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「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第四章 第百三十二話 侵入準備

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 できればしたくなかった戦闘を挟んだが、俺たちは特に問題なく上陸することができた。誰も怪我をしていないし、消耗も少ない。一つ懸念があるとするならば、岸が抉れてしまうほどの攻撃を行ったことだろうか。正確には反射したようなものなので悪いのは先に手を出してきた魔族側なのだが、大きな力が動いたとなればそれを感知して確認に来る者がいるかもしれないし、他にも俺たち――あるいは敵対する人間が侵入したことがバレる要因はいくつかあった。

「ワイバーンはここに置いて行く。帰りはいざとなったら転移を使うが、基本的にはここに戻ってくるつもりだ。それまでは一応、認識阻害の結界の中に入っててもらおう」

 例えば、ワイバーン。流石にこれから魔王城に向かうのにワイバーンは身体が大きすぎる。俺たちが隠れられる場所でも、ワイバーンがはみ出していては見付かってしまう。魔王城から人間領まで、飛んで帰れたら楽なので色々考えはしたのだが、リスクのことを考えるとどうしても置いて行かざるを得ないという結論に至った。

「結界の中にいれば安心ニャ」
「そうでもない。そこらの一般人にはまず見付からないだろうが、魔族にだって索敵が得意な奴はいるはずだ。だから、見付かった時は逃げるなり戦うなり好きにしてくれ。帰って来てそこにいなかった時点で俺たちは転移で帰る、ワイバーンは見付かった時点で自由だ」

 とは言え、俺が直々にテイムを解除するまでは俺の使い魔であることに変わりはない。だから自由を求めて自分から見付かろうと動く、みたいに狙って俺の不利益になることはできないようになっている。便利な仕様だ。
 俺は魔力の込もったクリスタルを核にして魔法陣を描き、その効果範囲にいるようにワイバーンに命じた。クリスタルのお陰で多少無理ができるので、消費魔力は多いがその分効果が高い設計の結界だ。効果が十分に発揮される時間は大体三時間から四時間。その後はワイバーンの魔力提供にもよるが、徐々に効果は弱まり、一時間もすれば魔法陣ごと消えてしまうだろう。
 計画では三時間でモミジとユキを助け出し、四時間経つまでにここに戻ることになっている。上手くいけばワイバーンが見付かることなく帰れる可能性が高いが、計画通りに事が進むとは思っていない。むしろその逆、計画とは何らかの形で狂わされるものだ。それも、大事な計画ほど妨害される、というのが俺の持論だった。だいぶ偏った考えのようにも聞こえるかもしれないが、あながち間違っていないだろう。

「じゃあ、そろそろ行くぞ」

 声を掛けると、事前に話していた通りに隊列が組まれた。カーシュが索敵、オルがいざという時に前面の防御ができるように前衛に配置。その後ろ――中衛とでも言おうか――にはベネッサとフォールを置いた。いつでも遠距離攻撃が撃てるようにしてもらっている。そして必然的に後衛になったのが俺とリース。リースは中に入れても良かったのだが、やはり一番に守らなければならないものは俺の一番近くに置いておきたかった。
 今度こそ戦闘にならないように気を付けて進むつもりだが、どうしても避けられない戦闘が発生した場合、俺はリースを守ることを最優先として行動する。他のパーティメンバーの防御も徹底して攻撃の意識を高めるのも良いのだが、それでは俺の負担を減らしてバランス良くなるように奴隷を買った意味がなくなってしまう。俺が頭抜けて強いのは変えようのない事実ではあるが、どうせ戦うならまっとうなパーティらしく戦ってみたかった。

「よし、出発――」

 と、そこまで言ってから、俺はある良いことを思い付いた。拾っておいたクリスタルを人数分取り出し、それに魔法陣を描く。

「――の前に、これを各自持っておいてくれ。もしもの時の緊急防御結界だ。このクリスタルに少しでも魔力を込めれば発動するようにできてる」

 当然、これは「もしも」の時のためのものなので、使わないに越したことはない。しかも、これを使うということは基本的に何かあった時に対処するはずの俺がいないということ。何らかの事情があって仲間と離れ離れになっている状況になるわけだが、その時点でだいぶ不味い状況だ。
 正直、今ふと思い付くまでは気にしてすらいなかった可能性だ。だが、一度脳裏をかすめただけで対策せずにはいられなくなるような最悪の展開でもある。どうか、そんな事態にだけはならないでくれ。そう願いながら、モミジとユキの分もすぐに取り出せるように作っておいた。

「今度こそ、出発だ。気を引き締めて行くぞ」

 ここからはできるだけ声も発さないように進む。そのため、短くて済む返事の時でも声は出さない。俺の掛け声に頷くのを確認して、遂に魔王城への行軍が始まった。

 俺たちが上陸した岸は、いくつかある侵入経路の内、一番魔王城に近いとされているものだった。だから人間の軍はそこに向かうために近い対岸に基地を置いていたわけだが、それでも岸に上がってすぐ魔王城というわけではない。
 この岸から魔王城までは直線距離にして五キロメートルほどの距離がある。間に高い建物などがないため、魔王城のてっぺんが岸からでも見えるが、想像していたような禍々しい城ではないようだった。かと言って煌びやかな城でもないのだが、とにかく邪悪な雰囲気は感じないし、それは港周りもそうだった。少し作りは違うものの、人間領にあっても違和感はない。
 大陸全体にしたってそうだ。魔族が治める土地と聞いて荒廃した毒々しいものを想像したが、来てみれば人間の住む環境と何ら変わりない風景が広がっている。ここに来て、俺は何故人間と魔族が揉めているのか、その原因が気になった。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。見た目が違うだけで争うのが人間だ。そう納得して俺は歩みを進めた。
 そして、歩き続けること二時間弱。川を越え、森を越え、俺たちは遂に魔王城すぐ近くまで来ることができていた。しかし、正面の入り口の警備を見るに、そこからは入れそうにない。当たり前といえば当たり前なのだが、ゴールを目前にして歩みが止まるのは何とももどかしかった。だが、ここで焦っては成功するはずだったことも失敗してしまう。慎重に、城の周りを回っては入れる所がないか探した。
 その結果、多数の窓はあるがまともな入り口は正面しかないということが分かり、堀などの存在と侵入難易度、それから入ってから二人がいるであろう牢までの道のりを考慮して、正面から侵入するという結論に至った。正直頭が悪いとは思う。だが、策がないわけではない。
 ここからが本当の勝負。魔王城攻略作戦の山場が始まった。

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