異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

閑話 デート (フィリア)

さらに1日、今日はフィリアと出掛けていた。

「フィーはどこか行きたいところあるか?」

それにフィリアは少し考える仕草をすると、

「それなら、ルノお姉様といった場所に行きたいです!」

「……そうなると、露店を回って服屋だな。それでいいか?」

「はい!行きましょうお兄様!」

そう言ってクオの腕に飛びつく。

「他に行きたいところあったら言えよ?」

「もちろんです!今日は遠慮しないって決めてきました」

「……ほどほどにな」

「……酷いですお兄様!そんな風に言われなくても分かってますよ!」

分かりやすく頰をぷくっと膨らませ、抗議するフィリア。

「……そ、そうか」

クオはそれだけ言うと歩き出す。

「いらっしゃい!うちのオークの串焼きは世界一だよ!」

しばらく歩くと、昨日聞いたばかりの声が聞こえた。

羨ましいとか言う理由で値段を吊り上げた店員の店である。

味は確かに絶品なのだが、また値段を上げられるのは癪だ。

そう思い立ち去ろうとしたクオだったが、

「お兄様!世界一って言ってますよ?どんな味なんでしょうか?」

フィリアが呼び掛けを聞いてしまい、キラキラとした目でクオを見る。

「いや、他にも露店はあるんだ。他でもいいんじゃーー」

「お、興味があるのかいお嬢ちゃん!……うちの串焼きは本当に世界一だぜ?食べなきゃ損ってもんよ!」

クオが他の場所に誘導しようとするも、耳聡く聞きつけた店員につかまってしまう。

「……だそうですよ?お兄様!ぜひ食べてみたいです!」

そう言って店へと駆けて行くフィリア。

「そうか、食べてみてえか!じゃあ兄ちゃんに……。って、昨日の兄ちゃんじゃねえかよ!」

駆け寄ったフィリアに笑いかけ、兄と呼ばれた人物を見て気づき、驚いた店員。

「……おう」

「なんだよ、兄ちゃん。昨日に引き続き、今日も女連れ、しかもまた別嬪ときた!カァーッ!ぺっ」

流石に飲食店という事で自重したが、唾を吐く真似をするという、店員にあるまじき行為をする男。

「……今日は妹だ」

「だからどうしたってんだ!まったく、可愛い彼女に可愛い妹だあ?しかも昨日の今日で出掛ける人が変わる……。まったく世の中不公平だぜ!」

そう言いながらも何処か楽しそうなところを見るに、本心では別に嘆いてはいないのだろう。

「……で、焼き方はどうすんだ?」

「ミディアム」

「あ、私も同じ物でお願いします!」

「あいよ!」

店員は注文を取ると焼き始める。

昨日と同じくジュウジュウとなる肉の焼ける音。

一時はフィリアを誘導して遠ざけようとしていたクオも、嫌でも期待が高まっていた。

「へいお待ち!料金は、昨日と同じだ。幸せ税だぜこんちくしょう!」

料金を高くしているくせに、持ってけ泥棒!とでも言うように勢いよく串焼きを渡す店員。

「……はあ」

クオは諦めて銅貨を8枚置く。

そして串焼きを受け取った。

「あの、おじさん」

「どうした?」

「お仕事大変なんですね。……お疲れ様です。頑張ってください!」

今までの店員の言葉を聞いて、素直にやさぐれているととったフィリアは、元気になってもらおうと一生懸命励ます。

両手を胸の前で握り、頑張ってと励ますフィリアの姿を見て、店員は軽くホロリときていた。

「……ああ。お嬢ちゃん、ありがとよ!これでまた、頑張れるってもんだぜ!……また来いよ!」

「はい!」

元気よく返事をしたフィリアはクオとまた歩き出した。

あのがめつい店員も落とすとは流石だな、とクオは串焼きを頬張る。

ついでに割り引いてくれりゃあな。

と思いながら。

やはり、食べたオークの串焼きはそこらの露店とは頭1つ分抜き出てうまかった。

「……っ!す、すごいですよお兄様!私こんなに美味しいの食べた事ないです!」

フィリアはそう言って目を輝かせながら、無我夢中で食べている。

パクパクと次々に食べるあまり口の周りが少し汚れていた。

「……汚れてるぞ」

「……え?どこですか?」

自分が汚れていることに気づいていなかったフィリアは首を傾げた。

「……ほら、ここだ」

仕方なく、クオは自分のハンカチでフィリアの口を拭う。

「……もういいぞ」

「……あ、ありがとうございます……」

恥ずかしかったのだろう。

フィリアは顔をうつむかせ、礼の言葉は尻すぼみになっていた。

「まあ、ここの串焼きはうまいからな」

値段さえ普通なら。

と、最後だけはぶき励ますクオ。

「……うぅ。……はい……」

むしろ逆効果になっていることになど気づいていなかった。

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