「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
閑話四 観光・後
観光するのも良いが、俺たちがするべきことは他にもあることを忘れてはいけない。
この街を出て行く前に、お世話になった人たちに挨拶をして回るのだ。
早速、俺たちは冒険者ギルドに向かった。
ここにはお世話になった人がたくさんいる。
ギルドマスターのマートスをはじめとする職員の人たちにはギルドカード作成から依頼の受注、その他説明など新米冒険者として色々と助けられることが多かった。
中にはゴブリンロードを見て興奮してしまう変な、と言うか少し危ない雰囲気の職員もいたが、それでも力になってくれたことには変わりない。
それから作業場にいたマッチョ三人組も忘れてはならない。
初めて見た時は驚いたし今でも見た目は怖いと思うが、一日であれだけの量のゴブリンを解体してくれたのだ。
作業風景は見ていないが、きっと立派な筋肉を生かして手際良く解体してくれたのだろう。
いつも通り正面の入り口から入り、俺たちは依頼を受注するのとは別にある相談窓口のような役割を持ったカウンターに向かった。
そこでギルマスやお世話になった職員さん、作業員の人たちと話せないかと相談してみるのだ。
しかし、俺たちが目指したカウンターに辿り着く前に、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
「スマルさーん! モミジさんにユキさんもー!」
声とテンションの高さでなんとなく分かってしまったが、呼ぶ声がした方に目を向けると、ゴブリンロードで大興奮していたいつかの変人が明るい笑顔でこちらに向けて手を振っていた。
今日は何も狩ってきていないし、これから狩る予定もないが、なぜあんなにも嬉しそうにしているのか。
俺は一種の気味悪さを感じて目を逸らした。
逸らした先にいたモミジとユキ、それからいつも冷静で凛としているフォールまで露骨に嫌な顔をしていた。
その後すぐ、結局その職員の所に行った俺たちは、いきなり謎の応援してます宣言を受け、困惑しながらも街を出て行く前に挨拶しに来た旨を伝えた。
もっと活躍が見たかったと職員さんは酷く残念そうにしていたが、残って欲しいとかそういう類の言葉は一切口にせず、むしろ俺たちの背中を押すような言葉をかけてくれた。
変人であることには変わりないが、それ以上にギルド職員なのだとちょっとだけ関心した。
「では、今日もまた作業場に集まりましょうか」
そう言って提案する姿を見ている限りでは普通に仕事ができるようなのだ。
なぜああなってしまったのだろうかと、答えなど一生かけても出てこないだろう疑問を抱え、俺たちはその提案に乗った。
作業場には相変わらずマッチョの作業員が三人いた。
今日も元気に解体作業中かと思いきや、どうやら今ある作業はもう終わらせているようで、では何をしているのかと見てみると、三人で仲良くトランプのようなカードゲームをしていた。
「私はギルドマスターを呼んできます」
先ほどからお仕事モードの職員さんがそう言って部屋から出て行くと、作業員のマッチョ三人衆が俺たちの存在に気付いたようで、一番背の高いマッチョが何か用かと言いたげに目を細めた後、驚いたような顔で手をポンと叩いた。
「お前ら、あの時のパーティじゃねえか。今日はどうしたんだい? また何か狩ってきたのかい?」
三人とも暇だったのか仕事がやってきたと嬉しそうにしている。
だが、今日は解体を頼みに来たのではなく、お別れを言いに来たのだ。
ギルマスが来てから一括で説明を済ませてしまいたかったが、まだ来そうにないので、今日は何のためにやってきたのか、理由を話した。
すると、今度は二番目に背の高いマッチョが口を開いた。
「そうか、それは残念だな……。今日は大物の解体ができそうだと期待したんだがな」
そう言われても、俺たちは今解体できるような素材を何一つとして持っていない。
それに関してはこれから出て行こうというのに持っているのはどう考えてもおかしいので仕方ないと思っているのだが、人が残念だという時の顔は見ていて気持ちの良いものではなかった。
会話が途切れてしまったその時、タイミングよく扉が開く音がした。
「ギルドマスターを連れてきました」
「こんにちは、作業場で君たちが待っていると聞いたからまた何かやってくれたのかと思いましたが、どうやらそういうわけではなさそうですね」
職員さんに連れられて走ってきたのか、真面目な雰囲気が漂うギルマスことマートスのモノクルが少しずれている。
その位置を調節しながら、マートスはでは今日は何用でと訊いてくる。
「特にこれといった用があってきたわけじゃないんだが、そろそろこの街を出て行こうと思っててな、挨拶しに来たんだ」
俺の返答を聞き、マートスは一瞬驚いたような顔を見せると、何度か頷いて見せた。
やはりこっちの世界ではそういうことをする習慣がないのだろうか、俺は珍しいことなのかと尋ねてみた。
「珍しいというか、こんなことをしているのはギルマスになる前も含めて知っている限りでは君くらいなのでね」
マートスは笑いながらそう言う。
少ないだろうとは思っていたが、まさか俺しか知らないとは。今度は俺が驚く番だった。
マートスは驚く俺に追い打ちをかけてくる。
「あ、そういえば、この前は言い忘れてしまったような気がするのですが、ゴブリンロードを倒していただきましたし、ギルドカードを赤色にグレードアップしておきましょうか」
俺たちの階級は現在緑。
これは冒険者になりたての頃――今もなりたてと言えばなりたてだったのだが――から変わらずそのままだ。
ゴブリンロードを倒したのは確かに凄いことなのかもしれないが、それだけだ。
青を通り越して赤まで階級を上げるほどのことなのかと俺は疑問を抱く。
隠してはいなかったが、マートスは俺の様子を見て説明不足だと思ったのか詳しい話をしてくれた。
「確かに一度きりの功績です。他の依頼と言っても数が少なく実力を測るのには不十分でしょう。ですが、ゴブリンロードに挑むというだけでその勇気は称賛に値するのですよ。死んでいたならそれは蛮勇というものでしょうが、結果として怪我人すら出さなかったのは、もっと褒められても良いはずのことです。それに、戦闘能力に関しては私が見る限りでは赤とは言わずもっと上の階級の人とも張り合えるレベルです。経験がないということで赤に留めておきますが、この調子ならすぐに銀――いや、金にもなれるでしょう」
少しだけいつもより熱く語ってくれたマートス。
なんだか俺もちょっと恥ずかしい気分になる。
それから、作業員マッチョたちに別れの挨拶をし、ギルマスと職員、俺たちはカウンターに行ってギルドカードの更新を行った。
緑だったカードは淡い光を放ちながら青くなっていき、そのまま青は通り越して薄めの赤色になった。
赤というよりはメタリックピンクに近い感じだ。
いよいよお別れ。
マートスはこれで一人前ですねと笑ってくれた。
職員さんも、マートスがいるからか最後は真面目な雰囲気で頑張ってくださいと言う。
俺はまた戻ってこようという気持ちを更に強め、冒険者ギルドを後にした。
現在、この作品とは別の原稿を優先しなくてはならない状況にあり、時間が取れません。
一緒に出すと言っていた登場人物紹介に関しては、申し訳ないのですが、次週更新時に上げようと思います。
この街を出て行く前に、お世話になった人たちに挨拶をして回るのだ。
早速、俺たちは冒険者ギルドに向かった。
ここにはお世話になった人がたくさんいる。
ギルドマスターのマートスをはじめとする職員の人たちにはギルドカード作成から依頼の受注、その他説明など新米冒険者として色々と助けられることが多かった。
中にはゴブリンロードを見て興奮してしまう変な、と言うか少し危ない雰囲気の職員もいたが、それでも力になってくれたことには変わりない。
それから作業場にいたマッチョ三人組も忘れてはならない。
初めて見た時は驚いたし今でも見た目は怖いと思うが、一日であれだけの量のゴブリンを解体してくれたのだ。
作業風景は見ていないが、きっと立派な筋肉を生かして手際良く解体してくれたのだろう。
いつも通り正面の入り口から入り、俺たちは依頼を受注するのとは別にある相談窓口のような役割を持ったカウンターに向かった。
そこでギルマスやお世話になった職員さん、作業員の人たちと話せないかと相談してみるのだ。
しかし、俺たちが目指したカウンターに辿り着く前に、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
「スマルさーん! モミジさんにユキさんもー!」
声とテンションの高さでなんとなく分かってしまったが、呼ぶ声がした方に目を向けると、ゴブリンロードで大興奮していたいつかの変人が明るい笑顔でこちらに向けて手を振っていた。
今日は何も狩ってきていないし、これから狩る予定もないが、なぜあんなにも嬉しそうにしているのか。
俺は一種の気味悪さを感じて目を逸らした。
逸らした先にいたモミジとユキ、それからいつも冷静で凛としているフォールまで露骨に嫌な顔をしていた。
その後すぐ、結局その職員の所に行った俺たちは、いきなり謎の応援してます宣言を受け、困惑しながらも街を出て行く前に挨拶しに来た旨を伝えた。
もっと活躍が見たかったと職員さんは酷く残念そうにしていたが、残って欲しいとかそういう類の言葉は一切口にせず、むしろ俺たちの背中を押すような言葉をかけてくれた。
変人であることには変わりないが、それ以上にギルド職員なのだとちょっとだけ関心した。
「では、今日もまた作業場に集まりましょうか」
そう言って提案する姿を見ている限りでは普通に仕事ができるようなのだ。
なぜああなってしまったのだろうかと、答えなど一生かけても出てこないだろう疑問を抱え、俺たちはその提案に乗った。
作業場には相変わらずマッチョの作業員が三人いた。
今日も元気に解体作業中かと思いきや、どうやら今ある作業はもう終わらせているようで、では何をしているのかと見てみると、三人で仲良くトランプのようなカードゲームをしていた。
「私はギルドマスターを呼んできます」
先ほどからお仕事モードの職員さんがそう言って部屋から出て行くと、作業員のマッチョ三人衆が俺たちの存在に気付いたようで、一番背の高いマッチョが何か用かと言いたげに目を細めた後、驚いたような顔で手をポンと叩いた。
「お前ら、あの時のパーティじゃねえか。今日はどうしたんだい? また何か狩ってきたのかい?」
三人とも暇だったのか仕事がやってきたと嬉しそうにしている。
だが、今日は解体を頼みに来たのではなく、お別れを言いに来たのだ。
ギルマスが来てから一括で説明を済ませてしまいたかったが、まだ来そうにないので、今日は何のためにやってきたのか、理由を話した。
すると、今度は二番目に背の高いマッチョが口を開いた。
「そうか、それは残念だな……。今日は大物の解体ができそうだと期待したんだがな」
そう言われても、俺たちは今解体できるような素材を何一つとして持っていない。
それに関してはこれから出て行こうというのに持っているのはどう考えてもおかしいので仕方ないと思っているのだが、人が残念だという時の顔は見ていて気持ちの良いものではなかった。
会話が途切れてしまったその時、タイミングよく扉が開く音がした。
「ギルドマスターを連れてきました」
「こんにちは、作業場で君たちが待っていると聞いたからまた何かやってくれたのかと思いましたが、どうやらそういうわけではなさそうですね」
職員さんに連れられて走ってきたのか、真面目な雰囲気が漂うギルマスことマートスのモノクルが少しずれている。
その位置を調節しながら、マートスはでは今日は何用でと訊いてくる。
「特にこれといった用があってきたわけじゃないんだが、そろそろこの街を出て行こうと思っててな、挨拶しに来たんだ」
俺の返答を聞き、マートスは一瞬驚いたような顔を見せると、何度か頷いて見せた。
やはりこっちの世界ではそういうことをする習慣がないのだろうか、俺は珍しいことなのかと尋ねてみた。
「珍しいというか、こんなことをしているのはギルマスになる前も含めて知っている限りでは君くらいなのでね」
マートスは笑いながらそう言う。
少ないだろうとは思っていたが、まさか俺しか知らないとは。今度は俺が驚く番だった。
マートスは驚く俺に追い打ちをかけてくる。
「あ、そういえば、この前は言い忘れてしまったような気がするのですが、ゴブリンロードを倒していただきましたし、ギルドカードを赤色にグレードアップしておきましょうか」
俺たちの階級は現在緑。
これは冒険者になりたての頃――今もなりたてと言えばなりたてだったのだが――から変わらずそのままだ。
ゴブリンロードを倒したのは確かに凄いことなのかもしれないが、それだけだ。
青を通り越して赤まで階級を上げるほどのことなのかと俺は疑問を抱く。
隠してはいなかったが、マートスは俺の様子を見て説明不足だと思ったのか詳しい話をしてくれた。
「確かに一度きりの功績です。他の依頼と言っても数が少なく実力を測るのには不十分でしょう。ですが、ゴブリンロードに挑むというだけでその勇気は称賛に値するのですよ。死んでいたならそれは蛮勇というものでしょうが、結果として怪我人すら出さなかったのは、もっと褒められても良いはずのことです。それに、戦闘能力に関しては私が見る限りでは赤とは言わずもっと上の階級の人とも張り合えるレベルです。経験がないということで赤に留めておきますが、この調子ならすぐに銀――いや、金にもなれるでしょう」
少しだけいつもより熱く語ってくれたマートス。
なんだか俺もちょっと恥ずかしい気分になる。
それから、作業員マッチョたちに別れの挨拶をし、ギルマスと職員、俺たちはカウンターに行ってギルドカードの更新を行った。
緑だったカードは淡い光を放ちながら青くなっていき、そのまま青は通り越して薄めの赤色になった。
赤というよりはメタリックピンクに近い感じだ。
いよいよお別れ。
マートスはこれで一人前ですねと笑ってくれた。
職員さんも、マートスがいるからか最後は真面目な雰囲気で頑張ってくださいと言う。
俺はまた戻ってこようという気持ちを更に強め、冒険者ギルドを後にした。
現在、この作品とは別の原稿を優先しなくてはならない状況にあり、時間が取れません。
一緒に出すと言っていた登場人物紹介に関しては、申し訳ないのですが、次週更新時に上げようと思います。
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