真っ白な少女の成長譚

心労の神狼

prologue6


「ねぇ、レン。私、吹っ飛ばされた時に頭でも打ったかしら。おかしなものが見えるんだけど…」
「ああ。安心しろ、オレも同じものが見えてる」

「「なんであいつ(あの子)はあんなところで寝てんだ(のよ)!?」」


倒壊する廃ビルの中から無事脱出したレンとアユム。
二人が脱出して最初に見た光景、それは...

「んっ…むぅ………」

瓦礫の上で横になり健やかな寝息を立てるユキの姿だった。

「いや、確かに時間的にもユキの性格的にも、もしかしたら寝てるかもとは思ったけどさぁ…」

なんともやりきれないという表情で額に手を置くアユム。

「いいじゃないか、姉としての威厳が保たれて」
「っ!忘れてた!さっさと下ろせバカレン!」

レンの放ったその言葉に、アユムは思い出したようにレンの腕の中で暴れ始めた。
そう、アユムは今の今までレンの腕の中でお姫様抱っこをされたままだったのだ。
最初は姉としての威厳がどうだとのたまっていたが、ビルの階段を降りる頃にはすっかりとおとなしくなっていた。

「大丈夫だって。さっきも言ったようにお前にじんけ…じゃなくて姉の威厳なんてねぇから」
「おい待て今人権って言い掛けでしょ!誰がゴリラだ!」


「………アユム、うるさい」


ギャーギャーやかましく騒ぎ立てていた二人の声に反応し、眠けまなこを擦すりながらユキが体を起こす。

「アユム、お姫様抱っこ?」
「ち、違うのよ!?私は必死に抵抗したんだけどこいつが勝手に……!」
「人を犯罪者かなんかみたいに言うなや。違うぞ、ユキ?アユムが怪我をしたから俺が仕方なくおぶってやったんだ」
「納得。アユムはドジ」
「ドジって……あ、姉としての威厳が」
「そんなものは、ない」
「妹にまで言われた!?」

あまりのショックに両手で顔を覆うアユム。

「だから言ったろ?お前に威厳なんてないって」
「今すぐそのムカつく顔を歪ませてやろうかしらモヤシ野郎」
「おう、やれるもんならやってみろ脳筋娘」

しかしそれも束の間。
レンの一言を皮切りにいつものようにメンチを切り合い喧嘩腰になる二人。
アユムは我関せずとばかりに二度寝の姿勢に移行している。


「おう!仲良くやってるなぁ、お前ら!」


そんな三人に近づき、声を掛けるものが現れた。
それはレンとアユムのように『SS』の構成員の証であるシンボルが右胸に刺繍されたスーツを着た男だった。

「どこが仲良く見えんのよ、父さん……」

『父さん』
熊のような巨体に熊のような髭を生やした熊のような男は確かに今、アユムに『父さん』と呼ばれた。

「いや、どっからどう見ても仲良しこよしのカプルだと思うんだがなぁ?」
「そう思ってるのは父さんだけでしょ!」
「あ、カップルは否定しないのな」
「うっさい!今更何しに来たダメ親父!」
「こらこら、女の子がそんな言葉を使うもんじゃないよ?」
「そうだぞアユム。あと、あんまし暴れんな。下手すりゃ落とす」
「むしろ落とせ!このバカレン!」
「んむぅ……?あ、ケンだ。お迎えに来た?」

アユムの父、ケンが輪に加わったことで一層騒がしくなったそこに、二度寝を決め込んでいたユキが再び目を覚ました。

「迎え?別に必要なかったのに……」
「お前オレに抱えられてるこの状況でよく言えたな」
「レン、私もおんぶ」
「いくらユキが軽くても流石に無理。ケンおじさんにおぶってもらいなさい」
「ヤダ、ケン臭い」
「なんだと!?か、加齢臭はまだ出てないよな!?」
「…あとうるさい」

ユキの無慈悲な言葉に打ちのめされたケンはこれ以上の被害を避けるべく咄嗟に話題を変えた。

「それにしても数か月前までホントに凸凹だった三人がよくここまで仲良くなったよなぁ」
「だ、だから仲良く見えてるのは……」
「うん?別に父さんはアユムとレン君のこととは言ってないぞ?」
「うっさい!黙れバカ親父!」
「はははは。確かに、よく折り合いがついたと思うぞ?オレは」
「む。確かに、ユキが来たばかりのころは大変だったわね…」
「ああ、オレがな」
「ええ、私がね」
「「………………」」
「おっと、まーた夫婦喧嘩か?」
「だから黙ってろって言ってんでしょクソ親父!」
「アユム、うるさい……」

自分にと再び騒がしくなった周囲に耳を傾けながらユキは、真白マシロ 雪姫ユキは想起する。
何も持たなかった自分にとって、新しく輝かしい日常のスタートラインとなった数か月前のあの日のことを......
自分の世界が突如として色づき始める切っ掛けとなったあの出会いのことを......



to be next story...

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品