Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

59話 これからの方向性

 これからの方向性
 1


「俺は蘭華のことが好きだ。大好きだ」

 心にあった思いをようやく話せた。
 嬉しさ、喜び……。
 彼女との関係が更に1歩進んだ。
 でも……。
 たしかに彼女のことが好きだ。
 でも、俺は付き合わないと決めていた。
 彼女が付き合いたいと思っていても俺は断る気でいる。

 理由は1つ。
 蘭華が控えている留学だ。
 彼女が俺のそばを長い間離れる。
 超長距離恋愛をするのも選択肢ではある。
 だけど、俺は敢えて付き合わない選択肢をとることにした。
 蘭華と再開する日。その時に本当に好きであれば、それは本当の愛だと思うから。
 もし本当に好きなら、ずっと好きだという気持ちは変わらない、揺るがないはずだから。
 それを確かめるために、俺は彼女と付き合わないと決めた。

 だから……。

「蘭華」

 学校祭が終わり、外も暗くなった午後7時。
 片付けは明日行われるため、俺たちは帰宅の途についた。
 そして、今は街頭に照らされるだけの暗い道を歩いている。
 隣には少し眠そうな蘭華がいる。

「ん?なぁにぃ?」

 言葉からして眠そうだ。
 でも、今は真剣に聞いてほしい。

「真剣な話がある」
「うん……」

 蘭華は眠そうな目を擦って、こちらを見る。

「さっき言った俺の思いは本物だ」
「うん……。分かってる」
「でも、俺は蘭華とは付き合えない」
「……」

 蘭華は急に黙り込んだ。
 その顔からは悲しみが見て取れた。

「それでもいいか?」
「なんでよ……、なんでよ!」

 彼女の感情は、悲しみだけではなかった。
 同時に怒りもあった。
 その気持ちが声に乗る。
 俺たちに吹き付ける風は今の状況同様、冷たく乾いたものだった。

「蘭華は留学があるだろ?俺はそれが寧ろ、いい機会だと思ってる」
「どういう意味?」
「蘭華が留学から帰ってきた時。その時まで好きな気持ちが続いていれば、本当の好きなんじゃない?こんな僅かな間に、その気持ちが揺らぐようならそれは本物の愛じゃないってことだよ」
「……」
「もし、こんな些細な事で気持ちが揺らぐようなら、この先も上手くやって行けないしさ。それでいい?」

 俺に付き合いたいという気持ちがない訳ではない。
 寧ろ、付き合いたい気持ちでいっぱいだ。
 彼女ともっと近づきたいし、楽しいことしたいし……。
 だけど、時には我慢も……。

「じゃあさ、剣也はそれでいいの?」
「お、俺?」
「剣也は、付き合いたくないの?」
「付き合いたいよ……」
「なら、例え長距離恋愛になっても良いじゃん?今の世の中、離れていても声が聞けるし、出来ないのは直接会うことだけ。だったら、無理して付き合わないという選択肢を取らなくてもいいんじゃないかな?」

 選択肢の答えは1つではない。
 絶対正しいという答えは、1つとしてない。
 それは、既に知っていることだ。

「私は、剣也が好きだよ。だから私は付き合いたい。もし、付き合わないって言うなら留学だって取り止めるし、何だってする。私は、私は、剣也の傍にずっといたいの!」

 蘭華の気持ちが理解出来ない訳ではない。
 寧ろ、第3者から見れば正しい選択を取っていると思う。

「蘭華……。俺は蘭華の事が好きで、付き合いたい気持ちは多分、蘭華よりも強いと思う。でも、好きだからこそ俺はその選択肢をとった。付き合わない選択肢をとった」

 俺の声は、大変で猶予もさほどない時であるにも関わらず冷静だ。
 彼女の留学まで残り半年を切った。
 じっくり考えているのではなく、1秒1秒を大切にしなければいけないはずだ。
 ただそれでも俺は、こんな提案を立てる。

「時間をくれ。時間がないのは分かってる。だけど、暫く時間が欲しい。11月1日。その日に結論を出す」
「私も、剣也の提案を視野に入れて考え直してみる。だから11月1日まで待つよ」
「その日まで……」
「うん」
『互いに距離を置こう』

 2人、同じことを口にした。
 お互い、一から考えることでしっかり考えられる。
 だから距離を取ることにした。
 お互い、好きであるにも関わらず。

 俺たちは2人別れる岐れ路にやってきた。
 高校での2人の関係がスタートした、この場所。
 そこで、俺たちはそれぞれ最高の笑顔で言い放つ。
 別れの言葉。

「じゃあな!」
「またね!」


 2


「お互い蹴りがついたわね」
「皆田さん?」

 誰も居なくなった校庭。
 学校祭が終わり、静まり返った夜の学校はとても寂しい。
 ふられたのも追い打ちをかけていた。
 そして、外の冷たさ同様声も冷たい。
 私は、1人で帰ろうとしていた学級会長に声をかけた。

「あの2人にそれぞれふられたじゃない?」
「……、まさか君、蔭山君のことが……。というか覗いてたのか」
「振られるっていうのは、儚いものね。どれだけ長く好きだって思っていても、ふられる時は一瞬だもの」
「まぁね……」

 常に裏のない明るい笑顔を振りまく彼が、愛想笑いというか、苦笑いをしている。

「で、これからあなたはどうするつもり?」
「どうって?」
「諦めるの?それとも男のくせに、わざわざあの女1人にネチネチ粘る?」
「皆田さん……。いつもと何かが違う。まるで別人のような……」
「何言ってんの?私は私、だけど?」
「君はそんな人間じゃなかったはずなのに……」
「そんな?どんな人間?」
「やさ……」
「優しい人って言おうとしたでしょ?ふっ……。それは演技。好かれるためのね」

 私は、彼にもう1度好きになってもらうために演技をしていた。
 彼が昔言っていた優しい人になるために。

「まさか……」
「そう、これがありのままの私」
「ねぇ、皆田さん」
「?」

 私は彼に、突然抱きつかれた。
 私は、拒絶するように彼を退けようとする。
 ただ彼はそれを止めようとはしなかった。

「君の気持ちは分かる。だけど、そんな自暴自棄にならなくても……」
「分かるって、何が?私の何が分かるのよ!」
「そりゃ、ふられたら悲しいし、悔しい。だから慰めてもらおうとして俺に声をかけたんだろ?」
「っ……。いいから離せ!」

 そう言うと、彼は私から離れた。

「僕は君に、そんなふうになって欲しくない。だからそんな自分を否定するようなことは……」
「うるさい……、うるさい!」

 そう言って私はこの場を離れた。
 自分を否定?
 否定などしていない。
 演技だったから、素の私に戻っただけなのだ。
 だから、私はこれからずっと……。

「この私であり続ける」


 私は家へと、走って帰った。


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