異世界奮闘、チート兄
旅立ち
自らを唯一神と名乗った男はへらへらとした笑い顔のまま、クオの反応を待っている。
「……唯一神?」
『うん!唯一神』
にこにこした表情を崩さないまま、うんうんと首を大げさに縦に振る男。
『一応、君の知っているアスタちゃんやメトちゃんの上司って事になるかな?』
その言葉にやっばりか、と1人納得した表情を浮かべるクオ。
「……で?そんなお偉いさんが一体何の用だ?」
『いやね?クオ君たちが旅に出るみたいだから、神様としてアドバイスを、と思ってね?』
「そりゃどうも」
吐き捨てるように言うクオ。
『そうそう!人間素直が一番だよ!……でね?アドバイスって言うのは……。まあ、今の時点で此処には行かないでね?って。それだけのことだよ』
そう言って、男が指したのは、迷宮都市と呼ばれる場所だった。
「……聞かなかったら?」
相手の思惑を知りたい。
そう考えての発言だった。
『いや、まあね?確かに断られたらどうしようも無いんだけど……ただ、』
そこまで言うと、道化師のような胡散臭い笑みから一転、能面のような表情になると、
『こうなるだけ』
瞬間、クオは自分の心臓を貫かれたと錯覚する。
それだけではない、目の前の相手が少し手を振るうだけで、自分はただの肉塊と成り果てるだろうと理解させられた。
全身が恐怖からくる滝のような汗でビショビショになる。
呼吸も殆ど出来ずに、吸う息は浅く、酸素の不足から、顔が青白くなっていく。
それを見た男は、失望したような表情をすると、
『……ほら、あそこの2人は論外だけど、君もこの程度の威圧で折れかけてるじゃないか。……その程度で、忠告を無視しようとしないでよ、僕は君たちの事を思って言ってるんだから』
そう言うと、男はふわりと空へ舞う。
『あ、そうそう、君の凶戦士化。あれは貰っていくね』
そう言って、男が指をパチンと鳴らすと、クオは自分の中の何かが抜けるのを感じた。
『いや、怒らないでね?代わりに、プレゼントを1つ、今度送ってあげるから!』
『じゃあ、またね!』
そう言うと、男の体を光が包み込み、それが収まった頃には、既に男の姿は無かった。
「…………お兄様!」
「……クオ」
暫くして、正気に戻った2人。
フィリアは胸に飛び込み、ルノはクオの服の裾を摘んでいた。
どちらも恐怖で震えている。
恐怖の度合いでいえば、クオは2人と大差無かっただろう。
男の威圧を浴びたのだから。
しかし、ここで自分が取り乱すのがどれだけの影響を及ぼすのか理解しているクオは、持ち前の精神力で恐怖を押さえつけると、2人を安心させようと頭を撫でてやる。
そして、自分がした不可解な行動の理由を探る。
自分が男と相対した時、何故か刀を抜くのを一瞬躊躇した理由を。
しかし、幾ら考えようとも答えは出ず、クオの胸に小さな靄を残したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……もう、行くの?」
そう何処か寂しそうに尋ねるのはアーシャだ。
「はい」
簡潔、だからこそクオの強い意志が感じられる返事だった。
「そう……。無理だけはしちゃだめよ?」
「わかりました」
アーシャはそれだけ言うとフィリアとルノの方を向く。
「いい?2人とも。お母さんからのお願いです。……クオをちゃんと見てて。分かった?」
「……任せてください!お母様!……お兄様は、私たちが見ていないとすぐ無茶をしますからね!」
「……ん。勿論。いざと言うときは、引きずってでも止める」
はなから自分が無茶をする前提で話をする3人に、クオは複雑な表情を浮かべる。
「……あの、自分でそれくらいの管理は出来るのですが……」
「だめです。大体お兄様、今回の旅の目的地の決め方なんて棒倒しだったじゃないですか!……これは私たちがしっかりするんです!」
「……ん。しかも、クオは前科持ち。……最近のレベル上げの仕方、忘れたとは言わせない」
「そ、それは……」
そう言われるとクオは何も言えない。
実際、今回まず寄る国をエルフの国にしたのは、木の棒を地図の上で倒し、先端が指した方と言う、なんともお粗末な方法で決まったからだというのは事実であるし、ルノに関しても、2人に心配され、挙句の果てにルノを追い出そうとするというやつあたりまでしたのだ。
確かに、信用が無くなるのも当然だった。
「ふふ。2人に任せておけば安心ね。……でも、帰りたくなったらいつでも帰って来なさい」
そう言って、アーシャは3人をゆっくりと順に見つめる。
それから微笑んで、
「あなた達が、疲れたって、大変だったって愚痴をたれてのんびりできるこの場所を、お母さんはずっと守っていくから。……楽しんで来なさいね」
「……はい!」
「……ん」
そう答える2人の頰には雫が伝っていた。
「はい」
クオも嬉しそうに微笑む。
「クオ……。今度帰って来たら、ちゃんと、話しましょ?」
その言葉を聞いてクオは驚く。
ちゃんとの中に、自分のこの皮についての意味を込めて言われたのだと分かったからだ。
「……はい。お母様。……次は、必ず」
「……はい!……楽しみにしてるわね?」
そう言って微笑むアーシャに、クオは胸が暖かくなるのを感じた。
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
「「「行ってきます」」」
そうして、クオ達3人は、まだ見ぬ冒険へ向けて足を踏み出す。
自分の事を理解し、その上で愛してくれた人がいる。
自分の帰る場所がある。
そしてーー
クオは手を繋いでくるルノとフィリアに視線を向ける。
見つめられた2人は微笑んだ。
自分に付いてきてくれる人がいる。
そんな、今までに体験したことのない現状に、クオの心は満たされていた。
少年の、暖かい感情を優しく包むように、
柔らかな陽射しが、歩き出す3人を優しく照らしていた。
「……唯一神?」
『うん!唯一神』
にこにこした表情を崩さないまま、うんうんと首を大げさに縦に振る男。
『一応、君の知っているアスタちゃんやメトちゃんの上司って事になるかな?』
その言葉にやっばりか、と1人納得した表情を浮かべるクオ。
「……で?そんなお偉いさんが一体何の用だ?」
『いやね?クオ君たちが旅に出るみたいだから、神様としてアドバイスを、と思ってね?』
「そりゃどうも」
吐き捨てるように言うクオ。
『そうそう!人間素直が一番だよ!……でね?アドバイスって言うのは……。まあ、今の時点で此処には行かないでね?って。それだけのことだよ』
そう言って、男が指したのは、迷宮都市と呼ばれる場所だった。
「……聞かなかったら?」
相手の思惑を知りたい。
そう考えての発言だった。
『いや、まあね?確かに断られたらどうしようも無いんだけど……ただ、』
そこまで言うと、道化師のような胡散臭い笑みから一転、能面のような表情になると、
『こうなるだけ』
瞬間、クオは自分の心臓を貫かれたと錯覚する。
それだけではない、目の前の相手が少し手を振るうだけで、自分はただの肉塊と成り果てるだろうと理解させられた。
全身が恐怖からくる滝のような汗でビショビショになる。
呼吸も殆ど出来ずに、吸う息は浅く、酸素の不足から、顔が青白くなっていく。
それを見た男は、失望したような表情をすると、
『……ほら、あそこの2人は論外だけど、君もこの程度の威圧で折れかけてるじゃないか。……その程度で、忠告を無視しようとしないでよ、僕は君たちの事を思って言ってるんだから』
そう言うと、男はふわりと空へ舞う。
『あ、そうそう、君の凶戦士化。あれは貰っていくね』
そう言って、男が指をパチンと鳴らすと、クオは自分の中の何かが抜けるのを感じた。
『いや、怒らないでね?代わりに、プレゼントを1つ、今度送ってあげるから!』
『じゃあ、またね!』
そう言うと、男の体を光が包み込み、それが収まった頃には、既に男の姿は無かった。
「…………お兄様!」
「……クオ」
暫くして、正気に戻った2人。
フィリアは胸に飛び込み、ルノはクオの服の裾を摘んでいた。
どちらも恐怖で震えている。
恐怖の度合いでいえば、クオは2人と大差無かっただろう。
男の威圧を浴びたのだから。
しかし、ここで自分が取り乱すのがどれだけの影響を及ぼすのか理解しているクオは、持ち前の精神力で恐怖を押さえつけると、2人を安心させようと頭を撫でてやる。
そして、自分がした不可解な行動の理由を探る。
自分が男と相対した時、何故か刀を抜くのを一瞬躊躇した理由を。
しかし、幾ら考えようとも答えは出ず、クオの胸に小さな靄を残したのだった。
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「……もう、行くの?」
そう何処か寂しそうに尋ねるのはアーシャだ。
「はい」
簡潔、だからこそクオの強い意志が感じられる返事だった。
「そう……。無理だけはしちゃだめよ?」
「わかりました」
アーシャはそれだけ言うとフィリアとルノの方を向く。
「いい?2人とも。お母さんからのお願いです。……クオをちゃんと見てて。分かった?」
「……任せてください!お母様!……お兄様は、私たちが見ていないとすぐ無茶をしますからね!」
「……ん。勿論。いざと言うときは、引きずってでも止める」
はなから自分が無茶をする前提で話をする3人に、クオは複雑な表情を浮かべる。
「……あの、自分でそれくらいの管理は出来るのですが……」
「だめです。大体お兄様、今回の旅の目的地の決め方なんて棒倒しだったじゃないですか!……これは私たちがしっかりするんです!」
「……ん。しかも、クオは前科持ち。……最近のレベル上げの仕方、忘れたとは言わせない」
「そ、それは……」
そう言われるとクオは何も言えない。
実際、今回まず寄る国をエルフの国にしたのは、木の棒を地図の上で倒し、先端が指した方と言う、なんともお粗末な方法で決まったからだというのは事実であるし、ルノに関しても、2人に心配され、挙句の果てにルノを追い出そうとするというやつあたりまでしたのだ。
確かに、信用が無くなるのも当然だった。
「ふふ。2人に任せておけば安心ね。……でも、帰りたくなったらいつでも帰って来なさい」
そう言って、アーシャは3人をゆっくりと順に見つめる。
それから微笑んで、
「あなた達が、疲れたって、大変だったって愚痴をたれてのんびりできるこの場所を、お母さんはずっと守っていくから。……楽しんで来なさいね」
「……はい!」
「……ん」
そう答える2人の頰には雫が伝っていた。
「はい」
クオも嬉しそうに微笑む。
「クオ……。今度帰って来たら、ちゃんと、話しましょ?」
その言葉を聞いてクオは驚く。
ちゃんとの中に、自分のこの皮についての意味を込めて言われたのだと分かったからだ。
「……はい。お母様。……次は、必ず」
「……はい!……楽しみにしてるわね?」
そう言って微笑むアーシャに、クオは胸が暖かくなるのを感じた。
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
「「「行ってきます」」」
そうして、クオ達3人は、まだ見ぬ冒険へ向けて足を踏み出す。
自分の事を理解し、その上で愛してくれた人がいる。
自分の帰る場所がある。
そしてーー
クオは手を繋いでくるルノとフィリアに視線を向ける。
見つめられた2人は微笑んだ。
自分に付いてきてくれる人がいる。
そんな、今までに体験したことのない現状に、クオの心は満たされていた。
少年の、暖かい感情を優しく包むように、
柔らかな陽射しが、歩き出す3人を優しく照らしていた。
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