幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~第二話.導き-8~

俺と舞狸は今、貸本屋『鈴奈庵』を出て、裏手の森の中を進んでいた。
あの後はマミゾウさんの提案で、「異変に立ち向かうには武具がいるじゃろう。この裏に〝香霖堂〟という雑貨屋があるから、そこに行ってみると良い」と言われ、その提案を聞き入れたのだ。
そして、店を出る直前に小鈴が「もし良ければこれを持っていってください。お代はいいですよ。ですが……いざというとき以外に開かないでくださいね?」と一冊の文庫本より一回り小さい本と警告を持たされた。本はポケットに入ってある。
 胸ポケット内の針妙丸はその雑貨屋〝香霖堂〟も知っていると言うので、案内役に買ってでた。
その道中、舞狸は考え事をするような顔をしていた。丸い耳は垂れ下がり、ふさふさな尻尾はくるくる回っている。
 「舞狸、どうかしたか?」
 「……うん。もしかしたら、マミゾウさんは人間じゃないかもしれない」
 「なんだ、そんなことか。マミゾウさんは人間じゃなくて妖怪だ。小鈴ちゃんは気付いていなかったみたいだけど」
 俺の言葉に舞狸は驚いたようだ。
 「……!なんで、わかったの?」
 「なんかさ、舞狸と同じ感覚があったんだよ。だよな、針妙丸?」
 突然話を振られた針妙丸は、ビクッと身体を揺らした。
 「あ、うん。マミゾウは妖怪狸だよ。よ、よくわかったね」
 「まあ、俺には心眼があるからな」
 「「…………」」
……無言の視線が痛い。
それはともかく、と話をそらそうとする。
 「異変ってのは一体どんなのなんだ?」
 「それは…………っ!」

 突如茂みが動いたかと思うと、そこから〝何か〟が飛び出してきた。
 一番近い位置にいた舞狸は即座に反応し、その場から距離をとる。俺も少し遅れて舞狸の隣に飛び退いた。
 「っと……なんだ?!」
 「……わからない」
 野獣がやってきたのかと思った、が違った。
 体長は人間の胴ほどと小さく、フリルのついた服を着ていて、背中には羽根が生えている。それが十数体はいる。
それは絵に描いたような――
「妖精……か?あれは」
 「うん。あれは野生の妖精だよ」
 胸ポケットの針妙丸が顔を出して教えてくれる。
 「幻想郷でのいわゆるモブキャラだね。普段は大人しくしているけど、自分のテリトリーとかに入ったら怒って敵対してくる妖精もいるから気をつけて」
 「気をつけてって言われてもな……っ来るぞ!」
 瞬間、たくさんの妖精が一斉に散らばり、不規則な動きをしてきた。
そのうち一体の妖精が光る玉を飛ばしてきた。ほとんど距離がない位置からの思わぬ攻撃に反応が遅れた。
もろに光玉を腹に受けてしまう。
 「か……はっ?!」
 突如内臓を圧迫されるような感覚に、吐きそうになった。
 「……影都?!」
 「あ、ああ気にするな。それよりも、こいつら……これが弾幕ってやつか……」
 理解した。これがマミゾウさんの言っていた〝弾幕ごっこ〟というやつだ。しかし、今は戦うすべがない。
 「頼めるか、針妙丸」
 「……もう、しょうがないなぁ」
 針妙丸は胸ポケットから這い出て肩に乗ると、腰に差していた縫い針を手にする。
 「私、あまりこういうのには向いていないんだけど……」
 小言を呟くと、針妙丸は肩から一気に跳躍。そして近くの妖精に素早く居合。さらに跳躍し、妖精から妖精へとどんどん乗り換えていく。
ものの数秒も立たないうちに俺の肩に戻ってくる。
その瞬間、全ての妖精が見えない力に引かれるように一ヶ所に固まった。
 「ごめんね、悪く思わないでね」
 針妙丸はそこに向かって

《大槌〝打出の針槌〟》

 直径が子供の身長ほどありそうな大槌を大きく振りかぶって……落とした。

ピチューン

妖精たちはその場から毛一つ残さず消えてしまった。

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