乙女ゲームの攻略対象キャラは悪役令嬢の味方をする。
10.ベアトリーチェの計画
この戦争はとても激しい。魔術の使える者は誰であろうと投入され、貴族も自ら希望するものが出れば戦場に送り出すようにしている。
そもそも位の低い貴族の殆どは元が冒険者などである。私はそれも知っていたため、大して疑問に思いはしない。
なので―――伯爵令嬢が戦争に出ようなどと言ったらどうなるか。善人だと持ち上げられるのではないか。どちらにしろこれは史上でも珍しい事だ。
五百年前に一度、魔術に長けて旋風の魔女などという称号を貰い受けていた侯爵令嬢ベーズマリーが戦場に出た以外は、男爵以上が戦場に出たことは無い。
勿論この記録は令嬢のみのもので、男当主が戦場に出ることは何度かあった。しかし位の高い爵位を持つ令嬢が戦場に出るのは珍しい。
私は思わず口角を上げてしまうのを抑えながら、王城の道を進んでいた。戦場に出たいと言う貴族が集められ、王国に育成された執事に導かれている。
戦場に出るのが許可されても身分は変わらない。貴族は貴族、平民は平民、騎士は騎士。貴族が戦場に出るためには、謁見の間まで国王直々にに許可される必要がある。
そして誓いの言葉を口にし、跪き、一斉に外に出るのだが―――。
「ベアトリーチェ様、第二皇子ルイスアルティフィア様がお呼びでございます」
「あら、皇子殿が? 分かったわ、アティル、行くわよ」
アティルはぺこりと頭を下げて、現れたもう一人の執事に付いて行く。まあ、私が此処に居ることが珍しいから呼びたくもなるのだろうけど。
それにしても第二皇子からの呼び出しか。おそらくさすがに第二皇子にはジュリエットも手を付けていないと思う。
これは丁度いい機会だ、今度こそ私は口角を上げてしまった。
しばらくその執事に付いて行くと、金で飾られた扉を開けて中に迎えいれられる。うん、気持ちいいわ。私はいつだってこうされるべきなの。
「キミが、ベアトリーチェだね。ボクの事はルイスって呼んで構わないよ。こんな長ったらしい名前を呼ばれると話が進まない」
「は、はい。ルイス様。本日は何故私のような者をお呼びに……?」
第二皇子―――ルイスに見るからして高価なソファに導かれ、私はルイスの対面に座る。アティルはそのまま私の隣に立っている。
第二皇子と面を向かって話せるなんて、私だからこそできるのね。
ジュリエットなんかに出来るわけがない。だって、たとえ公爵令嬢でも登ってくる前に私が潰してやるんだもの。
思わずソファを握り締めてしまい、私はあわてて力を抜いた。
「うん。あのね、キミの事を傷つけちゃうと色々困ったことが起こるんだ。だから今回の戦争、此処に居る宮廷魔術師と一緒に行ってくれないかな?」
「彼は……魔術の新天才アーカイド・ベルリッフィ様でしょうか……?」
「そうだよ。キミ、伯爵令嬢にしては色んなことを覚えてるんだね。ボクはそう言う人話が早くて好きだよ」
「ぅぇっ!? そ、そんなことありませんよぅ……で、ですからっ、そのアーカイド様と共に参加するということですね……!」
「―――ああ、そうだ。俺と一緒に来てもらう……です?」
「くすっ、敬語なんていいですって。私はなれなれしく話してもらった方が好きなんです。ルイス様みたいに」
そう言うとルイスがわずかに瞠目する。そしてふっと柔らかく微笑む。アーカイドも安心したような顔をする。
私の計算通りだ。ルイスやアーカイドの事については事前に調べてある。ルイスは知識があって話が早い者、アーカイドは気軽に話せる者を好む。
その両方を兼ね揃えた伯爵令嬢となれば、ふふっ、私が勝つのも目の前。
「それじゃあ話もまとまった所なんだけど、実は公爵令嬢のジュリエットちゃんも今回の戦闘の参加を望んでいてね」
「ジュリエット様が、ですか……?」
「キミが才能の持ち主であることも知ってるし、彼女が才能の持ち主であることも知っているけど……彼女のことを守ってくれないかな?」
私は、彼らの前で感情を出さないことが精いっぱいだった。ジュリエットが戦闘に参加するという事もそうだけれど、一番は―――。
そもそも王城に出向いてまで参加表明する必要のない公爵令嬢の立場。それも、私の恨みを増幅させるひとつの原因。
もうひとつは、風向きが彼女に向かっていることよ。
ジュリエットが才能ある者だと、早くも広まっている。彼女を、私が守る?
私が彼女より才能がないと言いたいの。やはりみんな立場を重視するのね。私が死んでも、彼女には死んでほしくないという事ね!
絶対に、絶対に許したりしないわ。絶対に没落させてやるんだから……。
「分かりました。必ず守って見せましょう!」
「うん。頼りがいがあって良いよ。それじゃあアーカイドくん、キミにも頼んだよ。キミの任務は彼女らを守り抜くことだ」
「はっ。必ずや成し遂げて見せましょう。そしてルイス様に満足いく結果を」
「ありがとう。それじゃあ戦争が開始されそうだし、行ってほしいな。……戦争がボクのいるところまで届いたら、任務失敗と数えるからね?」
笑顔で立ち上がったルイスは、アーカイドの肩をぽんと叩いてそう言ってのける。彼に言っているように聞こえるが、実際は私に言っている。
私は歯をぎりりと噛み締め、拳を固く握り―――、
そして、ジュリエットへの恨みが幾星霜と積もっていくのだった。
〇
「アーカイドさん、よろしくお願いしますね!」
火花の散る戦場。私にとっては、全く無意味な闘争でしかない。
そもそも位の低い貴族の殆どは元が冒険者などである。私はそれも知っていたため、大して疑問に思いはしない。
なので―――伯爵令嬢が戦争に出ようなどと言ったらどうなるか。善人だと持ち上げられるのではないか。どちらにしろこれは史上でも珍しい事だ。
五百年前に一度、魔術に長けて旋風の魔女などという称号を貰い受けていた侯爵令嬢ベーズマリーが戦場に出た以外は、男爵以上が戦場に出たことは無い。
勿論この記録は令嬢のみのもので、男当主が戦場に出ることは何度かあった。しかし位の高い爵位を持つ令嬢が戦場に出るのは珍しい。
私は思わず口角を上げてしまうのを抑えながら、王城の道を進んでいた。戦場に出たいと言う貴族が集められ、王国に育成された執事に導かれている。
戦場に出るのが許可されても身分は変わらない。貴族は貴族、平民は平民、騎士は騎士。貴族が戦場に出るためには、謁見の間まで国王直々にに許可される必要がある。
そして誓いの言葉を口にし、跪き、一斉に外に出るのだが―――。
「ベアトリーチェ様、第二皇子ルイスアルティフィア様がお呼びでございます」
「あら、皇子殿が? 分かったわ、アティル、行くわよ」
アティルはぺこりと頭を下げて、現れたもう一人の執事に付いて行く。まあ、私が此処に居ることが珍しいから呼びたくもなるのだろうけど。
それにしても第二皇子からの呼び出しか。おそらくさすがに第二皇子にはジュリエットも手を付けていないと思う。
これは丁度いい機会だ、今度こそ私は口角を上げてしまった。
しばらくその執事に付いて行くと、金で飾られた扉を開けて中に迎えいれられる。うん、気持ちいいわ。私はいつだってこうされるべきなの。
「キミが、ベアトリーチェだね。ボクの事はルイスって呼んで構わないよ。こんな長ったらしい名前を呼ばれると話が進まない」
「は、はい。ルイス様。本日は何故私のような者をお呼びに……?」
第二皇子―――ルイスに見るからして高価なソファに導かれ、私はルイスの対面に座る。アティルはそのまま私の隣に立っている。
第二皇子と面を向かって話せるなんて、私だからこそできるのね。
ジュリエットなんかに出来るわけがない。だって、たとえ公爵令嬢でも登ってくる前に私が潰してやるんだもの。
思わずソファを握り締めてしまい、私はあわてて力を抜いた。
「うん。あのね、キミの事を傷つけちゃうと色々困ったことが起こるんだ。だから今回の戦争、此処に居る宮廷魔術師と一緒に行ってくれないかな?」
「彼は……魔術の新天才アーカイド・ベルリッフィ様でしょうか……?」
「そうだよ。キミ、伯爵令嬢にしては色んなことを覚えてるんだね。ボクはそう言う人話が早くて好きだよ」
「ぅぇっ!? そ、そんなことありませんよぅ……で、ですからっ、そのアーカイド様と共に参加するということですね……!」
「―――ああ、そうだ。俺と一緒に来てもらう……です?」
「くすっ、敬語なんていいですって。私はなれなれしく話してもらった方が好きなんです。ルイス様みたいに」
そう言うとルイスがわずかに瞠目する。そしてふっと柔らかく微笑む。アーカイドも安心したような顔をする。
私の計算通りだ。ルイスやアーカイドの事については事前に調べてある。ルイスは知識があって話が早い者、アーカイドは気軽に話せる者を好む。
その両方を兼ね揃えた伯爵令嬢となれば、ふふっ、私が勝つのも目の前。
「それじゃあ話もまとまった所なんだけど、実は公爵令嬢のジュリエットちゃんも今回の戦闘の参加を望んでいてね」
「ジュリエット様が、ですか……?」
「キミが才能の持ち主であることも知ってるし、彼女が才能の持ち主であることも知っているけど……彼女のことを守ってくれないかな?」
私は、彼らの前で感情を出さないことが精いっぱいだった。ジュリエットが戦闘に参加するという事もそうだけれど、一番は―――。
そもそも王城に出向いてまで参加表明する必要のない公爵令嬢の立場。それも、私の恨みを増幅させるひとつの原因。
もうひとつは、風向きが彼女に向かっていることよ。
ジュリエットが才能ある者だと、早くも広まっている。彼女を、私が守る?
私が彼女より才能がないと言いたいの。やはりみんな立場を重視するのね。私が死んでも、彼女には死んでほしくないという事ね!
絶対に、絶対に許したりしないわ。絶対に没落させてやるんだから……。
「分かりました。必ず守って見せましょう!」
「うん。頼りがいがあって良いよ。それじゃあアーカイドくん、キミにも頼んだよ。キミの任務は彼女らを守り抜くことだ」
「はっ。必ずや成し遂げて見せましょう。そしてルイス様に満足いく結果を」
「ありがとう。それじゃあ戦争が開始されそうだし、行ってほしいな。……戦争がボクのいるところまで届いたら、任務失敗と数えるからね?」
笑顔で立ち上がったルイスは、アーカイドの肩をぽんと叩いてそう言ってのける。彼に言っているように聞こえるが、実際は私に言っている。
私は歯をぎりりと噛み締め、拳を固く握り―――、
そして、ジュリエットへの恨みが幾星霜と積もっていくのだった。
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