「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第二章 第三十七話 冒険の誘い
「なぁ、あんたら。門の外に行くなら、俺らと組んで魔物狩りでもしねぇか?」
そう言ったのは男女一人ずつの二人組の冒険者。
男の方はライトアーマーを装備し、背中にはその軽装に似合わない両手剣を背負っていて、女の方は少し大きめのローブを羽織り、杖は見えないがいかにも魔術師ですといった格好であった。
二人とも青みがかってはいるが黒に近い髪色で、背丈は女と俺が同じくらい、男は頭一つ分大きいくらいだろう。
返事が気になるのか、期待を込めた眼差しをこちらに向けていた。
俺たちの話を勝手に聞いていたことや、そもそも誰なのかという不満や疑問はあったが、いきなり喧嘩腰で対応しても良いことはない。
とりあえず話を聞いてみることにした。
そうしないと仲間内での相談もできたものではないからな。
「別に内容によっては良いんだが……いきなり声かけてきた奴らにホイホイ付いて行くとは思ってないよな?」
自分でも思っていた以上に高圧的になってしまったが、相手方が気にしていなさそうなので俺も気にしないでおく。
「あぁ、悪い悪い。自己紹介がまだだったな。俺はアイル。こっちはシーナだ。ほれギルドカード」
男の方がアイル。女の方はシーナというらしく、その証拠のとして出しているつもりなのか、二人はギルドカードを俺たちに見せてきた。
俺たちと同じく緑色のそれには確かに言われた通りの名前と、職業欄には「冒険者」の他にアイルには「剣士」シーナには「魔術師」と書いてあった。
「剣士と、魔術師か」
「両手剣で重い一撃を入れて行くのが俺のスタイルだ」
「私も高火力魔術で一掃するのが得意です!」
二人とも脳筋思考なのか、目を輝かせながら力自慢紛いのことをしてくる。
よくそんなコンビで生き残れたなと思ったが、裏を返せば脳筋プレイで生き残れる実力者ということなのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺のカードには「冒険者」としか書いていないことに気付く。
それはモミジとユキも同じであるが、何をしたらより詳細な職業が書き込めるのだろうか。
訊いてみたかったが、それより先にアイルが俺たちの自己紹介を促した。
「俺はスマル。この狼は俺の従魔でフォールって名前だ」
「私はモミジよ」
「……私は、ユキ」
流れを切る必要もないので一旦疑問は置いておき、先の二人と同じように簡単な自己紹介をした。
ギルドカードは見せていないが、新米冒険者としてはマナーやら常識というものが分からない。
見せても名前くらいしか分かることはないし、求められるまでは見せなくても良いだろう。
「スマル、モミジ、ユキ、そんでフォールね。覚えた覚えた。で、役職って言うか、これから組むなら戦闘スタイルとか教えてもらえると助かるんだけど……」
ギルドカードは求められなかったが、その代わりなのかアイルは俺たちのことを更に訊いてきた。
パーティを組むならもっともな問いだが、まだ情報が少ないため組むかどうかの判断はできない。
別に知られて困ることを言わなければ良いだけのことなので素直に教えてやろうと思うが、自分の戦闘スタイルを一般的な戦闘職に当てはめると何が適切なのかはイマイチ分からないままだった。
「俺は一応魔術師ってことになるんだろうが、防御特化で攻撃魔法は簡単なものしか使えない。近接戦も人並みにはできるぞ」
「私は……何かしら。妖術と鉄扇を使った近距離から中距離の戦闘が得意だわ」
「……私も、妖術と鉄扇。何もしなくて済むなら、それが良い」
戦闘スタイルというか、できることを伝えると、アイルは一瞬訝しげな表情になり、細めた目で俺たち三人を順に見た。
「防御特化の魔術師に、妖術と鉄扇……。何というか、変わり者だな、あんたら」
何を言うのかと思って聞くと「変わっている」なんて失礼なことを言われてしまったが実際にその通りなので何も言い返せない。
何も言い返せないが、腕にはそれなりに自信があるし、これで不便だと思ったこともないので文句は言わせない。
文句と言えば、変だとかなんだとかいうどうでも良いことよりも、何を狩りに行くつもりなのかが知らされていないことに文句を言いたかった。
と言うか、結局はそれを聞かないと行くのかどうかが決められないので、質問してみることにした。
「自己紹介はこんなもんで良いだろ。それより、外で何を狩るつもりなんだ?」
「あぁ、それもまだ言ってなかったな。近くにある森にゴブリンがいるから、それを狩りに行くんだ。二人でも問題なかったんだが、最近数が増えてるって情報が入ってな。不安だから人を増やしたかったんだ」
ゴブリン。それは薄汚れた緑色の肌色に、とがった耳や大きな鼻、汚れた口元やどこかバカっぽい表情が特徴的な人型の魔物だ。
一体だけなら駆けだし冒険者でも余裕を持って狩れるほどの身体能力しかないが、人型というだけあって知能が高く、道具を使ったり集団を作ったりしていると一体の時とは比べ物にならないほどの脅威になる。
聞いた話だが、初心者がゴブリンに手を出し返り討ちに遭うことは良くあることなのだそうだ。
その上ゴブリンには上位種や亜種が多く、住んでいる環境や経験、武器の有無などによって大きな差ができる。
その種類は数えきれないほどに多いのだが、その中でもよく見られるのが冒険者から学んだゴブリンで、剣を使えばソードゴブリン、魔術を使えばゴブリンメイジなどと呼ばれているようだ。
記録にはゴブリンマスターやゴブリンロードといった警戒すべき猛者の名も残っているのだが、数十年前に討伐されてから目撃情報がないらしい。
そのレベルまで到達したゴブリンはもういないのだろう。
ゴブリンと聞いて、どうやら危険らしい危険はなさそうだと俺は判断する。
だが、やりたいかどうかは別だ。
「ゴブリンだけだな? それならちょっと話し合うから待っててくれ」
俺はモミジとユキの意見を聞くべく、一旦アイルとの会話を切り上げて後ろにいた二人に話を振った。
「ゴブリン狩りなら俺は良いと思うんだが、どうだ?」
「私も良いと思うわよ。冒険者ぽくて」
「……私も、狩りしたい」
予想通りというか何というか、二人はゴブリン狩りに乗り気だった。
ここまで来てやっと冒険者になったのだ。魔物の討伐依頼を受けたい、戦闘したいという気持ちは俺もなんとなく分かる。
冒険者同士の繋がりも持っておきたいし今回はゴブリン狩りに乗っからせてもらおう。
「よし、その話、乗ろう。日が暮れる前にさっさと行こうか」
「お、おう」
いきなり乗り気になった俺たちを見てアイルたちは若干困っているようであったが、時間もないので、それは無視して俺たちは門へと向かった。
2018/4/15 アイルとシーナの冒険者ランクが分かるような描写を追加しました。
そう言ったのは男女一人ずつの二人組の冒険者。
男の方はライトアーマーを装備し、背中にはその軽装に似合わない両手剣を背負っていて、女の方は少し大きめのローブを羽織り、杖は見えないがいかにも魔術師ですといった格好であった。
二人とも青みがかってはいるが黒に近い髪色で、背丈は女と俺が同じくらい、男は頭一つ分大きいくらいだろう。
返事が気になるのか、期待を込めた眼差しをこちらに向けていた。
俺たちの話を勝手に聞いていたことや、そもそも誰なのかという不満や疑問はあったが、いきなり喧嘩腰で対応しても良いことはない。
とりあえず話を聞いてみることにした。
そうしないと仲間内での相談もできたものではないからな。
「別に内容によっては良いんだが……いきなり声かけてきた奴らにホイホイ付いて行くとは思ってないよな?」
自分でも思っていた以上に高圧的になってしまったが、相手方が気にしていなさそうなので俺も気にしないでおく。
「あぁ、悪い悪い。自己紹介がまだだったな。俺はアイル。こっちはシーナだ。ほれギルドカード」
男の方がアイル。女の方はシーナというらしく、その証拠のとして出しているつもりなのか、二人はギルドカードを俺たちに見せてきた。
俺たちと同じく緑色のそれには確かに言われた通りの名前と、職業欄には「冒険者」の他にアイルには「剣士」シーナには「魔術師」と書いてあった。
「剣士と、魔術師か」
「両手剣で重い一撃を入れて行くのが俺のスタイルだ」
「私も高火力魔術で一掃するのが得意です!」
二人とも脳筋思考なのか、目を輝かせながら力自慢紛いのことをしてくる。
よくそんなコンビで生き残れたなと思ったが、裏を返せば脳筋プレイで生き残れる実力者ということなのかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺のカードには「冒険者」としか書いていないことに気付く。
それはモミジとユキも同じであるが、何をしたらより詳細な職業が書き込めるのだろうか。
訊いてみたかったが、それより先にアイルが俺たちの自己紹介を促した。
「俺はスマル。この狼は俺の従魔でフォールって名前だ」
「私はモミジよ」
「……私は、ユキ」
流れを切る必要もないので一旦疑問は置いておき、先の二人と同じように簡単な自己紹介をした。
ギルドカードは見せていないが、新米冒険者としてはマナーやら常識というものが分からない。
見せても名前くらいしか分かることはないし、求められるまでは見せなくても良いだろう。
「スマル、モミジ、ユキ、そんでフォールね。覚えた覚えた。で、役職って言うか、これから組むなら戦闘スタイルとか教えてもらえると助かるんだけど……」
ギルドカードは求められなかったが、その代わりなのかアイルは俺たちのことを更に訊いてきた。
パーティを組むならもっともな問いだが、まだ情報が少ないため組むかどうかの判断はできない。
別に知られて困ることを言わなければ良いだけのことなので素直に教えてやろうと思うが、自分の戦闘スタイルを一般的な戦闘職に当てはめると何が適切なのかはイマイチ分からないままだった。
「俺は一応魔術師ってことになるんだろうが、防御特化で攻撃魔法は簡単なものしか使えない。近接戦も人並みにはできるぞ」
「私は……何かしら。妖術と鉄扇を使った近距離から中距離の戦闘が得意だわ」
「……私も、妖術と鉄扇。何もしなくて済むなら、それが良い」
戦闘スタイルというか、できることを伝えると、アイルは一瞬訝しげな表情になり、細めた目で俺たち三人を順に見た。
「防御特化の魔術師に、妖術と鉄扇……。何というか、変わり者だな、あんたら」
何を言うのかと思って聞くと「変わっている」なんて失礼なことを言われてしまったが実際にその通りなので何も言い返せない。
何も言い返せないが、腕にはそれなりに自信があるし、これで不便だと思ったこともないので文句は言わせない。
文句と言えば、変だとかなんだとかいうどうでも良いことよりも、何を狩りに行くつもりなのかが知らされていないことに文句を言いたかった。
と言うか、結局はそれを聞かないと行くのかどうかが決められないので、質問してみることにした。
「自己紹介はこんなもんで良いだろ。それより、外で何を狩るつもりなんだ?」
「あぁ、それもまだ言ってなかったな。近くにある森にゴブリンがいるから、それを狩りに行くんだ。二人でも問題なかったんだが、最近数が増えてるって情報が入ってな。不安だから人を増やしたかったんだ」
ゴブリン。それは薄汚れた緑色の肌色に、とがった耳や大きな鼻、汚れた口元やどこかバカっぽい表情が特徴的な人型の魔物だ。
一体だけなら駆けだし冒険者でも余裕を持って狩れるほどの身体能力しかないが、人型というだけあって知能が高く、道具を使ったり集団を作ったりしていると一体の時とは比べ物にならないほどの脅威になる。
聞いた話だが、初心者がゴブリンに手を出し返り討ちに遭うことは良くあることなのだそうだ。
その上ゴブリンには上位種や亜種が多く、住んでいる環境や経験、武器の有無などによって大きな差ができる。
その種類は数えきれないほどに多いのだが、その中でもよく見られるのが冒険者から学んだゴブリンで、剣を使えばソードゴブリン、魔術を使えばゴブリンメイジなどと呼ばれているようだ。
記録にはゴブリンマスターやゴブリンロードといった警戒すべき猛者の名も残っているのだが、数十年前に討伐されてから目撃情報がないらしい。
そのレベルまで到達したゴブリンはもういないのだろう。
ゴブリンと聞いて、どうやら危険らしい危険はなさそうだと俺は判断する。
だが、やりたいかどうかは別だ。
「ゴブリンだけだな? それならちょっと話し合うから待っててくれ」
俺はモミジとユキの意見を聞くべく、一旦アイルとの会話を切り上げて後ろにいた二人に話を振った。
「ゴブリン狩りなら俺は良いと思うんだが、どうだ?」
「私も良いと思うわよ。冒険者ぽくて」
「……私も、狩りしたい」
予想通りというか何というか、二人はゴブリン狩りに乗り気だった。
ここまで来てやっと冒険者になったのだ。魔物の討伐依頼を受けたい、戦闘したいという気持ちは俺もなんとなく分かる。
冒険者同士の繋がりも持っておきたいし今回はゴブリン狩りに乗っからせてもらおう。
「よし、その話、乗ろう。日が暮れる前にさっさと行こうか」
「お、おう」
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コメント
オセロット
ゴブリンの特長がバットマンの敵のジョーカー連想するわこれは面白い