アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第二話 なんだかどんどんすごいことに……

「マキ、前から思ってたけど、その変な驚き方なおした方がいいよ」

 真面目な顔のイケメンからそんなこと言われると少しさみしい。
 アラフォーのメンタルは弱いのである。
 これがハルじゃなければ泣いていたかもしれない。
 しょうがないじゃない、優○様は私の王子様なんだから……

 改めてハルを見る。
 うん、イケメン。
 醤油顔(古い)な正統派イケメンだ。
 少しタレ目がちな綺麗な茶色の目、すっと伸びた鼻筋からセクシーな唇。
 でも、よく見てるとハルを思い出す。かわいい。でもイケメン。
 真面目で誠実で私だけのことをまっすぐ見てくれる。そんな雰囲気がにじみ出ている。
 鎧を外してなんか布って感じの服装になって火をおこしている姿はまるで彫刻のよう。
 腕の筋肉の筋とかがピクピク動くのはたまらない。
 全体的にガッシリとした体つき、身長もかなり高い、モデルか何かかな?
 ジロジロと舐めるように見つめている私の視線に気がついたのかニッコリと笑いかけてくる。
 私を見つめながら幻で尻尾がブンブン振られているように見える。
 ほんとにイケメン。よだれでそう。

「本当にマキ何だよな、随分見た目が変わってるけど……
 ここに居るとマキなんだなぁってはっきりと分かるんだー」

 ゴロゴロと言い出しそうに隣に座ってくっついている。
 ああ、ナツなんだなぁ。私もそう感じる。
 ハルとは違って少しつり目のいじめっ子っぽい顔立ちだが、ため息が出そうなイケメン。
 私ったら語彙が少ない。
 八重歯が可愛らしい、ああ、ナツを思い出す。
 マッチョ気味なハルに比べるとナツのほうがスマートだけど、ギュッと詰まったようなしなやかな筋肉はしっかりとあることがわかる。細マッチョの理想形がそこにある感じ。
 ハルは真面目に野営の準備をしているのにゴロゴロしているのはナツらしいといえばナツらしい。
 でもさっき、ささっと池から魚を取ってきてくれて、今はハルがそれを焼いている。
 こんなイケメンに下から見上げられてるなんて、ジュルリ。眼福眼福。

 ハルとナツの擬人化なんてとんでもないことで忘れていたけど、私も背格好が変化してるんだよなー。
 髪の毛なんてどっかのお姫様みたいに金髪だし、肌は真っ白。
 すっべすべ。ほんとに私の肌なのこれ。
 水を弾く10代の肌。憧れの肌が私のもとに!!
 いけない、興奮しすぎた。
 スラリと伸びた腕から指先、長い足、そして……肩からぶら下がる重い2つの塊。
 生前? からは想像もできない。
 なにこれ、外国のモデルみたいな身体を手に入れた。
 私は幸せだ。 完。

 いけない、終わっちゃうわけに行かない。
 現状を理解するように努力しないと。

「ねぇ二人とも、ここはどこなの?」

 至極当然な質問をしてみる。
 私は誰なの? って哲学みたいな質問しようと思ったけどマキだろ? って言われるのが関の山だ。

「ここはサウザンドリーフ王国の外れ、ピーナの森と呼ばれている」

「オレはその王国の財務大臣の息子、ハルは軍団長の息子で幼馴染。
 急にマキのことを思い出して、二人で飛び出して、二日かけてここにたどり着いたって訳」

「流石に馬を潰すわけに行かず、俺とナツで走ってここまでこれた。
 本当に間に合ってよかったよ。マキ、これ」

 焼きたての魚が木の枝に刺さっている。
 ぐ~~~~~
 と、お腹がなる。色々ありすぎたが、取り敢えず空腹でヤバイことに気がついた。

「ありがとー」

「マキ、一応今はオレたち人間なんだから恥じらいとか持とうぜ……」

「ああ、そっか。どうもハルとナツがいると家にいるみたいな気持ちになって……
 なんにせよ、いただきまーす! ……お、おいしー!」

 ホカホカの川魚、いい塩梅の単純な塩味だけど、それが川魚本来の味わいを十二分に引き出している。
 川魚特有の臭みが全く無い、丁寧に下処理をしてくれたハルに敬意を表したい。
 これは間違いなく日本酒が合う。
 家だったら絶対に引っ張り出してきたのに……
 ああ、私の秘蔵の酒コレクションも全て消えてしまったのか……

「マキ……お酒のこと考えてるだろ」

「間違いないな」

「な、なんで分かったの?」

「お酒飲んでるときのだらしのない顔になってた」

「うむ」

 気をつけよう。今は花も恥じらう少女なのだ……

「そのおっさんみたいな生活のせいで日本のマキはずっと一人で……」

 ハルが酷いことを言ってくる。
 殴るぞこの野郎……

「ほんとになー、でもさ、マキ! 
 オレ、この姿になったし。オレと結婚してくれよ!」

「おい! ナツずるいぞ! マキは俺と結婚するんだ!」

「え? は? なに、結婚? なにそれおいしいの?」

「マキはどっちと結婚するんだ!?」

「オレだよな?」

 何を言っているんだろう……

「やだなー、ハルとナツはそういう対象じゃないよー、子供みたいなもんだよー」

「それは『前』だろ、ほら、今はちゃんと男なんだよ」

 ハルが私の手を取って自分の胸板に当ててくる。
 わーすごい男性の胸筋に触れたのなんて、何十年ぶりかのお父さんぶり……

「おい、ハル、ずるいぞ! マキ、オレだって!」

 ナツが反対の手を握ってくる。
 男の子と手をつなぐなんて幼稚園のお遊戯いらいな気がします。
 しかもふたりとも超絶イケメン。ああ、幸せ。

「!? なんだ!?」

「しまっ……!!」

 そんな甘美な時間を切り裂くように森から何かが飛び出してきた。
 私を庇うように二人が覆いかぶさってくれて、ゴロゴロとそのまま転がる。
 二人のイケメンに挟まれて幸せ。なんて考えている場合じゃないことだけはわかる。幸せだ……

「くそ! でかい! さっきの奴らのボスか!」

「やべぇぞ、武器から離されたぞ……」

 二人の真剣な声から、現状の危機が感じられる。
 巨大な狼のような獣が私達と焚き火の間に割り込んできた。

「しかも、囲まれてるな……」

「ああ……この数……例の森の長か……」

 言われて気がついた、周囲からもハァハァと呼吸音とともに闇夜に真っ赤な瞳が浮かんでいる。
 同じような、狼の獣だ。こっちが普通サイズ、あのボスが大きすぎる。

「ど、どうするの……?」

「……ナツ、アーツはまだ使えるか?」

「ああ……少しならな、ただ、お前が考えている方法は無理だ。オレだけなら何とかなるが、マキを守ってアイツラを振り切るのは無理だ」

「そうか、せっかく会えたのにな……」

「え……それってどういう……ん?」

 ヒュッ。何かが風をきる音が聞こえたような気がした。
 それと同時に魔獣が ギャッ! と声を上げる。

「相変わらず、そそっかしいんやなぁお二人さんは!」

 声はすれども姿は見えず。あらいやだ、時代劇好きだからこんな時でも変なこと考えちゃう。

「誰だ!?」

「まったく、ハルはんもナツはんも、ちゃんとマキちゃん守らんといかんよ!」

 女性の声だ。それに続いて矢が雨のように私達の周りに降り注ぎ、狼達がバッと距離を取る。

「頼んだでフユのおっちゃん!」

「おうよ!!」

 森から何かが突進してくる。その場にいた狼は跳ね飛ばされるように倒されていく、そのまま私達の前にその影が敵のボスの間にまで割り込んでくる。

「もう大丈夫だマキ殿。自分が来たからには指一本触れさせん!」

 キャンプの炎に照らされたその男性は、フユと呼ばれていた。

「フユ……って陸亀の?」

「おお、マキ殿! 自分を覚えてくださった! 
 あと、弓を放ったのはアキ殿だ。それに、ナツ殿にハル殿であろう。
 ああ、懐かしい。心地よい!」

 巨体、ガチムチな肉体で、同じように巨大な槍をブンブンと振り回して狼達を威嚇してくれている。
 髭も立派なナイスミドル、渋いおじさまの姿になっているフユ。
 その立ち姿には皆を守ってくれそうな安心感を無条件に感じさせる。
 のんびりしてるが優しいフユが人になるとこうなるのかぁ……。

「マキちゃん、お久しぶり」

 いつの間にか自分の隣に女性が立っていた。
 女の私からしてもため息が出そうなほどの美人。
 年は20代なかばくらいか、スラーっとした体つきは今の自分とは異なるベクトルの猛烈な色気を放っている。こりゃーいい女だ。
 なんか、そんな綺麗なおねーさまに見つめられるとドギマギしてしまう。
 そして、この人はアキ、カラスのアキ……

「ハルはん、ナツはん、はい、得物」

 いつの間にか二人の武器を回収して渡している。

「すまん!」

「助かったけど、どうして二人が?」

「うちらもマキちゃんの気配を感じてなー、フユのおっちゃんとは途中で合流して、そらーもう急いだって訳よ」

 コテコテの関西弁だが、ちょっときつめで美しい声と妙にマッチしている。
 いいね。

「さて、お二方、準備はよろしいか?」

「ああ! 待たせた!」

「さーて、マキを危ない目に合わせた奴らにお灸を据えてやらないとなぁ!」

「皆、アーツで一気に殲滅するぞ!」

「「おお!!」」「はいよ!」

 アーツ?
 疑問に思ったけど、すぐに分かった。

パワー強化エンハンスメント!」

速度スピード強化!」

技術テクニック強化!」

防御ディフェンス強化!」

 ハル、ナツ、アキ、フユの身体から光が立ち上り、全員の身体が光り輝いている。
 そして何より、私の身体がキラッキラに輝いている。

「な、なんだこの力は!?」

「い、いつもよりスゲーぞ!」

「なんなんこれ?」

「おお、力が漲る!」

「わ、わ、わ、わ、な、なんか凄いことになってるんだけどー!」

 全員が私の方を見てくる。
 私はもう、何ていうか弾けてしまいそうになっております。
 誰か、助けて……

「マキのおかげか! ありがたい! 行くぞ!」

「さっすがマキ!」

「ガンガン行くでー!」

「あのでかいのは任せろ!」

 皆ノリノリですが、私は何ていうか、あっつい!

「が、がんばってー!」

 だからといって何かできるわけじゃないけど……応援だけしとく。

「うおおおお!! サウザンドリーフ流剣術奥義 千斬乱葉せんざんらんば!」

 ハルの剣が光を帯びて一太刀振るわれるごとに無数の剣戟が獣達に降り注いでいる。
 光の斬撃に触れた獣は無残に切り裂かれている。強い。

「負けてらんねぇ! シャドーデヴィジョンダークソード!」

 ナツの身体がいくつもの分身を作り両手に持つ短刀で敵の間を縫うように切り裂いていく。
 敵の間をすり抜けて行くとバタバタと狼達が倒れていく。かっこいい。

「派手に行くでー! アロータイガーレイン!!」

 頭上に放った矢の一撃が空中で周囲に分裂して虎の姿に変わり頭上より敵に襲いかかっていく。
 広範囲の敵が為す術もなく首を食いちぎられ倒れていく。猛虎魂だ。

「マキ殿を狙うとは言語道断。お主の命運はここに尽きた。
 トーンツリー流槍術奥義 一閃突き!」

 フユの姿がぶれたかと思ったら、敵の狼の背後に立っていた。
 何が起きたのかわからなかったけど、巨大な狼の額には大穴が開いて、大量の血を吹き出し倒れる。
 渋い。かっこいい。渋い。

「……なんで、あんなの見えるんだろう……」

 たぶん、凄まじい速度で行われた戦闘の全てを、把握していた。
 まるでこの空間を上から見ているかの様に『わかって』しまう。
 右の背後から、この群れの本当のボスである黒狼が私に襲い掛かってくることも『わかって』いる。
 だれもその姿に気がつけずに、このままだと私の頭と身体がバイバイしちゃうことも。

「そうは行かないのよね」

 体が動く。身体が、頭が教えてくれるように動かしていく。
 右手を黒狼に向けて唱える。

支配者ルーラーズラショネイル

 同時に私の手のひらから放たれた光が黒狼を消し飛ばす。
 わけではない、私の放つ光に包み込まれた黒狼はシュタっと着地して腹を見せて完全に服従している。
 これが私の力。獣を従える力だ。

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