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「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第三章 第八十八話 作戦会議

 ご同行願う。
 冒険者ギルドの建物内、受付カウンターにいた職員さんにそう言われて、俺は事態を把握できないままその言葉に従う。
 いつも通りの調子を俺が出せていたら、きっと理由を聞くくらいのことはしたのだろう。
 だが、そうすることを拒むような、是非を言わせない迫力を放つ職員さんに気圧され、何も言い返すことができなかった。
 何やら声が漏れ出た感覚はあるが、それが何かの言葉を形作るはずもなく、ただただ気の抜けた、それこそ空気が抜けるついでに声帯を揺らしただけの音が俺の口から漏れた。

 せかせかと早歩きで建物の中を歩く職員さんを追いかけ、俺たちは『会議室』と書かれた扉の中に入る。
 そこ――いかにも会議室然とした机と椅子が並べられた部屋には五人、いつも受付カウンターやその他ギルド内の施設で見かける職員さんたちが集っていた。
 俺たちを連れて来た人を合わせて六人。パッと見ただけでは何のために集まっているのか、よく分からない集団だった。

「えっと、ここは……」

 とにかく現状把握。俺はそう判断し遠慮がちに質問を試みるが――、

「ほら、スマルさんたちも座ってください。緊急会議を始めますよ」

 答えるどころか、どうやらこの中では最年長と見て取れる職員さんに俺たちも席に着くよう促され、発言の自由はないと言わんばかりの勢いで緊急会議とやらが始まった。
 一体全体、何が起こっているのか。
 俺は街に魔物が攻めて来たというだけでだいぶ混乱しているのに、少しでも安心できればとやってきたこの場所で更なる困惑の種を植え付けられたのである。

「聞くしか、ないみたいね」
「……諦める、べき」

 モミジとユキも予期せぬ急展開について行けていない様子で抗議の声を上げようとしたみたいだが、緊迫した空気感に呑まれて、遂には何も言い出せないまま流れに逆らうことを諦めてしまった。
 こうなったら、彼女らの緊急会議とやらに付き合うしかない。
 協力できる部分にはとことん協力して、さっさと終わらせてしまおう。

「では早速、この街で起こっている事件――いえ、戦争への対策について、お話ししましょうか」
「戦争……」

 混乱に次ぐ混乱、焦燥。
 正直今の今まで俺は自分のことで一杯で、色んな方面に思考が回っていなかった。
 だからこの会議が何のために開かれるのか、それすらも良く分かっていない状態だったが、言われてみて、気付く。
 俺がここに来るまでに見た光景は、戦争が絡んでいる。
 それを解決するための作戦会議、つまりはそういうことなのだろう。

 現実を突きつけられて、俺は少しだけ冷静な心を取り戻す。
 ここに来た目的、本当に俺が今すぐにでも知りたい情報はおそらくこの会議の中では扱われない。
 だが、我儘を言ってまでそれを優先すべきかと考え、俺は口を噤んだ。
 まずは現状把握。その重要性は変わらない。
 さっきこの部屋に入って時とは違い、俺は落ち着いて職員さんの話を聞くことができた。

「そう、戦争。今街に魔物が大量に出現したのは、他でもない、魔王軍の仕業よ。どうして急に街中に現れたのかはギルドマスターと、その補佐数人で調べてもらっているわ」
「ここに集まってた冒険者にも話を聞いて回ったんだが……禍々しいクリスタルがあったとか、そこから魔物が出て来たとか、興味深い情報も得られたぜ」
「冒険者や自警団、軍も動員されて対処しているようだが、どうにも連携がうまく取れないようだ。戦闘が突発的に起こるのと、市民がまだ多く残っているのが障害になっている」
「それに、中々その魔物たちも強いみたいねぇ。緑や青級の冒険者は避難誘導に回ってもらった方が良いかもしれないわぁ」
「既に犠牲者が出ている。それも少なくはない数だ。攻めるより守ることを重視するのはどうだろうか?」
「そもそも、人手って足りているのでしょうか? 早く集まっていただいた方々にも指示を出さないと……」

 それぞれが集めてきた情報を共有し、そこからいくつかの提案が上がる。
 流石にこれだけ大きな街のギルドというだけあって、有能な人材が集まっているのだろう。
 この短時間で対策を立てられるだけの情報が集まっている。
 それに、不思議に思っていた、武力が必要になる作戦会議にギルマスやそれに準ずる実力者がいない理由も分かった。
 ここに俺が呼ばれたことについても、街に残っている冒険者の中で一番強い者を呼んだと考えれば納得できる。

 俺が感心しながら頷いていると、進行役を務めている職員さんが次はお前の番だと言わんばかりに、視線を送って来た。
 正直俺は情報を集めようと思ってここまで来ていないし、対策を考えるにしても作戦を立てたり軍を動かしたりといった類のことに明るいわけでもない。
 要は咄嗟に何か有用なことが言えるような人間ではないのだが、ここで黙り込んでは会議の進行に関わる。
 ひとまずはその場しのぎ、今までに出た意見をまとめてみることにした。

「冒険者は割に合わない仕事はしない。だから、魔物の強さを明確に示して、自信のある者に戦闘、それ以外には避難誘導をやらせるのが良いだろう。勿論、緊急時だから報酬は弾んでもらう」

 この場の誰もが辿り着いていただろう安直な対応。
 だが、案外緊急時にはこういう単純な動きをするのが成功の鍵だったりする。
 複雑な指示を出してもそれに沿いきれるわけがないからだ。
 そんなことは言うまでもないと踏んで、俺は周りの反応を待った。

 それから数秒、職員さんたちは各々考えるようなそぶりを見せ、目配せをすると、

「分かりました。その策を採用します」

 進行役の職員さんが俺の提案を『報酬を弾む』という部分まで含めて採用してくれた。
 冒険者にとってはありがたい話である。

「そこでスマルさんたちには私たちから指名依頼を出したいのですが、よろしいでしょうか」
「……内容による」

 と喜んでいると、指名依頼という聞き慣れない単語が飛び出した。
 この状況での指名依頼、断れるはずがないのを見越して言っている辺り、流石にやり手だと感心させられる。

「これから依頼として作戦を発表するのですが、その時に発表と煽りをやっていただけないかと。それとこの作戦のリーダー、怪しいクリスタルの調査もお願いします」

 報酬は弾みますから。
 それにしても多い上に恥ずかしい仕事内容に俺は固まることしかできなかった。


 それから数分後、会議を終えた俺は冒険者ギルドの建物内、少し高い所に上り、目の前に広がる人の群れを眺め、そして――、

「聞け! 俺は冒険者のスマルだ。遂にこの街にも戦争の火の粉が降りかかった。そこでギルドから緊急以来――『火の粉を振り払え』だ! 敵は街に出現した魔物、こいつらには少なくとも青級五人以上の戦力で挑んでくれ。市民を守るだけでも良い。それくらいには強い。戦えない奴は市民の避難誘導を。既に各所に軍や自警団が避難場所を作っている。勿論、どっちに回っても報酬はいつもより……分かるな? さぁ行けお前ら! 俺らの仕事場を魔族なんかに荒らさせるな!」

 大変不本意ながら大変恥ずかしい演説をしているのだった。



~コメント返信コーナー~

「的外れな会話」

序盤のスマルが神の力を使った後の場面に付いたコメントですね。
単純に私の実力不足という面もあるでしょうが、ヴォルムとの会話において、スマルや他キャラクターとヴォルムの間に認識の齟齬が生じることが珍しいことではないということも言っておきたいと思います。
お察しの通りヴォルムは神様と敵対できるくらいにはけた外れの存在です。
一般的に解明されていないようなこともたくさん知っているでしょう。
それらを当たり前の事象として話すヴォルムと、超常現象として話すその他大勢。会話の節々に違和感があるのは、こういうことが手伝っているのかもしれません。
無論、私自身のスキルアップも欠かさず行ってまいりますので、もうしばらくお付き合いください。

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