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「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第五章 第百六十話 手伝い

 しばらくすると声がかかったので、部屋の外に出た。そこで改めて、今いる場所が教会であることを認識する。今までいた国の教会と内装はそう変わらない。国は違えど信仰は同じなのだろうか。一通り目に付くものを眺めていると、思わず「へぇ」と声が出てしまった。大きいものでなくても、ヴォルムからすると教会というものが日常から少し離れたものであったからだ。

「どうですか? 毎日ちゃんと掃除はしているんですけど」

 独特の空気感に圧倒されていると、リフィルが少し心配そうに言った。ヴォルムの反応があまりにも曖昧なものだったから、何を考えているのか気になったのだろう。

「ああ、綺麗だと思うよ。何と言うか、質素な感じとか、俺の知ってる教会と相違なくてちょっと安心した」
「それなら良かったです!」

 素直に思っていることを告げると、リフィルの表情がぱぁ、と明るくなった。それから、駆け出したかと思うと振り返って手招きをしている。手伝いをする現場――台所まで案内してくれるみたいだ。やけに機嫌が良いのを面白く思いながら、ヴォルムはその姿を追いかける。と、同時に、不思議と心が安らぐような感覚に包まれていた。
 台所に着くと、何ができるのかを訊かれた。勝手に一人旅をしていると決めつけて何でもできるのではないかと考えていたが、それがあっているとは限らないから、だそうだ。律儀なことである。
 ヴォルムからしたらやれと言われたらなんでもやるつもりだったから気を遣わなくても良かったのだが、今さらそれを言っても仕方がない。料理だったら一通りできることを伝え、何をすれば良いかをうかがった。

「そうですねぇ……やっぱり、下処理をお願いしましょうか。まずはそこの芋を洗って、芽を取り除いておいてください」

 そう言って指し示されたのは芋がゴロゴロと入ったカゴだった。ざっと三十個以上は入っているだろうか。これだけ多いと洗う以前に運ぶだけでも大変そうだ。

「そこの流しに水を出す魔法陣がありますから、それを使ってください。洗った芋はこちらに」

 その後も指示と台所のどこに何があるのかを説明してもらいつつ、なんとなく台所の全容を掴んだところでヴォルムは芋を洗い始めた。芋は基本的に茶色い皮の下はクリーム色というか、黄色がかってはいるが白に近い色をしている。だが、放置していて育ってしまった芋からは芽が出たり、皮の下が緑に変色したりという変化が出る。この変化してしまった部分には弱いながらも毒があるので取り除くのだ。流石に直接命にかかわるような毒ではないが、腹を壊すくらいの有毒性はもっている。腹を壊すと弱ったところに別の病気などを呼び込んでしまうことがあるため、気を付けなければならないのだ。特に、小さい子供や老人など体の弱い人はより一層の注意が必要である。
 ヴォルムは知らずに食べて腹を壊して笑われたことがあったな、なんてことを思い出しながら、芋を洗い終えた。それから、芋でいっぱいになった寸胴鍋を抱えてリフィルのもとへ向かった。

「洗い終わったぞ。ところで、こんなに芋を用意して何にするんだ? 二人で全部食べるってわけでもないだろう?」

 寸胴鍋を指定された位置に置きながら疑問を口にすると、リフィルは笑って答えてくれた。

「もちろん、この量を私たちだけで食べきったりはしませんよ。実は隣に、というか同じ敷地内なんですけど、孤児院があるんです。併設されているって言ったら良いんですかね? で、今はそこの子たちのご飯を作っているところなんです。あ、私たちも同じものを食べるので手抜きはダメですよ」

 そう言いながら、リフィルは寸胴鍋の下のスペースに薪を並べ、その下に刻まれていた魔法陣を起動した。すると数秒だけ魔法陣から炎が噴き出し、薪に火がついた。火おこしの方法はもっと原始的というか物理的なものからこういった魔術に頼ったものまでいろいろとあるが、こうして台所に魔法陣を固定しておくのは便利で良いかもしれないなと思った。
 と同時に、意外と施設が揃っているのだということにも思い至った。先程芋を洗っていた時もそうだったが、この台所には魔法陣がいくつか設置されている。水を出すもの、炎を出すもの、それから換気用に風を起こすものもある。存在自体はおかしなことではないのだが、教会のイメージがもっと質素で原始的なものだったから、少し驚いた。

「ふふ、珍しいですか? こういうの」

 もしかするとこの国では普通なのかもしれない。と、自分のいた国との差異である可能性を考えていると、リフィルが少し得意げな表情で魔法陣を指さした。

「いや、まぁ、うん。勝手なイメージだが、教会にあるとは思ってなかった」
「正直ですねぇ。でも、分かる気がします。その感覚。部屋からここに来るまでは何もありませんでしたから。この魔法陣は、魔術に造詣が深い司教様が便利になるならと設置してくださったんです。流石に共用の場には安全に配慮して設置していませんけれど、台所みたいな教会の関係者しか入らない場所には色々ありますよ」
「それって、俺が入っても大丈夫なのか?」
「ヴォルムさんが何もしでかさないなら、大丈夫です。今日は司教様も外に出ていらっしゃいますしね。あ、でも、何かあった時には私の監督責任が問われることになるので、お願いしますよ」
「わ、分かった。気を付ける」

 その後も事故には気を付けつつ、料理を手伝った。出来上がったのは茹でた芋と、トマトと鶏肉の煮込み、それからデザートの果物だ。やはりヴォルムは食材の下処理と、果物のカットを手伝った。その中で、リフィルが煮込みに香草をたっぷり使っているのを見た。香草は地域にもよるがあまり安いものではないはずだ。

「香草まで使うなんて、結構豪華なんだな。経済的には結構な余裕があるものなのか?」
「また先入観で教会を見ていましたね? 間違っているとは言えないので訂正もしませんけれど、うちは司教様が町のいろんなところに無償で魔術を使った便利な機構を作っていらっしゃるお陰で町民からの信頼が厚いんですよ。それでお世話になったからって寄付を頂けたりもして、その、見返りを求めてやっていることではないのですが、貰えるものはもらっておく主義なので……」

 尻すぼみに声が小さくなっていく。だが、そこまで恥じることではないだろう。むしろ人の役に立てているのだから胸を張って良い。

「良い司教様なんだな」
「はい! 私も少し魔術を教えてもらったので、実は使えるんですよ?」

 褒められたのが余程嬉しかったのか、リフィルは自慢をする子供のようなまなざしで覗き込んできた。それがおかしくて、ヴォルムはひとしきり笑った後、見せてもらう約束をしたのだった。


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