「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第四章 第百四十四話 予想外の反応

 食事兼話し合いを終えた俺たちは各々の今後に向けて早速動き出すことにした。しばらくはお金にも時間にも余裕があるためそんなに急いで準備しなくてもパーティ全員が不自由なく生活することも難しくはないのだが、意外なことにみんなやれるなら早い内にやっておくタイプみたいだ。
 俺もその流れに従ってリースの待遇を良くしてもらうための交渉をしに行った。体感でしかないが、それなりに良い成果を得られた気がする。これでリースはちゃんとした人に買ってもらえるだろう。お金を握らせたら店の人からは今後ともご贔屓にと言われてしまったが、余程のことがない限りは買わないつもりだ。
 パーティを解散するときはちゃんとそれっぽい催しをしようと決めているので引き渡すのは後日ということにして、その後は少しずつ復興の進む町の様子や魔王討伐に湧く人々を眺めながら歩き回った。どう伝えようか。そんなことを延々と考えながら。

「集まってるみたいだな」

 夜、モミジに私たちの部屋に集まろうと言われていたので向かうと、既にそこには呼んだ三人がいた。後ろ手にドアを閉め、防音のための結界を張る。今からする話は聞いた側が不利益を被るタイプの聞かれてはならない話のため、見知らぬ人が意図せず聞いてしまうことがないように完全防音だ。

「今からする話は俺が魔王城で見てきたものの話だ。パーティに残る、というか俺とパーティを組むのなら聞いておいてもらわないといけないんだが、一度聞いたら後には退けなくなる。それでも聞くか?」
「勿論」
「……うん」
「聞くわ」

 俺は三人が頷くのを見て、説明を始めた。神の存在。ヴォルムの過去。対立。魔王の真の目的と生きていること。そして、これからの活動方針と何が起こるのか。

「――正直、俺もどうなるのか詳しいことは分かってない。開戦の時期やら場所、戦力の内訳なんかは情報の入ってきづらい神の方にも依存することだし、魔王が連絡を寄越すと言っていたのも具体的にいつになるのかは聞かされてないからな。ただ、色々と準備したり、他の協力者との連携もあるだろうから冒険者としての活動は前より頻度を落とすことになる。ベネッサはヴォルムとの関係も俺らに比べたら薄いし、普通の冒険者活動を期待していたのなら悪いが、忠告はしたんだ。協力してもらうぞ」

 忠告したとはいえ、本来想定していたものとはかけ離れた活動が増えるかもしれない。それには若干の申し訳なさがあった。だからベネッサがどんな反応をするのかは少し不安だったのだが、話を終えた時、彼女の目は心なしか輝いているように見えた。

「良いじゃない! つまり、強い奴と戦うってことでしょう? 私はそういうのを求めてたのよ。普通に冒険者をやっていてもスマルといれば強い魔物と戦ったり、妙ないざこざに巻き込まれるんじゃないかって思っていたけど、これは想像以上だわ!」

 明らかに興奮した様子のベネッサに少し引いてしまう。そうだった。こいつは戦闘狂な一面があった。そこらの凡人とパーティを組みたくないというのを色々と面倒だからと勝手に納得していたが、真の理由は強い者との戦闘。となれば自己研鑽も怠らないだろうし、神との戦いに向けての戦力としては良い仲間ができたのではないだろうか。
 うきうきでこれからのことに想いを馳せているのを見ると申し訳ないなんて気持ちは吹き飛んでしまう。それに対して、モミジとユキの二人はヴォルムの過去を断片だけでも知ってそれなりに思うところがあったようだ。

「ねぇ、スマル、その話はどこまで信用して良いの? このパーティのリーダーはスマルだから、基本的にはスマルの信じたものをもとに動くことになる。真実かどうかは置いておいて、どこまで信じてるの?」

 モミジの口ぶりからして、俺が嘘を吐いているとは思っていないが、その情報が本当のことだとは限らないと指摘してくれているのだろう。俺が実際に見た神の存在や魔王の生存は信じてくれているとして、問題はヴォルムと神の対立。そして、そこに至るまでのいざこざのエピソードだ。

「ヴォルムの過去については現実味がないと思ってるよ。本人に聞いて確かめてもエピソードが鮮明になるだけで信用度が上がるわけじゃないしね。でも、ヴォルムが規格外の存在なのは確かだ。現実味がなくても、絶対に嘘だとは言いきれない。それに大事なのはそこじゃなくて、今確実に対立関係にあるということだ。俺は神がヴォルムを排除しようと言っているのをこの耳で聞いた。怯えているようだったし、そこに嘘があったとは思えない」

 俺たちが生きている内になるかは不明だが、確実に戦いは起こる。神は本気でヴォルムを殺すつもりだし、ヴォルムは機会があればいつだって神を殺そうと思っている。何かのきっかけがあれば明日始まってもおかしくないくらいだ。

「……じゃあ、全部信じる、で良いの?」
「まるっきり信用するわけじゃない。本当である前提で動くってだけだ。いつだって疑うことはやめないつもりだよ。嘘だと言って準備しないままいきなり本番ってのが一番危険だからね」

 とは言ったものの、何度も言うように俺もまだ何も把握できていない。魔王が連絡を寄越すまでは具体的に何をするのが準備になるのかも分からない。とりあえず戦力増強は必要だろうから戦闘訓練などはしておいた方が良いかもしれないが、それ以上のこととなると何も思いつかなかった。

「ねぇ、やっぱり敵の戦力を削ぐとかもあるのよね? こう、各個撃破みたいな感じで」

 ベネッサは未だに興奮状態だ。もう強敵と戦うことしか頭にないみたいだ。

「敵が敵だから対抗手段を準備してからというか、そういうのがあったとしても確実に勝てるようなところに派遣されるものだとは思うんだけど……魔王に会えたらするのかどうか聞いておくよ」
「しなさそうならするように言って頂戴ね。言いづらいなら私が同行するから」

 こうして俺たちの密談は終わった。
 もしかして、ベネッサを仲間にしたせいで強者と必要以上に戦うことになるのではないか。そんな不安が頭をよぎった。

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