「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。

烏賊月静

第二章 第四十六話 お話

 ゴブリンロードを討伐してから二日後、今日も特に依頼をこなそうという気はなかったので、依頼を受注する人の数が減ってきた昼前を狙って俺たちはギルドに向かった。
 その道中で朝食代わりに飲み食いしたせいで予定よりも若干到着が遅くなってしまったが、特に時刻を設定して待ち合わせをしている訳ではないので気にするようなことではないだろう。

 そんなことを考えながらギルドの入り口を通ると、そこからよく見える位置にアイルとシーナが座って待っていた。
 向こうからも入り口が良く見えるようで、二人はすぐに俺たちに気付くと手を振り、その存在をアピールしてくる。
 そんなことしなくてももう気付いてるのだが、結局その手は俺たちと二人の距離が一メートルほどになるまで止まらなかった。

「よ、スマル。元気にしてたか?」
「一昨日ぶりだねー」

 二人はそんなことを言いながら立ち上がる。
 パーティメンバーが集まったから、さっそくギルマスに会いに行こうという意思表示だろうか。

「元気も元気。絶好調よ」
「一昨日ぶりー」
「……ぶりー」

 俺たちも挨拶を返すが、それ以上会話は繋がらず、

「それじゃあ、行こうか」

 失念しがちではあるが、一応このパーティのリーダーであるアイルのその言葉で俺たちは移動を開始した。

「そういえば、お前らはいつごろからここにいたんだ?」

 カウンターに着く寸前、ふと気になって訊いてみる。

「きっと朝一で来ることはないだろうと思ってな。俺たちもあそこに座ってたのはついさっきからだ」

 朝早くからいたのなら少しは謝ろうかと思っていたのだが、アイルは割と自信をもって早く来なかったようである。
 俺たちが自分のペースでここに向かったのに対し、合わせるように動いてくれたというのは、それはそれで感謝すべきことだ。

「さすがリーダー、分かってるぅ」

 なんだか煽っているような言い方になってしまったが、アイルなら俺が何を言いたかったのか察してくれるはずだろう。
 特にそれ以上は言葉を付け加えたりはしなかった。


 カウンターに着き、アイルが職員に話しかけようとすると、それより先に職員の方から声がかかった。
 なんだと思って見てみると、二日前に俺たちの対応をしてくれた職員さんが目を輝かせ、とても興奮した様子でカウンターから乗り出してきていた。

「皆様! お待ちしていました! 皆様がよろしければすぐにでもご案内しますが、いかがなさいましょうか」

 鼻息を荒げて迫る職員さんにアイルはコクコクと頷くことで返事をし、周りにいた冒険者はその様子を見て少し引いているような雰囲気だった。

「それでは、作業室にどうぞ!」

 それでもなお、周りのことなど見えていないという風に勢いの衰えない職員さんは、バタバタとカウンターから出てきて俺たちを案内してくれた。

「あれ、支部長室に行くんじゃないのか?」

 一昨日、マートスは確か支部長室に通すと言っていた。
 俺はその時大事な話をするのだろうからと何の疑問も抱かなかったが、何か問題があったのだろうか。

「初めはそうすると言っていたのですが、素材の引き取りも一緒に済ませてしまおうということになりまして」
「なるほど」

 あれだけ多くのゴブリンを解体したのだ。
 それは多くの素材が出たことだろう。
 現時点ではその殆どをギルドに売るつもりでいるのだが、中にはギルド以外に売った方が高く売れるものや、何か便利なことに使えるものがあるはずだ。
 素材を持ち込んで何かを作ってもらうというような形態でやっている店――何をどうしてくれるのかなど詳しいことは何も知らないが――もあると聞いたし、できる限り利益が出るように素材選びをしたいものだ。


 そんなこんなで作業室まで行くと、どこで俺たちが到着したという情報を聞いたのか、そこには既にマートスや作業員の人など、これから話をするのに必要な人物が揃っていた。

「こんにちは、皆さん。改めまして、私がこのギルドの支部長――マートスです。本日はお集まりいただきありがとうございます」

 全員集まったことが確認されると、マートスが話を始める。
 思っていたよりも固い感じだ。

「と、固い雰囲気で始めましたが、今回は冒険者が多く参加しています。本来はもっと真面目に話し合いをするべき内容ではあるのですが、私も元冒険者の身として、固すぎるのがやり辛いことを知っています。形式よりもやり易さを重視してもっと砕けた雰囲気でやりましょう」

 と思っていたら、マートスはそんなことを言い出した。
 これはきっと彼にとっては場を和ませるためのジョークのつもりだったのだろうが、話し初めの語調があまりにも固かったから、また、それがやけに似合っていたから、俺たち聞いていた側はその急な空気の変化に置いて行かれ、何とも微妙な間ができてしまった。
 全体的にクールな印象のマートスだが、この滑り出しには焦ったようで、表情は崩さなかったがあからさまな咳払いを挟んでから本題に入った。

「……本題に入りましょうか。まず、アイルさんが受けていた依頼の報酬ですが……」

 これはゴブリン五体につき銅貨三枚という依頼だったが、今回俺たちが狩ったゴブリンは通常種百三十二体、上位種十七体、亜種二十一体だったため、銅貨の枚数は百二枚だった。
 これに、危険度の高い上位種と亜種を討伐したことへのボーナス――上位種や亜種は一体につき銅貨一枚プラス――が追加され、最終的に銅貨百五十枚ぴったりになった。
 ちなみに、ゴブリンロードも上位種に含まれるのだが、色々と桁違いだという理由でここではカウントしていない。

「何か異論がなければこのまま依頼達成とさせていただきますが、何かありますか?」

 そもそも依頼の相場がまだよく分かっていない俺、モミジ、ユキには当然異論などないし、アイルとシーナを見ても二人揃って驚いた顔をするだけで何も言い出すことはなかった。

「それでは次……」

 それからはマッチョの作業員たちも交え、素材の買い取りや、解体費についての話をした。
 魔力のこもった角や上位種特有の強靭な皮膚など、案外売れるものが多く、解体費を差し引いてもその合計額は銀貨二百十枚に達した。

 そして、最後にゴブリンロード討伐に対する報酬の話に入る。

「これに関しては、単純にお金を渡して終わりという話ではありません。ゴブリンロードのような強力な魔物が討伐されたという情報がどれだけ世界に影響を与えるか、その当人であるスマルさんがどうなるか、ここからが最重要事項ですので、心して聞いてください」

 マートスの性質なのか、砕けた雰囲気は結局固く真面目な空気に塗り替えられてしまった。



2018/7/9  報酬額他修正

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品