異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

過去

吸血鬼の住む大陸で、その少女は生まれた。

一生懸命に生きようと、精一杯に産声をあげる。

まさに生命の神秘とも言える、新たな生命の誕生に、その少女の両親も、助産師も涙を流して喜んだ。

しかし、よくよく赤ん坊を見ると、あることに気づき、全員が驚愕した。

その赤ん坊は、本来ならあり得るはずのない、金髪の吸血鬼だったのだ。

哀れにもその赤ん坊は、まだ物心もつかぬうちに、人生を決められてしまった。

本来ならありえない子ども。

ーーすなわち、忌子としての人生が。

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しかし、彼女の両親は、少しの同情の視線を少女へと向けながらも、愛してはいた。

そのおかげで、少女はすくすくと育っていった。

だが、子どもは大人のことは案外見ているものだ。

なんとなく、自分が他と違うと理解していた少女は、あまりわがままを言ったりはしなかった。

「お母様?あ、あの。今大丈夫ですか?」

「ええ、どうしたの?」

実の娘に若干遠慮されていることに少し悲しそうな顔をする母親だったが、こうなったのは自分たちのせいだと、何も言えずにいた。

「あ、あのですね、お母様」

恥ずかしそうにもじもじとする少女。

しかしやがて、決心したのか、少し不安げにしながらも、目を瞑って手を勢いよく差し出した。

そこに握られていたのは、2つの四つ葉のクローバーだった。

「これは?」

「き、今日、お花畑で見つけて……お父様とお母様にとってきました!」

よくよく見れば、少女の体は少し土で汚れていた。

恐らく、最初に見つけたのは1つだけで、もう1つはその後で一生懸命探したのだろう。

それだけ頑張ったというのに、少女の母親を見る目は不安で揺れていた。

その様子に胸が締め付けられた母親は、大声で

「あなたー!イリスが、私たちにプレゼントをくれたわよー!」

自らの夫を呼んだ。

「……イリスは、何を持ってきてくれたのかな?」

妻に呼ばれて来た夫は、少女と同じ目線まで腰を落とすと尋ねた。

「く、クローバーです」

それに対し、先ほどにもしたように、手を突き出す少女。

四つ葉のクローバーを見た父親は、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「……そうか。これを僕たちのためにとって来てくれたのか。……ありがとう。とっても嬉しいよ」

「ありがとうね。イリス。後で居間にでも飾りましょう」

そう言った2人は、母親は少女を抱きしめ、父親は少女の頭を優しく撫でる。

それをうけた少女は、気持ち良さそうに目を細めていた。

「あら、ご飯が冷めちゃうわ。早く食べましょうか」

クローバーを額に入れて飾った母親がそう言った。

「お母様。今日のご飯は何ですか?」

「今日はね?シチューよ。イリス、大好きでしょう?」

「はい!」

「僕も大好物だ!さあさあ、みんな、早く食べよう!」

父親のセリフに、2人は顔を見合わせる。

「あなたの方が嬉しそうね」

「お父様は食いしん坊です」

「そ、そうかな?」

恥ずかしそうに頭を掻く父親を見て、2人は笑い出した。

「さ、お父さんも待ちきれないみたいだし、早く食べましょう?」

「はい!」

それから3人は多少ぎこちなくはあるかもしれないが、笑顔の飛び交う、幸せな夕食の時間を過ごした。

……夕食も食べ終わり、自室へと戻った少女は1人、ベッドの上で、嬉しそうな顔をしながら、手足をバタバタとさせていた。

疲れたけど、お父様とお母様が喜んでくれたから、また探しに行こう。

そんなことを考えながら、少女は眠りについた。

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ーーチリン。

そんな、綺麗な鈴の音を聞いて、少女は目を覚ます。

不思議に思って音のした方へと視線を向けると、そこには、首元に鈴を付け、リボンで可愛くデコレーションされた、茶色のテディベアが置いてあった。

テディベアが向けてくる眼差しに、一瞬で虜
になった少女は、それを抱えたまま、リビングへと向かった。

「あら、おはよう。今日は少し早いんじゃない?」

「お、もう起きたんだね」

リビングでは、すでに2人がいた。

「おはようございます。……お母様、お父様、これがベッドの上にあったんです」

そう言って、右手に抱えていたテディベアを2人に見えるように両手でもつ。

母親は、それを見て微笑むと、

「気に入った?」

と、尋ねた。

「はい!」

とりあえず、正直に答える少女。

「……だって。よかったね?」

「ええ、頑張って作った甲斐があったわ」

その2人の会話に、少女は驚いた顔をする。

「ええ!?これ、お母様が作ったんですか?」

「もちろんよ!」

「……でも、どうして?」

不思議そうに首を傾げり少女。

「だって、イリスが昨日、四つ葉のクローバーをくれたでしょう?そのお礼よ」

「うん。あれは本当に嬉しかったよ。イリス。またくれるかな?」

その言葉に、少女はにっこりと微笑むと、

「もちろんです!色々な花を持って来ますね!」

そう答えた。

それに合わせて2人も微笑む。

ーー忌子としての宿命を背負った少女とその家族。

なのにも関わらず、お互いが歩み寄り、知ろうと尽くす。

そんな幸せな家庭を祝福するように、リビングに、



ーーチリン。

小さな鈴の音が、響いた。

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