異世界奮闘、チート兄

嚶鳴

家族

翌日、ルノに起こされたクオは、日課を済ませた後、リビングへ向かう。

昨夜のルノの態度に、不思議におもったクオだったが、朝起こしに来たルノは、若干近くに来る様になったような気もするが、概ねいつもどおりだった。

リビングへ降りたクオとルノ。

そこには珍しく、既にフィリアが席に着いていた。

「おはようございます、フィー。今日は早いんですね?」

「え、えっと……」

目を泳がせながら、ギギギ。と動くフィリア。

「……フィア、今日が楽しみだった?」

「……あ、は、はい!そうなんです!もう、お兄様達とお出掛けするのが楽しみで早く起きちゃいました」

えへへと笑うフィリアは若干挙動不審だ。

「……なるほど。それは光栄ですね。」

軽く微笑んだクオは、フィリアの後ろを通って席に着こうとして、あることに気づいた。

「……?フィー。」

「はい。何ですかお兄様?」

「お菓子作りでもしていたのですか?」

ピシッ。

と、今度こそ完全に固まった。

「な、なななな、なんでですか!?」

気が動転しているのだろう、いつもなら絶対にしない、クオの肩を掴んで思いっきり揺するという暴挙に出ながら尋ねる。

「あ、あのフィー?ちょっと揺れて気持ちが……」

ガクガクと揺らされながらも止めるよう言ったクオだったが、

「そんなことより、な、なんで、ば、ばれたのでしょうか?」

被害者なのにそんなこと扱いで一蹴された。

だが、一応揺らすのはやめてくれたようだ。

その代わり手には凄い力が込められている。

そんなこと扱いされたことに若干しょんぼりとしながらもクオは答える。

「い、いえ。フィーから甘い匂いがしたので、お菓子作りでもしたのかと……」

そう答えた後、今まで見ているだけだったルノがフィリアの肩を叩いた。

「フィア。だめ。……このままじゃ台無し」

「……え?あ、あ、ご、ごめんなさいお兄様!」

フィリアはその言葉に冷静になったのか、自分がクオにしていたことに気づき、慌てて謝ると自分の部屋へと急いで戻った。

「……何が台無しなんですか?」

「……クオは知らなくても大丈夫」

「で、でも。今僕のせいでフィーが……」

「大丈夫」

取り付く島もない。

どうしたものかとクオが悩んでいると、フィリアが降りて来た。

「あ、フィー。どうしましたか?」

さっき自分の部屋へ行ったばかりなのに、もう帰ってきたフィリアに、不思議に思って尋ねるクオ。

そんな質問にフィリアは、

「あ、あの。…………あ、朝ご飯。を……た、食べに、来ました……」

顔を真っ赤にしながら、そう答えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝食を食べ終えた一行は、フィリアの案内で森の中に来ていた。

フィリアは、朝のことを気にしていたのか、ご飯を食べている間、顔を伏せて縮こまっていたが、ルノとクオの必死のフォローと、美味しい食事のおかげで、朝食を食べ終える頃には立ち直っていた。

「フィー。今日はどこに行くんですか?」

「それはですね?ふふっ。私のとっておきの場所です」

「そうなんですか。それではどんな場所かは聞かずに、楽しみにしていましょうかね」

「はい!凄くいい場所なので、きっとお兄様も気に入りますよ!」

「……あそこはとっても綺麗。フィアの言うとおり、クオにとってもお気に入りの場所になる」

「へえ。ルノも見たことがあるんですか?それはますます楽しみですね」

そんな風に、ゆるりと雑談しながら歩いていく。

ここまでゆったりできるのは、ここが魔物が出ないからである。

この森のすぐ近くに龍が住む山があるので、魔物が恐れてここには来ないのだ。

「もうすぐですよ、お兄様!」

フィリアがそう言ってから、歩いて数分すると、森の木々が無くなり、視界が開ける。

「……これは……」

そこは、正に絶景だった。

色とりどりの花が地面には咲き誇り、少し下には澄んだ湖と、青々と木々が茂る山が見える。

さんさんと輝く太陽が湖と花々に付いた水滴をキラキラと輝かせている。

見た人は必ず感嘆の声を漏らすような、美しい光景だった。

「……どうですか?お兄様」

「……確かに、凄く綺麗なところですね……」

「……ですよね!気に入って貰えて良かったです」

「……やっぱり、言ったとおりだった」

「……ええ。本当に綺麗です……。フィー。ルノ。こんな素敵なところに案内してくれて、ありがとうございます」

「はい!」

「ん」

「ではお兄様。あそこでご飯にしましょう」

そういってフィリアは花畑に一本だけ生えている木を指差した。

クオは、ルノとフィリアに手を引かれてそこまで歩いて行く。

木陰に3人は腰を下ろすと、フィリアは手に持っていたバスケットを開いた。

その中には、色々な具材で作ったサンドイッチが敷き詰められていた。

「……これは、フィーが作ったんですか?」

「……いいえ。ルノお姉様と二人で作りました!」

「……ん。2人で朝早くに作った」

「そうなんですか。……とても美味しそうです……食べてもいいですか?」

「もちろんです!」

「いい」

クオに料理を褒められた2人は嬉しさに頬を染めつつ、食べるよう促す。

「では頂きますね」

そう言って食べ始めたクオは美味しさに目を見開く。

タマゴサンドは、挟んである卵がまろやかで口当たりが良く、味付けもマイルドで食べやすい。

野菜はみずみずしく、それぞれの甘みや旨みが引き立つように味付けされている。

彩りも考えているのだろう。

見ても楽しめる組み合わせで配置されていた。

「「……どう(ですか)?」」

「…………凄く、美味しいです」

不安そうな顔でクオのを見ていた2人だったが、クオの返事を聞いてホッと安心する。

……雑談をしながらの食事を終えたクオは、グッと伸びをしながら欠伸をした。

「お兄様?眠いのですか?」

「……眠る?」

「……そうですね。少し休ませて貰います。……と。その前に」

そう言ってクオはささっと花の腕輪を2つ作り、手渡した。

「……お兄様、これは?」

「……なに?」

「何が起きるか分かりませんからね。魔術を組み合わせたものをエンチャントしました。……これで何かあっても僕が駆けつけられますので」

「分かりました。お兄様、お休みなさい」

「フィアは私に任せて」

「ありがとうございます。では、休ませて貰いますね」

そう言ってクオは目を閉じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クオが目を覚ますと既に空が赤くなっていた。

体を起こしたクオは、辺りを見回し、花を摘んでいた2人を見つけて近寄って声をかける。

「おはようございます。2人とも、お花摘みですか?」

「あ、おはようございますお兄様!はい、色んなお花がとれました!」

「……おはよう。ほら、こんなに沢山」

そう言って2人は籠を見せる。

ここにある花は全種類集めたのではないか。

それくらい色々な種類の花が入っていた。

「手伝いましょうか?」

「あ、お願いします!」

「助かる」

そしてしばらく花を集めた後、2人が満足したのを確認すると、家へ向かって帰り始める。

「今日はありがとうございます。おかげでお気に入りの場所が増えました」

「そうですか?なら良かったです!」

「……ん。またいい場所があったら教える。楽しみにしてて。……ね。フィア」

「はい!お兄様、またルノお姉様と探しますよ!」

「楽しみにしてます」

早速の次の外出の誘いを、クオは微笑みながら承諾した。

家に着くと、ルノとフィリアは部屋で待つよう、クオに伝えた。

待っている間寝ていようにも、既に充分に昼寝をしているため、寝つけなかった。

アクセサリーなどを作り始めるも、材料がなくなってしまってからは何かを作ることも出来なくなった。

クオがそんな風に悶々と一時間ほど、ベットに横になってはしばらくすると起き上がるといった行動をしていると、やっと部屋から出ていいという意味のノックが聞こえた。

クオは飛び起きると、さっさとリビングへ向かう。

そしてリビングの扉を開けてそのまま、硬直した。

いつも見慣れていたリビングは、先ほどとってきた花で綺麗に飾られている。

食卓にはなかなか見ないような豪勢な料理が並んでおり、3人はクオに気づいた途端に立ち上がっていた。

「……これは?」

3人はそれぞれが目配せをすると、口を揃えてーー

「「「クオ(お兄様)お誕生日、おめでとう(ございます)!」」」

といった。

その言葉を聞いたクオは、しばし呆然とした後、そういえば今日は自分の誕生日だったなと思い出す。

クオが何も言わないでいると、フィリアとルノは台所からケーキを持ってきた。

そのケーキは、かすみ草に似たピンク色の花を中心に飾り付けられていた。

この花はこの世界では珍しく、滅多に手に入らないものである。

「この花はルノとフィリアが持ってきたし、ケーキも2人が作ったのよ」

クオの視線に気付いたアーシャが説明する。

その言葉にクオは驚き、視線を2人へ向ける。

「あ、朝に頑張って作ったんです!お母様にも少し手伝って貰いましたけど……」

「花は、クオが寝てる間に探した」

視線を向けられて照れつつも、胸を張る2人。

「……そうなんですか。僕のために……」

「私たちはお兄様にいつもお世話になっていますから!」

「……ん。感謝してる」

「……だって。クオ、良かったわね」

「……ありがとうございます」

そこまで言って、何かを思い出したクオは、無限収納からあるものを取り出し、3人に配る。

……それは、宝石で作られたネックレスだった。

ルノには赤、フィリアには青、アーシャには橙を中心としたデザインになっている。

「わあっ!ありがとうございますお兄様!素敵です!付けてみますね?」

「……綺麗。ありがと」

「本当に素敵なプレゼントね、ありがとう。クオ」

3人はそれぞれクオから貰ったアクセサリーを付け始める。

それをお互いに見せ合った後、クオに向き直った。

「はい。クオ、これは私たちからよ」

アーシャから小さな箱を渡される。

「ただ、ですね……」

「……ん。偶然」

ルノとフィリアのセリフに首を傾げたクオは、箱を開ける。

「……確かに、これは凄い偶然ですね」

苦笑するクオの見ている箱の中身はーー

黒を基調として装飾された、男性がつけるデザインのネックレスだった。

「お兄様、それには少しですけど癒しのエンチャントがかかっているんです」

「……クオは、私たちのために、頑張ってくれてるから」

「いつもありがとう。クオ、これはわたしたちからの感謝の気持ちよ」

「……みなさん。ありがとうございます……」

クオの言葉に3人は優しく微笑む。

ほんの少しかもしれないが、クオからは本物の感動の気持ち漏れ出ていた。

「……さ!早く食べなくちゃ冷めちゃうわ!
ほらみんな席に着いて!」

「そうですね、ほらお兄様、行きましょう?」

「……私たちの作ったのもある。沢山食べて」

「……はい、勿論です」

2人に手を引かれて座ったクオは、料理を食べ始める。

ーー自分が薄く微笑んでいることなど気づかずに。

こうして、驚きと幸せに包まれた誕生日は、続いていった。

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