「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
第一章 第二十話 特別ルール
二十話達成!!
ありがとうございます!
ヴォルムと話してから、俺は代償のことを考えながら日々を過ごしていた。
だが、失くしたものを探すのとは違って、無いことが前提でそれが何なのかを調べるというのは、なかなかに高難度のことだったらしい。
自分の思い当たるものは全てあることが確認されているし、イチョウが代償を払った可能性から彼女の周辺も調べたが、めぼしい成果は上げられなかった。
何かがなくなっているはずなのにそれが何かは分からないという状況は、大切なものを失った時に比べればまだ良いような気がするのだが、それでも恐怖を煽った。
代償の説明やら力の使い方やら、あの神は色々と忘れることが多い。
だから、代償自体を忘れてしまっている可能性だってあるのだ。
もしそうならそれほど嬉しいことはない。
しかし、さすがにそんな楽観はできない。
そもそも、俺に教えなかったのだって、忘れたのではなくわざとかもしれないのだ。
少なくとも、ヴォルムから聞いた話から考えると、その可能性が一番高いと思われる。
そういう奴に限って代償とか、手に入るものは絶対に手に入れる意地汚さも備えているものだ。
確実に何かが徴収されているだろう。
「おーい、晩飯にするぞー」
食堂の方からヴォルムの声が聞こえる。
それと共に、香辛料が混ざった独特のにおいが漂ってきている。
今夜は、カレーのようだ。
なんでも、東方列島発祥の料理だそうで、正式名称は「カーリ」だったりするのだが、完全に俺の知っているカレーと一致しているために俺は「カレー」と呼んでいる。
ドン=サイゴウ、どう考えても日本人だ。
ちなみに、前世では辛口を好んで食べていたが、現在はお子様舌のせいで甘口がとても美味しく感じる。
俺は一旦思考を放棄してカレーに向かって歩き出すのであった。
===============
食堂に着くと、食卓には既に食器が並んでいて、刺激的で美味しそうな匂いが充満していた。
ヴォルムを手伝って、フィオとイチョウが準備をしてくれているようだ。
この二人、決闘を通して何か思うところがあったのか、あれからやけに仲が良い。
戦う前は殺気すら感じたのに、今は年頃の女子二人が給食を配膳しているように見える。
人って、変わるものだな。
かくいう俺もここでの暮らしに慣れて、薄味の料理をおいしいと感じるようになったし、騒がしい子供たちもあまり気にならなくなっている。
精神が身体に引っ張られている部分があるのか、食の好みや感情のコントロール力にも影響が出ているみたいだ。
そんなことを考えながら席に着くと、他の子供たちも自分の席に座り、食事の準備が完了した。
「それじゃ、食べるとしますか」
ヴォルムがそう言うと、
「「「いただきます!」」」
みんなでそう言ってカレーを食べ始めた。
こっちに来てからもう何度目かのカレー。
さすがに日本で食べていたカレーに比べたら多少劣るものの、あらかた再現できているそれはもう食べることができないと思っていたものであり、いつ食べても懐かしい思いをすることができる。
傍から見たら一歳とちょっとの子供が懐かしそうにカレーを食べていることになる。
奇妙な光景だ。
そうして黙々とカレーを掬い、俺のカレーが半分くらいになった頃、ヴォルムが口を開いた。
「そういえば、今までみんなの前では話していなかったが、正式にイチョウ、モミジ、ユキをここで預かることになった。イチョウは最年長になるが、後輩だ。色々教えてやってくれ。モミジとユキは最年少になる。基本的にはイチョウが面倒を見るとのことだが、ここではみな平等に扱う。年の近い年少組も気にかけてやってくれ」
それは既に行われていることではあったが、みんなが集まるこの場で再確認ということだろう。
イチョウは東方列島の料理を知っているし、モミジとユキは大人しく、うるさくしない。
誰も反対することはなく、改めて歓迎した。
一通り歓迎の言葉がイチョウたちに贈られると、ヴォルムが話を再開した。
「それで、イチョウが十歳だったよな?」
「はい、そうですけど」
「じゃ、十歳になってから適応される特別ルールを教えてやろう」
十歳になってからの特別ルール。
俺は、というかこの場にいる半数ほどが聞いたことのない話のようで、困惑の色が見て取れる。
「その一、十歳になったら、ここを出て行く権利を得、十五歳になったらここにいる権利を失う」
この施設でのルールは、直接ヴォルムから聞いたわけではないけれど、確か「極力喧嘩はしない」とかそんな感じのものだったはずだ。
だが、今回のは権利だとか得るとか失うとか、他のと違って堅苦しいように感じる。
「パッと聞いただけじゃ何のことがか分からんよな。安心しろ。今から説明するさ」
困惑の表情だった半数がさらに首を傾けたので、ヴォルムはそう言って笑った。
「前半部分だが、これは十歳になったら自由だってことだ。ここに残るのも良し。すぐに出て行くも良し。自分の好きにして良いということだ。後半は、十五歳になったらここから出て行ってもらうということだ。この建物に入れられる人数にも限りがあるんでな、十五歳――一人前になったらここから出て行ってもらうことにしている。質問はあるか?」
ここを出て行かなければならないというのは、年少組には考えられないことではないかと思ったが、意外なことに年少組は騒いだりせずじっとしているだけだった。
あれは理解してないのではないだろうか。
俺はそんなちびっ子たちとは違うので、素直に気になったことを訊いてみることにした。
「はい質問、その一って言ってたけど、二から先はあるのか?」
確か、あの「その一」は数えているのではなくて単純な掛け声であって、特に意味はないことがほとんどらしいが、一応二から先があったことを考えて訊いておく。
「いや、無いぞ。一だけだ。細かい話をすると、出て行くには試験に合格しなきゃいけないんだが、そんなに難しいもんじゃないから安心しろ。俺のもとで指導を受けている限りは問題ないはずだ」
今聞いたルールを要約すると、外に出て生きていけると見なされればここを出て行けるということだろう。
そして、ヴォルムから指導を受けていれば問題ないということは、ここにいるだけで世界で生きていけるようになるということだ。
質問への返答を聞いてからカレーを食べ終え、部屋に戻った俺は、やっと異世界転生特有の特典がはっきりしたと喜ぶのであった。
今更ながら舞台は異世界ですので、時間の流れ方や一年の日数も現実とは異なります。
なので「この年齢でこんなに動けるなんておかしい!」と言われてもよっぽどのことがない限り変更はしません。
ありがとうございます!
ヴォルムと話してから、俺は代償のことを考えながら日々を過ごしていた。
だが、失くしたものを探すのとは違って、無いことが前提でそれが何なのかを調べるというのは、なかなかに高難度のことだったらしい。
自分の思い当たるものは全てあることが確認されているし、イチョウが代償を払った可能性から彼女の周辺も調べたが、めぼしい成果は上げられなかった。
何かがなくなっているはずなのにそれが何かは分からないという状況は、大切なものを失った時に比べればまだ良いような気がするのだが、それでも恐怖を煽った。
代償の説明やら力の使い方やら、あの神は色々と忘れることが多い。
だから、代償自体を忘れてしまっている可能性だってあるのだ。
もしそうならそれほど嬉しいことはない。
しかし、さすがにそんな楽観はできない。
そもそも、俺に教えなかったのだって、忘れたのではなくわざとかもしれないのだ。
少なくとも、ヴォルムから聞いた話から考えると、その可能性が一番高いと思われる。
そういう奴に限って代償とか、手に入るものは絶対に手に入れる意地汚さも備えているものだ。
確実に何かが徴収されているだろう。
「おーい、晩飯にするぞー」
食堂の方からヴォルムの声が聞こえる。
それと共に、香辛料が混ざった独特のにおいが漂ってきている。
今夜は、カレーのようだ。
なんでも、東方列島発祥の料理だそうで、正式名称は「カーリ」だったりするのだが、完全に俺の知っているカレーと一致しているために俺は「カレー」と呼んでいる。
ドン=サイゴウ、どう考えても日本人だ。
ちなみに、前世では辛口を好んで食べていたが、現在はお子様舌のせいで甘口がとても美味しく感じる。
俺は一旦思考を放棄してカレーに向かって歩き出すのであった。
===============
食堂に着くと、食卓には既に食器が並んでいて、刺激的で美味しそうな匂いが充満していた。
ヴォルムを手伝って、フィオとイチョウが準備をしてくれているようだ。
この二人、決闘を通して何か思うところがあったのか、あれからやけに仲が良い。
戦う前は殺気すら感じたのに、今は年頃の女子二人が給食を配膳しているように見える。
人って、変わるものだな。
かくいう俺もここでの暮らしに慣れて、薄味の料理をおいしいと感じるようになったし、騒がしい子供たちもあまり気にならなくなっている。
精神が身体に引っ張られている部分があるのか、食の好みや感情のコントロール力にも影響が出ているみたいだ。
そんなことを考えながら席に着くと、他の子供たちも自分の席に座り、食事の準備が完了した。
「それじゃ、食べるとしますか」
ヴォルムがそう言うと、
「「「いただきます!」」」
みんなでそう言ってカレーを食べ始めた。
こっちに来てからもう何度目かのカレー。
さすがに日本で食べていたカレーに比べたら多少劣るものの、あらかた再現できているそれはもう食べることができないと思っていたものであり、いつ食べても懐かしい思いをすることができる。
傍から見たら一歳とちょっとの子供が懐かしそうにカレーを食べていることになる。
奇妙な光景だ。
そうして黙々とカレーを掬い、俺のカレーが半分くらいになった頃、ヴォルムが口を開いた。
「そういえば、今までみんなの前では話していなかったが、正式にイチョウ、モミジ、ユキをここで預かることになった。イチョウは最年長になるが、後輩だ。色々教えてやってくれ。モミジとユキは最年少になる。基本的にはイチョウが面倒を見るとのことだが、ここではみな平等に扱う。年の近い年少組も気にかけてやってくれ」
それは既に行われていることではあったが、みんなが集まるこの場で再確認ということだろう。
イチョウは東方列島の料理を知っているし、モミジとユキは大人しく、うるさくしない。
誰も反対することはなく、改めて歓迎した。
一通り歓迎の言葉がイチョウたちに贈られると、ヴォルムが話を再開した。
「それで、イチョウが十歳だったよな?」
「はい、そうですけど」
「じゃ、十歳になってから適応される特別ルールを教えてやろう」
十歳になってからの特別ルール。
俺は、というかこの場にいる半数ほどが聞いたことのない話のようで、困惑の色が見て取れる。
「その一、十歳になったら、ここを出て行く権利を得、十五歳になったらここにいる権利を失う」
この施設でのルールは、直接ヴォルムから聞いたわけではないけれど、確か「極力喧嘩はしない」とかそんな感じのものだったはずだ。
だが、今回のは権利だとか得るとか失うとか、他のと違って堅苦しいように感じる。
「パッと聞いただけじゃ何のことがか分からんよな。安心しろ。今から説明するさ」
困惑の表情だった半数がさらに首を傾けたので、ヴォルムはそう言って笑った。
「前半部分だが、これは十歳になったら自由だってことだ。ここに残るのも良し。すぐに出て行くも良し。自分の好きにして良いということだ。後半は、十五歳になったらここから出て行ってもらうということだ。この建物に入れられる人数にも限りがあるんでな、十五歳――一人前になったらここから出て行ってもらうことにしている。質問はあるか?」
ここを出て行かなければならないというのは、年少組には考えられないことではないかと思ったが、意外なことに年少組は騒いだりせずじっとしているだけだった。
あれは理解してないのではないだろうか。
俺はそんなちびっ子たちとは違うので、素直に気になったことを訊いてみることにした。
「はい質問、その一って言ってたけど、二から先はあるのか?」
確か、あの「その一」は数えているのではなくて単純な掛け声であって、特に意味はないことがほとんどらしいが、一応二から先があったことを考えて訊いておく。
「いや、無いぞ。一だけだ。細かい話をすると、出て行くには試験に合格しなきゃいけないんだが、そんなに難しいもんじゃないから安心しろ。俺のもとで指導を受けている限りは問題ないはずだ」
今聞いたルールを要約すると、外に出て生きていけると見なされればここを出て行けるということだろう。
そして、ヴォルムから指導を受けていれば問題ないということは、ここにいるだけで世界で生きていけるようになるということだ。
質問への返答を聞いてからカレーを食べ終え、部屋に戻った俺は、やっと異世界転生特有の特典がはっきりしたと喜ぶのであった。
今更ながら舞台は異世界ですので、時間の流れ方や一年の日数も現実とは異なります。
なので「この年齢でこんなに動けるなんておかしい!」と言われてもよっぽどのことがない限り変更はしません。
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