アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第十三話 勇者の残したモノって……

『なんと心地の良い場所であろうか……』

 私の中でウインがくつろいでいるのがわかる。
 回復魔法と栄養補給で身体はみるみると健康体になっていった。
 聖獣といっても、聖獣化前の身体の軛はあるみたい。

『ウイン殿、フユ殿に力を与えたアレは何だったのですか?』

『ああ、主とつながりを持つ人物に、なぜかワシと同じ血脈を感じたのでな、既にパイプは在る。
 力を与えるのは簡単なことだ』

『……主殿、少し良いか?』

「んー? ヘイロンどうしたの?」

『ウイン殿がやられた力の譲渡、私も行いたい相手がいるのだが、許可をいただきたい』

「いいよいいよー。ハルかな?」

『おお、さすがは主! すでにお見通しであったか』

「あ、うん。狼だしね……ハルー! ヘイロンが話があるって」

「聖獣殿が俺に何の用でしょう?」

『我が眷属よ、汝に我が力、我が牙を与えよう。
 主を守る剣となれ』

「う、おっ……おおおおお!!」

 フユと同じようにハルから強力なオーラが立ち上がる。
 覚醒とかゲームっぽくていいね、ワクワクする。
 気のせいか私の中の力も大きくなってるような気もするんだよなー……気のせいだよね?

「なんかマキちゃんの周り偉いことになっとるなー……それよりも……
 マキちゃんさっきのはなんなん!? 入れてもいないもん取り出すとかチートやで!!」

「いやー、なんかほしいもの考えて、近いもの無いかなーって……」

「いーや、あないなもん絶対に入れてません! 
 そもそも日本の商品やんかアレ!」

 その後、いろいろと試したけど、想像のものを取り出すなんて無茶なことはやはり再現されなかった。
 さっきのは何だったのか? 謎のままです……

『ウイン殿、この洞窟はどこまで続いているんですか?』

『ああ、この先の部屋が最後だ。私の役目の一つは余計な人間をそこに近づかないようにしている。
 私がいなければ扉は開かんよ』

「おお! みんなー! あと少しでここも終わりだってー」

 全員から歓喜の声が上がる。
 なにもないように皆で会話していいたが、この間も次から次へと敵が襲ってくる。
 むしろ聖獣であるウインがいなくなったことで、半ば聖域化されていたエリアに敵が流入してきている様子だった……ちょっとうんざり。

「身体が! 軽い! フハハハハハ! まるで若かりし頃のようだ!!」

 フユは踊るような身のこなしでその槍の穂先に数多の敵の命を貫いている。

「生まれ変わったようだ!! これが、これが力か!!」

 裏切るフラグみたいなことを言いながら、ハルも喜々として敵中へと飛び込んで、敵を蹴散らしている。

 この二人はうんざりしている暇もなさそうです……
 聖獣の力を手に入れてから完全にはしゃいでいます。

「見てくれマキ! とうとう秘伝奥義まで放てるようになったんだ!」

 うんうん、尻尾が見えるようにはしゃいでるねハルは、その技さっき私も使えたのは黙っとくね。

「マキ殿! もう自分に捌けぬ攻撃はありませんぞ!!」

 フユも大はしゃぎだね、おじ様がはしゃいでると、なんか、いいね。かわいい。
 でも、フラグみたいなことを言うのは止めようね。

「あの二人に任せて先に進もう……」

 ハルとの差をつけられてしまったナツは少し寂しそうだ……

「どうやらあの扉のようですねー」

 リッカは先行させている精霊の声を聞く。
 そうそう、私達が敵がいる場所で平気で喋っているのはリッカのお友達が音を遮断してくれているからだったりします。空気の振動を停止させているのかな? 何にせよ便利です。

「ウイン。扉を開けてもらえる?」

 洞窟の岩肌に苔むした古い扉。材質は鉄なんだろうか?
 パッと見そこに扉が在ることに気が付きにくいほどコケやシダのような植物が周囲の洞窟の壁と同じように生えている。

『心得た』

 私の中でウインの力が高まるのを感じる。
 お腹の下のほう、丹田だっけかな? そこら辺がポカポカしてくる。
 私の影は身体につながっているのか! なんかすごい!

『主殿、扉に手を』

 私は言われるままに手を扉に伸ばす。
 私が扉に手を触れると、扉が光だし表面に着いていた植物がハラハラと落ちていく。
 まるで新品の鉄の扉に早変わりだ。
 そしてそのまま音もなく奥へと扉が開いていく。
 開いた隙間から周囲に光が漏れる。どうやら扉の外? 中? には光が有るみたいだった。

『主殿、内部の中央の台に同じように手を翳してください』

 扉をくぐり内部へと侵入すると、小型のコンサートホールのような真っ白い空間になっていた。
 壁面から天井にかけての部分が自発的に発行している。
 床面まで全て真っ白なので、部屋の大きさがつかみにくくとても広い空間のように感じられる。

「マキ君、アレではないかね?」

 トウジが指差す先に真っ白な部屋で唯一の色、それでもほぼ真っ白な光沢を放つ台がある。

「な、なんか、すごく雰囲気があって緊張する部屋だね……」

 背筋が伸びる。神聖な雰囲気って奴かな?
 その台の正面に立ち、手をかざす。

【聖獣 玄武 申請 受諾 解析 聖女 適合 封印解除 許可 最終確認 聖女よ名を】

 片言のような、それでいて整然とした美しい声、その声に誘われるように私は答える。

「片桐 真希」

【片桐 真希 聖女登録 完了 システム間情報共有 権利移譲 他システムへの介入を確認 排除開始
 以後 片桐 真希 以外 侵入禁止 使用不能 実行 同行者 繋がりを確認 許可 封印解除 実行
 神具顕現後 全システム終了】

 まるでゴスペルのように言葉が紡がれていく。
 何故か聞き入ってしまう。そして、最後の言葉を聞いて自然と口から言葉が紡がれる。

「お疲れ様でした」

 私の言葉が合図だったかのように台座の上空に篭手が現れた。

『主殿、それを手にとるのです』

 空中に浮いている篭手に触れると篭手が眩い光を放つ。
 思わず目を閉じる。

「……これは……」

 目を開けると、両手に見慣れない腕輪がつけられていた。
 身につけるとわかる。これ、とんでもない力を秘めている。

『勇者の篭手、今は聖女の腕輪と言ったところか。
 世界を救う神具の一つだ』

 こうして、皆との最初の冒険はあまりに順調に神具なんてとんでもないものを手に入れてしまいました。

【転移装置起動 全員退避後 システム終了過程開始】

 その言葉を合図に部屋の奥の壁が開く、魔法陣が敷かれた小さな小部屋になっていた。
 アキとトウジとナギが興味深そうにそれらの装置を監視していた。

『主殿、少し急がせましょう、不穏な気配がする』

「全員部屋に入って! なんか嫌な予感がするってウインが」

 名残惜しそうにしている3人を部屋に押し込むと魔法陣が輝き出す。
 私達を囲むように複数の魔法陣が展開していく、それにも3人が感嘆の声を上げている。
 次の瞬間、軽い浮遊感のようなものを感じて、すぐに重力の重みを感じる。
 たったその一瞬でさっきまでいた空間とは周囲が一変している。

「おお、祠ですねーここはー」

 リッカが驚いている。
 山頂にあった祠へと一瞬で転移したってことなんだろう。
 うーん、ファンタジーだなぁ!

「くっ、もう少しじっくりと研究したかった……」

「せやなー、あれ商品化出来たらヤバイで」

「あんな複雑な術式……だめだ、思いつかない……」

 3人とも頭を悩ませている。
 ……さっき見たからか、なんとなく転移魔法使えそうな気がするけど、言わない方がいいかな……

『主殿、気をつけろ! 上からくるぞ!』

 ウインの緊張が伝わってくる。私と同時にハルとフユがバッと上空を睨みつける。

「皆気をつけて、なにか来る!!」

 全員固まって何が起きても対応できるように身構える。

 ドグォーン!!

 それと同時に火口そばの地面が爆ぜて抉れる。
 ビリビリと台地が揺れる。轟音と爆風はトウジの友達が防いでくれた。

「気をつけてね、すごい嫌な雰囲気がする」

「ああ……全身の毛が逆立っちまいそうだ」

 今のナツは逆立たないんじゃないかな?

【ぐへへへへ、ここかぁ魔王様を繋ぎ止めてるのは……】

 爆心地に立っていたのはわかりやすく悪役っぽい鬼。うん鬼だね。
 ちょっと太り気味だけど二本の角が禍々しく天に向かって伸びている。
 巨大な棍棒に真っ黒な原始的な鎧、何ていうか肩パットと胸当てに腰のビラビラって感じ。
 力こそがパワー! とか言いそう。

【なんだぁ? お前らは……】

「お前こそ誰だ!」

 フユが皆を守るように前に立ち問いただす。

【あーん、おらかぁ? おらはベンモス。魔王様の親指、力のベンモスだぁ!】

「どうやら魔王達の中でもかなりの者か……」

【おらは答えたぞぉ! お前らも名乗れぇ! 殺す相手の名前ぐらい聞いてやるだぁ!】

「そう簡単に殺される気はないが、聖女が剣! ロートリア=ハルケン!」

「ケイネロス=ナツキウル!」

「聖女が盾! ランスロット=ヴァステン=フユーエル!」

「ナツやでー」

「はぁ……トウジでいい……」

「な、ナギです」

「えっと、私? あ、どうも、聖女らしいです。片桐 真希って言います」

【聖女ぉ……? ……ああ、絶対に殺しておくリストにそんなん書いてあったなぁ、お前がそうなんか?
 何だぁ、ちいせー娘っ子じゃないかぁ。つまらんだぁ……
 まぁ、お前らの相手してる暇もないか、おらの軍団が相手するからなぁ、せいぜい頑張って殺されてくれぇ】

 そう言うとベンモスと名乗った鬼は、手に持った徳利をグビグビと飲み始め、上空に吹き出す。
 キラキラと煌く酒の霧がみるみると魔物、魔獣へと姿を変えていく。
 火口側に大量の魔獣が突然現れる形になってしまう。

「な、なんだと……」

 流石に、これは多い……
 全体的にムキムキなパワータイプな魔獣達。
 力のベンモスの名前は伊達じゃないってことだね。

「感心している場合じゃないね、皆、やるしか無いよ!」

「自分の力は、マキ殿を、そして皆を守る盾!」

「俺が剣となろう! 援護を頼むぞ!」

「悔しいが、実力的に私たちは援護だな……」

 ハルとフユが敵の大群の前に立つ。

【じゃぁ、お前ら任せたぞー。おらは下に降りるからなぁー】

 ベンモスは手に持つ棍棒を高々と振るい上げて空高く飛び上がり、火口の中心部の岩に飛び込んでいく。

 ドゴーーーン!!

 なんという力技、ベンモスの一撃で火口部分の大岩は粉々に砕かれ、地下のダンジョンが顕になってしまった……

「無茶するやっちゃなー……」

 アキも呆れ気味だ……

「うーん、システム停止ってのはこのことかなぁ~。
 あの大岩本来は神の加護で砕けるはず無いんだよねぇ~」

「取り敢えず、大将がいない間にこいつらをなんとかしよう」

 ベンモス軍 VS マキちゃんとそのペット 開戦である。 

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