「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第九十話 喪失
すみません! ちょっと長くなりました!
カタカタと骨が鳴るだけ。
そんな威圧感も緊張感もない咆哮が、広場に響いた。
目の前にいるのは、スケルトンドラゴン。
何があったのか、龍族と呼ばれる種族が死してなお生に縋ろうとした末に生まれる怪物だ。
龍族は通常、高い知能と社会性を備え魔物という区分はされていない。
だが、スケルトンドラゴンは高い戦闘能力はそのまま、理性や知性というものをすっかり失くしてしまっているために、人間はそれを魔物――それも特別警戒する必要がある凶悪な人類の敵と見なしている。
扱いは以前討伐したゴブリンロードと同じで、特別警戒リストに載っている魔物の一体だ。
もっとも、ゴブリンロードとは比べ物にならないくらいに強いのだが。
というのが基本的な情報であるが、スケルトンドラゴンという魔物は、その成り立ちが龍族の誇りを穢すものだとして、大抵は発生してすぐに近くの龍族に殺されてしまう。
そのおかげで人類は無駄な危険にさらされずに済んでいるわけだが、こうして相対してみると、過去戦った記録がほぼ残っていない、つまり敵の情報が一切ないということが、戦闘においていかに厳しい条件であるかが実感できた。
警戒心を高めてまっすぐに睨み合い、動けないでいるのがその良い証拠だ。
はっきり言って、こちらから仕掛けられるような余裕はなく、相手の初動に上手く合わせられるかは未知数といったところだった。
そんな俺の心の揺らめきを読んだのか、スケルトンドラゴンが遂に動き出した。
尻尾をゆっくりと持ち上げ、狙いを定めるかのようにユラユラと揺らし始めたのである。
どう見ても攻撃の予備動作。
俺は持ち上がった尻尾が叩き付けられることを想定して、頭上に障壁を張った。
しかし、ここでいきなり誤算が発生する。
予想以上に高速で振り下ろされた骨の鞭は一直線に俺に向かってくるわけではなく、俺の目の前、地面を叩くと見せかけてその寸前で軌道を変えこちらに曲がってきたのだ。
俺は何とか障壁を間に挿み、後ろへ跳ぶことで衝撃を逃がしたが、音速を軽く超える骨の鞭が作り出す衝撃はいとも容易く障壁を破り、俺の身体を大きく吹き飛ばした。
「「スマル!」」
モミジとユキの叫びが聞こえる。
派手に吹き飛んだせいで心配させてしまったようだが、俺は無事である。
防御力に関しては一級品、そう簡単に致命傷は負わないし、これくらいの衝撃はダメージを受けた内に入らない。
俺は追撃の気配を察知して、二人を安心させるためにもこれまた派手に俺がぶつかったことで生まれた瓦礫の中から飛び出した。
すると、俺の頭上を先ほどと同じように尻尾が通過し、瓦礫の山を砕いた。
まだスケルトンドラゴンの狙いは俺にあるようだ。
俺はその状況を好機と見て、手を出せないでいる二人に攻撃を行うように指示を出した。
防御力のある俺が敵の攻撃を引き付け、その間にモミジとユキが敵を討つ。
いわゆるタンクがヘイトを集めてタゲ取りをするという戦法、これは俺たちの必勝パターンだった。
本当に、この流れに持って行って負けたことは一度もない。
だが、それは今までの話。
単純に今まで戦って来た魔物が弱かっただけで、今目の前にいるような強大な敵を相手に通用する保証はどこにもないのだ。
それを理解しているのか、モミジとユキも迂闊に突っ込むようなことはしない。
俺がタゲ取りをしているとは言え、急に狙いが変わることだってあるのだ。
二人はスケルトンドラゴンに隙ができるのを待っていた。
だが、そんな俺たちの狙いがバレているのか、スケルトンドラゴンは振り回していた尻尾を一旦落ち着かせて、また様子見の姿勢に戻った。
頭の良い魔物ではなかったはずだが、これが元々龍族であったポテンシャルか。
俺はなかなか思い通りにいかない展開にもどかしさを感じる。
できるだけ素早く仕留めてしまいたいのに、一筋縄ではいかないようだ。
そこで今度は、俺が攻撃を仕掛けてみることにした。
防御面で不安はあるが、これならいくらか不意を突けるはずだ。
俺は以前源力で剣を作った時と同じように、武器を生成した。
相手は骨。切るための武器ではなく、叩くための武器――ハンマーだ。
俺は久々に握った武器を手に、空中に展開した障壁を足場にしてスケルトンドラゴンの頭を狙う。
当然迎撃するために尻尾が飛んできたり、噛みついてきたりするのだが、俺はその全てを避け、防ぎ、遂にハンマーを振り被った。
だが、これは本命の攻撃ではない。
スケルトンドラゴンが俺に集中している間に、俺は叩き切るための大剣を何本も作り上げた。
そして、ハンマーを振り下ろすと同時に、その全てを叩き付ける。
あからさまなハンマーの一撃は頭突きで相殺されたが、それに気を取られていたスケルトンドラゴンは、無数の大剣が生み出した斬撃――否、打撃の雨を無防備な状態でくらってしまう。
分かりやすいことに、骨が折れている。ダメージはちゃんと通っているようだ。
そして、怯んだスケルトンドラゴンに、モミジとユキが追い打ちをかける。
火は効きにくいから、それぞれが風邪属性と氷属性の妖術、それも様子を伺いながら力を溜めていたのか、彼女らが出せる最大出力の大技だった。
それらが胸部と脚部にヒットし完全に体勢を崩したスケルトンドラゴンに、俺はさらなる追撃を仕掛けるべく、握ったハンマーはそのままに、頭に向かって落下していった。
だが、その目論見は潰されることになる。
流石に特別警戒リストに載るだけあってこれだけの攻撃を受けてもまだまだ動けるようで、スケルトンドラゴンが追撃を拒むかのように暴れ始めたのだ。
無差別な破壊がスケルトンドラゴンを中心に渦巻き、簡単には近付けなくなる。
それどころか、その破壊の余波でさえ俺たちにとっては致命傷になりかねない狂暴さだ。
咄嗟に回避行動をとった俺たちは、丁度スケルトンドラゴンを挟んで反対側へと分断されてしまった。
これでは二人に何かあっても守ることができない。
何とかスケルトンドラゴンの気を引こうと、俺はその動きに集中する。
そのせいで、俺は気付くことができなかった。
恐らく、モミジとユキも同じようにスケルトンドラゴンに集中していたのだろう。
あれだけ怪しいと評していたクリスタルが、転移機能を持っているのだろうと推測していたクリスタルが、再び強い光を放っていたのだ。
「モミジ! ユキ!」
俺は感知に二人が引っ掛からないことに不安を覚え、クリスタルが見える場所まで移動する。
クリスタルの周囲を注視したが、収束する光の中に、二人の姿を捉えることはできなかった。
しかも、その直後、ただ暴れているだけだと思っていたスケルトンドラゴンが、クリスタルを砕き、それっきり動かなくなったのだ。
役目を終えたと言わんばかりにこちらを静観するスケルトンドラゴンには、確かにそれが以前誇り高き龍族であったことを思い出させるような風格があった。
「モミジ……? ユキ……?」
押し寄せる絶望感。
俺はそれを振り払うためか、それとも支配されたのか、一切の抵抗を見せないスケルトンドラゴンを感情に任せて叩き潰した。
「クソ……クソッ……!」
油断した。
例え死んだとしてもすぐに生き返らせることができる。
だからいくら相手が強かろうと最悪の事態にはならない、心のどこかでそう高を括っていた。
その結果がこれだ。
遠くに引き離されてしまえば俺のやれることなんてない。
俺は崩れ落ちた骨の山の上で、クリスタルの調査という依頼を完遂できなかったこと、そして何より、仲間を、大切な家族を二人も失ってしまったことを嘆くことしかできなかった。
以前告知していた通り、一旦、ここまでで更新を止めようと思います。
いわゆる休載ってやつですね。
来年三月頃には再開できると思いますので、それまでお待ちいただけると幸いです。
カタカタと骨が鳴るだけ。
そんな威圧感も緊張感もない咆哮が、広場に響いた。
目の前にいるのは、スケルトンドラゴン。
何があったのか、龍族と呼ばれる種族が死してなお生に縋ろうとした末に生まれる怪物だ。
龍族は通常、高い知能と社会性を備え魔物という区分はされていない。
だが、スケルトンドラゴンは高い戦闘能力はそのまま、理性や知性というものをすっかり失くしてしまっているために、人間はそれを魔物――それも特別警戒する必要がある凶悪な人類の敵と見なしている。
扱いは以前討伐したゴブリンロードと同じで、特別警戒リストに載っている魔物の一体だ。
もっとも、ゴブリンロードとは比べ物にならないくらいに強いのだが。
というのが基本的な情報であるが、スケルトンドラゴンという魔物は、その成り立ちが龍族の誇りを穢すものだとして、大抵は発生してすぐに近くの龍族に殺されてしまう。
そのおかげで人類は無駄な危険にさらされずに済んでいるわけだが、こうして相対してみると、過去戦った記録がほぼ残っていない、つまり敵の情報が一切ないということが、戦闘においていかに厳しい条件であるかが実感できた。
警戒心を高めてまっすぐに睨み合い、動けないでいるのがその良い証拠だ。
はっきり言って、こちらから仕掛けられるような余裕はなく、相手の初動に上手く合わせられるかは未知数といったところだった。
そんな俺の心の揺らめきを読んだのか、スケルトンドラゴンが遂に動き出した。
尻尾をゆっくりと持ち上げ、狙いを定めるかのようにユラユラと揺らし始めたのである。
どう見ても攻撃の予備動作。
俺は持ち上がった尻尾が叩き付けられることを想定して、頭上に障壁を張った。
しかし、ここでいきなり誤算が発生する。
予想以上に高速で振り下ろされた骨の鞭は一直線に俺に向かってくるわけではなく、俺の目の前、地面を叩くと見せかけてその寸前で軌道を変えこちらに曲がってきたのだ。
俺は何とか障壁を間に挿み、後ろへ跳ぶことで衝撃を逃がしたが、音速を軽く超える骨の鞭が作り出す衝撃はいとも容易く障壁を破り、俺の身体を大きく吹き飛ばした。
「「スマル!」」
モミジとユキの叫びが聞こえる。
派手に吹き飛んだせいで心配させてしまったようだが、俺は無事である。
防御力に関しては一級品、そう簡単に致命傷は負わないし、これくらいの衝撃はダメージを受けた内に入らない。
俺は追撃の気配を察知して、二人を安心させるためにもこれまた派手に俺がぶつかったことで生まれた瓦礫の中から飛び出した。
すると、俺の頭上を先ほどと同じように尻尾が通過し、瓦礫の山を砕いた。
まだスケルトンドラゴンの狙いは俺にあるようだ。
俺はその状況を好機と見て、手を出せないでいる二人に攻撃を行うように指示を出した。
防御力のある俺が敵の攻撃を引き付け、その間にモミジとユキが敵を討つ。
いわゆるタンクがヘイトを集めてタゲ取りをするという戦法、これは俺たちの必勝パターンだった。
本当に、この流れに持って行って負けたことは一度もない。
だが、それは今までの話。
単純に今まで戦って来た魔物が弱かっただけで、今目の前にいるような強大な敵を相手に通用する保証はどこにもないのだ。
それを理解しているのか、モミジとユキも迂闊に突っ込むようなことはしない。
俺がタゲ取りをしているとは言え、急に狙いが変わることだってあるのだ。
二人はスケルトンドラゴンに隙ができるのを待っていた。
だが、そんな俺たちの狙いがバレているのか、スケルトンドラゴンは振り回していた尻尾を一旦落ち着かせて、また様子見の姿勢に戻った。
頭の良い魔物ではなかったはずだが、これが元々龍族であったポテンシャルか。
俺はなかなか思い通りにいかない展開にもどかしさを感じる。
できるだけ素早く仕留めてしまいたいのに、一筋縄ではいかないようだ。
そこで今度は、俺が攻撃を仕掛けてみることにした。
防御面で不安はあるが、これならいくらか不意を突けるはずだ。
俺は以前源力で剣を作った時と同じように、武器を生成した。
相手は骨。切るための武器ではなく、叩くための武器――ハンマーだ。
俺は久々に握った武器を手に、空中に展開した障壁を足場にしてスケルトンドラゴンの頭を狙う。
当然迎撃するために尻尾が飛んできたり、噛みついてきたりするのだが、俺はその全てを避け、防ぎ、遂にハンマーを振り被った。
だが、これは本命の攻撃ではない。
スケルトンドラゴンが俺に集中している間に、俺は叩き切るための大剣を何本も作り上げた。
そして、ハンマーを振り下ろすと同時に、その全てを叩き付ける。
あからさまなハンマーの一撃は頭突きで相殺されたが、それに気を取られていたスケルトンドラゴンは、無数の大剣が生み出した斬撃――否、打撃の雨を無防備な状態でくらってしまう。
分かりやすいことに、骨が折れている。ダメージはちゃんと通っているようだ。
そして、怯んだスケルトンドラゴンに、モミジとユキが追い打ちをかける。
火は効きにくいから、それぞれが風邪属性と氷属性の妖術、それも様子を伺いながら力を溜めていたのか、彼女らが出せる最大出力の大技だった。
それらが胸部と脚部にヒットし完全に体勢を崩したスケルトンドラゴンに、俺はさらなる追撃を仕掛けるべく、握ったハンマーはそのままに、頭に向かって落下していった。
だが、その目論見は潰されることになる。
流石に特別警戒リストに載るだけあってこれだけの攻撃を受けてもまだまだ動けるようで、スケルトンドラゴンが追撃を拒むかのように暴れ始めたのだ。
無差別な破壊がスケルトンドラゴンを中心に渦巻き、簡単には近付けなくなる。
それどころか、その破壊の余波でさえ俺たちにとっては致命傷になりかねない狂暴さだ。
咄嗟に回避行動をとった俺たちは、丁度スケルトンドラゴンを挟んで反対側へと分断されてしまった。
これでは二人に何かあっても守ることができない。
何とかスケルトンドラゴンの気を引こうと、俺はその動きに集中する。
そのせいで、俺は気付くことができなかった。
恐らく、モミジとユキも同じようにスケルトンドラゴンに集中していたのだろう。
あれだけ怪しいと評していたクリスタルが、転移機能を持っているのだろうと推測していたクリスタルが、再び強い光を放っていたのだ。
「モミジ! ユキ!」
俺は感知に二人が引っ掛からないことに不安を覚え、クリスタルが見える場所まで移動する。
クリスタルの周囲を注視したが、収束する光の中に、二人の姿を捉えることはできなかった。
しかも、その直後、ただ暴れているだけだと思っていたスケルトンドラゴンが、クリスタルを砕き、それっきり動かなくなったのだ。
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「モミジ……? ユキ……?」
押し寄せる絶望感。
俺はそれを振り払うためか、それとも支配されたのか、一切の抵抗を見せないスケルトンドラゴンを感情に任せて叩き潰した。
「クソ……クソッ……!」
油断した。
例え死んだとしてもすぐに生き返らせることができる。
だからいくら相手が強かろうと最悪の事態にはならない、心のどこかでそう高を括っていた。
その結果がこれだ。
遠くに引き離されてしまえば俺のやれることなんてない。
俺は崩れ落ちた骨の山の上で、クリスタルの調査という依頼を完遂できなかったこと、そして何より、仲間を、大切な家族を二人も失ってしまったことを嘆くことしかできなかった。
以前告知していた通り、一旦、ここまでで更新を止めようと思います。
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