Waving Life ~波瀾万丈の日常~
60話 意外な始まり
意外な始まり
1
これは、剣也と蘭華が学校祭から帰っている時。
その時の半弥側での出来事。
ついに学校祭が終わった。
桃山さんと約束をして楽しみにしていた学校祭は、あっという間に過ぎてしまった。
でも、今。俺の中にあるのは、名残惜しい気持ちではなく達成感だった。
桃山さんと初めてゆっくり話せたし、彼女の色々な表情とか仕草を間近で見られて。
本当に幸せな日だった。
そして今、俺はまた彼女を誘おうとしていた。
一緒に帰ろう、と。
「桃山さん?」
夕方祭りが終わって、生徒がどんどん帰っていく。
その人混みの中に、鞄を背負って1人で帰ろうとしていた彼女の姿が目に入った。
彼女がこの街の人だと気付いた夏祭りの日。
あの日から、彼女を次第に意識するようになった。
そして、いつしか彼女を見つけるのが得意になったのだ。綺麗な桃色の髪が目立つからかもしれないけどね。笑。
「げっ!」
彼女の返事は、とても嫌そうな感じだった。
それもそのはず。俺が彼女の機嫌を損ねてしまっていたからだ。
下ネタを叫ばせて、恥じかかせてしまった……。
ただ、彼女は何故か逃げようとせずにその場所に留まった。
話くらいは聞いてやる、という意思表示なのだろうか?
「一緒に帰らない?」
「……、だと思った……」
俺の誘いに、ため息混じりの声でそう返した。
最近冷えてきて、外の空気は凍えるように寒い。
俺たちの息は白かった。
「……。いいよ……」
彼女はなんと言ったのだろうか?
「聞こえなかったの?いいよって言ってるんだけど?」
「えっ?」
そう照れながら彼女は言った。
どういう風の吹き回しだろうか?
不思議に思って、思わずポカーンとしてしまった。
「嫌なら帰るけど?」
「行こう!」
俺は、今日初めてのエスコートをした。
2
誰も周りには人がいなかった。
街頭に照らされた道をゆっくりと足並み揃えて歩き出す。
「何か、話あるんでしょ?」
「……」
どうやら彼女は、俺の意図を見抜いていたようだ。
そう。彼女を誘ったのには目的があったからだ。
俺は彼女の問いかけにコクンと首で頷いて答えた。
「迷惑だった、よね?」
目的とは謝罪。
恥をかかせてしまったのは、俺のせいだからせめてお詫びを言っておかないといけないと思った。
だからこうして2人きりの状況で話しているのだ。
彼女は俺が問いかけをしてから空を見上げた。
俺もそれに釣られて、空を見上げる。
かなり都会のこの地では、あまり見られない星が浮かんでいた。
それを彼女は、ずっと見つめている。
「責任感じてたのね……。別に、謝る必要なかったのに……」
彼女は見上げながらそう呟く。
「だって、もう慣れたもの。あなたがしてくる大抵のことはね。だから、気にしないでいいよ。岡部君」
「い、今なんて?ちょっ、も、もう1回!」
今、間違いなく彼女は苗字を呼んでくれた。
それがもう1度聞きたかった。
「は、恥ずかしいでしょ!」
再び、照れの表情が浮かんできた。
彼女はそれなりに勇気を振り絞ったのだろう。
それを彼女の表情から読み取った俺は、言葉を続けようとは思わなかった。
その後は沈黙が続いた。
暗い道を静かに歩く。
次に静寂を切り裂いたのは、桃山さんだった。
「1つ、聞いていいかな?」
「何?」
意外な言葉だった。
彼女は俺のことなど全く興味が無いものだと感じていたから。
「なぜ、私と積極的にコンタクトをとろうとするの?」
「……」
彼女との出会いは、沖縄旅行の行きの飛行機。
乗り物酔いで、トイレに行って少しスッキリした後だった。
トイレから席に戻ろうとした時、桃色の髪の女性とすれ違った。
見た目で判断すると、彼女は間違いなく年が近かった。
「あの〜」
話がしたいな、という欲求を抑えきれず声を掛けてしまった。
「はい?」
振り返った彼女はそう言った。
「お名前は?」
「桃山 実咲」
「年齢は?」
「16」
「メアド交換しませんか?」
「嫌です」
俺の質問に彼女は冷静に答えた。
そんな個人情報を簡単に言っていいのだろうか?という疑問はさて置き、俺は彼女に話し続けた。
「ゆっくり話しませんか?あ、俺の名前は岡部 半弥です」
「その情報いらないです。もう2度と顔を合わせることは無いでしょうから」
「そ、そんなことありません。生きてる限りは可能性あり!ですよ」
彼女とずっと立ち話をしていた。
それが本当に楽しかった。幸せだった。
でも、1つ今も覚えていることがある。
あの時に感じたこと。
それは、俺は彼女に……。
「一目惚れしたからだよ……」
俺は彼女の顔を見てそう答えた。
彼女の頬を見ると、何故か赤くなっていた。
「桃山さん?」
俺の声に反応していなかった彼女にそう問う。
そしていつもの彼女の表情に戻る。
「ごめん。岡部君」
「え?」
「私、勘違いしていたのかもしれない」
「どういうこと?」
「私は、てっきり岡部君のことをただのナンパ男だと思ってた。でも、違った。ちゃんとした理由があったのね……」
「……」
「ねぇ、岡部君?」
彼女の表情は満面の笑みだった。
「これからもよろしくね!友達として!」
俺は、『友達として』という言葉をふられた言葉としては捉えなかった。
多分彼女はそういう意味で言ってないと確信を持っていたからだ。
俺はただ、友達として彼女と関わっていけることにものすごい嬉しみを感じていた。
その感情が湧き上がっているのが、自分でも感じとれた。
「よろしく!桃山さん!」
そう俺は笑顔で返した。
お互い笑顔のまま、俺たちは夜道を帰ったのだった。
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これは、剣也と蘭華が学校祭から帰っている時。
その時の半弥側での出来事。
ついに学校祭が終わった。
桃山さんと約束をして楽しみにしていた学校祭は、あっという間に過ぎてしまった。
でも、今。俺の中にあるのは、名残惜しい気持ちではなく達成感だった。
桃山さんと初めてゆっくり話せたし、彼女の色々な表情とか仕草を間近で見られて。
本当に幸せな日だった。
そして今、俺はまた彼女を誘おうとしていた。
一緒に帰ろう、と。
「桃山さん?」
夕方祭りが終わって、生徒がどんどん帰っていく。
その人混みの中に、鞄を背負って1人で帰ろうとしていた彼女の姿が目に入った。
彼女がこの街の人だと気付いた夏祭りの日。
あの日から、彼女を次第に意識するようになった。
そして、いつしか彼女を見つけるのが得意になったのだ。綺麗な桃色の髪が目立つからかもしれないけどね。笑。
「げっ!」
彼女の返事は、とても嫌そうな感じだった。
それもそのはず。俺が彼女の機嫌を損ねてしまっていたからだ。
下ネタを叫ばせて、恥じかかせてしまった……。
ただ、彼女は何故か逃げようとせずにその場所に留まった。
話くらいは聞いてやる、という意思表示なのだろうか?
「一緒に帰らない?」
「……、だと思った……」
俺の誘いに、ため息混じりの声でそう返した。
最近冷えてきて、外の空気は凍えるように寒い。
俺たちの息は白かった。
「……。いいよ……」
彼女はなんと言ったのだろうか?
「聞こえなかったの?いいよって言ってるんだけど?」
「えっ?」
そう照れながら彼女は言った。
どういう風の吹き回しだろうか?
不思議に思って、思わずポカーンとしてしまった。
「嫌なら帰るけど?」
「行こう!」
俺は、今日初めてのエスコートをした。
2
誰も周りには人がいなかった。
街頭に照らされた道をゆっくりと足並み揃えて歩き出す。
「何か、話あるんでしょ?」
「……」
どうやら彼女は、俺の意図を見抜いていたようだ。
そう。彼女を誘ったのには目的があったからだ。
俺は彼女の問いかけにコクンと首で頷いて答えた。
「迷惑だった、よね?」
目的とは謝罪。
恥をかかせてしまったのは、俺のせいだからせめてお詫びを言っておかないといけないと思った。
だからこうして2人きりの状況で話しているのだ。
彼女は俺が問いかけをしてから空を見上げた。
俺もそれに釣られて、空を見上げる。
かなり都会のこの地では、あまり見られない星が浮かんでいた。
それを彼女は、ずっと見つめている。
「責任感じてたのね……。別に、謝る必要なかったのに……」
彼女は見上げながらそう呟く。
「だって、もう慣れたもの。あなたがしてくる大抵のことはね。だから、気にしないでいいよ。岡部君」
「い、今なんて?ちょっ、も、もう1回!」
今、間違いなく彼女は苗字を呼んでくれた。
それがもう1度聞きたかった。
「は、恥ずかしいでしょ!」
再び、照れの表情が浮かんできた。
彼女はそれなりに勇気を振り絞ったのだろう。
それを彼女の表情から読み取った俺は、言葉を続けようとは思わなかった。
その後は沈黙が続いた。
暗い道を静かに歩く。
次に静寂を切り裂いたのは、桃山さんだった。
「1つ、聞いていいかな?」
「何?」
意外な言葉だった。
彼女は俺のことなど全く興味が無いものだと感じていたから。
「なぜ、私と積極的にコンタクトをとろうとするの?」
「……」
彼女との出会いは、沖縄旅行の行きの飛行機。
乗り物酔いで、トイレに行って少しスッキリした後だった。
トイレから席に戻ろうとした時、桃色の髪の女性とすれ違った。
見た目で判断すると、彼女は間違いなく年が近かった。
「あの〜」
話がしたいな、という欲求を抑えきれず声を掛けてしまった。
「はい?」
振り返った彼女はそう言った。
「お名前は?」
「桃山 実咲」
「年齢は?」
「16」
「メアド交換しませんか?」
「嫌です」
俺の質問に彼女は冷静に答えた。
そんな個人情報を簡単に言っていいのだろうか?という疑問はさて置き、俺は彼女に話し続けた。
「ゆっくり話しませんか?あ、俺の名前は岡部 半弥です」
「その情報いらないです。もう2度と顔を合わせることは無いでしょうから」
「そ、そんなことありません。生きてる限りは可能性あり!ですよ」
彼女とずっと立ち話をしていた。
それが本当に楽しかった。幸せだった。
でも、1つ今も覚えていることがある。
あの時に感じたこと。
それは、俺は彼女に……。
「一目惚れしたからだよ……」
俺は彼女の顔を見てそう答えた。
彼女の頬を見ると、何故か赤くなっていた。
「桃山さん?」
俺の声に反応していなかった彼女にそう問う。
そしていつもの彼女の表情に戻る。
「ごめん。岡部君」
「え?」
「私、勘違いしていたのかもしれない」
「どういうこと?」
「私は、てっきり岡部君のことをただのナンパ男だと思ってた。でも、違った。ちゃんとした理由があったのね……」
「……」
「ねぇ、岡部君?」
彼女の表情は満面の笑みだった。
「これからもよろしくね!友達として!」
俺は、『友達として』という言葉をふられた言葉としては捉えなかった。
多分彼女はそういう意味で言ってないと確信を持っていたからだ。
俺はただ、友達として彼女と関わっていけることにものすごい嬉しみを感じていた。
その感情が湧き上がっているのが、自分でも感じとれた。
「よろしく!桃山さん!」
そう俺は笑顔で返した。
お互い笑顔のまま、俺たちは夜道を帰ったのだった。
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