異世界奮闘、チート兄
交渉
翌日、山賊から宝を取り返してきたと既にかなり広い範囲で伝わっていたらしく、1日しか経っていないはずが、何件か買い取る交渉をしたいという人が出てきていた。
依頼主が誰かはある程度クオには教えられており、自身であらかじめ情報収集を行なったところ、今日くるのは1人を除いて全て平民だということが分かった。
さすがに、お金がないなかなけなしの財産をはたいて必死に譲ってほしいと頼む人たちに吹っかける気は起きなかったのか、大体の人には提示された価格そのままで売っていた。
騙そうという意図が透けて見える奴らには、勿論ギリギリの値段まで吊り上げていたが。
そんなこんなで、今日残るのは唯一の商人である。
「クオさんが殆ど即決してくださるおかげで、スムーズに進んで助かります」
と、ほぅと息を吐きながら話しかけてきた受付嬢。
結果の行き違いや偽装が無いよう、ギルドの職員が必ず1人は立会人になるようで、この数件の交渉、時間にして約2時間ほどの間、彼女が殆どを仕切っていたのだ。
それも、立ったままで。
これでスムーズに進んでいると言うのだから、ギルド職員としてはかなり面倒な仕事だろう。
「……あと1つだったか?」
「はい。……あ、いらっしゃったみたいですね」
そう受付嬢が言ったのと同時に、扉が開かれる。
「おっと、待たせてしまいましたかな?」
そこから現れたのは1人の男性。
少し横幅が広いが、それは脂肪によってではなく筋肉のせいだろう。
髪はがっちりとオールバックで固められており、微笑んでいるようにも見える細められた両目からは、どことなく凛とした雰囲気が伝わってくる。
「いえ、たった今前の案件が終わったところですので。……どうぞそちらに」
「そうですか。そう言って頂けると有難い。……では失礼して」
受付嬢に促され、クオの前の椅子に腰掛ける男。
「あなたが私の宝を取り戻してくださったお人ですか。……おっと。申し遅れましたが私、フレイズ商会の代表を務めさせていただいています、シルヴ=フレイズと言うものです。……本日はよろしくお願いいたします」
と、軽く一礼するシルヴ。
「クオだ」
それに対し、一言の自己紹介で応じるクオ。
「クオさんですね。……で、依頼の物は……」
本来ならばここで雑談などをしながら相手の腹を探るのが商人としてふさわしい行動のはずだが、依頼の品は彼にとって余程大切な物なのだろう、すぐさま本題を切り出した。
「これだろ?」
そう言って取り出したのは1つのネックレス。
一部か切れているが、ネックレスについている指輪には傷もなく綺麗なままであった。
「……あぁ。そうです、これです。……本当に、ありがとうございます」
そう言って指輪を抱きしめ涙を流すシルヴ。
しばらくそうした後、落ち着いたシルヴは話を続ける。
「……お見苦しいところをお見せしました」
「大切なものだったんだろ?……そうなっても仕方ないだろ」
なんら気にした風もなく返すクオ。
「……ありがとうございます」
今日何度目かの感謝を告げるシルヴ。
「……それでは、このネックレスを買い取らせて頂きたいのですが。……値段は言い値で良いです」
その言葉に驚いて目を見開く受付嬢。
フレイズ商会と言えばこの街でも1,2を争う大商会である。
そんな商会の代表であるシルヴから言い値で買い取ると言われたのだ。
彼の資産は相当なものであり、ほぼ確実にこの交渉だけで一生遊んで暮らせるだけの金が入るであろう事は明白であった。
「……いいのか?そんなこと言って」
「ええ。金などまた貯めればいい。……ですが、思い出は買い替えなどききませんからね」
どうやらシルヴは本気のようだった。
「……そうか」
考える仕草をするクオ。
「まあ、金は要らないんだがな」
そう言うクオを見るシルヴの目が少し絶望を滲ませた。
「……それは、どういうことですか?」
「ん?文字どおり、金には今は困っていないんだよな。山賊からの賞金も入るしな」
「……それでは、これは譲っては頂けないと言うことですか?」
そう言うシルヴの目が剣呑に光る。
そこには例えここで刺し違えてでも手に入れようとするような、悲壮感漂うものだった。
「……は?いや、何言ってるんだ?俺は金は要らないと言ったが、別に取引をしないとは言ってないぞ?」
それに最初こそ不思議そうな顔をしていたシルヴだったが、その言葉の意味を理解したのか、口を開く。
「……つまり、何か欲しいものでもあると?」
「ああ」
「そういうことでしたら任せてください。大体のものなら揃えられますので」
フレイズ商会は衣服から人材まであらゆる物を取り扱う商会だ。
そこで揃わないものは少ない。
ただ1つの種類を除いては。
「建物が欲しくてな」
それは土地である。
それだけはある商会が独占しており、フレイズ商会もいくつかは完全に買い取ったものの、売りに出せるような場所はなかった。
「……すみません。うちでは土地だけは……」
シルヴも言いづらそうに告げる。
「いや、別にそっちから買う気はない。……ちょっと後ろ盾になって欲しくてな」
「……後ろ盾……ですか?なんのために?」
それにクオはニヤリと笑って答えた。
「ちょっと土地を買う為に、な」
そこにルノ達がいたらこう思ったであろう。
『ご愁傷様』
と。
依頼主が誰かはある程度クオには教えられており、自身であらかじめ情報収集を行なったところ、今日くるのは1人を除いて全て平民だということが分かった。
さすがに、お金がないなかなけなしの財産をはたいて必死に譲ってほしいと頼む人たちに吹っかける気は起きなかったのか、大体の人には提示された価格そのままで売っていた。
騙そうという意図が透けて見える奴らには、勿論ギリギリの値段まで吊り上げていたが。
そんなこんなで、今日残るのは唯一の商人である。
「クオさんが殆ど即決してくださるおかげで、スムーズに進んで助かります」
と、ほぅと息を吐きながら話しかけてきた受付嬢。
結果の行き違いや偽装が無いよう、ギルドの職員が必ず1人は立会人になるようで、この数件の交渉、時間にして約2時間ほどの間、彼女が殆どを仕切っていたのだ。
それも、立ったままで。
これでスムーズに進んでいると言うのだから、ギルド職員としてはかなり面倒な仕事だろう。
「……あと1つだったか?」
「はい。……あ、いらっしゃったみたいですね」
そう受付嬢が言ったのと同時に、扉が開かれる。
「おっと、待たせてしまいましたかな?」
そこから現れたのは1人の男性。
少し横幅が広いが、それは脂肪によってではなく筋肉のせいだろう。
髪はがっちりとオールバックで固められており、微笑んでいるようにも見える細められた両目からは、どことなく凛とした雰囲気が伝わってくる。
「いえ、たった今前の案件が終わったところですので。……どうぞそちらに」
「そうですか。そう言って頂けると有難い。……では失礼して」
受付嬢に促され、クオの前の椅子に腰掛ける男。
「あなたが私の宝を取り戻してくださったお人ですか。……おっと。申し遅れましたが私、フレイズ商会の代表を務めさせていただいています、シルヴ=フレイズと言うものです。……本日はよろしくお願いいたします」
と、軽く一礼するシルヴ。
「クオだ」
それに対し、一言の自己紹介で応じるクオ。
「クオさんですね。……で、依頼の物は……」
本来ならばここで雑談などをしながら相手の腹を探るのが商人としてふさわしい行動のはずだが、依頼の品は彼にとって余程大切な物なのだろう、すぐさま本題を切り出した。
「これだろ?」
そう言って取り出したのは1つのネックレス。
一部か切れているが、ネックレスについている指輪には傷もなく綺麗なままであった。
「……あぁ。そうです、これです。……本当に、ありがとうございます」
そう言って指輪を抱きしめ涙を流すシルヴ。
しばらくそうした後、落ち着いたシルヴは話を続ける。
「……お見苦しいところをお見せしました」
「大切なものだったんだろ?……そうなっても仕方ないだろ」
なんら気にした風もなく返すクオ。
「……ありがとうございます」
今日何度目かの感謝を告げるシルヴ。
「……それでは、このネックレスを買い取らせて頂きたいのですが。……値段は言い値で良いです」
その言葉に驚いて目を見開く受付嬢。
フレイズ商会と言えばこの街でも1,2を争う大商会である。
そんな商会の代表であるシルヴから言い値で買い取ると言われたのだ。
彼の資産は相当なものであり、ほぼ確実にこの交渉だけで一生遊んで暮らせるだけの金が入るであろう事は明白であった。
「……いいのか?そんなこと言って」
「ええ。金などまた貯めればいい。……ですが、思い出は買い替えなどききませんからね」
どうやらシルヴは本気のようだった。
「……そうか」
考える仕草をするクオ。
「まあ、金は要らないんだがな」
そう言うクオを見るシルヴの目が少し絶望を滲ませた。
「……それは、どういうことですか?」
「ん?文字どおり、金には今は困っていないんだよな。山賊からの賞金も入るしな」
「……それでは、これは譲っては頂けないと言うことですか?」
そう言うシルヴの目が剣呑に光る。
そこには例えここで刺し違えてでも手に入れようとするような、悲壮感漂うものだった。
「……は?いや、何言ってるんだ?俺は金は要らないと言ったが、別に取引をしないとは言ってないぞ?」
それに最初こそ不思議そうな顔をしていたシルヴだったが、その言葉の意味を理解したのか、口を開く。
「……つまり、何か欲しいものでもあると?」
「ああ」
「そういうことでしたら任せてください。大体のものなら揃えられますので」
フレイズ商会は衣服から人材まであらゆる物を取り扱う商会だ。
そこで揃わないものは少ない。
ただ1つの種類を除いては。
「建物が欲しくてな」
それは土地である。
それだけはある商会が独占しており、フレイズ商会もいくつかは完全に買い取ったものの、売りに出せるような場所はなかった。
「……すみません。うちでは土地だけは……」
シルヴも言いづらそうに告げる。
「いや、別にそっちから買う気はない。……ちょっと後ろ盾になって欲しくてな」
「……後ろ盾……ですか?なんのために?」
それにクオはニヤリと笑って答えた。
「ちょっと土地を買う為に、な」
そこにルノ達がいたらこう思ったであろう。
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と。
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