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「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第四章 第百二十六話 実行

 合意が得られたところで、早速俺たちはワイバーンに掴まって飛んでみることにした。一応命綱としてロープで身体とワイバーンの脚を繋いだが、恐らく落ちる心配はないだろう。万が一落ちそうになったとしても、俺がいる限りはすぐに足場を作ってやるつもりなので命の危険はない。それでも、やはり上空に連れ去られる感覚は恐ろしいもので、カーシュは騒いでいたし、リースは青い顔をしていた。

「やっぱり降ろすニャ! 見栄張って悪かったのニャ! もう許してほしいニャ!」
「うるさいわねぇ……」
「あんまり暴れると危ないぞー」

 俺はこの高度にある程度慣れているし、魔術の制御にも自信があるため落ちる恐怖というものはなかった。だが、それにしても高い場所が全く怖くないとは言い難い。いくら危険がないと分かっていても、高いところは怖い。それは人間である以上避けられない本能のようなものに感じられた。
 それなのに、上空は初めてであるはずのベネッサはとても楽しそうにしていた。それもワイバーンや俺が提供する安全を心の底から信頼しているとか、いざとなったら自分でどうにかできるとか、そういう理由で楽しめているのではなさそうだった。単純に、純粋に、危険を忘れてしまうほどに空の旅が新鮮で楽しい。そう思っているみたいだった。
 その態度は提案した身からするとありがたいし、恐怖で進めなくなってしまうくらいなら恐怖を感じない方が良い。だが、生物に備わっている本能を無視するというのは一方では悪い点もある。恐怖を感じないままに危険に突っ込み、その結果取り返しのつかないことになってしまうなんてのは良い例だ。
 とは言え、カーシュのようにずっと騒がれると、本人は必至でも聞かされているこっちとしてはうるさいだけだし鬱陶しい。今日はまだ初めてだから仕方ないにしても、今後続くようであれば口を塞いで移動するしかなくなる。

「今の内に慣れとけよー。今後はこれがメインの移動手段になるかもしれないんだから」

 それでは流石に意思の疎通などに支障が出るので、早い内――できれば今日の内に慣れてもらいたい。今みたいにギャーギャー騒いでいる内は視野が狭まっていて無理だろうが、いずれ疲れてくるだろうからその時にでも克服してもらおう。リースもだいぶ怖がっているみたいだが、ちゃんと下を見て恐怖と向き合っているようなので、カーシュよりは早く慣れてくれそうだ。

「ワイバーンというのは凄いものだな。俺は重いから落とされないか心配していたのだが、問題なさそうだ」

 俺が怖がり二人組を見ていると、オルが感心した様子でそんなことを言い出した。確かにオルは身体が鉱石でできている亜人だ。正確に体重を量って比べたことがないから詳細は分からないが、恐らく俺やベネッサのような普通の人間の倍以上の重量があるのだろう。それをワイバーンは難なく持ち上げ、平気な顔をして飛んでいる。テイムするために闘っている最中に何も脅威を感じなかったのでもしかしたら雑魚魔物なのかもしれないと一瞬思ったりもしたが、やはり名前の迫力通りそれなりに力のある魔物だったようだ。
 オルは重いにしてもベネッサはスレンダーな女性で身長の割には軽そうだし、リースは子供、カーシュも体格は少し大きくした某オトモなので軽い。俺も体格は大きくない方なので、もしかしたら気球のようにカゴを作れば俺も一緒に乗せてもらえるのではないだろうか。それなら掴まれていることへの恐怖も薄れるだろうし、やってみる価値はありそうだ。
 その後も俺たちはしばらく飛びながら、次の目的地へと向かった。


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 目的地である街が見えてきたので、俺たちは一旦地上に降り、歩いてその街に入ることにする。空から侵入することもできるが、特に後ろめたいことがないのにそんなことをする必要はどこにもない。魔物を六体も引き連れているのだから、その安全性をちゃんと説明してからでないと犯罪者として扱われかねないのだ。そして、信用が重要な評価基準となっている冒険者にとって、たとえ冤罪だろうと犯罪者呼ばわりされるのはできるだけ避けたい事態なのである。

「おい! お前ら、そこで止まれ!」

 と思っていた矢先に、門番らしき男が遠くから声を掛けてきた。無視しても良いことがないので、素直に従って男が駆け寄ってくるのを待つ。

「そんなに魔物を引き連れて、一体何の用だ」
「一泊泊まる場所を探してる。それ以外のことをするつもりはない」

 俺たちの最終目的地は魔王城だ。だからこの街に直接用があるわけではない。たまたま通り道にあったから休憩地点として寄るだけ。仰々しく何の用だと聞かれても正直返答に困ってしまう。

「泊まった後はどこに向かうつもりだ」
「魔王軍と戦争してるだろ? その前線まで行こうと思って」

 ここで嘘をつく必要はないし、俺が咄嗟についた嘘なんてすぐに見抜かれてしまうだろう。だから嘘偽りなく答える。だが、それを聞いた門番の男は怪訝な顔をした。正直に答えているはずなのに、どうやら疑念が深まってしまったようだ。

「その魔物を連れて? 前線には魔王軍の支配下にある魔物がたくさんいると聞いている。テイマーとは言え、そんなところに魔物を連れて行こうというのはおかしな話ではないか?」
「このワイバーンは移動用の脚だ。俺はテイマーじゃないから戦場でこいつらを戦わせるつもりはないよ。紛らわしくて邪魔になるだけだろうし」

 門番が顎に手を当てて考え込む。流石に正直に話し過ぎただろうか。考えてみれば魔王城に乗り込もうというのも、勝手に前線に向かおうというのも、一般人からしたら考えられない動きだ。嘘がバレると怪しいからと事実を述べたが、今回は嘘を織り込んで穏便に済ませた方が良かったのかもしれない。
 通してもらえなかったら街の外で野宿か。初日からそれはなんだか残念な気もするが、入れないのなら仕方ない。次からはもっとうまくやろう。そんな後悔をしながらこれからの旅に思いを馳せていると、門番が結論を出したようで、考えながらうつむきがちになっていた頭がパッと上がり、目が合った。

「よし、街の中で悪さをしないことを誓い、魔物を一旦こちらに預けても良いというなら通してやろう。見たところ冒険者のようだが、ギルドカードは持っているか?」
「ああ、それで入れるなら全然良いぞ。ほい、ギルドカード。他は奴隷だから奴隷紋を見てくれ」

 それから相変わらず門から離れた位置で確認作業が進み、俺たちは怪しさはさておき、とりあえずは危険な集団ではないと判断してもらえた。

「ようこそ。君たちが何もしないことを祈っているよ」

 独特な歓迎文句を聞き流しながら、俺たちは街の中へと入って行った。

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