「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第百二話 思考
モミジとユキ、二人の姿を捉えてまず感じたのは安堵だった。
生死も分からなかった二人が生きていた。
それだけで希望が湧いてくる。
「絶対に、助けてやるからな……!」
無意識の内に強く握った拳から、血がにじんでいた。
だが、二人の位置が分かったところで、すぐに助けに行けるというわけではない。
真正面から助けに来ました、なんてことを言っても突き返されるか、あるいは最悪の場合人質に取られて二人が酷い目に合うかもしれない。
やるなら徹底的に魔王軍を潰すか、隠密に徹してこっそり奪還するしかない。
それに、魔族の本拠地は俺が今足を付けている大陸にはない。
海を挟んだ向こう側、人類の敵である魔族が蔓延る土地に、二人は捕らえられている。
戦争している時に渡ろうなんてのは半ば自殺行為。
乗り込むとしたら、魔族側には勿論、人間側にもばれないようにする必要がある。
認識疎外系の結界を張れば大多数には気付かれずに済むだろうが、正直どこまで通用するかの見当がつかない。
そうなると有力な協力者を探すか、攻めに行く軍に紛れ込むのが妥当な策だろうか。
いずれにせよ、今すぐ飛び出すのではなく、何か策を、それも何重にも張り巡らせた策を用意してから挑むべきだ。
それに、俺一人で乗り込むというのも心許ない。
戦闘になった時、今まで攻撃は基本的に二人に任せて俺は防御に徹していたから、どうしても俺一人だと火力が足りないのだ。
ゴブリンロードと戦った時のように一対一なら火力がなくてもなんとかなる場面は多いかもしれないが、敵に回すのは軍隊だ。
少なくともこれまでと同じ三人、仲間を集め、それとフォールも戦力として数えられるように鍛えなくてはならない。
相手方がいつまでも待っていてくれるはずがないことも、二人が今継続的に何か魔族たちから酷いことをされていないとも限らない。
それでも、急がば回れ。
ただ突き進むだけでは拾えないものを獲りに行くのだ。
まだ早朝と言っても良い時間帯、俺は起きてきたフォールと共に冒険者ギルドへと向かった。
一昨日の侵攻から昨日の魔族のことまで、ギルドマスターのゾルと話をしなければならないのだ。
昨日の時点で色々と話すことがあって面倒だったのに、昨日の騒動のせいで話題が増えてしまっている。
俺には他にもやりたいこと、やらなくてはならないことがまだあるはずなのに、こんな事務的なことに時間を取られるとは。
気持ちだけ先走って状況が追いつかない現状に歯痒い思いをする。
一瞬すっぽかしてしまおうかという考えも頭に浮かんだが、楽ができるというメリット以上にそれをすることによるデメリットが大きすぎた。
これは下手をすると除名まであり得る案件なのだから。
というのも、そもそも優れた冒険者に必要な能力と言うと戦闘力や問題解決能力が重視されがちだが、それ以上に信用というものが大切になってくる。
いくら戦闘能力が高くても素行が悪かったらギルドに置きたくないし、いくら問題解決能力が優れていても遅刻ばかりでは安心して依頼を任せられない。
一番大切なのはこの人にこれくらいの依頼をするとこれくらいの費用と労力と時間をかけて解決してくれる、という絶対的な信頼なのだ。
これはギルドが冒険者にランク付けをしていることからもうかがえる。
ある程度のランクまでは戦闘力やらで上がれるが、その先は安定して、それも多くの依頼をこなせないと上がれない。
このシステムは依頼に応じて適切な人材を派遣するというギルドの仕事を円滑に回すために信頼度を分かりやすく区分しているものなのだ。
まだ依頼解決数が少ない俺は、実力があることは認められているが、信用に足るとは判断されていない。
だから俺は勇者たちよりも強くても、まだ赤級の冒険者。
その先の銅や銀、金級の冒険者と比べると年期も入っていなければ経験も足りていないのだ。
つまりそんな俺がギルドマスター直々の呼び出しを無視すると、この街で――いや、この世界で冒険者だと名乗ることができなくなってしまう可能性まであるのだ。
ちょっと遅刻したくらいで怒られたりはしないだろうが、丁度目も覚めてしまったので、早く宿を出たというところである。
冒険者ギルドに着くと、まだ早い時間ということもあるのか、少し空いているような印象を受けた。
いつも来る時間帯だと依頼を探す冒険者や併設されている食堂で食事をしている人が多くいるような気がしていたが、今は目視で全員の動きを把握できるくらいの人数だ。
早めに着いて有用そうな冒険者を探そうと思っていたが、あまり期待できそうにない。
この時間から依頼を探しているのは、どこも余裕のないパーティばかりだった。
ゾルも朝は他の仕事があるみたいで今すぐに話を始められそうにないし、時間を無駄にしてしまっただろうか。
心に暗い何かが下りようとした。
だが、俺はそれを察知して無理矢理ポジティブな思考を取り戻す。
その作業が必要な時点でだいぶ参っていることに変わりはないが、それでも何もしないよりは良い。
することがないなら作れば良いのだ。
無駄になりそうなら、無駄にならないような工夫をすれば良い。
俺はひとまず食堂で朝食を取ることにした。
正直食欲はなかったが、これでも身体が資本の冒険者だ。
腹に何か入れておくことは意味のある行為だろう。
それに、後三十分もすればこの中も賑わってくるはずだ。
それまで待てばどこかに有用な冒険者がいるかもしれない。
この街は大陸内でも有数の大きな街なのだ。
俺に協力してくれるかは別として、優れた冒険者が何人も見付かるに違いない。
しかし、それから三十分、いや、一時間経っても有用な冒険者の姿は現れなかった。
金級の冒険者が来てくれるとは思っていなかったが、それにしても銅級の冒険者ですら一パーティしか現れないなんて。
運が悪かったのか、どこか別の場所で事件が起こっているのか。
真相は分からないがとにかく良い人材がここにはいない。
そして、更に三十分探してみて俺は確信する。
冒険者に頼るのはやめた方が良い。
そもそも有用な人材が見付からないというのもあるし、それより冒険者というのは自由で自己中心的な職業であることが分かったのだ。
俺が頼んだとして、それなりに長くなるだろう道のりに、付いて来てくれるとは思えない。
各々が好きなように、自分のやりたいことをするために冒険者になっているのだから、当たり前だ。
ゾルとの約束の時間になり、俺は支部長室に向かう。
ゆっくりとした足取りで向かう途中は、ずっと代替案を考えていた。
生死も分からなかった二人が生きていた。
それだけで希望が湧いてくる。
「絶対に、助けてやるからな……!」
無意識の内に強く握った拳から、血がにじんでいた。
だが、二人の位置が分かったところで、すぐに助けに行けるというわけではない。
真正面から助けに来ました、なんてことを言っても突き返されるか、あるいは最悪の場合人質に取られて二人が酷い目に合うかもしれない。
やるなら徹底的に魔王軍を潰すか、隠密に徹してこっそり奪還するしかない。
それに、魔族の本拠地は俺が今足を付けている大陸にはない。
海を挟んだ向こう側、人類の敵である魔族が蔓延る土地に、二人は捕らえられている。
戦争している時に渡ろうなんてのは半ば自殺行為。
乗り込むとしたら、魔族側には勿論、人間側にもばれないようにする必要がある。
認識疎外系の結界を張れば大多数には気付かれずに済むだろうが、正直どこまで通用するかの見当がつかない。
そうなると有力な協力者を探すか、攻めに行く軍に紛れ込むのが妥当な策だろうか。
いずれにせよ、今すぐ飛び出すのではなく、何か策を、それも何重にも張り巡らせた策を用意してから挑むべきだ。
それに、俺一人で乗り込むというのも心許ない。
戦闘になった時、今まで攻撃は基本的に二人に任せて俺は防御に徹していたから、どうしても俺一人だと火力が足りないのだ。
ゴブリンロードと戦った時のように一対一なら火力がなくてもなんとかなる場面は多いかもしれないが、敵に回すのは軍隊だ。
少なくともこれまでと同じ三人、仲間を集め、それとフォールも戦力として数えられるように鍛えなくてはならない。
相手方がいつまでも待っていてくれるはずがないことも、二人が今継続的に何か魔族たちから酷いことをされていないとも限らない。
それでも、急がば回れ。
ただ突き進むだけでは拾えないものを獲りに行くのだ。
まだ早朝と言っても良い時間帯、俺は起きてきたフォールと共に冒険者ギルドへと向かった。
一昨日の侵攻から昨日の魔族のことまで、ギルドマスターのゾルと話をしなければならないのだ。
昨日の時点で色々と話すことがあって面倒だったのに、昨日の騒動のせいで話題が増えてしまっている。
俺には他にもやりたいこと、やらなくてはならないことがまだあるはずなのに、こんな事務的なことに時間を取られるとは。
気持ちだけ先走って状況が追いつかない現状に歯痒い思いをする。
一瞬すっぽかしてしまおうかという考えも頭に浮かんだが、楽ができるというメリット以上にそれをすることによるデメリットが大きすぎた。
これは下手をすると除名まであり得る案件なのだから。
というのも、そもそも優れた冒険者に必要な能力と言うと戦闘力や問題解決能力が重視されがちだが、それ以上に信用というものが大切になってくる。
いくら戦闘能力が高くても素行が悪かったらギルドに置きたくないし、いくら問題解決能力が優れていても遅刻ばかりでは安心して依頼を任せられない。
一番大切なのはこの人にこれくらいの依頼をするとこれくらいの費用と労力と時間をかけて解決してくれる、という絶対的な信頼なのだ。
これはギルドが冒険者にランク付けをしていることからもうかがえる。
ある程度のランクまでは戦闘力やらで上がれるが、その先は安定して、それも多くの依頼をこなせないと上がれない。
このシステムは依頼に応じて適切な人材を派遣するというギルドの仕事を円滑に回すために信頼度を分かりやすく区分しているものなのだ。
まだ依頼解決数が少ない俺は、実力があることは認められているが、信用に足るとは判断されていない。
だから俺は勇者たちよりも強くても、まだ赤級の冒険者。
その先の銅や銀、金級の冒険者と比べると年期も入っていなければ経験も足りていないのだ。
つまりそんな俺がギルドマスター直々の呼び出しを無視すると、この街で――いや、この世界で冒険者だと名乗ることができなくなってしまう可能性まであるのだ。
ちょっと遅刻したくらいで怒られたりはしないだろうが、丁度目も覚めてしまったので、早く宿を出たというところである。
冒険者ギルドに着くと、まだ早い時間ということもあるのか、少し空いているような印象を受けた。
いつも来る時間帯だと依頼を探す冒険者や併設されている食堂で食事をしている人が多くいるような気がしていたが、今は目視で全員の動きを把握できるくらいの人数だ。
早めに着いて有用そうな冒険者を探そうと思っていたが、あまり期待できそうにない。
この時間から依頼を探しているのは、どこも余裕のないパーティばかりだった。
ゾルも朝は他の仕事があるみたいで今すぐに話を始められそうにないし、時間を無駄にしてしまっただろうか。
心に暗い何かが下りようとした。
だが、俺はそれを察知して無理矢理ポジティブな思考を取り戻す。
その作業が必要な時点でだいぶ参っていることに変わりはないが、それでも何もしないよりは良い。
することがないなら作れば良いのだ。
無駄になりそうなら、無駄にならないような工夫をすれば良い。
俺はひとまず食堂で朝食を取ることにした。
正直食欲はなかったが、これでも身体が資本の冒険者だ。
腹に何か入れておくことは意味のある行為だろう。
それに、後三十分もすればこの中も賑わってくるはずだ。
それまで待てばどこかに有用な冒険者がいるかもしれない。
この街は大陸内でも有数の大きな街なのだ。
俺に協力してくれるかは別として、優れた冒険者が何人も見付かるに違いない。
しかし、それから三十分、いや、一時間経っても有用な冒険者の姿は現れなかった。
金級の冒険者が来てくれるとは思っていなかったが、それにしても銅級の冒険者ですら一パーティしか現れないなんて。
運が悪かったのか、どこか別の場所で事件が起こっているのか。
真相は分からないがとにかく良い人材がここにはいない。
そして、更に三十分探してみて俺は確信する。
冒険者に頼るのはやめた方が良い。
そもそも有用な人材が見付からないというのもあるし、それより冒険者というのは自由で自己中心的な職業であることが分かったのだ。
俺が頼んだとして、それなりに長くなるだろう道のりに、付いて来てくれるとは思えない。
各々が好きなように、自分のやりたいことをするために冒険者になっているのだから、当たり前だ。
ゾルとの約束の時間になり、俺は支部長室に向かう。
ゆっくりとした足取りで向かう途中は、ずっと代替案を考えていた。
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