「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第三章 第五十四話 新たな街
今回より第三章開幕です!
ビーグ地区と呼ばれていた街から出た俺たちは、予定通り一日かけて隣町まで歩き、そこの冒険者ギルドでセオルド行きの乗合馬車の護衛依頼を受注した。
数日間に及ぶ依頼であったが、道中で盗賊などに襲われることはなく、魔物に関しても戦闘を面倒に思った俺がこっそり広範囲に魔物が寄り付かなくなる結界を張っていたために出会うことはおろか、この目で視認できる範囲に魔物が近付いてくることはなかった。
密かに魔物との戦闘を楽しみにしていたモミジとユキが少し機嫌を損ねたが、それが俺の仕業だとはバレなかったし、そうなると魔物に出会えなかったのは偶然として処理するしかなく、二人は不機嫌ながらも文句を言って駄々をこねるようなことはしなかった。
つまるところ、俺たちは数日間特に事件やトラブルに見舞われることなく、極めて安全かつスムーズにセオルドの街に辿り着くことができたのであった。
==========
「――報酬の銅貨です。枚数をご確認ください」
そう言って差し出されたトレーの上には、銅貨が五枚乗せられていた。
これはセオルドまで俺たちが乗ってきた乗合馬車の護衛依頼の達成報酬である。
一見すると少ないようにも思えるかもしれないが、実際には普通お金を払って乗る馬車にお金をもらって乗れているので俺たちは特しかしていない。
それほどに冒険者が用心棒として同乗しているというのは効果があることらしく、この依頼をギルドが積極的に宣伝するようになってからは乗合馬車が盗賊や魔物に襲われる件数が目に見えて減っているようだ。
「……四、五っと。間違いはなさそうだな」
そういう、犯罪行為なんかの被害が、そもそも起こらなくなって減るというのは、とても良いことだ、なんてことを考えながら、俺は報酬の銅貨を路銀入れにしまう。
「では、ギルドカードの提示をお願いします」
指示に従ってギルドカードを差し出すと、ギルド職員のお姉さんが魔道具にそれをかざした。
見た目が完全にコンビニなどでICカードを利用した時のそれなのだが、そんなことを言っても伝わる人間がここにはいないため、心の中に留めておいた。
いつか同郷の人間に会った時にこの話でもして盛り上がるとしよう。
まぁ、盛り上がるかどうかと言われたら大して面白い話でもないような気もするのだが。
そういうことこそ心にしまって出さないようにしておこうか。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
新たな楽しみ――と言えるのかは微妙なところだが、とにかく新たな目標のような何かが生まれたところで、俺たちは職員さんから返却されたギルドカードを手に冒険者ギルドを後にするのだった。
建物から出ると、なるほど確かにここは首都なのだろうと納得できる光景が目の前に広がっていた。
小さな馬車なら三台横に並べるくらいに広い道路は平らに舗装されているし、そこを行き交う人は行事があるわけでもないのに夏のプールのように込み合っていて、あっちへこっちへ各々が目指す方向へと歩いていた。
三人でバラバラに突入したのなら迷子は必至、フォールに至っては無事に出てこれるか不安になるくらいの人ごみだ。
それでいてたまに馬車が通る時だけ人がいなくなるものだから不思議なものだ。
よく冒険者ギルドまで来ることができたなと本日二度目の衝撃に若干引きながらも、俺たちは宿を探すことにした。
この街――セオルドは主に三つの地区に分かれていて、まず中心にある城を囲むように貴族街と呼ばれる地区がある。
ここには貴族の屋敷や高級な店が立ち並び、世界各地に店舗を構える有名な企業の本店が何店もあったりする。
基本的に一般市民は入ることがないし、冒険者にしたってそれなりに身だしなみの整った冒険者の一部が特別に依頼を受けて中に入ることがあるくらいでほとんどの人間には縁がないのだ。
それから円状になっている街の西半分は住宅街と呼ばれている。
この街に住んでいる人間のほとんどがその地区に住居を持っている他、一般人にも利用しやすいような店が並んでいる。
とは言え首都の土地となればそれなりに地価は高いため、そこに住んでいるという時点で地方に住む人と比べたら金持ちであることは確かであり、また利用しやすい店と言ってもそれなりの金持ちが相手であるために値段や品質は高めに設定されている。
貴族街に近いところには世界に名を轟かす大商会の本部もあったりする。
もう反対側は冒険者や外部から来た商人、観光客が集まることから冒険者街やら観光街など色々な呼ばれ方をしている。冒険者ギルドがあり俺たちが今いるのもこの地区だ。
外部から来る人が多いため、宿屋や食事処が多いのは勿論、当然人通りも一番多い地区であることを忘れてはならない。
人通りが多く外部からの人間が多い。つまり治安が悪い地区でもあるここには犯罪を取り締まる警備隊や国から派遣されてきた軍人などが常駐するようになっており、街の至るところで目を光らせている。
モミジもユキも見た目は良いから、俺も人攫いなんかには注意しておかないとな。
つまり俺たちはこのままこの地区内で良さそうな宿屋がないか探せば良いというわけだが、目の前の喧騒を見る限りではどう考えてもそれは簡単なことではなかった。
「どうしようか」
それはどうしようもないと思ったからこそ俺の口からこぼれ出た言葉であるが、それを聞いていた二人はどうも単純に何か提案はないかという問いだったと解釈したようで、各々意見を言ってくれた。
「宿屋探すんでしょ? だったらこの人ごみを抜けていくしかないと思うけど」
「……はぐれないように、手、繋ぐ? おんぶでも、良いよ?」
やはりこの濁流のような道を進んでいくしかないらしい。
どうにも楽をしようとしているようにも聞こえる提案もあるが、今くらいは仕方ないかと俺はその提案を呑むことにした。
「じゃ、ユキを負ぶって、フォールを抱いて、モミジと手を繋いで突撃するってのはどうだ?」
モミジが不満あり気な顔をしていたが、それ以外には特に反対意見はない。
俺は屈んでフォールを抱き抱えると同時に背中にユキを乗せ、モミジの手を取って人の流れの中に入って行った。
実を言うとはぐれてしまったとしても探知ができるのでそこまで困るようなことにはならないのだが、面白くないので言わないでおく。
ビーグ地区と呼ばれていた街から出た俺たちは、予定通り一日かけて隣町まで歩き、そこの冒険者ギルドでセオルド行きの乗合馬車の護衛依頼を受注した。
数日間に及ぶ依頼であったが、道中で盗賊などに襲われることはなく、魔物に関しても戦闘を面倒に思った俺がこっそり広範囲に魔物が寄り付かなくなる結界を張っていたために出会うことはおろか、この目で視認できる範囲に魔物が近付いてくることはなかった。
密かに魔物との戦闘を楽しみにしていたモミジとユキが少し機嫌を損ねたが、それが俺の仕業だとはバレなかったし、そうなると魔物に出会えなかったのは偶然として処理するしかなく、二人は不機嫌ながらも文句を言って駄々をこねるようなことはしなかった。
つまるところ、俺たちは数日間特に事件やトラブルに見舞われることなく、極めて安全かつスムーズにセオルドの街に辿り着くことができたのであった。
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「――報酬の銅貨です。枚数をご確認ください」
そう言って差し出されたトレーの上には、銅貨が五枚乗せられていた。
これはセオルドまで俺たちが乗ってきた乗合馬車の護衛依頼の達成報酬である。
一見すると少ないようにも思えるかもしれないが、実際には普通お金を払って乗る馬車にお金をもらって乗れているので俺たちは特しかしていない。
それほどに冒険者が用心棒として同乗しているというのは効果があることらしく、この依頼をギルドが積極的に宣伝するようになってからは乗合馬車が盗賊や魔物に襲われる件数が目に見えて減っているようだ。
「……四、五っと。間違いはなさそうだな」
そういう、犯罪行為なんかの被害が、そもそも起こらなくなって減るというのは、とても良いことだ、なんてことを考えながら、俺は報酬の銅貨を路銀入れにしまう。
「では、ギルドカードの提示をお願いします」
指示に従ってギルドカードを差し出すと、ギルド職員のお姉さんが魔道具にそれをかざした。
見た目が完全にコンビニなどでICカードを利用した時のそれなのだが、そんなことを言っても伝わる人間がここにはいないため、心の中に留めておいた。
いつか同郷の人間に会った時にこの話でもして盛り上がるとしよう。
まぁ、盛り上がるかどうかと言われたら大して面白い話でもないような気もするのだが。
そういうことこそ心にしまって出さないようにしておこうか。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
新たな楽しみ――と言えるのかは微妙なところだが、とにかく新たな目標のような何かが生まれたところで、俺たちは職員さんから返却されたギルドカードを手に冒険者ギルドを後にするのだった。
建物から出ると、なるほど確かにここは首都なのだろうと納得できる光景が目の前に広がっていた。
小さな馬車なら三台横に並べるくらいに広い道路は平らに舗装されているし、そこを行き交う人は行事があるわけでもないのに夏のプールのように込み合っていて、あっちへこっちへ各々が目指す方向へと歩いていた。
三人でバラバラに突入したのなら迷子は必至、フォールに至っては無事に出てこれるか不安になるくらいの人ごみだ。
それでいてたまに馬車が通る時だけ人がいなくなるものだから不思議なものだ。
よく冒険者ギルドまで来ることができたなと本日二度目の衝撃に若干引きながらも、俺たちは宿を探すことにした。
この街――セオルドは主に三つの地区に分かれていて、まず中心にある城を囲むように貴族街と呼ばれる地区がある。
ここには貴族の屋敷や高級な店が立ち並び、世界各地に店舗を構える有名な企業の本店が何店もあったりする。
基本的に一般市民は入ることがないし、冒険者にしたってそれなりに身だしなみの整った冒険者の一部が特別に依頼を受けて中に入ることがあるくらいでほとんどの人間には縁がないのだ。
それから円状になっている街の西半分は住宅街と呼ばれている。
この街に住んでいる人間のほとんどがその地区に住居を持っている他、一般人にも利用しやすいような店が並んでいる。
とは言え首都の土地となればそれなりに地価は高いため、そこに住んでいるという時点で地方に住む人と比べたら金持ちであることは確かであり、また利用しやすい店と言ってもそれなりの金持ちが相手であるために値段や品質は高めに設定されている。
貴族街に近いところには世界に名を轟かす大商会の本部もあったりする。
もう反対側は冒険者や外部から来た商人、観光客が集まることから冒険者街やら観光街など色々な呼ばれ方をしている。冒険者ギルドがあり俺たちが今いるのもこの地区だ。
外部から来る人が多いため、宿屋や食事処が多いのは勿論、当然人通りも一番多い地区であることを忘れてはならない。
人通りが多く外部からの人間が多い。つまり治安が悪い地区でもあるここには犯罪を取り締まる警備隊や国から派遣されてきた軍人などが常駐するようになっており、街の至るところで目を光らせている。
モミジもユキも見た目は良いから、俺も人攫いなんかには注意しておかないとな。
つまり俺たちはこのままこの地区内で良さそうな宿屋がないか探せば良いというわけだが、目の前の喧騒を見る限りではどう考えてもそれは簡単なことではなかった。
「どうしようか」
それはどうしようもないと思ったからこそ俺の口からこぼれ出た言葉であるが、それを聞いていた二人はどうも単純に何か提案はないかという問いだったと解釈したようで、各々意見を言ってくれた。
「宿屋探すんでしょ? だったらこの人ごみを抜けていくしかないと思うけど」
「……はぐれないように、手、繋ぐ? おんぶでも、良いよ?」
やはりこの濁流のような道を進んでいくしかないらしい。
どうにも楽をしようとしているようにも聞こえる提案もあるが、今くらいは仕方ないかと俺はその提案を呑むことにした。
「じゃ、ユキを負ぶって、フォールを抱いて、モミジと手を繋いで突撃するってのはどうだ?」
モミジが不満あり気な顔をしていたが、それ以外には特に反対意見はない。
俺は屈んでフォールを抱き抱えると同時に背中にユキを乗せ、モミジの手を取って人の流れの中に入って行った。
実を言うとはぐれてしまったとしても探知ができるのでそこまで困るようなことにはならないのだが、面白くないので言わないでおく。
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コメント
ノベルバユーザー570214
得が特になってないですか?