「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第五章 第百八十一話 希望

 膨大なエネルギーを得ることができる代わりに使えば使った分だけ寿命が短くなるという仕組みの生命エネルギー。生きていればいずれ死ぬように、このエネルギーも有限のものだと思っていたが、なんと、それを増やす方法があるらしい。

「増やす、回復する、と言っても魔力みたいに休めば回復するなんてことはないからな。基本的には生きているだけでも減っていく。休んでもその時間の分だけ消費されてしまうってことだ。じゃあ、どこからエネルギーを持ってくるのか。それは外部からしかないだろう」

 自分の中にあるエネルギーは何もしなくても消費される。ならば、回復のためには外から持ってくるしか方法はない。なるほど、確かにその通りだ。だが、それの意味するところが何なのか、分からないヴォルムではなかった。

「他の生物から何らかの形で生命エネルギーを得る。これが生命エネルギーを増やすたった一つの方法だ」

 つまり、他人の命をもらい受けるということ。正確にはエネルギーのやり取りをしているだけだからその場で急に相手が死ぬなんてことはないのだろうが、確実に死は近づく。それを理解したうえでエネルギーを誰かからもらおうというのはあまり気分の良いものではなかった。
 そんなことを考えていると、表情が曇ったのに気づいたロンが慌てたように補足を始めた。

「いや、たった一つってのはちょっと語弊があるかもしれないな。これは外から持ってくるしかないって意味だ。具体的にどこから持ってくるかは割と相手を選ばなくても良いし、なにも強奪するわけじゃないんだ。その辺りもちゃんと説明するから」

 相手を選ばない。それは人間以外からでも問題ないということだろうか。それならば、食糧として殺される動物から先にエネルギーを取り出してしまえば食事と変わらない感覚でできそうだ。

「まず、生命エネルギーのやり取りができる相手は、生命エネルギーを持った生物全てだ。これは、そこらに生えてる草も木も、普段食べてる動物も含まれる。もちろん、人間でも良い。その上で、やり取りをする時の方法がいくつかある。まず、同意の上で譲ってもらうパターンだ。これは交渉の末のやり取りだ。金で買ったり、とにかくお互いに生命エネルギーのやり取りをすることに納得している状態だな。それから奪うという方法もある。意思の疎通ができない生物相手だと強制的に奪うことになってしまうが、人間相手でも有効だ。俺が今までに会ったことある奴には人通りの多いところで大人数から少しずつ吸収していたとか、悪人からだけ奪うとか、極力一般人の迷惑にならないように配慮してる奴もいたな。戦場に身を置く人間はとどめを刺す代わりにエネルギーを吸い尽くすなんてこともあるみたいだから全てが平和ってわけじゃないが、良心的な人間は結構気にしながらやってるし、そもそも増やそうとしてないってことも多い。……もちろん、誰彼構わず奪い取るようなのもいるけどな」

 ロンの話をそのまま何も考えずに飲み込むと、良心的な人間もいるものだな、くらいの感想で終わってしまいそうだが、ヴォルムはここであることに気付いた。それは、良心的なだけであって生命エネルギーを得ようとしていることには変わりないということだ。
 実際にそうしている人がいるように、本当に他所からエネルギーを持ってくるのに抵抗があるのなら、回復しようなんてせずにただ命の消費を受け入れれば良い。だが、そんな人間は稀だろう。ほとんどが命を求めてか、あるいは便利な力を使い続けるためか、とにかく欲望に従って他所からエネルギーを持ってきている。少しでも罪悪感を減らしたいのかもしれないが、そんなのは自己満足だ。根本的には好き勝手奪っているような奴らと変わらない。
 とはいえ、実際にエネルギーの恩恵を受けた身としてはそうなってしまうことに特に疑問はなかった。自分だってあの力が好きなだけ使えるのならそれに越したことはないと思う。強力な能力を授かっていればエネルギーを雑に奪って敵を作っても撃退できるだろうし、むしろ気になるのはその回復量の方。どれだけのエネルギーを奪えば不自由なく暮らすことができるのだろうか。

「……それで、そのチマチマしたエネルギーを集めてどれくらい回復できるんだ? 延命程度の効果しかないなら、俺には関係ない話だと思うんだが」
「具体的な数値についてはやっぱり分からないんだけどね、チマチマしたエネルギーではそこまでの効果はないよ。無闇に力を使わなければ人並みに生きられる、くらいのものだ。自由に能力を使おうと思ったら、定期的に人間一人を殺すくらいのペースじゃないと間に合わない。正義の心を持って悪人と戦い、徹底的に悪人からだけ巻き上げるとか、命の価値が軽い戦場に身を置いて暴れまわるとか、色々と方法は考えられるけど、二人とも長くはもたなかったね……」

 長いこと猛威を振るっていたのなら、何かしら話を聞いたことがあるかもしれない。しかし、そういった話を聞いたことがないのは、ロンの言う通りに長くは続かなかったからなのだろう。それが肥大化しすぎた力に溺れたからなのか、そもそも実力が足りていなかったのかは分からない。ただ、いくら生命エネルギーが大きな力とはいえ、無限に強くなれるわけではないということは確実だった。

「それと、百年前がどうとか言っちゃったから気付いてるかもしれないけど、生命エネルギーを増やすということはそのまま死を先延ばしにするということでもある。病気や怪我に影響されることはあるけれど、基本的にはこのエネルギーがある限りは生きていられる。理屈の上では半永久的に生きられるって言われてるよ」

 永久の命。戦場で、志半ばで死んでいった人を何人も見てきたヴォルムには、これがどれほど価値のあるものなのか、なんとなくではあったが理解できた。

「凄いよね。でも、ヴォルムにはエネルギーを奪う方法が分からないんじゃないかな。こんな希望を見出すような話をした後で悪いんだけどさ」

 言われて、全てを理解した。エネルギーのやり取りをするには少なくとも自分がエネルギーを認識している必要がある。しかし、今のヴォルムには生命エネルギーを認識するだけの力がない。となると、今までの話は全て無駄だったことになる。
 どうしようもなく湧いてきた怒りをどうすれば良いのか。堪えた末に目の前の男に吐き出しそうになったその時、

「だから、俺のエネルギーを譲渡しようと思うんだ。ため込んだ分、全て」

 全くもって予想外の提案がなされた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品