異世界奮闘、チート兄
過去2
15歳になった少女は、街にでることもあり、色々な人と関わるようになっていた。
誰もが少女の髪の色を見て訝しんだめを向けていたが、それでもめげずに話しかけることで、ある程度普通に対応されるまでにはなっていた。
少女は、どんな扱いをされても、相手のことを多少は好いていたのだ。
ただ1人を除いて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コンコン。
と、玄関から来訪者を告げるノックが鳴る。
それに気づいた母親が、嫌そうにしながらも、扉を開けて、その人物を迎え入れた。
「ああ、……用が終わったら、早く帰ってね」
「まったく、酷いなあ、姉さんは。そんなに冷たくしなくてもいいじゃないか」
そんな軽薄な感じのする男の言葉を完全に無視し、案内する。
それに肩をすくめた男は、黙って後に続いた。
それを見た少女は、怯えながらソファーの後ろに隠れた。
父親も、顔をしかめている。
そんな風に、家族全員に嫌われながらも、こうして家に招き入れているのは、昔、少女の父親が大怪我を負い、それをこの者に借金をしながらも治療したからであった。
それに、この男は母方の叔父である。
しかも、村長であり、人望も厚い。
ここで無下に扱えば、少女の立場がさらに悪くなるのが目に見えていた。
故に、どんなに嫌っていても、取り敢えず家に招き入れるくらいはするのだ。
「はい、お金。もういいでしょ?」
雑に机の上に硬貨の入った袋を置くと、すぐさま帰るように言う。
「はいはい、分かったよ。……おや、イリスちゃんじゃないか」
そう言って立ち上がった男は、隠れていた少女を目ざとく見つけると、
「またくるね、イリスちゃん」
そう言った。
ゴミを見るような、蔑むような濁った目で。
それを見てさらに身を強張らせる少女。
「早く帰りなさいよ!」
それに気づいた母親が怒鳴る。
これが、家族全員が男を嫌っている理由だ。
この男は、極度の吸血鬼至上主義なのだ。
だからこそ、忌子であるイリスは吸血鬼でありながら、種族を穢す存在として汚物のように扱われていた。
「おお、怖い。じゃあ、姉さんの言うとおり、僕は帰らせてもらいますかね」
そう言い残して、男は去っていった。
家族に、これ以上ない嫌悪感を残して。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は変わって、少女の誕生日前日である。
早起きした少女は、ご機嫌で鼻歌を歌いながら朝ごはんを作っていた。
リビングへと降りてきた両親は、それを見るなり微笑んだ。
「あら、イリス。朝ごはんを作ってくれてるの?」
「はい!今日は、お父様もお母様もお出かけなさるので、頑張ってみました!」
今日は、両親がイリスの誕生日プレゼントをみつくろいに、少し遠出するのだ。
といっても、すぐに帰ってくるので、サプライズのために、少女は留守番だ。
「へえ!イリスが作ってくれるのか!いい匂いだな。早く食べたいよ!」
「ちょっと待ってください、もうすぐ出来ますので!」
そう言ってさっさと皿に盛り付けると、食卓へ配膳する。
「はい!じゃあ食べましょうか!」
……朝食を食べた後、両親は馬車へ乗りこんだ。
「いい?ほんの少しだけど、誰か来ても開けちゃだめよ?」
「危ない人が来るかもしれないからね?」
「はい、分かりました!」
その返事に満足した2人は、気の済むまで少女を抱きしめた後、馬車で出発した。
「いってらっしゃーい!」
……少女は両親を見送った後、掃除や洗濯などの家事をしていたが、すぐにやることがなくなり、自室でぼーっとしていた。
「早く帰って来ないでしょうか……」
だんだん寂しくなったのだろう。
少女の声は若干涙声であった。
ドンドンドン!
玄関から今まで聞いたことの無い、荒々しいノックの音がする。
少女はそれに怯えながらも、相手が誰なのか気になり、覗きにいった。
そこには、あの叔父が、息を切らして扉を叩いていた。
益々怯える少女。
しかし、次の言葉でーー
「大変だ!姉さんと兄さんが魔物に襲われた!」
目を見開き、驚いた。
……様子を見に行った少女が見た両親は、包帯に巻かれながらも、すやすやと穏やかに寝息を立てていた。
安静にせねばと、一度家に帰された少女は、不安を抱え、ベッドに飛び込む。
お父様とお母様はどうなるのだろう。
そんなことを考えながら、眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、両親のことで話があると呼ばれた少女は、村の広場にきていた。
そこにはたくさんの人がいた。
どうやら村人全員が集められたらしい。
なにがあるんだろう、などと聞こえることから、どうやら少女以外は何も聞かされていないらしい。
ざわざわとみんなが騒ぐなかで、少女の叔父が舞台の上に立った。
「みんな!聞いてほしい。……昨日、僕の姉さんとその夫が……魔物に襲われたんだ」
再びざわざわと聴衆が騒めくが、魔物の襲撃など良くあることなので、なぜこんなにも大袈裟にしたのかが分からない。と行った様子で首をかしげる者が数名いた。
それを見た叔父は、悲しそうな、憤った表情をしながら続ける。
「いま、治療を済ませて、こっちへ来て貰ったんだ」
叔父がそう言うと、2人が顔を見せる。
やはり完全にはまだ治っていないのか、所々に巻かれている包帯が痛々しかった。
「そして、この襲撃は、……偶然なんかじゃなかったんだ。……これを、引き起こした犯人がいたんだよ」
それを聞いて数人の聴衆が、誰だ誰だと犯人探しを始める。
それが広がり、全体に行き渡ったとき、叔父は口を開いた。
「信じたくなかった。彼女だなんて……でも、これを見てくれ!……これは、2人を襲った魔物の毛だったんだ」
そう言って一本のブラシを見せる。
その時、少女の心臓がドクンと跳ねた。
「う、嘘……あれは……」
信じられないといった様子で呟く。
当然だ。
何故ならあれは自分のヘアブラシだからだ。
「このブラシを見つけたのは、イリスちゃんの部屋だったんだ。僕も彼女がこれを使った所を見たことがある。……信じたくないけど、2人の娘、イリスちゃんが犯人なんだ」
そこまで言い切った叔父は、一瞬、少女の方を見て、にやり。といやらしい笑みを浮かべたが、気付く者は居なかった。
どよめく聴衆。
「ち、ちが、わ、私じゃない」
そもそも、ヘアブラシで獣を梳く人などいない。
当然のように少女も弁解するが、彼女は忌子。
誰も少女の言葉など聞かない。
犯人だと決めて疑わない。
最低だ。 恩知らず。
そんな言葉が投げかけられる中、聞こえてしまった。
見てしまった。
両親の発した、
ーー『忌子』なんて、育てるんじゃなかった。
という言葉と、自分に向けられる、冷たい視線を。
深い絶望で、目の前が真っ暗になる少女。
そんな彼女が、両親の不自然に虚ろな目に気付くはずもなくーー
ただ立ち尽くす少女には、侮蔑の言葉が、投げかけられ続けた。
誰もが少女の髪の色を見て訝しんだめを向けていたが、それでもめげずに話しかけることで、ある程度普通に対応されるまでにはなっていた。
少女は、どんな扱いをされても、相手のことを多少は好いていたのだ。
ただ1人を除いて。
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コンコン。
と、玄関から来訪者を告げるノックが鳴る。
それに気づいた母親が、嫌そうにしながらも、扉を開けて、その人物を迎え入れた。
「ああ、……用が終わったら、早く帰ってね」
「まったく、酷いなあ、姉さんは。そんなに冷たくしなくてもいいじゃないか」
そんな軽薄な感じのする男の言葉を完全に無視し、案内する。
それに肩をすくめた男は、黙って後に続いた。
それを見た少女は、怯えながらソファーの後ろに隠れた。
父親も、顔をしかめている。
そんな風に、家族全員に嫌われながらも、こうして家に招き入れているのは、昔、少女の父親が大怪我を負い、それをこの者に借金をしながらも治療したからであった。
それに、この男は母方の叔父である。
しかも、村長であり、人望も厚い。
ここで無下に扱えば、少女の立場がさらに悪くなるのが目に見えていた。
故に、どんなに嫌っていても、取り敢えず家に招き入れるくらいはするのだ。
「はい、お金。もういいでしょ?」
雑に机の上に硬貨の入った袋を置くと、すぐさま帰るように言う。
「はいはい、分かったよ。……おや、イリスちゃんじゃないか」
そう言って立ち上がった男は、隠れていた少女を目ざとく見つけると、
「またくるね、イリスちゃん」
そう言った。
ゴミを見るような、蔑むような濁った目で。
それを見てさらに身を強張らせる少女。
「早く帰りなさいよ!」
それに気づいた母親が怒鳴る。
これが、家族全員が男を嫌っている理由だ。
この男は、極度の吸血鬼至上主義なのだ。
だからこそ、忌子であるイリスは吸血鬼でありながら、種族を穢す存在として汚物のように扱われていた。
「おお、怖い。じゃあ、姉さんの言うとおり、僕は帰らせてもらいますかね」
そう言い残して、男は去っていった。
家族に、これ以上ない嫌悪感を残して。
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時は変わって、少女の誕生日前日である。
早起きした少女は、ご機嫌で鼻歌を歌いながら朝ごはんを作っていた。
リビングへと降りてきた両親は、それを見るなり微笑んだ。
「あら、イリス。朝ごはんを作ってくれてるの?」
「はい!今日は、お父様もお母様もお出かけなさるので、頑張ってみました!」
今日は、両親がイリスの誕生日プレゼントをみつくろいに、少し遠出するのだ。
といっても、すぐに帰ってくるので、サプライズのために、少女は留守番だ。
「へえ!イリスが作ってくれるのか!いい匂いだな。早く食べたいよ!」
「ちょっと待ってください、もうすぐ出来ますので!」
そう言ってさっさと皿に盛り付けると、食卓へ配膳する。
「はい!じゃあ食べましょうか!」
……朝食を食べた後、両親は馬車へ乗りこんだ。
「いい?ほんの少しだけど、誰か来ても開けちゃだめよ?」
「危ない人が来るかもしれないからね?」
「はい、分かりました!」
その返事に満足した2人は、気の済むまで少女を抱きしめた後、馬車で出発した。
「いってらっしゃーい!」
……少女は両親を見送った後、掃除や洗濯などの家事をしていたが、すぐにやることがなくなり、自室でぼーっとしていた。
「早く帰って来ないでしょうか……」
だんだん寂しくなったのだろう。
少女の声は若干涙声であった。
ドンドンドン!
玄関から今まで聞いたことの無い、荒々しいノックの音がする。
少女はそれに怯えながらも、相手が誰なのか気になり、覗きにいった。
そこには、あの叔父が、息を切らして扉を叩いていた。
益々怯える少女。
しかし、次の言葉でーー
「大変だ!姉さんと兄さんが魔物に襲われた!」
目を見開き、驚いた。
……様子を見に行った少女が見た両親は、包帯に巻かれながらも、すやすやと穏やかに寝息を立てていた。
安静にせねばと、一度家に帰された少女は、不安を抱え、ベッドに飛び込む。
お父様とお母様はどうなるのだろう。
そんなことを考えながら、眠りについた。
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翌朝、両親のことで話があると呼ばれた少女は、村の広場にきていた。
そこにはたくさんの人がいた。
どうやら村人全員が集められたらしい。
なにがあるんだろう、などと聞こえることから、どうやら少女以外は何も聞かされていないらしい。
ざわざわとみんなが騒ぐなかで、少女の叔父が舞台の上に立った。
「みんな!聞いてほしい。……昨日、僕の姉さんとその夫が……魔物に襲われたんだ」
再びざわざわと聴衆が騒めくが、魔物の襲撃など良くあることなので、なぜこんなにも大袈裟にしたのかが分からない。と行った様子で首をかしげる者が数名いた。
それを見た叔父は、悲しそうな、憤った表情をしながら続ける。
「いま、治療を済ませて、こっちへ来て貰ったんだ」
叔父がそう言うと、2人が顔を見せる。
やはり完全にはまだ治っていないのか、所々に巻かれている包帯が痛々しかった。
「そして、この襲撃は、……偶然なんかじゃなかったんだ。……これを、引き起こした犯人がいたんだよ」
それを聞いて数人の聴衆が、誰だ誰だと犯人探しを始める。
それが広がり、全体に行き渡ったとき、叔父は口を開いた。
「信じたくなかった。彼女だなんて……でも、これを見てくれ!……これは、2人を襲った魔物の毛だったんだ」
そう言って一本のブラシを見せる。
その時、少女の心臓がドクンと跳ねた。
「う、嘘……あれは……」
信じられないといった様子で呟く。
当然だ。
何故ならあれは自分のヘアブラシだからだ。
「このブラシを見つけたのは、イリスちゃんの部屋だったんだ。僕も彼女がこれを使った所を見たことがある。……信じたくないけど、2人の娘、イリスちゃんが犯人なんだ」
そこまで言い切った叔父は、一瞬、少女の方を見て、にやり。といやらしい笑みを浮かべたが、気付く者は居なかった。
どよめく聴衆。
「ち、ちが、わ、私じゃない」
そもそも、ヘアブラシで獣を梳く人などいない。
当然のように少女も弁解するが、彼女は忌子。
誰も少女の言葉など聞かない。
犯人だと決めて疑わない。
最低だ。 恩知らず。
そんな言葉が投げかけられる中、聞こえてしまった。
見てしまった。
両親の発した、
ーー『忌子』なんて、育てるんじゃなかった。
という言葉と、自分に向けられる、冷たい視線を。
深い絶望で、目の前が真っ暗になる少女。
そんな彼女が、両親の不自然に虚ろな目に気付くはずもなくーー
ただ立ち尽くす少女には、侮蔑の言葉が、投げかけられ続けた。
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