十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜
十九話 メンバー募集
ところ変わってEX協会“折刺支部”。
いつも俺達が行く協会だ。
何をしに来たのかというと、ズバリ、ギルド設立!!
と、ドラゴン討伐の報酬受け取り、!
・・・といっても、小難しい手続きやら書類やらで面白い事など何も無いが。
まずは、受付に行かなければいけない。
そう思い、さぁ誰に案内してもらおうかと、周りを見渡してみた。
すると、いつもいるはずの受付の男性が何処にもいない。今日もあの人にお願いしようと思ったのに・・・とそこまで考えたところでハッとする。
まさか、あの時の事が理由なのか?・・・と。
少しだけ胸が痛む。理由は上手く言葉にできないが、とにかく痛む。同時に、早くヒナタを助けなければいけない・・・そう強く思った。
いつもの人がいないのなら、別の職員に頼るしかない。とりあえず目に付いた女性の元へ向かう。
まだ、若い。そして素晴らしいプロポーション。しかも眼鏡でおっとり系の美人ときた。
何故俺は初めからこの人に頼まなかったのだろうか、過去の俺に問いたい。
「すみません、ちょっとお話があるんですけど」
軽く声をかける。恐らくこの話は長くなるだろうと思うので、どっしりと椅子に腰を下ろして話を聞くことにした。
「あなたは・・・ソラノ様ですね。いつも愛善(あいぜん)さんが担当している・・・」
落ち着いた声色に安心しつつ、まさかの新キャラの登場に驚く。
「愛善って、誰の事ですか?」
俺としては至極まともで素直な疑問だったのだが、女性は驚いたように目を見開いた。
「いつもあなたを担当していた男性の名前ですよ?もしかして、今の今まで知らずにいたんですか?」
はい。知りませんでした。
あの人、愛善っていうのか。めっちゃ良い人そうな名前すぎて逆に悪役感漂ってきてるまである。
俺の表情を見た受付の女性はクスッと可愛らしい笑みを浮かべた。
「全く、今の今まで知らなかっただなんて・・・」
もしや、「あなたって、おっちょこちょいなんですね♡」とか言って人差し指でつんつんしてくれるのだろうか。
「全く愛善さんったら、仕方が無いんだからぁ、もぅ♡」
どうやら彼女は愛善さんとやらにぞっこんのようだ。
キラキラと光る可愛らしい唇から放たれた言葉は、名前を知らなかった俺に対してではなくて、自分の名前を俺に教えなかった愛善に対しての言葉だった。
この二人付き合ってんのかな。
どうやら俺のこのつぶやきは口に出してしまったようで、彼女から反応が返ってきた。
「ふふっ、私の苗字はね、今は愛善っていうの。」
新婚夫婦だった。そんな微笑みを俺に向けないでくれ。メンタルに取り返しのつかないダメージが来そうだ。ヒナタ奪還どころではなくなる。
もはや愛想笑いしかない。
冗談はさておき、この人はほんとに鍛え上げられた協会職員なのだろうか?夫の話になった途端に口調が砕け始めたし、語尾にハートがつきがちだし、なんというか、色々とガバガバじゃないか?
・・・まぁいいか、これくらいの方が親しみやすいし。
ところで、その愛善さんはどこに行ったのだろう?この人なら知っているのかもしれない。
「あの、旦那さんはどちらへ行かれたんですか?今日は見えないみたいですけど」
すると、愛善妻(以下愛妻)は目元に影を落とした。
「あの人は・・・そうね、今は図書館にでもこもってるんじゃないかしら。」
「図書館と言えば・・・国立図書館ですか?」
「えぇ、そうね。」
国立図書館と言えば首都“神代”にある超絶大規模の図書館だが・・・
「愛善さんは何故そこに?」
「詳しいことはわからないけど、血相を変えて飛び出ていっちゃった。・・・私に相談してくれないのは、少しだけ寂しいかなぁ。」
うむぅ、ハッキリしないのは仕方が無いか。時期が来れば謎も解明するのだろうか。
何となく愛善さんがいないことに寂しさを覚える。
「ところで、ソラノ君は今日は何をしに来たの?」
君て。ソラノ“君”て。客だぞ、一応。しかも初対面。
だが本題に入ったのは嬉しいことだ。手短に用件を伝える。
「あぁ、今日は報酬の受け取りとギルドの設立を。」
「あー、はいはい。報酬とギルドの設立ね。えーと、報酬はこっちで、ギルドの設立は・・・」
随分とあっさりとしたもんだな。今どきギルドを設立しようなんて考えるやつそうそういないだろうに。
「あの、ギルドの設立って珍しくないんですか?」
「んー、超珍しいわ。ここ数年で設立の案件は一件もなかったから」
「それにしては随分とあっさり俺の話を聞いてくれるんですね。」
すると愛妻は穏やかな微笑を浮かべた。
「あの人に、あなたの事は色々聞いてたから。規格外の能力で、想定外をやらかすルーキーだってね。」
愛善さん・・・俺の事をそこまで・・・
「確かに今どきギルドの設立なんて珍しいけど、何しでかすか分からない子に対して心の準備さえあればこのように冷静に対応できるのよ!」
どやぁっと口元を吊り上げるが果たしてそこまでドヤるほどの事だろうか。
ただ、スムーズに手続きが進みそうなのはいい事だ。
「まずはドラゴン討伐の報酬ね。これはギルドから直接あなたに依頼したものだから、かなり高額になるわ。・・・はい。これ。」
ドサッと机上に置かれたのはかなりの分厚さを誇る札束。
「ざっと200万ってところよ。あのドラゴンを放置してたらどれだけ被害が出ていたかわからないわ。協会職員を代表してお礼を言うわ。ありがとうございました。」
「い、いえ、というかこの札束は・・・」
俺は何かというと、200万という大金に驚いていた。彼女の感謝はありがたいが、この札束を置く前に行って欲しかった。
「さて、ギルドの設立に関してですが、じゃあまずは理由ね。理由。何でギルドを設立しようと思いましたか?」
おい、200万は。そこ流してもいいのか?と思ったが協会としてはそれほど珍しい額でもないのかもしれない。
仕方ない。200万は一旦忘れよう。
「話せば長くなりますが、いいですか?」
「もちろん」
俺はここに至るまでにプロセスをすべて打ち明けた。特に包み隠すこともなく、文字通り全て。
「・・・なるほどね。君も随分と苦労してるのね」
すべてを聞いた愛妻は何かを納得したように頷く。
「よし、分かったわ。じゃあ、この書類にに目を通して、サインをお願い。それと、設立に伴う費用がこんだけあるから、それも用意してね。」
テキパキと書類を整理する愛妻は、やはり協会職員だった。
「彼女を救うために自らギルドを設立するなんて、カッコイイじゃないの。あなた、きっといい男になるわ。頑張ってね。」
「はぁ・・・ありがとうございます。あと、彼女じゃないです。友人です。」
素直な賛辞にちょっと照れたが、ヒナタが攫われる際に何も出来なかったのもまた俺だ。ここで素直に喜んでる場合じゃないことは俺が一番よく知っている。
ちなみに彼女ではないということは強調しておいて問題は無い。
俺は手早く書類を片付け、予め持ってきておいた金額を払う。200万は使ってないぞ?事前に調べてあったから用意してあるんだ。
「はい、ありがとうございます。これでギルドの設立は完了です。・・・思ったよりもスムーズに終わったーっていう顔してるわね。」
「そりゃあもう」
1時間2時間は行くかなと思ってたんでね。
「最後に、ギルドメンバー募集の貼り紙を作らないといけないわ。とりあえずあなたがギルドマスターね。余った欄にメンバーに求める条件を書くように。」
条件・・・どうしたものか。正直人が集まればなんでもいいんだが。
「あ、それと、張り紙をどこに貼るのかは自由。正直この折刺支部はオススメしないから、首都近くの街にでも貼るといいわ。」
「了解です。」
ここら辺は俺も考えていたことだ。
さて、条件といってもガチガチに絞る訳にはいかない。俺が求めているのは人数のみであって、五人集まればそれでいいのだ。
ただ、年齢制限は設けようと思う。流石に30代40代のおじさんが参加してきたら困る。
何に困るって、コミュニケーションに・・・
とりあえず、こうした。
・16~20歳 男女問わず
・実力の有無は問わない 初心者歓迎
・どんな子でもおっけー
・魔法系でも近接系でも何でもおっけー
「よし、これなら流石に集まるだろ」
対して愛妻さんは微妙な顔をしていたが。
「うーん、いくらギルド対抗戦に参加するだけとはいえ、ちょっと雑じゃないの?」
「大丈夫ですよ。真面目に戦うつもりもないですから。先程言ったように、とりあえず参加しないとコロシアム内に入れないから、参加するだけです。」
「それならいいのだけど・・・いや、良くない気もするけど・・・」
大丈夫さー。
「不安だわ。でも、君がいいというのならこれ以上否定する理由も無いから、とりあえず頑張ってねって言っておくわ。」
「どうもです。じゃあ、自分は早速ゲートで神代まで・・・」
ちなみにゲートというのは、遠距離移動の際に使用する便利な装置だ。各地にいくつか存在しており、利用料金が発生するものの、非常に便利なため多くの人間が利用している。ちなみに利用料金がとてつもなく高額なので、中距離の移動の際には使わない。本当に遠い時だけ満を持して使う。
俺はまだ使ったことはないので、この世界のワープを早く体験したい気持ちはそこはかとなくある。
早く行こう。そう思い協会の扉へと向かう。
と、そこで、愛妻は何かを思い出したように慌て始めた。
「あっ!ギルドを作るのなら、本部を何処にするか決めておいてね!自分で建てるのもアリだし、とりあえずは自宅って言うのも手だけど」
なるほど、本部ね。とりあえず自宅の方向で・・・
「私からは以上です。それじゃ改めて、頑張れ!」
「ういっす!」
俺は早々に協会をあとにして、ゲートで首都へ向かった。余談だが首都までの利用料金は20万だった。流石に200万の中から使わざるを得なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー首都“神代”
かつて神々の大戦が行われたという歴史が・・・・・・などは特に無く、純粋かつ普通な大都会だ。
一度目を見開き空を見上げれば、途方もない数の高層ビル群が視界に飛び込む。
数々のビルのガラス壁に反射した太陽の光が非常に眩しい。まるで目が焼けるように熱い。
心做しか、体感温度も高いように思える。都会特有のこもった暑さは、しばらく慣れそうにないなと感じた。
さて、首都神代の第一印象としては・・・
都会・・・ゃっべーぞ。と言ったところか。
この栄えぶりはまるで東京・・・いや、それ以上かもしれない。ちなみに俺は東京にはほとんど行ったことがない。したがって実際はどうかまるで分からない。てへぺろ。
ド迫力の建造物に圧倒されていた俺だが、ここで惚けていてもしょうがない。
目当てのEX協会を探さねば。
そう思い一歩踏み出してみるものの、さぁ、果たして田舎から上京してきたばかりの世間知らずな少年一人にこの街中で目的を達成できるのか!?・・・答えは分かりきっているだろう。
あてもなく探すのは時間の無駄なのだ。修学旅行で班のメンバーとはぐれてしまった時、班員を探す事にほとんどの自由時間を費やしてしまった苦い記憶が蘇る。
だって俺含め五人いるはずのメンバーの内、4人ともどこかへ行ってしまったんだから。探すのはほんとに大変だった。
あの時俺が班長だったから頑張って探したんだが、はぐれた4人とも俺を探してたなぁ。やっとこさ見つけた!と思って班員に「もう迷子になるなよ」って言ったらかなりキレられたなぁ。「こっちのセリフだ!」ってね。
迷子は俺か。
・・・気を取り直して、EX協会への道順の手がかりを見つけ出そう。
といっても道行く人々に尋ねるだけだが。
まずはあの、壁にもたれかかって、いかにも人を待っているような様子の男性から攻めていく。
下を向いて地面とにらめっこしているようだが、決して忙しくはないだろう。逆に地面と睨み合って忙しいってどういう状況?
さて、
初対面の相手だからな。極めて親しげに、友好的な笑顔を浮かべて話しかけよう。
良好な関係への第一歩を俺は今踏み出すのだ。
「あの〜すみません。この街のEX協会がどこにあるか教えていただけませんか?」
「・・・・・・」
あ、あれーー・・・?この街の人なら知らないはずないと思ったんだけどなぁ。俺の笑顔がそんなに怪しかったか?それとも、この街の人ではないのか?このままでは良好な関係もクソもない。コミュニケーションが成立しないのだから。
もうひと押ししてみようかな。
「えーっとですね。俺は折刺っていう街から来まして、都会経験が少ないんです。右も左も分からないような状況なので、もしよければ・・・」
しかし、俺の言葉を遮って男はこう言い放った、!
「あいにく田舎者に構ってる暇も余裕もないんだ。何も分からないのなら早くこの街から出ていくといいよ。さようなら」
そういって蔑むような目を向け、俺から10メートルほど離れたところで再び壁に背を預けた。
姿を消すでもなく、場所を移すでもなく、まるで田舎者が俺に近寄るなと言わんばかりの素早い足取りでただただ俺から距離をとったのだ。
りょ、良好な関係・・・
イラッ
イラッ
イライライラッ!
ちょっと殴ってきてもいいですかね。
都会の人間だからといって少し調子に乗りすぎじゃないですかね。絶対お前暇だろ。いかにも人を待ってる雰囲気だけ出してるボッチなんだろ?田舎者の洞察力ナメんなよ。道教えるくらいやってくれてもいいだろ?
そう思い半ば無意識にズカズカと男に迫る。
男はこちらの動きに気付いたようで、驚いたような、しかしそれでいて見下すような視線を向ける。
その態度に再びイラついて、拳を握りしめる。いっそ一思いぶん殴ってしまおうと勢いをつけようとした、その時ーーーー
「ウゲェッ」
何者かが俺の首根っこを掴んだようだ。
「・・・!!!」
無言の圧力をかけて振り返ると、
「キミー。ちょっとこっちに来なよ。そのままじゃこの街でかなり苦労すると思う。」
ぶっきらぼうな物言いで少し気だるそうな雰囲気漂う一人の女が。
歳は二十代前半だろうか。
腰まで届きそうな長い黒髪と、少しはねたくせ毛。それにやる気が抜け落ちた瞳が印象的だ。
もっと活力に満ち溢れた瞳ならば、整った容姿は一層輝くだろうに。勿体ない。
・・・いや、その前に
「誰?」
「あー、私は通りすがりの通行人A子さんってとこかなー。この神代ってね、田舎者殺しな変わった街なんだよ。上手くやってくにはコツがいるんだけど、君を放置したらこの街のそこかしこで問題が起きそうな気がしたから、声をかけてみた。」
「変わった街って、首都なのに?」
「そー。首都なのに」
そりゃ、変わってるな。街っていうか、もうこの世界がおかしいよな。
それにしてもこのA子さん。悪い人でもなさそうだし、大事なことを教えてくれそうだから、ついて行ってもいいかな?知らない人にはついて行かないのは常識だが、俺もそこそこ高いステータスはあると思うから、万が一襲われても大丈夫だろ。
ということで付いていくことにしました。
「ん。じゃ、こっち来て」
「らじゃ」
初対面なのに随分とナチュラルに会話してるな俺たち。やっぱりA子さんの態度がこんなだからつられてる感はある。
ヨロヨロと歩くA子さんは傍から見ればただの不審者。今更ながら後悔の念が押し寄せる。
ふと振り返ると、距離にして5メートルほど先にまで迫った失礼な男がこちらを睨みつけていた。
もはや反撃する気も起きなかったので、とりあえずできる限り気味の悪い笑みを作って相手に送った。
男はたじろいだ。やったね。
いつも俺達が行く協会だ。
何をしに来たのかというと、ズバリ、ギルド設立!!
と、ドラゴン討伐の報酬受け取り、!
・・・といっても、小難しい手続きやら書類やらで面白い事など何も無いが。
まずは、受付に行かなければいけない。
そう思い、さぁ誰に案内してもらおうかと、周りを見渡してみた。
すると、いつもいるはずの受付の男性が何処にもいない。今日もあの人にお願いしようと思ったのに・・・とそこまで考えたところでハッとする。
まさか、あの時の事が理由なのか?・・・と。
少しだけ胸が痛む。理由は上手く言葉にできないが、とにかく痛む。同時に、早くヒナタを助けなければいけない・・・そう強く思った。
いつもの人がいないのなら、別の職員に頼るしかない。とりあえず目に付いた女性の元へ向かう。
まだ、若い。そして素晴らしいプロポーション。しかも眼鏡でおっとり系の美人ときた。
何故俺は初めからこの人に頼まなかったのだろうか、過去の俺に問いたい。
「すみません、ちょっとお話があるんですけど」
軽く声をかける。恐らくこの話は長くなるだろうと思うので、どっしりと椅子に腰を下ろして話を聞くことにした。
「あなたは・・・ソラノ様ですね。いつも愛善(あいぜん)さんが担当している・・・」
落ち着いた声色に安心しつつ、まさかの新キャラの登場に驚く。
「愛善って、誰の事ですか?」
俺としては至極まともで素直な疑問だったのだが、女性は驚いたように目を見開いた。
「いつもあなたを担当していた男性の名前ですよ?もしかして、今の今まで知らずにいたんですか?」
はい。知りませんでした。
あの人、愛善っていうのか。めっちゃ良い人そうな名前すぎて逆に悪役感漂ってきてるまである。
俺の表情を見た受付の女性はクスッと可愛らしい笑みを浮かべた。
「全く、今の今まで知らなかっただなんて・・・」
もしや、「あなたって、おっちょこちょいなんですね♡」とか言って人差し指でつんつんしてくれるのだろうか。
「全く愛善さんったら、仕方が無いんだからぁ、もぅ♡」
どうやら彼女は愛善さんとやらにぞっこんのようだ。
キラキラと光る可愛らしい唇から放たれた言葉は、名前を知らなかった俺に対してではなくて、自分の名前を俺に教えなかった愛善に対しての言葉だった。
この二人付き合ってんのかな。
どうやら俺のこのつぶやきは口に出してしまったようで、彼女から反応が返ってきた。
「ふふっ、私の苗字はね、今は愛善っていうの。」
新婚夫婦だった。そんな微笑みを俺に向けないでくれ。メンタルに取り返しのつかないダメージが来そうだ。ヒナタ奪還どころではなくなる。
もはや愛想笑いしかない。
冗談はさておき、この人はほんとに鍛え上げられた協会職員なのだろうか?夫の話になった途端に口調が砕け始めたし、語尾にハートがつきがちだし、なんというか、色々とガバガバじゃないか?
・・・まぁいいか、これくらいの方が親しみやすいし。
ところで、その愛善さんはどこに行ったのだろう?この人なら知っているのかもしれない。
「あの、旦那さんはどちらへ行かれたんですか?今日は見えないみたいですけど」
すると、愛善妻(以下愛妻)は目元に影を落とした。
「あの人は・・・そうね、今は図書館にでもこもってるんじゃないかしら。」
「図書館と言えば・・・国立図書館ですか?」
「えぇ、そうね。」
国立図書館と言えば首都“神代”にある超絶大規模の図書館だが・・・
「愛善さんは何故そこに?」
「詳しいことはわからないけど、血相を変えて飛び出ていっちゃった。・・・私に相談してくれないのは、少しだけ寂しいかなぁ。」
うむぅ、ハッキリしないのは仕方が無いか。時期が来れば謎も解明するのだろうか。
何となく愛善さんがいないことに寂しさを覚える。
「ところで、ソラノ君は今日は何をしに来たの?」
君て。ソラノ“君”て。客だぞ、一応。しかも初対面。
だが本題に入ったのは嬉しいことだ。手短に用件を伝える。
「あぁ、今日は報酬の受け取りとギルドの設立を。」
「あー、はいはい。報酬とギルドの設立ね。えーと、報酬はこっちで、ギルドの設立は・・・」
随分とあっさりとしたもんだな。今どきギルドを設立しようなんて考えるやつそうそういないだろうに。
「あの、ギルドの設立って珍しくないんですか?」
「んー、超珍しいわ。ここ数年で設立の案件は一件もなかったから」
「それにしては随分とあっさり俺の話を聞いてくれるんですね。」
すると愛妻は穏やかな微笑を浮かべた。
「あの人に、あなたの事は色々聞いてたから。規格外の能力で、想定外をやらかすルーキーだってね。」
愛善さん・・・俺の事をそこまで・・・
「確かに今どきギルドの設立なんて珍しいけど、何しでかすか分からない子に対して心の準備さえあればこのように冷静に対応できるのよ!」
どやぁっと口元を吊り上げるが果たしてそこまでドヤるほどの事だろうか。
ただ、スムーズに手続きが進みそうなのはいい事だ。
「まずはドラゴン討伐の報酬ね。これはギルドから直接あなたに依頼したものだから、かなり高額になるわ。・・・はい。これ。」
ドサッと机上に置かれたのはかなりの分厚さを誇る札束。
「ざっと200万ってところよ。あのドラゴンを放置してたらどれだけ被害が出ていたかわからないわ。協会職員を代表してお礼を言うわ。ありがとうございました。」
「い、いえ、というかこの札束は・・・」
俺は何かというと、200万という大金に驚いていた。彼女の感謝はありがたいが、この札束を置く前に行って欲しかった。
「さて、ギルドの設立に関してですが、じゃあまずは理由ね。理由。何でギルドを設立しようと思いましたか?」
おい、200万は。そこ流してもいいのか?と思ったが協会としてはそれほど珍しい額でもないのかもしれない。
仕方ない。200万は一旦忘れよう。
「話せば長くなりますが、いいですか?」
「もちろん」
俺はここに至るまでにプロセスをすべて打ち明けた。特に包み隠すこともなく、文字通り全て。
「・・・なるほどね。君も随分と苦労してるのね」
すべてを聞いた愛妻は何かを納得したように頷く。
「よし、分かったわ。じゃあ、この書類にに目を通して、サインをお願い。それと、設立に伴う費用がこんだけあるから、それも用意してね。」
テキパキと書類を整理する愛妻は、やはり協会職員だった。
「彼女を救うために自らギルドを設立するなんて、カッコイイじゃないの。あなた、きっといい男になるわ。頑張ってね。」
「はぁ・・・ありがとうございます。あと、彼女じゃないです。友人です。」
素直な賛辞にちょっと照れたが、ヒナタが攫われる際に何も出来なかったのもまた俺だ。ここで素直に喜んでる場合じゃないことは俺が一番よく知っている。
ちなみに彼女ではないということは強調しておいて問題は無い。
俺は手早く書類を片付け、予め持ってきておいた金額を払う。200万は使ってないぞ?事前に調べてあったから用意してあるんだ。
「はい、ありがとうございます。これでギルドの設立は完了です。・・・思ったよりもスムーズに終わったーっていう顔してるわね。」
「そりゃあもう」
1時間2時間は行くかなと思ってたんでね。
「最後に、ギルドメンバー募集の貼り紙を作らないといけないわ。とりあえずあなたがギルドマスターね。余った欄にメンバーに求める条件を書くように。」
条件・・・どうしたものか。正直人が集まればなんでもいいんだが。
「あ、それと、張り紙をどこに貼るのかは自由。正直この折刺支部はオススメしないから、首都近くの街にでも貼るといいわ。」
「了解です。」
ここら辺は俺も考えていたことだ。
さて、条件といってもガチガチに絞る訳にはいかない。俺が求めているのは人数のみであって、五人集まればそれでいいのだ。
ただ、年齢制限は設けようと思う。流石に30代40代のおじさんが参加してきたら困る。
何に困るって、コミュニケーションに・・・
とりあえず、こうした。
・16~20歳 男女問わず
・実力の有無は問わない 初心者歓迎
・どんな子でもおっけー
・魔法系でも近接系でも何でもおっけー
「よし、これなら流石に集まるだろ」
対して愛妻さんは微妙な顔をしていたが。
「うーん、いくらギルド対抗戦に参加するだけとはいえ、ちょっと雑じゃないの?」
「大丈夫ですよ。真面目に戦うつもりもないですから。先程言ったように、とりあえず参加しないとコロシアム内に入れないから、参加するだけです。」
「それならいいのだけど・・・いや、良くない気もするけど・・・」
大丈夫さー。
「不安だわ。でも、君がいいというのならこれ以上否定する理由も無いから、とりあえず頑張ってねって言っておくわ。」
「どうもです。じゃあ、自分は早速ゲートで神代まで・・・」
ちなみにゲートというのは、遠距離移動の際に使用する便利な装置だ。各地にいくつか存在しており、利用料金が発生するものの、非常に便利なため多くの人間が利用している。ちなみに利用料金がとてつもなく高額なので、中距離の移動の際には使わない。本当に遠い時だけ満を持して使う。
俺はまだ使ったことはないので、この世界のワープを早く体験したい気持ちはそこはかとなくある。
早く行こう。そう思い協会の扉へと向かう。
と、そこで、愛妻は何かを思い出したように慌て始めた。
「あっ!ギルドを作るのなら、本部を何処にするか決めておいてね!自分で建てるのもアリだし、とりあえずは自宅って言うのも手だけど」
なるほど、本部ね。とりあえず自宅の方向で・・・
「私からは以上です。それじゃ改めて、頑張れ!」
「ういっす!」
俺は早々に協会をあとにして、ゲートで首都へ向かった。余談だが首都までの利用料金は20万だった。流石に200万の中から使わざるを得なかった。
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ーーー首都“神代”
かつて神々の大戦が行われたという歴史が・・・・・・などは特に無く、純粋かつ普通な大都会だ。
一度目を見開き空を見上げれば、途方もない数の高層ビル群が視界に飛び込む。
数々のビルのガラス壁に反射した太陽の光が非常に眩しい。まるで目が焼けるように熱い。
心做しか、体感温度も高いように思える。都会特有のこもった暑さは、しばらく慣れそうにないなと感じた。
さて、首都神代の第一印象としては・・・
都会・・・ゃっべーぞ。と言ったところか。
この栄えぶりはまるで東京・・・いや、それ以上かもしれない。ちなみに俺は東京にはほとんど行ったことがない。したがって実際はどうかまるで分からない。てへぺろ。
ド迫力の建造物に圧倒されていた俺だが、ここで惚けていてもしょうがない。
目当てのEX協会を探さねば。
そう思い一歩踏み出してみるものの、さぁ、果たして田舎から上京してきたばかりの世間知らずな少年一人にこの街中で目的を達成できるのか!?・・・答えは分かりきっているだろう。
あてもなく探すのは時間の無駄なのだ。修学旅行で班のメンバーとはぐれてしまった時、班員を探す事にほとんどの自由時間を費やしてしまった苦い記憶が蘇る。
だって俺含め五人いるはずのメンバーの内、4人ともどこかへ行ってしまったんだから。探すのはほんとに大変だった。
あの時俺が班長だったから頑張って探したんだが、はぐれた4人とも俺を探してたなぁ。やっとこさ見つけた!と思って班員に「もう迷子になるなよ」って言ったらかなりキレられたなぁ。「こっちのセリフだ!」ってね。
迷子は俺か。
・・・気を取り直して、EX協会への道順の手がかりを見つけ出そう。
といっても道行く人々に尋ねるだけだが。
まずはあの、壁にもたれかかって、いかにも人を待っているような様子の男性から攻めていく。
下を向いて地面とにらめっこしているようだが、決して忙しくはないだろう。逆に地面と睨み合って忙しいってどういう状況?
さて、
初対面の相手だからな。極めて親しげに、友好的な笑顔を浮かべて話しかけよう。
良好な関係への第一歩を俺は今踏み出すのだ。
「あの〜すみません。この街のEX協会がどこにあるか教えていただけませんか?」
「・・・・・・」
あ、あれーー・・・?この街の人なら知らないはずないと思ったんだけどなぁ。俺の笑顔がそんなに怪しかったか?それとも、この街の人ではないのか?このままでは良好な関係もクソもない。コミュニケーションが成立しないのだから。
もうひと押ししてみようかな。
「えーっとですね。俺は折刺っていう街から来まして、都会経験が少ないんです。右も左も分からないような状況なので、もしよければ・・・」
しかし、俺の言葉を遮って男はこう言い放った、!
「あいにく田舎者に構ってる暇も余裕もないんだ。何も分からないのなら早くこの街から出ていくといいよ。さようなら」
そういって蔑むような目を向け、俺から10メートルほど離れたところで再び壁に背を預けた。
姿を消すでもなく、場所を移すでもなく、まるで田舎者が俺に近寄るなと言わんばかりの素早い足取りでただただ俺から距離をとったのだ。
りょ、良好な関係・・・
イラッ
イラッ
イライライラッ!
ちょっと殴ってきてもいいですかね。
都会の人間だからといって少し調子に乗りすぎじゃないですかね。絶対お前暇だろ。いかにも人を待ってる雰囲気だけ出してるボッチなんだろ?田舎者の洞察力ナメんなよ。道教えるくらいやってくれてもいいだろ?
そう思い半ば無意識にズカズカと男に迫る。
男はこちらの動きに気付いたようで、驚いたような、しかしそれでいて見下すような視線を向ける。
その態度に再びイラついて、拳を握りしめる。いっそ一思いぶん殴ってしまおうと勢いをつけようとした、その時ーーーー
「ウゲェッ」
何者かが俺の首根っこを掴んだようだ。
「・・・!!!」
無言の圧力をかけて振り返ると、
「キミー。ちょっとこっちに来なよ。そのままじゃこの街でかなり苦労すると思う。」
ぶっきらぼうな物言いで少し気だるそうな雰囲気漂う一人の女が。
歳は二十代前半だろうか。
腰まで届きそうな長い黒髪と、少しはねたくせ毛。それにやる気が抜け落ちた瞳が印象的だ。
もっと活力に満ち溢れた瞳ならば、整った容姿は一層輝くだろうに。勿体ない。
・・・いや、その前に
「誰?」
「あー、私は通りすがりの通行人A子さんってとこかなー。この神代ってね、田舎者殺しな変わった街なんだよ。上手くやってくにはコツがいるんだけど、君を放置したらこの街のそこかしこで問題が起きそうな気がしたから、声をかけてみた。」
「変わった街って、首都なのに?」
「そー。首都なのに」
そりゃ、変わってるな。街っていうか、もうこの世界がおかしいよな。
それにしてもこのA子さん。悪い人でもなさそうだし、大事なことを教えてくれそうだから、ついて行ってもいいかな?知らない人にはついて行かないのは常識だが、俺もそこそこ高いステータスはあると思うから、万が一襲われても大丈夫だろ。
ということで付いていくことにしました。
「ん。じゃ、こっち来て」
「らじゃ」
初対面なのに随分とナチュラルに会話してるな俺たち。やっぱりA子さんの態度がこんなだからつられてる感はある。
ヨロヨロと歩くA子さんは傍から見ればただの不審者。今更ながら後悔の念が押し寄せる。
ふと振り返ると、距離にして5メートルほど先にまで迫った失礼な男がこちらを睨みつけていた。
もはや反撃する気も起きなかったので、とりあえずできる限り気味の悪い笑みを作って相手に送った。
男はたじろいだ。やったね。
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