔法を使ってもケロっとしている。
 いいなぁ、これって気に入っている。

『勇者はその篭手から無限の武器を作り出し戦い続けたと言われていてな、今は腕輪だが、そこに意識を集中して主殿自身の武器を呼び出すのじゃ』

 私は腕輪に集中する。
 ああ、なるほど。なんかあったかい感じがする。
 これをイメージしていけばいいんだね……なにしよう……
 なんでもいいんなら、こんなんも有りかな?

「ま、マキさん……それは……」

 私の両手には腕輪から作られたPDW SR635が握られていた。

「いやー丁度FPSで手に入れて使いやすかったから……はは、やっぱだめ?」

「い、いや、マキ君らしいと思うよ……言うまでもないと思うが、この世界にそんな物騒なものはないぞ……」

 トウジ君ドン引きの巻。
 まあいいや、取り敢えず狙いを定めて魔物を撃っていく。
 コントローラーよりも自分で照準合わせたほうが早いし楽だね!
 軽く引き金を引くだけで敵は死んでいく。銃は怖いね。
 それでも圧倒的な速度で敵の排除が可能になった。
 いくら生み出されても消費が上回っていけば敵の数も減っていく。
 厄介だと思っていた魔物無限生産装置も、すでに魔石を無限にもたらしてくれる魔法の装置になっている。

「こりゃ笑いが止まりませんなぁ」

 リッカが集めた魔石を定期的にナツがマジックバッグにしまっている。

「しかし、魔王軍はこれほどの魔物をどうやって生み出しているんだ……」

 ハルの指摘も最もだ。いい加減倒した敵の数は、千ではきかなくなってきていた。

【なーんも無かったぞー! なんでだー!】

 やや飽きが来始めたそんな頃、ベンモスが穴から飛び出してきた。
 すっかり数を減らした自分の自慢の軍隊に驚いていた。

【な、なんだぁこれ!? おめぇらまだアイツらやっつけてねぇのか!
 仕方ねぇなぁ、おめぇらここにあった物を持ってるだろ! それよこせぇ!】

「敵によこせと言われて渡すやつはいない!」

「ようやく出てきたな、雑魚の相手は飽きてきたところだ!」

 フユとハルが最前線に立つ。
 なんか、戦闘前のこういう名乗りに攻撃したら悪いよなーと銃口を下げてやり取りを見ておくことにする。

「お前の自慢の軍団もご覧の有様だ。お前も今同じ道を辿らせてやろう」

【フハハハハハ、おらをこいつらと一緒にするなぁ!】

 棍棒が信じられないスピードでフユに迫る。
 ガイーンとものすごく硬い者同士がぶつかりあうような音が響き渡る。
 フユの持つ槍が光を放ち棍棒を弾き飛ばす。

「くっ……重い……」

【へぇー、おらの一撃を弾けるやつが人間にいるとわなぁ……こりゃふんどし締めてかからんとなぁ!】

 そう言うとベンモスは大きく跳躍して距離を取る。

【これも戻さねぇとなぁ!】

 大きく息を吸い込むと空中の霧がみるみるベンモスに吸い込まれていく。
 全てを吸いきるとさらに徳利から酒を浴びるように飲みだす。

【ぐはぁぁぁぁぁぁ、効くなぁ……おらの100%、見せてやるだぁ!】

 みるみるうちに筋肉がさらなる隆起をして体全体が赤色に変化していく。

「おお、赤鬼になった」

「マキ君、少し空気を読もうか」

 トウジに叱られた。
 二本の角も天を衝くがごとく長く雄々しく変化する。

【こうなったら、おめぇら全員殺すまでおらは止まらねぇぞ。
 覚悟しろぉ!!】

 ぶうんと奮った棍棒から凄まじい突風が私達を通り過ぎる。
 さすがにあれを喰らったらひとたまりもないなぁ。
 私は銃を構え、引き金を引く。
 ゲームでしか触ってないから、実際の反動とかわからないけど、魔法で作られた弾が飛んで行く便利装置的な何かになっている。
 しかし、撃ち出された弾丸は強力無比、筋肉の塊のようなベンモスの肩をあっさりと撃ち抜く。

 ブワッっと鮮血が舞う。
 今まであんまり血が出なかったからいいけど、これ、ちょっと……気分悪いなぁ……
 血は仕事柄平気だけど、自分が相手を傷つけているんだって意識が辛い。

【な、なんだぁそれ! おらの体に傷をつけるのかぁ!
 やっぱり人間は危険だなぁ! おめぇらを殺したら周囲の町や城は全員皆殺しだぁ】

 うん、ダメだ躊躇せずに行こう。
 そのまま照準を頭部へと合わせ引き金を引く。

【何度も喰らわないんだなぁ!】

 流石に棍棒で防がれた。まぁいいや、距離を取って皆の援護に回ろう。

「援護するから皆で倒すよ!」

 私がベンモスの動きを牽制しながら、アキと魔法三人衆は雑魚達を確実に狩っていく、ナツがその護衛、ハルとフユは私の牽制を利用しながらベンモスと対峙する。

「ゲームでもありそうなシチュエーションだなぁ!」

 味方が攻撃を受けそうになったら制圧射撃、攻撃を続ければ私の弾が体にめり込む。
 それでも筋肉が盛り上がってきてすぐに傷を塞いでしまうけど、すごくやりづらそうにしている。
 そして、銃弾に気を取られていればハルとフユの攻撃が容赦なく襲いかかる。
 さすが聖獣の力を受けた二人の攻撃は分厚い筋肉に弾かれずに傷を作る。
 アキちゃんの弓は筋肉で弾かれてしまったし、魔法も効果なかった。
 現状でベンモスに傷をつけられるのは私達3人だけ。

【ちょこまかとすんなぁ!!】

 大振りな雑な攻撃でも馬鹿にできない、ハルとフユ二人がかりで必死に受ける。
 その隙に私の銃弾がベンモスの胸板に穴を開けていく。
 スナイパーライフルにしたり、対戦車ライフルとかも作ってみたけど、当てるのが難しい。
 ベンモスは筋肉むきむきの巨体だけどその筋肉を弾けるように利用して高速で移動する。
 私もハルもフユもそのスピードに対応する必要があるので結局はマシンガンが一番有効って結論になった。

「うーん、タフだねぇ……」

【負けられねぇんだぁ! 魔王様を復活させるんだぁ!】

 戦況はこちらが圧倒的に有利なものの、イマイチ決め手に欠ける。

「そう言えば、アーツって私も使えるかな……」

 ちょっと思ったので使ってみる。
 ナギによる身体強化は行われているし、全員アーツを使用しながら戦っている。
 強化バフがなければ、ベンモスと同等以上の戦いは厳しい。
 私自身は何もしていなかったけど、今までの経験から皆が使えるものは私も使える。
 威力とかも上がって。なら、アーツを私が使えば……

 身体の中の自分自身を探すように意識を集中する。
 自分の可能性を発現するようなイメージでその力の波の高鳴りを外部へと引き出す。

「……これかぁ!」

『主殿! これは……』

『主、力が溢れる!』

 私の中の聖獣の力も増していく、そして聖獣の力を利用して私の中にアーツが組み上がっていく。

「二人共、力、借りるね! 攻防強化!」

 攻撃のヘイロン、防御のウイン。
 二人の特性を最大限に高めて発動する。
 私達全員を黄金のオーラが包み込む。まるでスーパーサ○ヤ人のようです!

【ぐおっ!】

 ハルの剣が深々とベンモスの脇を切り裂く。
 明らかに今までと違う。
 私も狙いを定めて引き金を引く。

 ッヒュン

 ぽっ……とベンモスの腹部に小さな穴が空いた。
 一瞬遅れてぼこんと穴周囲が凹み背部が爆ぜる。
 大量の出血が撒き散らかされる……

「うわー……」

 ちょっと自分がやったことにドン引きだ。

「威力、上がりすぎでしょ……」

 流石に薄ら怖くなる。アーツが強力なのは知っていたけど……こんなことになるとは……

【お、オラの腹が……そ、そんな馬鹿なぁ……】

 ギリギリ筋肉で傷は埋められていくが、目に見えてベンモスの勢いが落ちる。

「今だ! フユ!」

「ハル殿!」

 二人の剣と槍が光り輝きベンモスをバツの字に袈裟斬りにする。

【ま、魔王様ぁ……】

 ずるりと身体が分かれ……そのまま泥のように変化して消えていく……
 灰のように変化したベンモスを一陣の風が空へと舞い上がらせると、巨大な魔石がそこに残されるだけだった……ちょっと、やりすぎたね。

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