幻想妖華物語

ノベルバユーザー189431

幻想妖華物語~第一話.変わる自分-3~

あれは今から8年と少し前の出来事―――

………………
 …………
 ……

武家の〝九我龍家〟に生まれ育った俺、影都は当時8歳だった。
 8歳としての自我を持ち、8歳としての知識を持った普通の少年だった。ただし、武家の人間としての普通。
その頃俺は、名家がそこそこ集まる国に認められた名門の小学校に通っていた。授業内容は普通の小学校の域を越えていて、その頃の俺は中学レベルの勉強が出来た。むしろ、それが普通だった。
 仲間はいたが、友達といえる人はいなかった。家柄のせいなのか、何処か人を拒むような性格になってしまい、友達を作ることが出来なかった。
さらに、その場は治安がとても良いとは言い難く、少しばかり問題が起こっていた。
 例えば、学校帰りの道を歩いていると、

 「そこの君。あの○○小学校の生徒かい?だとしたら結構お金持ちだよなぁ………ちょっと俺達金に困ってるんだよ。資金だと思って、お金貸してくれないか?」

というヤンキーかチンピラが声をかけてくる。いわゆるカツアゲというものだ。当然、俺は無視してその場を通り過ぎようとする。その態度をみた奴等は、
 「おい、無視してんじゃねーよ!」
 俺の首根っこを掴んで路地裏に強制的に連れていかれた。
 「よう少年。俺達の言う通りにしないとヒデェ目に逢うぜ?」
その時に使うアイテムが木刀である。こういう場合を推測して師範であり親である父から木刀を持たされているのだ。大人とも互角に対戦出来たその頃の俺は、そんな奴等を片付けるのに5分も必要なかった。
そんな問題はあったが、俺は怪我することなく生活していた。将来の夢は〝九我龍家〟の跡取りだった。

そんな中、俺のライフスタイルが余儀なく崩された出来事があった。

その年の小学校の夏休み。俺は父に呼ばれた。
 「お前は武家としての何かが足りないと私は思う。それをこの夏で見つけること。これが私からの夏の課題だ」
 「はい。お父様」
 「では行くぞ。影都」
 「はい?」
その瞬間、俺は意識を失った。

 目を覚ました時、俺は山の中で横たわっていた。
 「………は?」
 訳がわからず、戸惑った。さっきまであった父の姿がないことに気づく。そして、懐に何かが入っていたのにも気がついた。
それは父の字で書かれた手紙だった。

 『突然のことですまない、影都。これが私からの夏の課題だ。今お前がいるこの山で夏休み中、一ヶ月過ごしてもらう。九我龍家では8歳になると、このような試練をする家訓がある。食料、寝床の提供されないそのサバイバル生活の中でお前に足りない何かを見つけるのだ。最後に、この森には危険が沢山ある。なので木刀を置いていく。くれぐれも死なないように。―――――父より

P.S.
学校に事情は説明しているので、宿題の心配はするな』

 「―――あんのッッックソ親父ィィィィ!!!」

 俺は心の底から誰もいない森の中で、魂の叫びを吠えた。一辺お前が死んでこいクソ親父、と悪態をついた。
たしかに腰に俺愛用の木刀が差さっているが、これでどう一ヶ月サバイバル生活をしろと?!
 試しに木刀をかじってみた。
………………硬い。
 当たり前である。その常識に少しばかり理不尽さを感じていると、
―――ガサガサッ
「………!(バッ)」
 近くの茂みから物音に反応し、木刀を構える。
しかし、そこにいたのは一匹の小鹿だった。
 「………………」

 「―――うまっ。この肉柔らかいな」
 日が暮れて、すっかり暗くなった山の中で、俺は川を見つけ、その場で焚き火を作り、夕食を食べていた。
 案外、人間ピンチになっても冷静さが滲み出るものなのだ、と実感した瞬間である。習ってもいない皮の剥ぎ取り方も、焚き火の作り方も出来たくらいだ。
あのふざけた手紙を見たときの感情はどこかへ飛んでいったようだ。ちなみに手紙は焚き火を燃やすための薪代わりにした。

 「………これなら、やっていけるかもな………」

 残ったこんがり肉は大きな葉っぱで包んで密閉し、夜の動物の襲撃に備えて、火の付いた木の棒を寝具(ふかふかの葉っぱを何枚も重ねた布団)の周りに差して、木刀を抱きながら寝た。

そんな生活が一週間ほど続いたある日、事態は急変する。

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