「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第九十九話 呪術の脅威
攻撃の余波が消え、結界の中でぐったりとしている魔族の姿が確認される。
だが、それで安心して勝利を喜べるような人間はこの場にいなかった。
やられたふりをしている。
死ぬことで発動する術式を編んである。
また回復できる手立てがある。
すぐに思いつくだけでも、警戒すべき可能性はいくらでもある。
だから、俺は更にもう一枚障壁を作り出し、魔族との間にそれを挿んだ状態で近付いた。
近くで良く見てみると、炎と雷に焼かれて黒く焦げている部分があるのが分かったが、元々熱への耐性があったのか、外傷という外傷はゾルによる切創くらいしか見受けられなかった。
魔術師たちによる大規模魔術のダメージもあるはずなのだが、腕が再生したように、目に見えて分かるような傷は全て治癒済みのようだ。
「どうだ、スマル君」
そうして魔族の容態を確認していると、反対側からゾルの声が聞こえた。
俺は何かあった時にゾルも一緒に守れるように移動し、状態を説明する。
だが、俺に医学の知識はない。
それに何らかの術で一部外傷が回復済みなのだ。
外から見える情報と実際のダメージには大きくずれがあるだろう。
せめてこの魔族の身体能力や耐性が人間とどう違うのかが分かっていればもう少し有用な情報が読み取れたのだろうが、俺に分かるのは誰が見ても明確な事実だけだった。
「今は意識がないみたいだが、いつ目を覚ますか分からない。こいつの身をどうするにしても早めの決断が必要だ」
本来、こうして敵の身柄を生きたまま捕縛できたのなら、捕虜として生かしておいたり、情報を聞きだすために尋問をしたり、この世界なら、拷問するという選択肢もあるのだろう。
だが、この魔族は軍隊相手に一人でこれだけ戦って見せた。
俺が結界を張っていたから良かったものの、それがなかったら城の結界は破られていたし、軍や魔術師のみんなの命はなかっただろう。
生きたまま捕らえておくには俺やそれと同等の防御系の術が扱える人材が必要だが、そんな存在が丁度良くいるとは考えづらい。
何せ防御系の術は不人気なのだ。
あれば便利なのは間違いないとは言え、優先度は低い。
使えても極める人なんてのはそうそういないのだ。
となると、余計なことをされる前に殺してしまうのが手っ取り早くて安全なのだが、こいつはそれをするにしても懸念が残る戦い方をしている。
それが呪術だ。
一般の冒険者や非戦闘員には知らないという人も多いだろうが、呪術は単純な火力勝負が主な魔術とはわけが違う。
特に揃えた条件や代償によって威力を増す設置型と呼ばれる呪術の脅威はものによっては国家を揺るがすとまで言われている。
扱える人材は少ないとは言え、捕虜が自分の命と引き換えに敵の戦力を大きく削るなんて事例も、過去には何件かあるくらいなのだ。
国家の上層部やある程度教育を受けている人間なら、その脅威は知っているはずだ。
「殺せるものなら殺しておきたいが……何か対策をしてからでないとなぁ……」
やはりゾルもそのことには気が回っていたようで、考え込む素振りを見せているが、有効な策は思いつけないでいるようだった。
「こういう時のセオリーというか、マニュアルみたいのはないのか?」
そこで俺は気になっていたことを訊いてみることにした。
俺は長い間社会とは隔離された場所にいたから世間知らずな面がある。
そのせいで知らないだけかもしれないが、普通過去に大きな問題となった軍事的な事柄などは、同じような状況に陥った時のために対策マニュアルなどが作られるものではないだろうか。
流石に過去一度だけそういう事例があった、みたいな稀有な例のマニュアルならなくても仕方ないと思うが、今回のケースは俺がヴォルムから聞かされた話だけでも十件以上の事例がある。
何なら呪術がどういうタイプのものだったらこうしろ、みたいなところまで詳しいマニュアルが作られていてもおかしくないはずだ。
「……ないことはない。ただ、マニュアル通りに動くことが呪術の威力を高めてしまったことがあってな、迂闊にそれに沿った動きは取れないのだよ」
なるほど、それは盲点だった。
確かにマニュアルが作られれば、呪術師を捕らえた時の動きが統一される。
その内容が分かれば、より狭い条件付けをすることで威力を上げられる呪術は圧倒的な効力を発揮する術を発動できることになる。
ヴォルムから聞いた時はそこまで詳しい話をしてもらえなかったので知らなかったが、きっと以前にそういう事例があったのだろう。
しかも今回の敵はクリスタルによる遠隔地への侵攻や、大規模魔術をくらってからの回復、広範囲を汚染できる強力な魔術と呪術の混合攻撃など、今までにはなかった新たな脅威を見せつけている。
考えてみれば、迂闊に動けないのは当たり前のことだった。
そこで、俺は一つ提案をしてみることにした。
その内容は、多重結界による閉じ込め――言い換えれば封印と言っても良いかもしれない。
対象のあらゆるエネルギーを吸収し術の発動を許さず、自害もできないように徹底的に拘束する。
魔法陣を描いてしまえば基本的には中から吸い取ったエネルギーで起動し続けるし、外部から魔力を流し込める機構を作っておけば、誰でも維持できる。
外からの働きかけは全て通せるようにもできるし、そうすれば情報を引き出したりもできるだろう。
これの問題点と言えばただ俺が大変という部分に尽きるのだが、現状、ここで俺が大変な思いをしなければ、どうすることもできないだろう。
更なる被害が出たとしたら、そこでまた働く羽目になるのは目に見えている。
どっちにしろ俺が働くことになるのなら、被害は少ない方が良い。
それをゾルに伝えると、すぐにでも取り掛かってほしいとのことだった。
場所は軍の奴らに用意させるらしい。
魔法陣を描く道具はギルド持ちだそうだ。
そこで俺は、周りがまだ汚染されていたことを思い出した。
ここから離れるなら、浄化してからでないと軍や魔術師のみんなが危ない。
だが、呪術の無効化、浄化なんてことができる人間はそう多くない。
回復系統に含まれるため防御系よりは多いと思うが、それでもやはり状態異常や傷を治すのに比べたら需要がないのだ。
使える人間を探してくるのも面倒だし、俺がやってしまおう。
昨日も魔力が空になるまで戦ったのに、今日もそうなるとは。
俺はできるだけ広範囲に届く世に自分の魔力を伸ばしていき、浄化魔術を発動させる。
それによって軍や魔術師がいたところの魔法陣を維持するだけの魔力がなくなり、結界が消える。
俺とゾルの表面を覆っていた結界も消えた。
かろうじて魔族を拘束している結界は消えないように調整したが、暴れられでもしたらひとたまりもない。
俺は魔族が目を覚まさないことを祈りながら移動を開始した。
だが、それで安心して勝利を喜べるような人間はこの場にいなかった。
やられたふりをしている。
死ぬことで発動する術式を編んである。
また回復できる手立てがある。
すぐに思いつくだけでも、警戒すべき可能性はいくらでもある。
だから、俺は更にもう一枚障壁を作り出し、魔族との間にそれを挿んだ状態で近付いた。
近くで良く見てみると、炎と雷に焼かれて黒く焦げている部分があるのが分かったが、元々熱への耐性があったのか、外傷という外傷はゾルによる切創くらいしか見受けられなかった。
魔術師たちによる大規模魔術のダメージもあるはずなのだが、腕が再生したように、目に見えて分かるような傷は全て治癒済みのようだ。
「どうだ、スマル君」
そうして魔族の容態を確認していると、反対側からゾルの声が聞こえた。
俺は何かあった時にゾルも一緒に守れるように移動し、状態を説明する。
だが、俺に医学の知識はない。
それに何らかの術で一部外傷が回復済みなのだ。
外から見える情報と実際のダメージには大きくずれがあるだろう。
せめてこの魔族の身体能力や耐性が人間とどう違うのかが分かっていればもう少し有用な情報が読み取れたのだろうが、俺に分かるのは誰が見ても明確な事実だけだった。
「今は意識がないみたいだが、いつ目を覚ますか分からない。こいつの身をどうするにしても早めの決断が必要だ」
本来、こうして敵の身柄を生きたまま捕縛できたのなら、捕虜として生かしておいたり、情報を聞きだすために尋問をしたり、この世界なら、拷問するという選択肢もあるのだろう。
だが、この魔族は軍隊相手に一人でこれだけ戦って見せた。
俺が結界を張っていたから良かったものの、それがなかったら城の結界は破られていたし、軍や魔術師のみんなの命はなかっただろう。
生きたまま捕らえておくには俺やそれと同等の防御系の術が扱える人材が必要だが、そんな存在が丁度良くいるとは考えづらい。
何せ防御系の術は不人気なのだ。
あれば便利なのは間違いないとは言え、優先度は低い。
使えても極める人なんてのはそうそういないのだ。
となると、余計なことをされる前に殺してしまうのが手っ取り早くて安全なのだが、こいつはそれをするにしても懸念が残る戦い方をしている。
それが呪術だ。
一般の冒険者や非戦闘員には知らないという人も多いだろうが、呪術は単純な火力勝負が主な魔術とはわけが違う。
特に揃えた条件や代償によって威力を増す設置型と呼ばれる呪術の脅威はものによっては国家を揺るがすとまで言われている。
扱える人材は少ないとは言え、捕虜が自分の命と引き換えに敵の戦力を大きく削るなんて事例も、過去には何件かあるくらいなのだ。
国家の上層部やある程度教育を受けている人間なら、その脅威は知っているはずだ。
「殺せるものなら殺しておきたいが……何か対策をしてからでないとなぁ……」
やはりゾルもそのことには気が回っていたようで、考え込む素振りを見せているが、有効な策は思いつけないでいるようだった。
「こういう時のセオリーというか、マニュアルみたいのはないのか?」
そこで俺は気になっていたことを訊いてみることにした。
俺は長い間社会とは隔離された場所にいたから世間知らずな面がある。
そのせいで知らないだけかもしれないが、普通過去に大きな問題となった軍事的な事柄などは、同じような状況に陥った時のために対策マニュアルなどが作られるものではないだろうか。
流石に過去一度だけそういう事例があった、みたいな稀有な例のマニュアルならなくても仕方ないと思うが、今回のケースは俺がヴォルムから聞かされた話だけでも十件以上の事例がある。
何なら呪術がどういうタイプのものだったらこうしろ、みたいなところまで詳しいマニュアルが作られていてもおかしくないはずだ。
「……ないことはない。ただ、マニュアル通りに動くことが呪術の威力を高めてしまったことがあってな、迂闊にそれに沿った動きは取れないのだよ」
なるほど、それは盲点だった。
確かにマニュアルが作られれば、呪術師を捕らえた時の動きが統一される。
その内容が分かれば、より狭い条件付けをすることで威力を上げられる呪術は圧倒的な効力を発揮する術を発動できることになる。
ヴォルムから聞いた時はそこまで詳しい話をしてもらえなかったので知らなかったが、きっと以前にそういう事例があったのだろう。
しかも今回の敵はクリスタルによる遠隔地への侵攻や、大規模魔術をくらってからの回復、広範囲を汚染できる強力な魔術と呪術の混合攻撃など、今までにはなかった新たな脅威を見せつけている。
考えてみれば、迂闊に動けないのは当たり前のことだった。
そこで、俺は一つ提案をしてみることにした。
その内容は、多重結界による閉じ込め――言い換えれば封印と言っても良いかもしれない。
対象のあらゆるエネルギーを吸収し術の発動を許さず、自害もできないように徹底的に拘束する。
魔法陣を描いてしまえば基本的には中から吸い取ったエネルギーで起動し続けるし、外部から魔力を流し込める機構を作っておけば、誰でも維持できる。
外からの働きかけは全て通せるようにもできるし、そうすれば情報を引き出したりもできるだろう。
これの問題点と言えばただ俺が大変という部分に尽きるのだが、現状、ここで俺が大変な思いをしなければ、どうすることもできないだろう。
更なる被害が出たとしたら、そこでまた働く羽目になるのは目に見えている。
どっちにしろ俺が働くことになるのなら、被害は少ない方が良い。
それをゾルに伝えると、すぐにでも取り掛かってほしいとのことだった。
場所は軍の奴らに用意させるらしい。
魔法陣を描く道具はギルド持ちだそうだ。
そこで俺は、周りがまだ汚染されていたことを思い出した。
ここから離れるなら、浄化してからでないと軍や魔術師のみんなが危ない。
だが、呪術の無効化、浄化なんてことができる人間はそう多くない。
回復系統に含まれるため防御系よりは多いと思うが、それでもやはり状態異常や傷を治すのに比べたら需要がないのだ。
使える人間を探してくるのも面倒だし、俺がやってしまおう。
昨日も魔力が空になるまで戦ったのに、今日もそうなるとは。
俺はできるだけ広範囲に届く世に自分の魔力を伸ばしていき、浄化魔術を発動させる。
それによって軍や魔術師がいたところの魔法陣を維持するだけの魔力がなくなり、結界が消える。
俺とゾルの表面を覆っていた結界も消えた。
かろうじて魔族を拘束している結界は消えないように調整したが、暴れられでもしたらひとたまりもない。
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