十二世界の創造主〜トゥウェルヴス〜
九話 衝撃のヒナタ
バッ、ザシュッ、サッ。
バッ、ザシュッ、サッ。
バッ、ザシュッ、グハァッ、スッ。
「地味に被弾してるじゃないですか。“ケアー”」
「今の被弾はダメージほぼゼロだからセーフな。よってその青魔法はオーバーケアーだ。無駄な魔力を消費するんじゃない。」
「人が厚意で回復してあげたのにその言い草ですか!」
俺は今、剣術訓練を兼ねて牙ブタの討伐依頼を受けている。牙ブタはその名の通り、長い牙を生やしたブタだ。決してイノシシではない。ちなみになぜ牙ブタという名前なのかはわからない。
そんな牙ブタだが、豚のような外見をしているくせに所詮は魔物といったところか、倒すと粒子となって消えてしまうので食べることはできない。
残念だ。
そんなこんなで、バッ、(距離を詰めて)
ザシュッ、(斬りつけて)サッ、(バックステップで回避行動)を三回ほど繰り返し、3体の牙ブタを全て一撃で倒したところなのだが、イマイチ手応えがないため、絶賛萎え中だ。
何せ、一撃で倒せてしまうものだから、剣術訓練と言っても、素振りでできるような事しか鍛えられない。
相手の動きが遅すぎて回避もクソもないし、防御力も紙。緊張感すらないこの戦闘で、果たしてどれ程の成長が期待できようか。
しかし、ヒナタの意見はまるっきり正反対だった。
「ソラノ君の成長が早すぎて、この魔物が弱く感じているだけですよ。駆け出しEXだと牙ブタを一撃で片手間に倒すなんて出来ませんし。しかも、動きが遅いって言ってますけど、割と機敏に動く事でも有名な牙ブタさんだったりします。」
ということらしい。
正直なところ、俺自身それほど成長しているといった実感がまるで無い。
確かに、ステータスは上がっているのだが、他のEXがどれ程の数値なのかがよく分からない。
自分のビディオンはEXにとって最大の機密情報だ。たとえ夫婦関係であってもお互いのビディオンの内容を知らないなんて、ザラだ。
結論、自分のステータスみても何の参考にもならない。誰とも比較ができないからな。
試しに、EX協会にいた他の女性EXに、ステータスを教えてもらおうとしたことがあったが、顔を真っ赤にして怒られた。多分、ステータスを見られることイコール裸を見られる事と同じようなものなのだろう。
あ、でもあの時、ステータスを教えてくださいじゃなくて、スリーサイズを教えてくださいって言い間違えたような気もするが、まぁ、気のせいだろう。
とまぁ、こんな感じでもう見るのも億劫なので、見てないです、はい。
ということになる訳だ。
ヒナタは俺の成長が早いから牙ブタが弱く感じているだけだと言うが、どこまで行ってもこの魔物は駆け出しEXの訓練用という立場にすぎない。
牙ブタをワンパンしたからといって別に誇るようなレベルではないのだ。所詮は駆け出し御用達の訓練用案山子がちょっと動けるようになった程度でしかないのだ。
案山子を倒して、どれ程誇れるというのか。
「はぁ、あと一匹ですよ。早く倒しましょう。私ちょっと寝不足なんです。」
お前の寝不足なんざ知るか、と言ってやりたかったが、牙ブタ討伐が面倒になってきた俺は、ヒナタに対して溜まっていた不満をぶつけることにした。
内容はもう決まっている。“アレ”だ。
「お前の寝不足なんざ知るか、と言いたいところだが、昨日夜中にこっそり部屋を出てゴソゴソしてたろ?扉が閉まる音が聞こえたから俺は知ってるんだ。そりゃあ眠くもなるよな。」
軽い冗談で不満を指摘するつもりで言ったつもりだったんだが、このセリフが謎に効果を発揮した。
「なっ!?何でそれを...っじゃなくて!夜中にゴソゴソなんてしてないです!そんな如何わしいことソラノ君がいる時にする訳ないじゃないですか。」
・・・・・・えっ
「誰も如何わしいことなんて言ってねぇよ。ていうか俺がいない時してるのかよ。ほんとにしてると思わなかったぞマジで。びっくりだわ。今度家を出たフリしてこっそり覗いてもいいですか」
ボフンッと音を立てて爆発しそうなほどヒナタの顔が真っ赤に染まる。
「~~~っっ!!?は、ハメましたね!内緒にしてたのに!女の子のこんな秘密を知られるなんて!」
「墓穴を掘ったのはおまえだろ?俺はちょいと冗談で言ってみただけだ。ていうか覗いてもいいですか。」
「冗談で済むことと済まないことがあるんですー!ていうかさっきから覗いてもいいですかって何ですか!ダメに決まってますよ!」
「お前なぁそれこそ冗談に決まってるだろ?男女が一つ屋根の下で暮らしているのにこれまでそういったイベントがただの1度でもあったか?いや、無かったよな。無かったはずだ。それはひとえに俺の鋼のメンタルがいかんなく実力を発揮していた何よりの証拠だ。そんな鋼のメンタルに選ばれし俺が覗きなんてするわけが無いだろ?」
「長々と語るあたり怪しいです。」
馬鹿なッ!俺の鋼のメンタル(チキンとも言う)が疑われているなんて!
それはそうとして、なんと、これまでただの茹でダコに過ぎなかったヒナタがその朱色を抑えて口元に不敵な笑みを浮かべた。
そこに違和感を覚えた俺は当然のように問いかける。
「なんだ?急に笑い出して。恥ずかしさのあまりついに頭までイカれたか?」
「最近ちょっとあたり強くないですか!・・・まぁいいでしょう。」
そう言って改めて俺の方を向く。そして、人差し指を勢いよく突き出した言い放った。
「私も知ってるんです。ソラノ君が昨日トイレで怪しい動きをしているのを!」
「あー、昨日はたしかに夜中にトイレに行ったな。」
「そうでしょう!やはりソラノ君も男の子ですなんですねぇ。ふふふ。えぇ、いいんですよ別に。しょうがないですよね、生理現象なのでね。」
おま、息子の部屋からエロ本見つけた時の母親みたいな顔でそんなセリフ出すなよ。
最後の“なのでね”の言い方とか結構イラッときた。
しかし俺にはアリバイがある。反論など容易い。
「何言ってんだ?確かに夜中にトイレに行ったが、ただ単にトイレを掃除してただけだぞ?今日の朝、トイレが綺麗になっていた事に気づかなかったか?」
・・・・・・
思い当たる節があるのだろうか?
きっとトイレのゴミ箱の中に入っているものを思い出したのだろう。そしてその中身は一体誰が生み出したゴミなのかも。
ヒナタは目の端に涙を浮かべて肩を震わせている。・・・おい、そんなに恨めしそうにこっちを見るな。
「大体な、誰かさんのせいでトイレのゴミ箱がいつもいっぱいなんだ。いや、何が入ってるとは言わないけどな?定期的に掃除している俺としては複雑なきもち・・・あ」
・・・・・・・
やってしまったかもしれない。
遂にこちらに向けていた目線を下に下げて俯いた。
あれ、何か、顔から水滴が落ちてる気が・・・そ、そろそろ潮時かな。
「・・・しぃです」
「ん?」
「おかしいです・・・」
「んん?」
「おかしいです!!!」
「おぉっ!?」
依然涙を浮かべ、顔を朱色に染めながらも確かな迫力を伴って一言。
「何でソラノ君は!思春期の男の子なのに!何も無いんですか!」
・・・・・・
・・・・・・
「・・・そうか、そうだな。疑問に思うのも無理はない、か。」
俺は極めて爽やかな笑顔を作って言ってやった。
「二つほど、訂正したいことがある。」
ゴクリ、と、誰かが息を飲んだ。
「まず一つ。思春期と言えば青春、お前のその行為もきっと青春時代の様々な経験が引き起こしているのだろうな。・・・だがしかし、俺に青春などなかった!彼と彼女の甘酸っぱい恋?ひょんなことからラブコメが始まる!?バカな!そんなものクソくらえだ!よって俺は思春期の男の子などでは断じてない!」
ッッッッッッ!!!??
場に衝撃が走った。
「そして二つ目だ。俺は生まれてこの方、自慰行為に手を染めたことは一度もない!中学生になり、周りの友達が何かやり始めたようだ。なに?ナニだと?笑止!自分のナニを自分で¥$€€*=:°・(中略)そんな気持ちの悪いことできるか!!!」
「そ、そんな・・・」
「残念だったな。俺はそういった意味では一般人と一味も二味も、いや、四味くらい違うのだよ!ちなみちおかしいのは俺であるということはとっくに自覚しております!」
「くっ、ぅぅううう!!」
悔しそうに歯噛みするヒナタだが、冷静に考えてこの会話のくだらなさ加減は相当なレベルだ。そして俺のカミングアウトもとてもじゃないが女の子に対して放つ言葉ではない、よって社会的にアウトなレベルだ。
しかし、状況は予定していたほど悪化せず、この謎の雰囲気が現在進行中らしい。
「・・・私の負けです。煮るなり焼くなり好きにしてください。」
いつ始まったのか分からない勝負に対して負けを認めたヒナタ。
もう時の流れに身をまかせるしか無いのだろうか。
「あぁ、俺の勝ちみたいだな。」
何すました顔で言ってんだ、俺よ。
やばいな、すごくバカバカしくなってきた。なんだこの茶番。ちょっとトイレ行ってきてもいいですか!
「ただ、ソラノ君には一言言いたいです。」
「何だ?何でも言えよ。聞くだけ聞いてやる。」
「その歳でまだ一度もしたこともないなんて、流石に異常ですよ。」
それな。
でも自覚ありすぎるから一周回って大してショックを受けてない自分がいる。
「牙ブタ、最後の一体を早く倒しましょう。元々この話をしてたはずです。」
そーいえばそうだったな。いつからだ?いつから話題が下の方に走った?まぁいいか。
「そうだな。早く倒そう。それと、明日からはもう少し強い魔物を倒しに行こうぜ。牙ブタ、弱すぎ説あるから。」
「そうですね。上級はまだ無理としても、下級の上位くらいはいけそうです。」
目は未だに腫れぼったいが、だいぶ元の調子に戻ってきた彼女。
もう心配はいらない。俺が犯した罪(泣くまで言葉責めしたこと)も綺麗さっぱり水に流れてハッピーエンドバンザイだ。
そんな彼女をみてついつい余計な一言を言ってしまったのがさすがは俺といったところか。
「まぁ、その、何だ。元気出せよ。ヒナタが結構な変態だって事はもう受け入れたからさ。次からは家に俺がいても心置き無くしてくれ。声は聞かないふりしとくから。」
「~~~~~~バカっ!わざわざぶり返すなぁぁ!!!」
パーゴの件依頼の絶叫に、牙ブタは恐れをなして逃げたとさ・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、ソラノ、ヒナタ宅の近所の公園にて。
3人の妙齢の主婦がプチ女子会を開いていた。
「そういえば、お隣のヒナタちゃん、最近あまり見てないわ」
「あっ、ヒナタちゃんと言えば、最近家に男を住ませてるらしいじゃない。」
「あたし、見たわよ。一人のパッとしない男が出入りしてるのを。」
「ほーんとに?それはビッグニュースじゃないの。」
「そういえば、あの男が住み始めたくらいからヒナタちゃんが少し明るくなったというか、家の外まで声が聞こえる時があるわよ」
「あらまぁ、ヒナタちゃん、親が家にいなくて少し寂しがってた所あったからねぇ。良かった良かった。」
「そう考えると、あの男、捨てたものじゃないわね。」
「「ほんとよねぇ」」
「ところで、これはまだ誰にも話したことなかったんだけどね、実は、夜中に犬の散歩をしてたら聞こえちゃったの!」
「聞こえちゃったって、何が?明るい声なら私も聞いたことあるわよ。」
「違うの、明るい声じゃなくて、黄色い声、ピンクな声よぉ。うふふ。」
「きゃーーー!お盛んねぇ」
「若いっていいわね。」
「そうね、ヒナタちゃんはすごくいい子だし、きっとあの男もいい人に違いないわ。」
「そうね、それが理想よね。」
「「ねー。」」
燦然と輝く太陽の下で、トークに花を咲かせる女性達。
悪意はないのだろうが、あらぬ誤解が発生し、広まりそうな予感だ。
この女子会をキッカケに、一騒動あるとかないとか・・・
しかしそれはまた別のお話し。
バッ、ザシュッ、サッ。
バッ、ザシュッ、グハァッ、スッ。
「地味に被弾してるじゃないですか。“ケアー”」
「今の被弾はダメージほぼゼロだからセーフな。よってその青魔法はオーバーケアーだ。無駄な魔力を消費するんじゃない。」
「人が厚意で回復してあげたのにその言い草ですか!」
俺は今、剣術訓練を兼ねて牙ブタの討伐依頼を受けている。牙ブタはその名の通り、長い牙を生やしたブタだ。決してイノシシではない。ちなみになぜ牙ブタという名前なのかはわからない。
そんな牙ブタだが、豚のような外見をしているくせに所詮は魔物といったところか、倒すと粒子となって消えてしまうので食べることはできない。
残念だ。
そんなこんなで、バッ、(距離を詰めて)
ザシュッ、(斬りつけて)サッ、(バックステップで回避行動)を三回ほど繰り返し、3体の牙ブタを全て一撃で倒したところなのだが、イマイチ手応えがないため、絶賛萎え中だ。
何せ、一撃で倒せてしまうものだから、剣術訓練と言っても、素振りでできるような事しか鍛えられない。
相手の動きが遅すぎて回避もクソもないし、防御力も紙。緊張感すらないこの戦闘で、果たしてどれ程の成長が期待できようか。
しかし、ヒナタの意見はまるっきり正反対だった。
「ソラノ君の成長が早すぎて、この魔物が弱く感じているだけですよ。駆け出しEXだと牙ブタを一撃で片手間に倒すなんて出来ませんし。しかも、動きが遅いって言ってますけど、割と機敏に動く事でも有名な牙ブタさんだったりします。」
ということらしい。
正直なところ、俺自身それほど成長しているといった実感がまるで無い。
確かに、ステータスは上がっているのだが、他のEXがどれ程の数値なのかがよく分からない。
自分のビディオンはEXにとって最大の機密情報だ。たとえ夫婦関係であってもお互いのビディオンの内容を知らないなんて、ザラだ。
結論、自分のステータスみても何の参考にもならない。誰とも比較ができないからな。
試しに、EX協会にいた他の女性EXに、ステータスを教えてもらおうとしたことがあったが、顔を真っ赤にして怒られた。多分、ステータスを見られることイコール裸を見られる事と同じようなものなのだろう。
あ、でもあの時、ステータスを教えてくださいじゃなくて、スリーサイズを教えてくださいって言い間違えたような気もするが、まぁ、気のせいだろう。
とまぁ、こんな感じでもう見るのも億劫なので、見てないです、はい。
ということになる訳だ。
ヒナタは俺の成長が早いから牙ブタが弱く感じているだけだと言うが、どこまで行ってもこの魔物は駆け出しEXの訓練用という立場にすぎない。
牙ブタをワンパンしたからといって別に誇るようなレベルではないのだ。所詮は駆け出し御用達の訓練用案山子がちょっと動けるようになった程度でしかないのだ。
案山子を倒して、どれ程誇れるというのか。
「はぁ、あと一匹ですよ。早く倒しましょう。私ちょっと寝不足なんです。」
お前の寝不足なんざ知るか、と言ってやりたかったが、牙ブタ討伐が面倒になってきた俺は、ヒナタに対して溜まっていた不満をぶつけることにした。
内容はもう決まっている。“アレ”だ。
「お前の寝不足なんざ知るか、と言いたいところだが、昨日夜中にこっそり部屋を出てゴソゴソしてたろ?扉が閉まる音が聞こえたから俺は知ってるんだ。そりゃあ眠くもなるよな。」
軽い冗談で不満を指摘するつもりで言ったつもりだったんだが、このセリフが謎に効果を発揮した。
「なっ!?何でそれを...っじゃなくて!夜中にゴソゴソなんてしてないです!そんな如何わしいことソラノ君がいる時にする訳ないじゃないですか。」
・・・・・・えっ
「誰も如何わしいことなんて言ってねぇよ。ていうか俺がいない時してるのかよ。ほんとにしてると思わなかったぞマジで。びっくりだわ。今度家を出たフリしてこっそり覗いてもいいですか」
ボフンッと音を立てて爆発しそうなほどヒナタの顔が真っ赤に染まる。
「~~~っっ!!?は、ハメましたね!内緒にしてたのに!女の子のこんな秘密を知られるなんて!」
「墓穴を掘ったのはおまえだろ?俺はちょいと冗談で言ってみただけだ。ていうか覗いてもいいですか。」
「冗談で済むことと済まないことがあるんですー!ていうかさっきから覗いてもいいですかって何ですか!ダメに決まってますよ!」
「お前なぁそれこそ冗談に決まってるだろ?男女が一つ屋根の下で暮らしているのにこれまでそういったイベントがただの1度でもあったか?いや、無かったよな。無かったはずだ。それはひとえに俺の鋼のメンタルがいかんなく実力を発揮していた何よりの証拠だ。そんな鋼のメンタルに選ばれし俺が覗きなんてするわけが無いだろ?」
「長々と語るあたり怪しいです。」
馬鹿なッ!俺の鋼のメンタル(チキンとも言う)が疑われているなんて!
それはそうとして、なんと、これまでただの茹でダコに過ぎなかったヒナタがその朱色を抑えて口元に不敵な笑みを浮かべた。
そこに違和感を覚えた俺は当然のように問いかける。
「なんだ?急に笑い出して。恥ずかしさのあまりついに頭までイカれたか?」
「最近ちょっとあたり強くないですか!・・・まぁいいでしょう。」
そう言って改めて俺の方を向く。そして、人差し指を勢いよく突き出した言い放った。
「私も知ってるんです。ソラノ君が昨日トイレで怪しい動きをしているのを!」
「あー、昨日はたしかに夜中にトイレに行ったな。」
「そうでしょう!やはりソラノ君も男の子ですなんですねぇ。ふふふ。えぇ、いいんですよ別に。しょうがないですよね、生理現象なのでね。」
おま、息子の部屋からエロ本見つけた時の母親みたいな顔でそんなセリフ出すなよ。
最後の“なのでね”の言い方とか結構イラッときた。
しかし俺にはアリバイがある。反論など容易い。
「何言ってんだ?確かに夜中にトイレに行ったが、ただ単にトイレを掃除してただけだぞ?今日の朝、トイレが綺麗になっていた事に気づかなかったか?」
・・・・・・
思い当たる節があるのだろうか?
きっとトイレのゴミ箱の中に入っているものを思い出したのだろう。そしてその中身は一体誰が生み出したゴミなのかも。
ヒナタは目の端に涙を浮かべて肩を震わせている。・・・おい、そんなに恨めしそうにこっちを見るな。
「大体な、誰かさんのせいでトイレのゴミ箱がいつもいっぱいなんだ。いや、何が入ってるとは言わないけどな?定期的に掃除している俺としては複雑なきもち・・・あ」
・・・・・・・
やってしまったかもしれない。
遂にこちらに向けていた目線を下に下げて俯いた。
あれ、何か、顔から水滴が落ちてる気が・・・そ、そろそろ潮時かな。
「・・・しぃです」
「ん?」
「おかしいです・・・」
「んん?」
「おかしいです!!!」
「おぉっ!?」
依然涙を浮かべ、顔を朱色に染めながらも確かな迫力を伴って一言。
「何でソラノ君は!思春期の男の子なのに!何も無いんですか!」
・・・・・・
・・・・・・
「・・・そうか、そうだな。疑問に思うのも無理はない、か。」
俺は極めて爽やかな笑顔を作って言ってやった。
「二つほど、訂正したいことがある。」
ゴクリ、と、誰かが息を飲んだ。
「まず一つ。思春期と言えば青春、お前のその行為もきっと青春時代の様々な経験が引き起こしているのだろうな。・・・だがしかし、俺に青春などなかった!彼と彼女の甘酸っぱい恋?ひょんなことからラブコメが始まる!?バカな!そんなものクソくらえだ!よって俺は思春期の男の子などでは断じてない!」
ッッッッッッ!!!??
場に衝撃が走った。
「そして二つ目だ。俺は生まれてこの方、自慰行為に手を染めたことは一度もない!中学生になり、周りの友達が何かやり始めたようだ。なに?ナニだと?笑止!自分のナニを自分で¥$€€*=:°・(中略)そんな気持ちの悪いことできるか!!!」
「そ、そんな・・・」
「残念だったな。俺はそういった意味では一般人と一味も二味も、いや、四味くらい違うのだよ!ちなみちおかしいのは俺であるということはとっくに自覚しております!」
「くっ、ぅぅううう!!」
悔しそうに歯噛みするヒナタだが、冷静に考えてこの会話のくだらなさ加減は相当なレベルだ。そして俺のカミングアウトもとてもじゃないが女の子に対して放つ言葉ではない、よって社会的にアウトなレベルだ。
しかし、状況は予定していたほど悪化せず、この謎の雰囲気が現在進行中らしい。
「・・・私の負けです。煮るなり焼くなり好きにしてください。」
いつ始まったのか分からない勝負に対して負けを認めたヒナタ。
もう時の流れに身をまかせるしか無いのだろうか。
「あぁ、俺の勝ちみたいだな。」
何すました顔で言ってんだ、俺よ。
やばいな、すごくバカバカしくなってきた。なんだこの茶番。ちょっとトイレ行ってきてもいいですか!
「ただ、ソラノ君には一言言いたいです。」
「何だ?何でも言えよ。聞くだけ聞いてやる。」
「その歳でまだ一度もしたこともないなんて、流石に異常ですよ。」
それな。
でも自覚ありすぎるから一周回って大してショックを受けてない自分がいる。
「牙ブタ、最後の一体を早く倒しましょう。元々この話をしてたはずです。」
そーいえばそうだったな。いつからだ?いつから話題が下の方に走った?まぁいいか。
「そうだな。早く倒そう。それと、明日からはもう少し強い魔物を倒しに行こうぜ。牙ブタ、弱すぎ説あるから。」
「そうですね。上級はまだ無理としても、下級の上位くらいはいけそうです。」
目は未だに腫れぼったいが、だいぶ元の調子に戻ってきた彼女。
もう心配はいらない。俺が犯した罪(泣くまで言葉責めしたこと)も綺麗さっぱり水に流れてハッピーエンドバンザイだ。
そんな彼女をみてついつい余計な一言を言ってしまったのがさすがは俺といったところか。
「まぁ、その、何だ。元気出せよ。ヒナタが結構な変態だって事はもう受け入れたからさ。次からは家に俺がいても心置き無くしてくれ。声は聞かないふりしとくから。」
「~~~~~~バカっ!わざわざぶり返すなぁぁ!!!」
パーゴの件依頼の絶叫に、牙ブタは恐れをなして逃げたとさ・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、ソラノ、ヒナタ宅の近所の公園にて。
3人の妙齢の主婦がプチ女子会を開いていた。
「そういえば、お隣のヒナタちゃん、最近あまり見てないわ」
「あっ、ヒナタちゃんと言えば、最近家に男を住ませてるらしいじゃない。」
「あたし、見たわよ。一人のパッとしない男が出入りしてるのを。」
「ほーんとに?それはビッグニュースじゃないの。」
「そういえば、あの男が住み始めたくらいからヒナタちゃんが少し明るくなったというか、家の外まで声が聞こえる時があるわよ」
「あらまぁ、ヒナタちゃん、親が家にいなくて少し寂しがってた所あったからねぇ。良かった良かった。」
「そう考えると、あの男、捨てたものじゃないわね。」
「「ほんとよねぇ」」
「ところで、これはまだ誰にも話したことなかったんだけどね、実は、夜中に犬の散歩をしてたら聞こえちゃったの!」
「聞こえちゃったって、何が?明るい声なら私も聞いたことあるわよ。」
「違うの、明るい声じゃなくて、黄色い声、ピンクな声よぉ。うふふ。」
「きゃーーー!お盛んねぇ」
「若いっていいわね。」
「そうね、ヒナタちゃんはすごくいい子だし、きっとあの男もいい人に違いないわ。」
「そうね、それが理想よね。」
「「ねー。」」
燦然と輝く太陽の下で、トークに花を咲かせる女性達。
悪意はないのだろうが、あらぬ誤解が発生し、広まりそうな予感だ。
この女子会をキッカケに、一騒動あるとかないとか・・・
しかしそれはまた別のお話し。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1
-
-
157
-
-
0
-
-
549
-
-
140
-
-
3395
-
-
353
-
-
55
-
-
111
コメント
たろゆ
コメントありがとうございます!
何とか更新って感じですが(汗)リアルはもちろん頑張りますが、こちらも少しずつ少しずつ更新して行ければ、と。主人公(の設定)は今後も暴れていくかも知れません。
瑞樹の相棒ヤゾラっち
僕は更新されてることに衝撃だわ。
主人公一度もしたことないとは驚きですな。
次回も楽しみです頑張って下さい(主にリアル)