「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第百十三話 下見
いったんリースはフォールに任せるとして、俺は隣の部屋の扉をノックした。
「おーい、準備できてるか?」
準備と言っても、奴隷の二人に荷物などはない。
一応、戦闘用の奴隷だから買う時にオプションで武器をつけることもできたのだが、いきなり街中で戦うこともないだろうし、どうせ質の良くない武器を高値で売られるのだろうと考えたからそのオプションはつけなかったのだ。
正直その選択は時間がない中で半ば直感で決めたことだったが、現状を見るに悪い選択ではなかっただろう。
最悪、俺が持っている数種類の武器から一つ貸せば良いだけのことだしな。
俺がノックをしてから数秒後、扉がゆっくりと開いて中からオルが出てきた。
「大丈夫だ。今すぐにでも出られる」
「ボ、ボクも行けるニャ……」
よく見ると、オルの後ろに隠れるようにカーシュが縮こまっていた。
何やら怯えている様子だが、一体何を怖がっているのだろうか。
見る限りではその対象は俺のようだが、カーシュに何かしてしまったという記憶はない。
というか、まだ出会ってから数時間しか経っていないのだ。
そんな短期間で人に怯えられるほど俺は恐ろしい人間だっただろうか。
カーシュの態度を不思議に思いつつも、それを本人に追及したら逆効果だろうと諦め、俺たちは宿の外へ出た。
「これからお前らの武器と防具、それから時間があれば服や雑貨も買いに行く。金には余裕があるからある程度高価な、質の良いものを買うことをお勧めしておくが、明日からの訓練で今知っている戦い方とは違った動きをするようになる可能性が高い。武器に関しては俺が持っているものからいくつか貸せるから、下見程度に考えておいてくれ」
この街には武器屋がいくつもある。防具屋は武器屋よりは少ないが、それでもそれなりの数あったはずだ。
今日で全て回る気はないから、下見程度で済ませるのはそういう理由もある。
正直急ぎたいという気持ちはあるが、急ぎたい時ほど確実な道を選ぶべきだ。
今、小さなことでも焦って雑にやったことが後になって大きな弱点になる可能性だってあるからだ。
たしか、こういうのをバタフライエフェクトと言うんだったか。
これはあくまで可能性の話であって未来のことは誰にも分からないが、今の内から小さいことでも気にかけてより良い方を選択するように心がけておこう。
一件目の武器屋についた時、まず俺は二人がどんな武器をどんな基準で選ぶのかを観察してみることにした。
オルの方を見てみると、以前武器は基本的に使わないと言っていた割にはちゃんと武器を選んでいることが分かった。
使わないなりに、持つとしたらこれというこだわりがあるのだろうか。
ただ、その見ている武器と言うのが短剣で、どうも大きな体躯には似合わない。
「オルは何を見てるんだ?」
気になって聞いてみると、オルは短剣を一つ手に取りその切っ先を指さした。
「俺の拳はこんなに鋭くない。刺せなければ切れもしない。ただ殴ることしかできない拳だ。基本的にはそれで困らないが、斬撃や刺突が効果的な敵もいる。そういうやつらと戦う時にこれが必要になる。それでいて邪魔にならないのが良い」
なるほど、合理的だ。
人間を相手にする時などは殴るより刺したり切ったりした方が早く殺せる。オルが言いたいのはそういうことだろう。
ヴォルムも一つの戦い方にこだわる危険性を説いていたが、案外一般的な考え方なのだろうか。
だが、オルの体表を覆う金属か鉱物のような物質は、刃物ほどではないとはいえ鋭い部分もある。
戦い方によっては斬撃を繰り出せそうな気もするので、その辺りは訓練で方法を模索してみよう。
「オル、もう一つ良いか? カーシュが怯えてるみたいなんだが、事情を知ってたら教えてくれ」
それから俺は丁度カーシュと離れていたので、オルに事情を知っていないか訊いてみることにした。
「それは、魔王が怖いからだ。あんたが言うには何か策があるみたいだが、それなら早く説明してやってくれ。俺もまだ納得はしていない」
また、魔王。
そんなに魔王とは恐ろしいものなのだろうか。
ここでも温度差を感じながら、俺は今度はカーシュが選ぶ武器を見てみることにした。
カーシュが見ていたのは片手剣。
その中でも幅のある片刃の剣を見ているようだった。
どうやら同じような形状をしている剣はどれも魔力を流し込むことを前提とした形状をしているようで、属性を付与できたり、魔術を放つことができたりするようだ。
「カーシュはどの属性が得意なんだ?」
俺はその様子を見ていて気になったので素直に質問した。
少し意地悪をして後ろからこっそり近付いて声を掛けたら、やはり大袈裟に驚いてくれた。
「ギニャッ!? とと、得意な属性ニャ? 一番は風属性ニャけど、一応火属性も使えるニャ」
「へー、その剣に纏わせて戦うのか?」
「それが半分、あとは空いてる方の手で操作するニャ」
片手で剣を振りながら、もう片方の手で魔術を操る。
簡単そうに言っているが、こんなことができるのはある程度経験を積んだ猛者だけだ。
魔王に完全にビビってしまっているようだが、こいつ、戦闘技術は一級品なのかもしれない。
明日からの訓練でよく見せてもらおう。
「結構器用なことしてるのな」
「褒めても何も出ニャいのニャ」
悪態を吐いてそっぽを向いてしまったが、耳がピコピコ動いている。
それを見るに、褒められるのは嬉しいのだろう。
恐らく褒められたところで魔王と戦うとなったら嫌がるのだろうが、素質もありそうだし、これからの訓練でいくらでも強くなれるはずだ。
戦力として、役に立ってもらおう。
それから俺たちはいくつかの武器屋を回り、どこでどんな武器がどのくらいの値段で売られているのかを大まかに把握した。
まだ全ての武器屋に行けたわけではないし、防具などは見れなかったから不十分ではあるが、大まかにはどれを買おうという方針は決まったようだ。
遅くなる前に帰路につく。
その間の服屋と雑貨屋で消耗品やオルとカーシュがそれぞれ欲しがったものを買い、宿に戻った。
「おーい、準備できてるか?」
準備と言っても、奴隷の二人に荷物などはない。
一応、戦闘用の奴隷だから買う時にオプションで武器をつけることもできたのだが、いきなり街中で戦うこともないだろうし、どうせ質の良くない武器を高値で売られるのだろうと考えたからそのオプションはつけなかったのだ。
正直その選択は時間がない中で半ば直感で決めたことだったが、現状を見るに悪い選択ではなかっただろう。
最悪、俺が持っている数種類の武器から一つ貸せば良いだけのことだしな。
俺がノックをしてから数秒後、扉がゆっくりと開いて中からオルが出てきた。
「大丈夫だ。今すぐにでも出られる」
「ボ、ボクも行けるニャ……」
よく見ると、オルの後ろに隠れるようにカーシュが縮こまっていた。
何やら怯えている様子だが、一体何を怖がっているのだろうか。
見る限りではその対象は俺のようだが、カーシュに何かしてしまったという記憶はない。
というか、まだ出会ってから数時間しか経っていないのだ。
そんな短期間で人に怯えられるほど俺は恐ろしい人間だっただろうか。
カーシュの態度を不思議に思いつつも、それを本人に追及したら逆効果だろうと諦め、俺たちは宿の外へ出た。
「これからお前らの武器と防具、それから時間があれば服や雑貨も買いに行く。金には余裕があるからある程度高価な、質の良いものを買うことをお勧めしておくが、明日からの訓練で今知っている戦い方とは違った動きをするようになる可能性が高い。武器に関しては俺が持っているものからいくつか貸せるから、下見程度に考えておいてくれ」
この街には武器屋がいくつもある。防具屋は武器屋よりは少ないが、それでもそれなりの数あったはずだ。
今日で全て回る気はないから、下見程度で済ませるのはそういう理由もある。
正直急ぎたいという気持ちはあるが、急ぎたい時ほど確実な道を選ぶべきだ。
今、小さなことでも焦って雑にやったことが後になって大きな弱点になる可能性だってあるからだ。
たしか、こういうのをバタフライエフェクトと言うんだったか。
これはあくまで可能性の話であって未来のことは誰にも分からないが、今の内から小さいことでも気にかけてより良い方を選択するように心がけておこう。
一件目の武器屋についた時、まず俺は二人がどんな武器をどんな基準で選ぶのかを観察してみることにした。
オルの方を見てみると、以前武器は基本的に使わないと言っていた割にはちゃんと武器を選んでいることが分かった。
使わないなりに、持つとしたらこれというこだわりがあるのだろうか。
ただ、その見ている武器と言うのが短剣で、どうも大きな体躯には似合わない。
「オルは何を見てるんだ?」
気になって聞いてみると、オルは短剣を一つ手に取りその切っ先を指さした。
「俺の拳はこんなに鋭くない。刺せなければ切れもしない。ただ殴ることしかできない拳だ。基本的にはそれで困らないが、斬撃や刺突が効果的な敵もいる。そういうやつらと戦う時にこれが必要になる。それでいて邪魔にならないのが良い」
なるほど、合理的だ。
人間を相手にする時などは殴るより刺したり切ったりした方が早く殺せる。オルが言いたいのはそういうことだろう。
ヴォルムも一つの戦い方にこだわる危険性を説いていたが、案外一般的な考え方なのだろうか。
だが、オルの体表を覆う金属か鉱物のような物質は、刃物ほどではないとはいえ鋭い部分もある。
戦い方によっては斬撃を繰り出せそうな気もするので、その辺りは訓練で方法を模索してみよう。
「オル、もう一つ良いか? カーシュが怯えてるみたいなんだが、事情を知ってたら教えてくれ」
それから俺は丁度カーシュと離れていたので、オルに事情を知っていないか訊いてみることにした。
「それは、魔王が怖いからだ。あんたが言うには何か策があるみたいだが、それなら早く説明してやってくれ。俺もまだ納得はしていない」
また、魔王。
そんなに魔王とは恐ろしいものなのだろうか。
ここでも温度差を感じながら、俺は今度はカーシュが選ぶ武器を見てみることにした。
カーシュが見ていたのは片手剣。
その中でも幅のある片刃の剣を見ているようだった。
どうやら同じような形状をしている剣はどれも魔力を流し込むことを前提とした形状をしているようで、属性を付与できたり、魔術を放つことができたりするようだ。
「カーシュはどの属性が得意なんだ?」
俺はその様子を見ていて気になったので素直に質問した。
少し意地悪をして後ろからこっそり近付いて声を掛けたら、やはり大袈裟に驚いてくれた。
「ギニャッ!? とと、得意な属性ニャ? 一番は風属性ニャけど、一応火属性も使えるニャ」
「へー、その剣に纏わせて戦うのか?」
「それが半分、あとは空いてる方の手で操作するニャ」
片手で剣を振りながら、もう片方の手で魔術を操る。
簡単そうに言っているが、こんなことができるのはある程度経験を積んだ猛者だけだ。
魔王に完全にビビってしまっているようだが、こいつ、戦闘技術は一級品なのかもしれない。
明日からの訓練でよく見せてもらおう。
「結構器用なことしてるのな」
「褒めても何も出ニャいのニャ」
悪態を吐いてそっぽを向いてしまったが、耳がピコピコ動いている。
それを見るに、褒められるのは嬉しいのだろう。
恐らく褒められたところで魔王と戦うとなったら嫌がるのだろうが、素質もありそうだし、これからの訓練でいくらでも強くなれるはずだ。
戦力として、役に立ってもらおう。
それから俺たちはいくつかの武器屋を回り、どこでどんな武器がどのくらいの値段で売られているのかを大まかに把握した。
まだ全ての武器屋に行けたわけではないし、防具などは見れなかったから不十分ではあるが、大まかにはどれを買おうという方針は決まったようだ。
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