乙女ゲームの攻略対象キャラは悪役令嬢の味方をする。
8.ベアトリーチェの策略
私はベアトリーチェ・フォン・ミーゼリア。ミーゼリア伯爵家の長女であり、卓越した魔術の才能を持っていると貴族界の中を揺るがしている。
そんなのはどうでもいい。私は、あの子を待っているのだ。フレミアール公爵の長女ジュリエットを待っているの。
私の側近である侍女アティルと執事ディルティアは私の全てを知っている。
だから最大限協力してくれるし、まあ、私が彼らの心を全て掌握してしまったからこそなのだけど……。
「……ふう」
私は特注の手帳を閉じた。それなりに装飾はされているが私が注文したのはプライバシー保護のできる手帳なので、特に装飾にこだわっていない。
ただ、作ってくれた人が伯爵家だからと色を付けてくれたのだろう。まあ顔を売っといて恩を買ってみたいな策略が殆どだと思われるが。
そんなことは置いといて、私は手帳に目を落とした。此処には私の一生が書かれているのだが、本当はそれだけではない。
アティル達すらも知らない、私の人生一番の秘密が書いてあるのだ。
小さいころ、物心ついたときのミーゼリア当主はとても厳しかった。知っていた事ではあるけれど、並の精神力では超えられなかった。
そこで私は様々な策略を学ばせられた。兄たちは純粋な心を持っていて、当主は彼らに濁ったことを教え込みながらもその純粋を保てと教えていた。
勿論私も純粋だ。だって、人生は楽しめば勝ちだって教わったもの。
―――ねぇ、そうでしょう?
(ツテは三つほど。私が勝てる手段はないに等しいわね……それでも私には最後の武器があるの。何があったって負けやしないわ)
指で数えながら、私はにんまり笑みを浮かべる。どれだけ私が計画をしたとしても、時も場所も私に合わせて動く。
私が何をしたって可愛い可愛いと皆が称賛の声を送る。だって力があるの。貴族で、魔術の力が強くて、容姿端麗将来有望成績優秀。
例え伯爵でもそれなりの地位で、私はもう王子にだって会ったことがあるの。
まあ、話しかけることも話しかけられることもなかった。当たり前の事だし、第六皇子はプライドが高いから近づく気もない。
次は私の側近たちの中にいる『彼ら』を攻略する必要がある。用心に越したことはないし、攻略できない場合は誰かを落としてでも攻略する。
アティル達を私の配下に入れたのは一応だからだ。万が一でも反乱を起こさないように、近くに居る者を手なずけたかっただけ。
私の目的のためならば、彼女らが消えたって私に問題は何もない。私の側近なのだから私に疑いがかかるが、攻略した者が強力だから大丈夫。
にぃ、と笑う。
私の計画は四年間かけて出来上がった。一歳のころから始めたというのは確かに驚きだが、私にとってはなんてこともない。
計画はすべてそろった。掌の上で転がすように掌握はできる。
社交辞令は叩き込まれた。礼儀も問題はない。苦手だった剣術もそれなりに教え込まれて、両方で平凡ではない才能を持っていると噂されるに違いない。
「―――おるか、ベアトリーチェ」
「お父様。私は此処におります。どうぞ、お入りくださいませ」
静に扉を叩かれた。その音には少しの焦りが含まれていたことを察知した私は、何かあるなと思いながら声を返した。
私は当主ディマの事を本当の父だとは思っていない。私に愛情を注ぐよりも、社交辞令と立場を尊重する我が父は、最初から眼中に入っていなかった。
「私の立場が危うい。ベアトリーチェ、そなたが活躍してくれねば、私は王に登ることができない。協力してくれるか」
―――私の可愛い手駒よ。
さすがにそれは言わなかったが、バレバレなの。せめて隠そうとしなさい。
「勿論ですお父様。必ずやお父様の意のままに……」
「うむ。ベアトリーチェよ……私が王になる手助けをするのだ」
そう言い残し、ディマは忽然と姿を消した。ミーゼリア家の持っている暗殺者組織の『陽炎』でも使ったのだろう。
私としても、彼はいい手駒でしかない。五歳の内に私は彼らの手駒であるのを刷り込ませたいがために、あんな言葉遣いをしているのは見え見えしている。
きっと今は私を手なずけられたと含み笑いでもしているのではないか。
私はそんなつもりはさらさらない。それどころか、これからの事を考えれば父を切り離す必要があると考えているのだ。
それもこれも全部、ジュリエットのせいだ。大人しくしていればいいものを、あんなことをしでかすとは思わなかった。
自身は遊びのつもりなのだろうか。何のつもりか。考えるだけでも怒りが込みあげる。
思わず噛み締めてしまった爪から欠片が零れ落ちるが、私には関係がない。こんな物治癒魔術を使えば簡単に治るからである。
私の紫にも似た黒髪はこの世界で珍しい色のひとつ。辺境に行けば忌み嫌われていたりするのも少なくはない。
ただ、私の紫の瞳はこの世界で最も幸運な瞳の色のひとつなのである。
それなのに、魔力に長ける者がおおい藍色の瞳を持つジュリエットが、私の上に立つなんてありえないに決まっている。
魔力に長けても私は彼女の上。私は、誰よりも幸運でなければならないの。
「許しはしないわ……全部、全部よ……絶対に潰してやるわ……」
がりっ。室内に爪が弾ける音が不気味に響き渡った。私は黒髪をそっと後ろに流すと、手帳を机の中に仕舞った。
「アティル、ディルティア。すぐにあれを用意しなさい。このままではいけないわ……鉄槌を下しに行くのよ!」
「承知いたしました、我が愛しのお嬢様」
「了解いたしました、我が愛しの聖女様」
どこからともなく姿を現した私の手駒に、ふっと口元を緩ませる。聖女様、お嬢様。二人が私を呼ぶ時は必ずこうした名を口にする。
悪い気はしない。お嬢様と言われるのも聖女様と言われるのも好きだ。
だからこそ、何か起きない限り彼らを切り捨てる気はない。
―――精々、私の優秀な手駒として役に立ちなさい?
そうすれば、有用性を見て生かしてやれるかもしれないのだから、ねぇ?
「良いこと言うじゃない。さぁ、行くわよ」
そんな私も、最初から難関にぶつかることになるとは思わなかったのである。
そんなのはどうでもいい。私は、あの子を待っているのだ。フレミアール公爵の長女ジュリエットを待っているの。
私の側近である侍女アティルと執事ディルティアは私の全てを知っている。
だから最大限協力してくれるし、まあ、私が彼らの心を全て掌握してしまったからこそなのだけど……。
「……ふう」
私は特注の手帳を閉じた。それなりに装飾はされているが私が注文したのはプライバシー保護のできる手帳なので、特に装飾にこだわっていない。
ただ、作ってくれた人が伯爵家だからと色を付けてくれたのだろう。まあ顔を売っといて恩を買ってみたいな策略が殆どだと思われるが。
そんなことは置いといて、私は手帳に目を落とした。此処には私の一生が書かれているのだが、本当はそれだけではない。
アティル達すらも知らない、私の人生一番の秘密が書いてあるのだ。
小さいころ、物心ついたときのミーゼリア当主はとても厳しかった。知っていた事ではあるけれど、並の精神力では超えられなかった。
そこで私は様々な策略を学ばせられた。兄たちは純粋な心を持っていて、当主は彼らに濁ったことを教え込みながらもその純粋を保てと教えていた。
勿論私も純粋だ。だって、人生は楽しめば勝ちだって教わったもの。
―――ねぇ、そうでしょう?
(ツテは三つほど。私が勝てる手段はないに等しいわね……それでも私には最後の武器があるの。何があったって負けやしないわ)
指で数えながら、私はにんまり笑みを浮かべる。どれだけ私が計画をしたとしても、時も場所も私に合わせて動く。
私が何をしたって可愛い可愛いと皆が称賛の声を送る。だって力があるの。貴族で、魔術の力が強くて、容姿端麗将来有望成績優秀。
例え伯爵でもそれなりの地位で、私はもう王子にだって会ったことがあるの。
まあ、話しかけることも話しかけられることもなかった。当たり前の事だし、第六皇子はプライドが高いから近づく気もない。
次は私の側近たちの中にいる『彼ら』を攻略する必要がある。用心に越したことはないし、攻略できない場合は誰かを落としてでも攻略する。
アティル達を私の配下に入れたのは一応だからだ。万が一でも反乱を起こさないように、近くに居る者を手なずけたかっただけ。
私の目的のためならば、彼女らが消えたって私に問題は何もない。私の側近なのだから私に疑いがかかるが、攻略した者が強力だから大丈夫。
にぃ、と笑う。
私の計画は四年間かけて出来上がった。一歳のころから始めたというのは確かに驚きだが、私にとってはなんてこともない。
計画はすべてそろった。掌の上で転がすように掌握はできる。
社交辞令は叩き込まれた。礼儀も問題はない。苦手だった剣術もそれなりに教え込まれて、両方で平凡ではない才能を持っていると噂されるに違いない。
「―――おるか、ベアトリーチェ」
「お父様。私は此処におります。どうぞ、お入りくださいませ」
静に扉を叩かれた。その音には少しの焦りが含まれていたことを察知した私は、何かあるなと思いながら声を返した。
私は当主ディマの事を本当の父だとは思っていない。私に愛情を注ぐよりも、社交辞令と立場を尊重する我が父は、最初から眼中に入っていなかった。
「私の立場が危うい。ベアトリーチェ、そなたが活躍してくれねば、私は王に登ることができない。協力してくれるか」
―――私の可愛い手駒よ。
さすがにそれは言わなかったが、バレバレなの。せめて隠そうとしなさい。
「勿論ですお父様。必ずやお父様の意のままに……」
「うむ。ベアトリーチェよ……私が王になる手助けをするのだ」
そう言い残し、ディマは忽然と姿を消した。ミーゼリア家の持っている暗殺者組織の『陽炎』でも使ったのだろう。
私としても、彼はいい手駒でしかない。五歳の内に私は彼らの手駒であるのを刷り込ませたいがために、あんな言葉遣いをしているのは見え見えしている。
きっと今は私を手なずけられたと含み笑いでもしているのではないか。
私はそんなつもりはさらさらない。それどころか、これからの事を考えれば父を切り離す必要があると考えているのだ。
それもこれも全部、ジュリエットのせいだ。大人しくしていればいいものを、あんなことをしでかすとは思わなかった。
自身は遊びのつもりなのだろうか。何のつもりか。考えるだけでも怒りが込みあげる。
思わず噛み締めてしまった爪から欠片が零れ落ちるが、私には関係がない。こんな物治癒魔術を使えば簡単に治るからである。
私の紫にも似た黒髪はこの世界で珍しい色のひとつ。辺境に行けば忌み嫌われていたりするのも少なくはない。
ただ、私の紫の瞳はこの世界で最も幸運な瞳の色のひとつなのである。
それなのに、魔力に長ける者がおおい藍色の瞳を持つジュリエットが、私の上に立つなんてありえないに決まっている。
魔力に長けても私は彼女の上。私は、誰よりも幸運でなければならないの。
「許しはしないわ……全部、全部よ……絶対に潰してやるわ……」
がりっ。室内に爪が弾ける音が不気味に響き渡った。私は黒髪をそっと後ろに流すと、手帳を机の中に仕舞った。
「アティル、ディルティア。すぐにあれを用意しなさい。このままではいけないわ……鉄槌を下しに行くのよ!」
「承知いたしました、我が愛しのお嬢様」
「了解いたしました、我が愛しの聖女様」
どこからともなく姿を現した私の手駒に、ふっと口元を緩ませる。聖女様、お嬢様。二人が私を呼ぶ時は必ずこうした名を口にする。
悪い気はしない。お嬢様と言われるのも聖女様と言われるのも好きだ。
だからこそ、何か起きない限り彼らを切り捨てる気はない。
―――精々、私の優秀な手駒として役に立ちなさい?
そうすれば、有用性を見て生かしてやれるかもしれないのだから、ねぇ?
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