アラフォー女性獣医師は、チートな元獣に囲まれて混乱している

穴の空いた靴下

第三話 みんな立派になっちゃって……

「マキ! 大丈夫か!?」

 狼達を蹴散らして皆が集まってくる。
 一方私はこの黒い犬と化したこの森の主とじゃれていた。

「マキ……そいつは……?」

「うーんと、たぶんこの森の本当の主かなぁーはは、くすぐったいよぉ」

 ペロペロと愛情表現をしてくる黒狼。

「……殺すか……」

「ちょっとハルなに物騒なこと言ってるのよ! もう大丈夫よ!」

「なぁ、ハルちゃん。さっき何したん?」

「え……うーん……よくわかんない……」

「先ほどマキ殿の手から閃光のようなものが出たように見えましたが……」

「なんか、こうしたらいいような気がして、やってみた。と言うか……」

「それにさっきの力、何だあれ、スゲーなマキ!」

「確かに何やったんやろ、アーツが暴走というか強化っちゅうか……」

「効果範囲も全員に行き渡っていたな……聞いたことが無い……」

「それより、その子どーするんやマキちゃん?」

「ど、どうしよ……?」

『我が主よ、どうか私も連れて行って欲しい』

「うおっ!? 喋った!」

『兄者達、先程の非礼は詫びる。
 私の名はヘイロン。一応神獣という部類になる』

「し、神獣だと……?」

 フユが絶句している。そんなに凄いのかなこのワンちゃん。
 お腹出して撫でられて喜んでいて、とてもそうは見えない。
 なんか、この大勢で真面目な声で話してるのがシュールで面白い。

「神獣ってことはヘイロン様はどのくらい生きていらすのですか?」

『ヘイロンで構わない兄者達、私はマキ様に仕えることにした。
 皆の後に仕えたのだ。私は弟分で良い。
 年齢だったな、15,000歳になる。神獣としてはまだまだひよっこだ』

 ひゅ~。と口笛を吹いてナツが驚いている。
 なんか単位が大きすぎてよくわかんない。神獣ってなんだろ?

「マキ、神獣というのはこの世界に太古より生きる獣のことで、高い知能と、圧倒的な力を持つ。
 場所によっては信仰の対象にもなるような生物のことだ。
 正直伝説みたいな話で、この森にそんな存在が居ることも聞いたことが無い」

『まぁ私なぞ神獣と名乗るのも恥ずかしいレベルだ。
 名前が知られていないのも仕方ない。
 森にあまりに強力な力が現れたことで冷静さを失って襲いかかってしまうほどの未熟者だ』

 ちょっとしっぽが縮こまって反省している。かわいい。

「これからは一緒だから大丈夫だよー」

 これでもかってほど撫でくり回す。
 やっぱり動物はかわいい。

『我が主、私の名を呼んでもらえるか?』

「ん? ヘイロン?」

 私がヘイロンと呼ぶとヘイロンはシュルンと私の影の中に溶け込んだ。
 それと同時に、私の身体を何かすごい力が包み込んだような気がした。

「な、何をしたヘイロン殿」

『問題ない、主の従者として契約した。
 私はこうして影から主を護る。安心して欲しい』

「なんか、すっごい力を感じる。今までにない熱い力を!
 風……なんだろう、確実に吹いてきている確実に私の方に!」

「神獣の護り……さすがマキちゃんやねー!」

「マキが安全になるならなんだっていいや!」




「それにしても、なんでこんなことになっちゃったんだろう……」

 戦闘後、魔獣化していた狼達の残した魔石を拾い集めて(大型の狼から取れた魔石は結構なお金になりそうらしい。お金は大事)、間もなく日が登りそうなキャンプで皆で現状を話し合うことになりました。

「ヘイロンごめんね仲間を殺しちゃって」

『いや、小奴らは勝手に近くにいただけでその影響で魔獣化し暴れまわっていたので自業自得。
 気に病む必要はない』

「ところで、アキとフユは今はどういう立場なんだ? オレとハルはさっき説明した感じだけど」

「うむ、自分はトーンツリー共和国で冒険者をやっている。
 それなりにベテランなので、長槍のフユと呼ばれている」

「二つ名持ちか……かなり出来るみたいだもんなぁ……」

「ウチも同じくトーンツリー共和国でブラックバード商会ってとこの代表しとるよー」

「ブラックバードってあのどの街でも同じ商品が手に入るって画期的な商店の……」

「全店舗統一商品、生活雑貨から武器防具まで。が、うちのモットーやで!」

「突然マキ殿の存在と、過去の……あの家での記憶が蘇ってな、取るものも取らずに駆けつけた次第だ」

「お陰で助かったよーありがとねーアキ、フユー」

「マキちゃんも、すっかり可愛くなってー。なーにこれ、風船でも入ってるの~」

 アキがふざけて胸をもんでくる。妙に触り方が慣れていてくすぐったい。

「ちょ、やめて……触り方、いやらしいよ……皆みてるから……」

 男性陣はハッと目線をそらして見てないアピールをする。もう遅い。許さん。

「もう、アキはいたずらっ子だな……アキ?」

「ん!? いや、何でもないで! もう手を洗わんとことか思ってないで!」

「何いってんだか、アキだって女じゃない……」

「んふふふふ、女が必ず男が好きだとは限らないで~……アイター!」

 太ももを撫でくりまわしてくるアキの手をつねってやる。

「それにしても、皆こっちで偉くなってるんだねー。
 ところで私って誰なんだろう?」

 結局哲学みたいなことを言ってしまった。

「マキはマキだろ」

「マキが言ってるのはそういうことじゃないだろ」

「マキ殿、何か持ち物は無いのか?」

「うーん……あれ、これなんだろ? ハンカチ?」

 ワンピースみたいな洋服のポケットに一枚の布が入っていた。

「どれどれ、見してみー?」

 アキが興味深そうに布を確かめていく。
 そして、そこに一つの紋章が刺繍されていることに気がつく。

「……これは……アレか……いやでもそないなわけ……」

「アキ殿何かわかったのか?」

「フユのおっちゃんならこの紋章見たことあるやろ?」

 そう言ってアキはいつの間にか取り出した紙に炭で絵を書き始めた。
 そんな才能があったのかというくらい美しい紋章をあっという間に書き上げた。
 二匹の龍が一つの島を支えており、その島の頂上に剣が突き刺さっている。

「これは……天上の国スワムホースの紋章!? 伝説の空飛ぶ国じゃないか」

 冷静なフユがかなり驚いている。

「おとぎ話じゃないのそれって?」

 ナツも興味津々だ。

『私が生きている間では、あの国に関する話は聞いたことが無いが、爺様に聞いたことはある。
 異なる次元、異なる世界へと続く門を護る伝説の国だと……』

「……私がここに来た理由もそこにあるのかな?」

「そうかもしれない。俺はマキとこの世界で生きていてもいいが、マキが帰りたいなら協力する」

「オレ、オレも! オレがマキと生きていってもいいけど、マキの力になりたい!」

「商会もワクワクせーへんようになってもうたし。
 マキと一緒にいたほうがウチも幸せやし、一緒に行くで!」

「自分の命はマキ殿のために使う。そう決めている。
 マキ殿と出会えた以上、側でお護りする」

「み、みんななんか大げさだなぁ。
 帰りたいというか、よくわからなすぎて混乱してるのが正直なとこだけど、取り敢えず院長には状況伝えたいし、向こうがどうなってるのかもわからないし、ここがどこなのか何にもわからないから。
 皆がいてくれれば助かる!」

「うう……かわいい……マキ! 結婚してくれ!」

「こらハル抱きつくな! マキ、オレと結婚してくれ」

「お主ら、マキ殿が困っている。離れるんだ」

「マキちゃん、かわいいわぁ~食べちゃいたいわぁ~」

「あははははは、みんな元気だなぁー。あ、見て日が昇る!」

 山間から差し込む光は、湖面に立ち上る霧に映って美しい光景を私に見せてくれた。
 日本で仕事の追われていた生活の中では見たこともないような美しい光景。

 この世界でどんな生活が待っているかわからないけど、取り敢えず、職場に連絡は入れないと。

 そんな理由で、伝説の国を目指すことになったのだけど……

「申し訳ないんだけど、親に何も言わずに飛び出してきたから、まずはサウザンドリーフの王都へ向かってもらえないだろうか……」

「そうしてもらうと助かる。このまま旅に出てもいいんだけど、最悪捜索隊とか作られちまうから……」

 ハルとナツのためにまずはこの国の王都を目指すことになった。
 フユは基本独り身の自由人なので問題なし。
 アキは伝書鳩で商会に連絡を入れてそれでOKだそうだ。

「さてと、出発するにしても最初に問題が……」

「そうやなー、ウチらもどうやってまっすぐ来たかもわからんなぁこの迷いの森を……」

「迷いの森……?」

「そう、ピーナの森、別名迷いの森。
 入った人間は決して出てくることはない、マキがいるーって突っ込んできたけど。
 普段なら決して入ることはない」

『それなら問題ない。私が居る』

「そうだ、ヘイロン殿がいたのだった。この森の主!」

『今から道を開ける。そこを歩いていれば王国へと出るだろう』

 ふわっとした風が吹き抜けると、みるみる木々が左右に倒れていく。
 なんともファンタジーな光景が広がっていく。
 あっという間に一本道が完成する。

『森の魔獣共も手出しは出来ぬ。あと森で迷っていた馬もほれそこに』

 4頭の馬が少し開けた場所でオロオロしていた。

「おお! ポチ!」

「タマ! 無事だったか!」

 ハルとナツが嬉しそうに馬に駆け寄っていく。

「マキ殿、馬には乗れるか? アキ殿二人掛けは可能か?」

 フユは細かなところに気が回る。
 イケおじ様だ。素敵だ。

「マキちゃんは馬初めてなら、当商店の人気商品だれでもウマニノレールを使ってや~」

「鞍……と鐙だよね?」

「そう、前の世界なら当たり前だけど、それがなかったんだ。
 オレも記憶が戻るまではなんとも思わなかったけどな」

 確かにハルとナツ、フユの馬には馬具が何もついていない。

「うちの商品は魔道具やさかい、こうして魔力を通してやれば、馬も嫌がらずに使えるっちゅー寸法や」

「流石に馬具なしは無理だけど、それあるなら一応乗れるよ。学生の時たまに乗ってたから」

 よっこらしょっと。おお、高い高い。

「これ、普通のやつより乗りやすいね。馬も言うこと聞くし」

「そこは企業秘密でーす! さーてと、私はマキちゃんの後ろにー」ヂュフフ……じゅるり……

「アキ、タマ貸してやるよ。オレはハルと二人乗りする」

「チッ……余計なことを……」

 こうして、迷いの森を何の問題もなく抜けることに成功するのでありました。

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