異世界奮闘、チート兄
頭
「ったく、どう落とし前つけてくれるんだ、ああ?」
「……それは、すまなかった、な!」
言いながら、八百万を抜き、斬りかかるクオ。
キィンン!
そんな心地の良い甲高い金属音音を響かせながら、男の戦斧はクオの八百万を受け止めていた。
「……っとお。いきなり斬りかかってくるとはなあ。……お前、悪役の素質あるんじゃねえか」
「……山賊の頭に言われると説得力あるな」
軽口を返しながらも、初めて八百万とまともに打ち合うことの出来た武器の鑑定を行う。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
魔戦斧ジャガーノート
魔法方面の性能を全て捨て去り、物理のみに特化した魔戦斧。
この武器から放たれる衝撃は、もはや地震と区別がつかない程の威力をもつ
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
『こちらの八百万と切り結ぶことが出来ていたのは、他の性能を捨て去ったことによる一方面での性能の特化のせいですね。ですので、対物理ではほぼ最強ですが、魔法などに関しては他の魔剣などに比べて数段劣ると思います』
鑑定をかけると、すぐさまアスタによる補足がはいる。
「なら、魔法系統で攻めるのがいいのか」
『はい。といっても、劣るとはいえ魔の名を冠する戦斧。並みの上級魔法程度では通じませんが』
それを聞いたクオは少し考え込むような仕草をした後、龍へと語りかける。
「……なあ、龍。ここであのスキル試していいか?」
『……ああ!あれか!儂の自慢のコレクションたちじゃ、万が一にもあんな武器には負けん、好きに使うのじゃ!』
「……んじゃ遠慮なく」
「……おい、急にブツブツ喋り始めやがって、どうしたんだあ?」
「……ん?なんだ、お前わざわざ待っててくれたのかよ?」
「……何か策があるならさっさとやれ。俺は全力の相手を叩き潰すのが好きだからなあ!」
「そうか、……趣味。変えた方が良かったんじゃないか?」
「……あ?」
「収集」
八百万を腰に直し、クオが呟くと、その両手には赤と青の対をなす色の片手剣がそれぞれ握られていた。
赤い剣は、脈動する炎のようにその刀身を爛々と輝かせ、その周りには陽炎のようなものを纏っている。
青い剣は、水晶のように透き通りながらもまるでガラスを散りばめたかのように光を乱反射し、キラキラと輝いている。
乱反射によって散らばった光が、その刀身の周りにある氷の結晶のようなものにあたり、さらにその剣の美しさを引き立てていた。
「……お望み通り、全力で叩き潰してやるよ」
そう言ったクオは、男に向けて駆け出す。
先ほどと同じように、交錯する戦斧と青の剣。
しかし、不意打ちではない攻撃に対して迎撃した男の膂力の方が勝り、クオは体制を崩した。
「おらぁ!」
好機とばかりに横からなぎ払おうとする戦斧を屈んで躱し、そのまま地面を蹴って回転。
その勢いを利用して剣を振り、振るわれる戦斧を跳ね返した。
ついでに顔めがけての蹴りを放つが、さすがに避けられる。
しかし、避けるために少し飛びのいたため、両者の間にまた距離ができた。
一区切りし、戦斧を確認すると、切り結んだ場所を中心に氷で覆われていた。
もう一度駆けると、今度は両手の剣を交互に繰り出し、攻撃する。
怒涛の連撃を捌くのが難しくなったのか、戦斧の持ち手を短く持ち、攻撃に応じる男。
戦斧が凍る端から赤い剣によって溶けて砕け、キラキラと輝きながら散る。
その光景はさながら舞のようであり、戦いの中に美しささえ感じる攻防であった。
それを繰り返すこと数度。
永遠に続くかに見えたそれは、ついに終わりを告げる。
右、左、切り上げ、振り下ろし、薙ぎ払い。
変則的に襲い来る攻撃だったが、もう何度も受けて慣れた男は、余裕をもって対処し、時折クオに向かっての反撃も織り交ぜていた。
そして、クオが両手を下に下ろし、下から上へと切り上げるような動作をする。
それを見た男はすぐさま迎え撃とうと戦斧を振り下ろして、
自らの目を疑う光景を見た。
攻撃の予備動作に入っていたクオが突如、両の剣を手放したのだ。
「収集」
その言葉によって消える2つの剣。
クオはそれによって空いた両の手を自らの腰へと持っていくと、
自らが最もよく使う、愛刀の柄を握りしめ、一気に抜き放つ。
それを見て、やることは変わらないと振り下ろした戦斧を、止めることなく振り切ろうとした男は、
戦斧ごと、体を真っ二つに断ち切られた。
呆然としながら、血飛沫をあげて倒れる男。
それを最後まで見届けたクオは、大きく息を吐くと、近くで待機をしていたルノの元へと歩き出す。
「……おつかれ。……さっきのすごい。どうやったの?」
クオが負けることなど微塵も考えていなかったルノは、しかし疲れた様子のクオを見て、労わるように声をかける。
「……まあ、思ってたより疲れてはないな。まだまだ余裕だ」
「……で、さっきのだったか?あれはーー」
「っ!?」
説明しようとしたクオは、何かに感づき八百万を振り向きざまに抜く。
ガキィンン!!
超重量のもの同士を激突させたような音を鳴らしながら交わる、
長く伸びた爪と八百万。
「◾️、◾️◾️◾️◾️!」
それを振るったのは先ほど死んだはずの男。
しかし、その容貌は大きく変わっていた。
先ほどとは比べ物にならないほどに大きく膨らんだ筋肉。
八百万とも互角に切り結べるほどの硬度をもつ鋭い爪。
爪や体は、自分の血で汚れていたが、クオによってつけられた傷はどこにも見当たらない。
前の面影などほとんどない、まるで誰かに改造でもされたかのように大きく姿の変わった怪物は、クオを血走った目で睨みつけながら、吼えた。
コメント