真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

challenge4

ー2125年 4月25日 PM17:31 北海道札幌市駅周辺ー

北海道の中心地、札幌。
かつては人が多く集まり賑わった街。
かつての戦いで寂れ、人気のなくなった街。
しかし、それも昔の話で、今ではその活気を取り戻し100年前と勝らずとも劣らない活気を取り戻していた。
そして、活気を取り戻した街の中心にはいつもその『建物』があった。
「えっと、確かこの辺の角を曲がれば……おい、見つけたぞ」
「ん。それにしても、よくこんな略図で正しい道を進めるわよね、アンタ」
「……一応これ国から緊急避難用に配布されてる地図なんだが?」
頭のおかしい人を見る目で蓮を見つめる歩夢に、蓮は苦笑交じりに反論しながら手に持った地図を懐に仕舞い込む。
「いや、その地図明らかに簡略化されすぎでしょ!地元住人ならいざ知らず観光客とかどうすんのよ!絶対迷うわよ!?」
「何に対しての怒りだよ……」
「地図を読めない私への冒涜だ!」
「結局は私怨そこじゃねぇか!……ま、迷ってもここにはアレがあるからな」
歩夢の滅茶苦茶な言い分に頭を痛めつつ蓮は眼前にそびえたつ大きな建物を見上げた。
それは平和の象徴。
人類が勝利者であるという証。
恒久の平和を約束するもの。
しかし、世間のそんなイメージとは裏腹に、蓮と歩夢は石材と金属の複合で築かれた『建物それ』にどこか冷たい印象と畏怖にも似た感情を抱いていた。
「ここに来るのは二度目だな」
「そうね…」
蓮のその言葉に、沈み始めた陽の光と重なって神々しくも見えるその『建物』に目を細めながら感慨深そうに頷く歩夢。
暫らくそのまま見つめていた歩夢だったが次第にその口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「さあ、蓮。そろそろ行くわよ」
「お、心の準備はもういいのか?」
「もちろんよ」
「なら、行こうか」
「ええ。今度こそ合格ラインぶっちぎりの首席で通過してやるわ!」
「……ペーパーテストは?」
「それは任せた」
「おい」
そんないつも通りのやり取りをしながら彼らは『建物』に向け歩みを進めて行く。
『対魔物特殊機動部隊』本部へと...
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ー2125年 4月25日 PM17:47 『対魔物特殊機動部隊』本部、ミストルティンー

二人が足を踏み入れたそこは四方八方を鉄の壁と天井で囲まれた大広間だった。
北海道札幌市の中心近くに居を構えるそこには総勢数百名の訓練生候補達が集まっていた。
パッと見回した限り、その他に見当たるのは警備見回りの警官と今回の試験の監督役と思われる機動部隊の隊員たちだ。
「ん?あれは……?」
周囲の人物を注意深く観察していた蓮。
蓮はその人混みの中に見知った顔があることに気付くとキョロキョロと辺りを見回していた歩夢の肩を軽く叩く。
「おい、歩夢。あそこ見てみろ…」
「え?何よいきなり……って、楓に…柊?」
蓮の指さした先にいたのは何とも見覚えのある二人組だった。
「あ、いたいた!二人ともこっちこっち!」
「おーい!歩夢ぅ!」
暫くの間、そちらを見つめていると件の二人、楓と柊もこちらに気づいたのか小さく手を振りながら歩み寄ってきた。
「時間前集合とは関心だね」
「ちゃんと二人そろってるね」
学校にいるときのような調子で話しかけてきた二人に、蓮と歩夢は何とも言えない安心した気持ちになった。
「ああ、さっきぶり。それにしてもその制服、似合ってるな。いいセンスだ。正規の軍服じゃないところを見るに、自己流アレンジか?」
「正解だよ。訓練生を卒業した後にもらったんだ。制服は所属の対ごとに色だったり形状だったりで分けられるんだけど、隊によっては改造も認められているんだ」
「『とくちゅーひん』だよ!」
そう言ってその場でくるりと回って見せる双子。
双子で似通ったデザインで統一されているあたり、この二人の仲の良さが伺える。
「ほぅ?自己流アレンジが可能、とな?」
「あくまで隊によって、だからね?」
「うちの隊はそーゆーとこ緩いからねぇー」
思いのほか食いつきの良かった蓮に苦笑する双子。
「と言うより、何試験に受かったつもりになってんのよ。私たちの試験はまだ始まってすらいないでしょうが!」
「グハッ!?」
しかし、子供のように目を輝かせる蓮に歩夢の正義の鉄槌ツッコミが下った。
「うわぁ……」
「今のボディーブロー完全に入ったよね」
楓と柊も若干引き気味だ。
蓮はその場に蹲り蒼い顔のまま歩夢を睨み付けている。
「何故…ボディーブロー…?」
「……ごめん、なんとなく」
歩夢の納得のいかない言い分に蓮はガックリと項垂れた。
顔面蒼白で腹部を抑えた蓮が回復したのは試験が始まる数分前のことだった。

to be continued...

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