アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している
第一話 いつもと変わらない日常のはずだったのに……
月夜に照らされた森の中、どこだかわからない場所。
私の知っている世界と違うことだけは理解できた。
月が……2つ空に浮かんでいた。
さらに、目の前の光景が信じられなかった。
10メートルはあろうという巨大な獣が、私に襲い掛かってきて……
その巨体に潰されかけたところを一人の男性が助けてくれた。
あの大きな獣を盾? のようなもので支えていて、私は間抜けにもすごい力だなーと感心してしまった。
あの大きさを保定するのは大変そうだなぁ……
「ハル! 大丈夫か!?」
私を抱えていた人物が多分その獣を抑えている男性に叫んだ。
「問題ない! マキは無事だろうな!」
マキ? ああ、自分のことかぁ……
「ああ、傷一つつけてない!」
私を草むらに優しく降ろして彼は人懐っこく笑いかけてくる。
「心配すんなマキ、すぐに倒してくるから!」
この笑顔……どこかで見たことがあるような……
彼が獣に向かって駆け出していくのをボーッと眺めて、そこで記憶が途切れた。
……どうしてこうなった……
今日もいつものように働いていたはずだ。
---------------------------------
「つ、疲れた……」
やっと最後の診察が終わった。
時計の針は既に21時を過ぎている。
別に珍しいことはない、元に院長の診療はまだ続いている。
今日は比較的早そうだから10時には帰れそうだ……
そんなことを考えると自然とため息にも似た深い息を吐いている。
「駄目ですよー真希先生! 溜息をつくと幸せが逃げちゃうんですから!」
振り返ると黒髪を短く揃えている少しボーイッシュな可愛らしい女性が立っていた。
短い髪がよく似合って、すごく活発な印象を受ける。
実際にも非常にエネルギッシュな女性で、人当たりもよく飼い主さんからの評判もとてもいい。
とくにおじさんファンは数知れない。
この時間でも元気いっぱいの彼女は、動物看護師の若狭 華。
22歳……
若い。肌がきめ細かい。手が綺麗。
私の手は毎日の繰り返される手洗いによって、いくらスキンケアしていてもボロボロ……
20代の時はなんとかなっていたけど、今ではもう……
「はぁ~~……」
「だから先生!」
「ごめんごめん、そう言えば院長は後どれくらい?」
「今日は早いですよーあと5件! しかも継続ですから、もしかしたら10時前に終わるかも……」
「あ、はなちゃんそれ禁句……」
うちの病院では早く終わるかもと言うと必ず何かが起きて大惨事になる。
なので、そういった発言は禁句になっている。
------------------------------
あの後、何故か何事もなく仕事が終わって……
家に帰って動物の世話をしてたんだよなぁ……
------------------------------
「ただいまー」
私が家に帰るとハルが飛びついてくる。
柴系雑種の保護犬だった子を引き取った子で、とても賢い。
ぶんぶんとちぎれんばかりに尻尾を振って私を迎えてくれる。
この子の笑顔だけで私は今日一日の疲れが吹っ飛ぶような気がする。
勤務医としてこの歳、37歳まで同じ動物病院で働いて、副院長なんて立場になってしまった。
私の名前は片桐 真希。獣医師だ。37歳独身。男性と付き合った経験はなし。
頭の中で繰り返すと涙が出そうになる。やめよう。
アラフォーになるまで働き続けて、特に使う当てもなかった給料で一軒家を買ってみました。
比較的郊外なので、庭付きの中古物件で1,500万。現金一括で……
あ、また涙が出そうになる。強くなるのよ真希!
お陰で、職場と家の往復な生活に拍車がかかって、保護した犬とか猫とか、亀とかカラスとか、モルモットとか鶏とかうさぎとか、まぁ、その、可哀想な子たちを保護しまくって暮らしているという……
もう、涙腺は限界です……
「ナツも待ってねー今みんなのご飯用意するから!」
定位置の棚の上から、同じく保護猫のナツが甘えた声を上げる。
部屋の電気をつけるとそこら中からゴソゴソガサガサと音がする。
知らない人が入ったら腰を抜かしちゃうだろうな我が家は……
一部屋全て皆の食事とかお世話の道具を入れておく物置にしてある。
今日もいつものように皆のご飯を作っていたら、窓の外で雷鳴が響く。
動物たちが不安そうにそわそわしているけど、優しく声をかけてあげる。
「大丈夫、だいじょーぶ。もうすぐご飯できるから待っててね~」
それから皆に餌をあげて、部屋とかトイレを掃除して、気がつけば日付が変わりかけていた。
これも、毎日のことだ。
そして外は大雨になっていた。
ソファーに腰掛けるといつの間にかナツが隣に座っている。
ハルは足元で丸くなっている。いつもの夜のマッタリタイムに入る。
用意した紅茶に口をつける。
皆に囲まれてのティータイム、そしてこの後のバスタイムが私の毎日の楽しみだ。
「……明日は休診日だからゆっくりでいいから良かったな……それにしても、今日は禁句を言ったのに何も起きなかったなぁ……珍しい」
まるでその一言が引き金になったかのように、突然ドンッという激しい衝撃に襲われる。
直下型の地震でも起きたのかとテーブルにしがみつく。
そして、続く浮遊感。
信じられないことに、窓から映る景色は家が、空高く放り投げられていることを示していた。
そこで私の記憶は途切れている。
------------------------------------------
「……! ……キ! ……きか? ……おい!」
誰かに揺らされている気がする……頭が重い……
「……げしすぎるだろ! もっと優しく扱えよナツ……」
「わ、わかったよ……マキ……大丈夫かー?」
優しく揺り動かされる。
誰かが私を覗き込んでいる……
「……う、うーん……」
そーっと目を開けてみると、驚くほどの美青年が私を覗き込んでいた……
「わっ!?」
思わずその男性を突き飛ばしてしまった。
「いっててて……」
「あ、す、すみません……」
ん? 自分の声に違和感がある。
「だから言ったろナツ、お前は乱暴なんだ。マキ、大丈夫か? 怪我はないか?」
声の方を向くと、これまた美青年が心配そうにこちらを見ている。
「……えっと、ここは……」
どうも、なんとなく、二人とも見たことがあるような、でもこんな美青年の知り合いはいないぞ。
最初のナツと呼ばれている男性は少しつり目のはっきりとした顔立ち、ツンツンとした明るめの茶髪がよく似合っていて、活発そうなイメージを受ける。服装は革で出来た鎧みたいな物をつけている。
もう一人の男性は落ち着いた茶髪で優しそうな目、騎士のような鎧を着ている。
「どこかで……会いました?」
なぜだろう? どうしてもどこかであったことがあるような気がしてならない。
そして、自分の声が、妙に高い……
「マキ、自分のこと覚えている? 俺はハル。覚えている……?」
「ハル……ナツ……え……?」
偶然だよね……でも、ハルと名乗った男性を見つめていると、ブンブンと振られる尻尾がついているように見えてくる……
「ハル……なの……?」
「!! そうだよマキ! わかってくれるんだね!」
「マキマキ! オレはオレは!?」
見開かれた目、活発な感じ、この人は……
「本当に……ナツなの?」
「そうそう! 良かったー! ハルを覚えてて、オレ忘れられてたらショックだったよ」
いつの間にか隣にちょこんと座ってきた。
ああ……確かにナツだ……
「って! どういうこと!? ふたりとも人間になってるの!?」
立ち上がると、あれ……いつもの目線と違和感がある……
「俺達も、よく覚えていないんだ。
マキの記憶を取り戻したのも最近で、呼ばれるかのようにマキのことを探しに来たら魔獣に襲われてるから心臓が潰れるかと思ったんだ……」
「オレとハルは同じ村の幼馴染だったんだけど、突然マキと暮らしていた記憶を取り戻して、マキに危険が迫っていることが『わかった』から急いで救いに来たってわけさ!」
「それにしても、すぐにわかったけど、マキが小さくなっているからびっくりしました」
「え?」
「そこに湖あるから覗いてみ? 前とはだいぶ違うぜ」
ナツが指差す方に確かに池があったのでふらつく足で覗き込む。
「な、な、な、なんじゃこりゃーーー!!」
水面に写った私の姿は、17,8の少女の姿だった。
しかも、生前? とは全く違う、少女漫画の主人公のような金髪の美少女になっていた。
私の知っている世界と違うことだけは理解できた。
月が……2つ空に浮かんでいた。
さらに、目の前の光景が信じられなかった。
10メートルはあろうという巨大な獣が、私に襲い掛かってきて……
その巨体に潰されかけたところを一人の男性が助けてくれた。
あの大きな獣を盾? のようなもので支えていて、私は間抜けにもすごい力だなーと感心してしまった。
あの大きさを保定するのは大変そうだなぁ……
「ハル! 大丈夫か!?」
私を抱えていた人物が多分その獣を抑えている男性に叫んだ。
「問題ない! マキは無事だろうな!」
マキ? ああ、自分のことかぁ……
「ああ、傷一つつけてない!」
私を草むらに優しく降ろして彼は人懐っこく笑いかけてくる。
「心配すんなマキ、すぐに倒してくるから!」
この笑顔……どこかで見たことがあるような……
彼が獣に向かって駆け出していくのをボーッと眺めて、そこで記憶が途切れた。
……どうしてこうなった……
今日もいつものように働いていたはずだ。
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「つ、疲れた……」
やっと最後の診察が終わった。
時計の針は既に21時を過ぎている。
別に珍しいことはない、元に院長の診療はまだ続いている。
今日は比較的早そうだから10時には帰れそうだ……
そんなことを考えると自然とため息にも似た深い息を吐いている。
「駄目ですよー真希先生! 溜息をつくと幸せが逃げちゃうんですから!」
振り返ると黒髪を短く揃えている少しボーイッシュな可愛らしい女性が立っていた。
短い髪がよく似合って、すごく活発な印象を受ける。
実際にも非常にエネルギッシュな女性で、人当たりもよく飼い主さんからの評判もとてもいい。
とくにおじさんファンは数知れない。
この時間でも元気いっぱいの彼女は、動物看護師の若狭 華。
22歳……
若い。肌がきめ細かい。手が綺麗。
私の手は毎日の繰り返される手洗いによって、いくらスキンケアしていてもボロボロ……
20代の時はなんとかなっていたけど、今ではもう……
「はぁ~~……」
「だから先生!」
「ごめんごめん、そう言えば院長は後どれくらい?」
「今日は早いですよーあと5件! しかも継続ですから、もしかしたら10時前に終わるかも……」
「あ、はなちゃんそれ禁句……」
うちの病院では早く終わるかもと言うと必ず何かが起きて大惨事になる。
なので、そういった発言は禁句になっている。
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あの後、何故か何事もなく仕事が終わって……
家に帰って動物の世話をしてたんだよなぁ……
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「ただいまー」
私が家に帰るとハルが飛びついてくる。
柴系雑種の保護犬だった子を引き取った子で、とても賢い。
ぶんぶんとちぎれんばかりに尻尾を振って私を迎えてくれる。
この子の笑顔だけで私は今日一日の疲れが吹っ飛ぶような気がする。
勤務医としてこの歳、37歳まで同じ動物病院で働いて、副院長なんて立場になってしまった。
私の名前は片桐 真希。獣医師だ。37歳独身。男性と付き合った経験はなし。
頭の中で繰り返すと涙が出そうになる。やめよう。
アラフォーになるまで働き続けて、特に使う当てもなかった給料で一軒家を買ってみました。
比較的郊外なので、庭付きの中古物件で1,500万。現金一括で……
あ、また涙が出そうになる。強くなるのよ真希!
お陰で、職場と家の往復な生活に拍車がかかって、保護した犬とか猫とか、亀とかカラスとか、モルモットとか鶏とかうさぎとか、まぁ、その、可哀想な子たちを保護しまくって暮らしているという……
もう、涙腺は限界です……
「ナツも待ってねー今みんなのご飯用意するから!」
定位置の棚の上から、同じく保護猫のナツが甘えた声を上げる。
部屋の電気をつけるとそこら中からゴソゴソガサガサと音がする。
知らない人が入ったら腰を抜かしちゃうだろうな我が家は……
一部屋全て皆の食事とかお世話の道具を入れておく物置にしてある。
今日もいつものように皆のご飯を作っていたら、窓の外で雷鳴が響く。
動物たちが不安そうにそわそわしているけど、優しく声をかけてあげる。
「大丈夫、だいじょーぶ。もうすぐご飯できるから待っててね~」
それから皆に餌をあげて、部屋とかトイレを掃除して、気がつけば日付が変わりかけていた。
これも、毎日のことだ。
そして外は大雨になっていた。
ソファーに腰掛けるといつの間にかナツが隣に座っている。
ハルは足元で丸くなっている。いつもの夜のマッタリタイムに入る。
用意した紅茶に口をつける。
皆に囲まれてのティータイム、そしてこの後のバスタイムが私の毎日の楽しみだ。
「……明日は休診日だからゆっくりでいいから良かったな……それにしても、今日は禁句を言ったのに何も起きなかったなぁ……珍しい」
まるでその一言が引き金になったかのように、突然ドンッという激しい衝撃に襲われる。
直下型の地震でも起きたのかとテーブルにしがみつく。
そして、続く浮遊感。
信じられないことに、窓から映る景色は家が、空高く放り投げられていることを示していた。
そこで私の記憶は途切れている。
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「……! ……キ! ……きか? ……おい!」
誰かに揺らされている気がする……頭が重い……
「……げしすぎるだろ! もっと優しく扱えよナツ……」
「わ、わかったよ……マキ……大丈夫かー?」
優しく揺り動かされる。
誰かが私を覗き込んでいる……
「……う、うーん……」
そーっと目を開けてみると、驚くほどの美青年が私を覗き込んでいた……
「わっ!?」
思わずその男性を突き飛ばしてしまった。
「いっててて……」
「あ、す、すみません……」
ん? 自分の声に違和感がある。
「だから言ったろナツ、お前は乱暴なんだ。マキ、大丈夫か? 怪我はないか?」
声の方を向くと、これまた美青年が心配そうにこちらを見ている。
「……えっと、ここは……」
どうも、なんとなく、二人とも見たことがあるような、でもこんな美青年の知り合いはいないぞ。
最初のナツと呼ばれている男性は少しつり目のはっきりとした顔立ち、ツンツンとした明るめの茶髪がよく似合っていて、活発そうなイメージを受ける。服装は革で出来た鎧みたいな物をつけている。
もう一人の男性は落ち着いた茶髪で優しそうな目、騎士のような鎧を着ている。
「どこかで……会いました?」
なぜだろう? どうしてもどこかであったことがあるような気がしてならない。
そして、自分の声が、妙に高い……
「マキ、自分のこと覚えている? 俺はハル。覚えている……?」
「ハル……ナツ……え……?」
偶然だよね……でも、ハルと名乗った男性を見つめていると、ブンブンと振られる尻尾がついているように見えてくる……
「ハル……なの……?」
「!! そうだよマキ! わかってくれるんだね!」
「マキマキ! オレはオレは!?」
見開かれた目、活発な感じ、この人は……
「本当に……ナツなの?」
「そうそう! 良かったー! ハルを覚えてて、オレ忘れられてたらショックだったよ」
いつの間にか隣にちょこんと座ってきた。
ああ……確かにナツだ……
「って! どういうこと!? ふたりとも人間になってるの!?」
立ち上がると、あれ……いつもの目線と違和感がある……
「俺達も、よく覚えていないんだ。
マキの記憶を取り戻したのも最近で、呼ばれるかのようにマキのことを探しに来たら魔獣に襲われてるから心臓が潰れるかと思ったんだ……」
「オレとハルは同じ村の幼馴染だったんだけど、突然マキと暮らしていた記憶を取り戻して、マキに危険が迫っていることが『わかった』から急いで救いに来たってわけさ!」
「それにしても、すぐにわかったけど、マキが小さくなっているからびっくりしました」
「え?」
「そこに湖あるから覗いてみ? 前とはだいぶ違うぜ」
ナツが指差す方に確かに池があったのでふらつく足で覗き込む。
「な、な、な、なんじゃこりゃーーー!!」
水面に写った私の姿は、17,8の少女の姿だった。
しかも、生前? とは全く違う、少女漫画の主人公のような金髪の美少女になっていた。
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