Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

54話 食べ物のお祭り

 食べ物のお祭り
 1

 アイスクリーム屋である1年3組を去った後、次に向かったのは、地域の店に協力を要請して特別出店しているお店だ。
 2階、3階の教室は、出し物で使うことはなく空いているため、毎年その場所が出店となっている。
 今回は、いつも通う坂の下の喫茶店や近くのファストフード店、そしてラーメン屋など述べ10軒が入っている。
 まだお昼にはならないのだが、半弥が見ておきたいとの事で早めに行くことにした。

 2階。
 普段は3年生が勉強している階である。
 最近、受験が迫り勉強に勤しんでいる彼等にとってはこの学校祭が最高の休みになるのだろう。
 通りすがる3年生の表情はかなり生き生きとしていて、楽しさが溢れていた。

「お!今回はハンバーグの店まであるじゃねぇか!」

 そう言いつつ、よだれを垂らすのは半弥である。
 教室の壁に貼られた、メニューの写真は見るものの食欲をそそる。
 デミグラスハンバーグ、チーズインハンバーグ、包焼きハンバーグなど種類も豊富である。
 どうやらこの店はかなり人気のようでかなり混み合っている様子だ。

「さっきのショックはもう消えたのか?」

 さっき桃山さんに凄い仕打ち受けていたのに、食べ物を前にすると瞬時に気持ちが切り替わっていた。

「そりゃあ、多少はね!多少は、ね……」
「やっぱ、傷ついてるじゃねぇかよ!」
「別のこと考えていないと、泣きたくなる……」

 半弥の表情は、すごく悲しそうだった。
 悲しそうなのはいいんだが、せめて涎は拭いておけよ。悲しそうに見えないから……。

「で?昼はまだだけど、全部回るのか?」
「そりゃあ、昼に何を食べるか考えるためには全部見ておかないと!」
「あ、そう」
「それに匂いを嗅ぐだけでお腹一杯になるしな!」
「かなり安上がりなやつだな……。お前、飲食店の換気扇の近くに住めば食料費要らないんじゃねぇか?」

 そんな俺のツッコミに聞く耳を持たない半弥は、蘭華のようにスキップして次の店へと向かう。
 元気な奴の扱いにはそれなりに慣れてるから良いけど、やっぱり面倒くさい……。
 俺は彼のあとを追った。

 2


「ふぅ〜。全部回ったな」

 そろそろお昼時。ようやく俺たちは回りきった。
 10軒だから別にため息をつくほど疲れないだろ?って思うかもしれない。
 でも、半弥を止めるのにどれくらい大変だった事やら。
 別に匂いを嗅ぐことを止めたりしたわけではない。
 止めたのは、ナンパだ。
 横を女性が歩けばすぐに挨拶にいくし、場合によっては携帯開いて電話番号聞きに行こうとするし……。
 あいつが変な行動するせいで、俺まで変な目で見られるし……。
 とにかく大変だったのだ。

「それで?どこにする?」
「ん〜……。やっぱりハンバーグ屋かな?」

 全部回る必要なかったじゃねぇか……。
 俺の苦労を返せよ……。

「分かった。んじゃ行くぞ」

 そう言って、今いる1階から2階へと階段を上る。
 そしてハンバーグ屋についた。
 ……、はぁ〜。
 ここで又してもため息が出る。
 面倒くさいことが嫌いな俺にとって店に並ぶことはため息が出るほど嫌なのだ。
 校長の長話を聞聞き終わるまで待つくらいに面倒くさい……。

「これでも行くのか?」

 俺はその行列を指さす。
 相当並んでいる。丁度お昼だから仕方ないが。

「そりゃ、もちろん」

 俺たちは列の最後尾に並ぶ。
 中はどんな様子なのかな?と思い窓ガラスを覗くと……。
 そこには蘭華と絵里がいた。
 蘭華が言っていた用事とはこれのことだったらしい。
 俺の視線に気付いたのか、蘭華が手を振ってくる。
 そしてそれを見た絵里も手を振ってきた。

 並ぶこと15分。
 ようやく注文をすることが出来た。
 そして、注文したデミグラスハンバーグを手に『こっち、こっち!』と手を振ってくる蘭華の近くの席に座った。

「剣也たちもここにしたんだね!」
「半弥がそう言ったからな……。並ぶのだるかったけど」
「だって、食べてみたいだろ?透明な肉汁が閉じ込められたジューシーなお肉をさぁ!」
「食べすぎて吐いたとかなしだからな!飛行機の時、面倒だったんだからな!」

 本当に嫌だったよ。
 汚いし、面倒くさいし……。
 それに当の本人はナンパしてるし……。

「絵里はこういうの好きなのか?」

 俺の質問に、絵里が3秒ほど遅れて答える。

「う、うん。まぁね」
「とにかく食べようぜ!」

 半弥がうるさく、しつこく言ってくるので食べることにした。
 半弥は、途中うるさい食レポをしながら食べていたが俺は静かに黙々と食べた。
 そして4人とも食べ終わり、俺たちは教室を出た。

「どうする?一緒に行動するか?」
「そうだね!」

 そう蘭華は答えてくれた。
 でも横にいた絵里は、どこか嫌そうな顔をしていた。

「絵里ちゃん?」
「……、ん?いや、何もないよ……」

 何かあったのだろうか。
 どこかおかしい気がした。
 でも俺はそれを問題視しなかった。
 深く考えても、俺の楽しい気分が台無しになってしまうだけかもしれない。
 問題はまた今度解決すればいい。
 そう思っていたから。

 でも、今思い返せば不味いことをしたと思う。
 絵里がこんな感じだったのは、理由があった。
 それも主に俺が原因だと言うことに、俺は気づくはずもなかった。

 そして気付かないまま2日目の学校祭は進んで行き、気付けば折り返していた。


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