「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第五章 第百七十九話 能力
ロンの説明が思っていたよりも時間のかかるものになりそうだと気付いたところで、それをどうこうする手段をヴォルムは持ち合わせていなかった。正確には、持っていてもそれを行使することができない状態だった。というのも、表面上ではロンのことを信じているように振舞っているが、実際はまだ怪しいと思っているし機嫌を損ねたら圧倒的な力で叩き潰されると思っているのだ。ヴォルムの身に着けたスキルの中には軍に所属していた時に上官の話が長いのをどうにか短くできないかと画策した経験から得られたものもあり、それを使って思惑通りにロンが動いてくれればそれでも良いのだが、上手くいかず、かつ機嫌を損ねるリスクがあると思うと簡単に使うことはできなかった。
「で、だ。ここからが大事なんだが、仕舞い込まれていた莫大なエネルギーが表に出てきた時、何らかの能力を得るんだ。これについてはまだ何がどう作用しているのかは調べられてないみたいで詳しい説明はできない。それはスマン。ただ、能力を得るってのは大事だからちゃんと聞いといてくれ。例えば俺は空を飛ぶことができる。もちろん、エネルギーの消費はあるが、これは魔術にはできないことだ。他にも重力を操作したり、身体を鋼に変えたり、妙な能力を授かったと聞いている」
その話を聞いて、ヴォルムは疑問に思った。自分の得た能力は何だろう、と。生命エネルギーを使って戦っていた時は必死になっていて細かいところまで覚えていないのだが、少なくともヴォルムには話に聞くような妙な能力が使えたという記憶はなかった。単純に莫大なエネルギーを手に入れ、それによる身体強化と身体の回復、それから魔術の真似事をしていただけだ。
「なぁ、その能力ってのは他にはどんなのがあるんだ? 無能力ってことはないのか?」
それらしい能力を使えていないのはまだ自分が生命エネルギーを制御できていないからなのか、それとも、能力を得られない場合もあって自分がそれなのか、不安になって口をはさんだ。
「まぁ、焦るなって。ちゃんと説明するから。今のところ、無能力だったというのは聞いたことがない。ただ、あまり強くはない能力もあったのは事実だ。水を出すだけとか、発熱するとか、本当にそれで窮地を脱して生き抜くことができるのかと疑いたくなる感じのやつな。ただ、人から聞いた話だからそもそもまるっと信用できる情報じゃないってのと、意図的に能力を隠してるやつもいたからな、結局、何が本当なのかは分からん。適当なことを言っている無能力者がいたかもしれないし、俺も今までに確認されたすべての能力を知っているわけじゃないからな、もしかしたら無能力ってケースがあったかもしれない」
水を出すだけ、熱を発するだけ。確かに、それを聞くと戦闘には役立ちそうにないが、日常生活の中ではいくらか使い道がある。話を聞けているということはその能力なしでも窮地を脱せたということであり、つまりはその後の日常を見据えて能力を得たという考え方もできる。今ではしっかりと敵討ちという目標を定めたが、生命エネルギーを使ったあの時は未来のことなど何も考えていなかった。エネルギーがあれば自力で切り抜けられると判断して能力を得たのなら、自分も戦闘に有用なものは期待しない方が良いのかもしれない。
今後のことを思うとパワーアップするのは何であろうと嬉しい。例え能力が弱かったとしても、そこでガッカリせずに喜んでやろう。生命エネルギーが使いこなせるようになったら、それだけで強力な武器となるのだから。
「色々と言ったが、能力に関しては分からんことが多いってことだ。色々と考察を巡らせている奴もいるみたいだが、いかんせん客観的な実験データがとりづらいからな……」
「例えばどんな考察があるんだ?」
これは希望だが、能力を強化できるような検証が行われているのなら、弱いと思われた能力も戦闘に活かせるかもしれない。ヴォルムは少しでも強くなれる可能性を探って聞いた。
「うーん、そうだなぁ……能力は行使するのにエネルギーを使うだろ? だから、魔術か、あるいは何か他の方法で再現できるんじゃないかって考察があってな、確かにエネルギーを消費して結果を得るのは魔術と一緒だ。すべての能力でそうなんだから再現可能って考えも分かる。実際、魔術とそう変わらん能力もあるわけだしな。ただ、魔術も簡単なものじゃないだろ? なんやかんや理屈があって、難解な言葉で詠唱しなきゃならない。その詠唱によって魔力を現象に変化させてるのだとしたら、能力を再現するための詠唱が必要になる。まぁ、これを生み出すってのが無理な話で、だから俺の見たいな再現不能な能力は強いって言われてるんだ」
なかなか理にかなった考察のように聞こえるが、先程も言っていたように、実証することができないとそれを事実だとは言い難い。ただ、この考察がもし当たっているとしたら、魔術のように強弱がつけられることになる。それはつまり弱いと思われていた能力が化ける可能性があるということだ。空を飛ぶのは速度が変わる程度かもしれないが、重力を操る能力に関しては強化されれば相当な範囲を殲滅できる強力な武器となるかもしれない。こういった強化の振れ幅もあるだろうし、是非ともその考察をした人には検証を頑張ってほしいところである。
「そんな本当かどうかも分からん話よりさ、次の話題に移ろうぜ。ちゃんと何話すかまで決めてるからさ」
確かに、ここで考察の考察を始めても何も進展しない。しかし、次の話題に移るにはまだ少し早い。
「その前に聞きたいことが一つあるんだが良いか?」
「おぉ! もちろんだ! 何でも聞いてくれ」
急に嬉しそうな表情になったロンには触らず、質問だけを端的に伝える。
「その能力ってのはどうやって発動してるんだ? こう、発動するぞって思ったら発動するのか?」
ヴォルムは能力を使ったことがない。そんな彼からしたら至極当然の質問であったが、ロンはその問いに驚き数秒間、固まった。
「え、どうやって……? って、言われても、なんだろう、よく分からんけどできる確信があるんだよなぁ。その先は息をするように?」
その回答を聞いて、ヴォルムは特大の不安が押し寄せてくるのを感じた。
「で、だ。ここからが大事なんだが、仕舞い込まれていた莫大なエネルギーが表に出てきた時、何らかの能力を得るんだ。これについてはまだ何がどう作用しているのかは調べられてないみたいで詳しい説明はできない。それはスマン。ただ、能力を得るってのは大事だからちゃんと聞いといてくれ。例えば俺は空を飛ぶことができる。もちろん、エネルギーの消費はあるが、これは魔術にはできないことだ。他にも重力を操作したり、身体を鋼に変えたり、妙な能力を授かったと聞いている」
その話を聞いて、ヴォルムは疑問に思った。自分の得た能力は何だろう、と。生命エネルギーを使って戦っていた時は必死になっていて細かいところまで覚えていないのだが、少なくともヴォルムには話に聞くような妙な能力が使えたという記憶はなかった。単純に莫大なエネルギーを手に入れ、それによる身体強化と身体の回復、それから魔術の真似事をしていただけだ。
「なぁ、その能力ってのは他にはどんなのがあるんだ? 無能力ってことはないのか?」
それらしい能力を使えていないのはまだ自分が生命エネルギーを制御できていないからなのか、それとも、能力を得られない場合もあって自分がそれなのか、不安になって口をはさんだ。
「まぁ、焦るなって。ちゃんと説明するから。今のところ、無能力だったというのは聞いたことがない。ただ、あまり強くはない能力もあったのは事実だ。水を出すだけとか、発熱するとか、本当にそれで窮地を脱して生き抜くことができるのかと疑いたくなる感じのやつな。ただ、人から聞いた話だからそもそもまるっと信用できる情報じゃないってのと、意図的に能力を隠してるやつもいたからな、結局、何が本当なのかは分からん。適当なことを言っている無能力者がいたかもしれないし、俺も今までに確認されたすべての能力を知っているわけじゃないからな、もしかしたら無能力ってケースがあったかもしれない」
水を出すだけ、熱を発するだけ。確かに、それを聞くと戦闘には役立ちそうにないが、日常生活の中ではいくらか使い道がある。話を聞けているということはその能力なしでも窮地を脱せたということであり、つまりはその後の日常を見据えて能力を得たという考え方もできる。今ではしっかりと敵討ちという目標を定めたが、生命エネルギーを使ったあの時は未来のことなど何も考えていなかった。エネルギーがあれば自力で切り抜けられると判断して能力を得たのなら、自分も戦闘に有用なものは期待しない方が良いのかもしれない。
今後のことを思うとパワーアップするのは何であろうと嬉しい。例え能力が弱かったとしても、そこでガッカリせずに喜んでやろう。生命エネルギーが使いこなせるようになったら、それだけで強力な武器となるのだから。
「色々と言ったが、能力に関しては分からんことが多いってことだ。色々と考察を巡らせている奴もいるみたいだが、いかんせん客観的な実験データがとりづらいからな……」
「例えばどんな考察があるんだ?」
これは希望だが、能力を強化できるような検証が行われているのなら、弱いと思われた能力も戦闘に活かせるかもしれない。ヴォルムは少しでも強くなれる可能性を探って聞いた。
「うーん、そうだなぁ……能力は行使するのにエネルギーを使うだろ? だから、魔術か、あるいは何か他の方法で再現できるんじゃないかって考察があってな、確かにエネルギーを消費して結果を得るのは魔術と一緒だ。すべての能力でそうなんだから再現可能って考えも分かる。実際、魔術とそう変わらん能力もあるわけだしな。ただ、魔術も簡単なものじゃないだろ? なんやかんや理屈があって、難解な言葉で詠唱しなきゃならない。その詠唱によって魔力を現象に変化させてるのだとしたら、能力を再現するための詠唱が必要になる。まぁ、これを生み出すってのが無理な話で、だから俺の見たいな再現不能な能力は強いって言われてるんだ」
なかなか理にかなった考察のように聞こえるが、先程も言っていたように、実証することができないとそれを事実だとは言い難い。ただ、この考察がもし当たっているとしたら、魔術のように強弱がつけられることになる。それはつまり弱いと思われていた能力が化ける可能性があるということだ。空を飛ぶのは速度が変わる程度かもしれないが、重力を操る能力に関しては強化されれば相当な範囲を殲滅できる強力な武器となるかもしれない。こういった強化の振れ幅もあるだろうし、是非ともその考察をした人には検証を頑張ってほしいところである。
「そんな本当かどうかも分からん話よりさ、次の話題に移ろうぜ。ちゃんと何話すかまで決めてるからさ」
確かに、ここで考察の考察を始めても何も進展しない。しかし、次の話題に移るにはまだ少し早い。
「その前に聞きたいことが一つあるんだが良いか?」
「おぉ! もちろんだ! 何でも聞いてくれ」
急に嬉しそうな表情になったロンには触らず、質問だけを端的に伝える。
「その能力ってのはどうやって発動してるんだ? こう、発動するぞって思ったら発動するのか?」
ヴォルムは能力を使ったことがない。そんな彼からしたら至極当然の質問であったが、ロンはその問いに驚き数秒間、固まった。
「え、どうやって……? って、言われても、なんだろう、よく分からんけどできる確信があるんだよなぁ。その先は息をするように?」
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