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「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第五章 第百七十一話 交渉

 特に魔物と遭遇することも追手の襲撃を受けることもなく、二人は森を抜けて目的地にたどり着くことができた。村なんだか町なんだか知らないままやって来たわけだが、そこはどう見ても村だった。村と町の正確な違いを知らなくても分かる。とても小さな規模の村だった。

「すみませーん」

 村には奇妙なほどに人気がなく、入り口と思わしき柵の切れ目にも門番らしき人は立っていなかった。見張り台くらいあっても良いのではないかと思ったが、見える範囲にそれらしきものもない。もしかすると廃村になってしまったような場所なのか。一抹の不安が脳裏をよぎった時、声が届いていたのか、一人の老人が奥からこちらに向かってくるのが見えた。

「良かった、人はいるみたいだ」

 勝手に柵の内側に入って怒られても困るので、その場で待つ。老人は立派なあごひげを揺らしながら、ゆっくりと歩いていた。

「こんなところに何の用かな?」

 入り口、と言って良いのかは定かではないが、とにかくある程度の空間を挟んだところで老人は立ち止まった。挨拶もそこそこにこちらに向けられた声や視線からは警戒の色を感じる。警戒を解くためにはちゃんと説明をする必要があるのだが、今のヴォルムたちには隠さなければならないことがたくさんある。流石に真実を語るわけにもいかず、嘘を交えてどうにか納得してもらえるような事情を説明するしかなかった。
 どこまで語ろうか、ヴォルムはまず無難なことを言って反応をうかがうつもりだった。しかし、ヴォルムが説明を始める前にリフィルが任せろと言わんばかりに一歩前に出て、老人と会話を始めた。

「国境を越えた先の町に教会があるのはご存じでしょうか。私はそこでシスターをしているリフィルです。この人はその前で倒れていたヴォルムさん。私が保護しました。いろいろあって戦争をしている国から逃げ出してきたのですが、急な出発だったもので手持ちの荷物もお金もなく、良ければ助けていただけないでしょうか」

 もっと丸々嘘をついてしまおうと思っていたヴォルムからすると真実にまみれた説明。これだと、もしこれ以上のことを追及された時に誤魔化すのが大変そうだし、ヴォルムが実は軍人であることや追われている可能性があることがバレると村に入れてもらえなくなってしまうかもしれない。森の中にある程度食料があるだろうからそれでどうにか他の村や町を見つけるまで凌ぐこともできなくはないが、できるだけ早く反撃に出られるように準備をしておきたい身としてはそうなるのは避けたかった。
 と、なるともう祈るしかない。最低限の情報でどうにか老人を説得して中に入れてもらうのだ。一体どう出る。リフィルの問いかけに応えないまましばらく黙っている老人の様子をうかがう。髭のせいでいまいち表情が読めないものの、あまり良い顔はしていないことが分かった。

「……嘘はついていないようじゃから、助けたいのはやまやまなんじゃが、見ての通りさびれた村じゃ。それに、今は人がほぼ外に出てしまっているからな、若者二人を満足にもてなすこともできんのじゃよ」

 ヴォルムたちが怪しいから拒否しているわけではない。申し訳なさそうに話すその姿から、助けられるものなら助けてあげたいという意思が伝わってきた。しかし、先ほど確認した通りに防衛設備もろくなものがなく、こうして話している間に他の人が出てくるような気配もない村に余裕なんてものはないのだろう。食料的にも人員的にも。

「それでしたら、私たちに何かお手伝いできることはないでしょうか。金銭を持ち合わせていない以上、もとより何かしらのお手伝いをさせていただこうとは思っていましたので」

 一瞬の間を置いて、老人はそれならばとヴォルムたちを村の中に招き入れた。なんだか言わされた感があって嫌ではあったが、寝床を貸してもらえるだけでも嬉しい現状を思うと手伝いの一つ二つで文句を言うことはできなかった。
 案内された家の中に入ると、そこは一つの部屋があるだけの倉庫みたいな家だった。こんな空間に男女を押し込むのは良くないのではないかと冷静になって思ったが、よく考えたら昨晩も似たようなことをしていたのだった。それに、リフィルに気にする様子がない。それならばこちらから言うことはないとヴォルムは無暗に言及しないように決めた。

「ところで、手伝うとは言いましたが、何をすれば良いのでしょうか」

 特に荷物などもないため、家の中を確認してすぐに老人に指示を仰ぐことにした。聞くとこの老人が村の村長らしく、現在村の中にいるのはその奥さんと一部の高齢の人たちのみだそうだ。そもそもの人口が少ない上に年齢も高めの割合が多いのに、若者が外に出ていていないらしい。出稼ぎにでも行っているのだろうか。

「いくつかやってほしいことがあっての、特に順番は問わんから、それをこなしてくれ。まずは薪割をしてもらおうかの。倉庫の裏に積んである丸太を割るんじゃぞ。できれば各家に配るところまでやっておいてくれると助かるのじゃ。それから食料確保じゃ。畑の野菜は使わせてやるから、肉を頼むのじゃ。森の中にいくらでも獲物はいるからの。あとは……柵の補強ができそうなら、それもお願いするのじゃ」

 村長が言うのはどれも老人には厳しそうな内容ばかり。難しい内容ではないあたり、無理なことを押し付ける気はないみたいで良かった。ただ、その性質上力仕事か、危険が伴う仕事が大部分だ。リフィルのことを考えると任せられる仕事はあまり多くなさそうだった。
 それを本人も分かっているのか、すぐに分担をどうするかと聞いてきた。

「狩りや戦闘には自信がありませんし、同様の理由で柵の補強も難しいです。なので、薪割は私に任せてください!」
「まぁ、それが妥当だな。でも、無理はするなよ。薪割だって危険はあるんだ。それに慣れない人間が斧を振り回すと手も痛くなりそうだしな。時間はあるんだから、ゆっくりやるんだぞ。それこそ、村の老人たちが楽できればそれだけで良いんだから」

 それよりも、何か隠されている気がして不安だが、それを今言い出すことはできない。ここに何日も居座るわけでもないし、問題が起こりそうならさっさと出て行ってしまうのも手だ。ヴォルムはとりあえず今日は家を貸してもらう分の働きはしようと狩りの道具を借りて森の中へと戻って行った。

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