Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

55話 迎えた約束の日

 迎えた約束の日
 1

 俺たちが蘭華と絵里たちと合流してから、約4時間。
 劇を見たり、バザーに行ったり、スイーツを食べたり……。と楽しい時間を過ごした。
 そして気付けば日も落ち、あっという間に2日目が終わった。

 その日の学校からの帰り道。
 俺は蘭華に言われたことで頭の中が掻き乱された。

「明日は2人きりだね!」

 元気な声は、夕方の街に響く。
 そんな微妙に反響してエコーがかかったような声が頭の中にずっと残っていた。
 その声の影響で、夜はよく眠れなかった。
 徹夜を避けられたのが、唯一の救いだ。
 お陰で今、大きな欠伸をしている。

 ようやく迎えた3日目。
 空は、眠気を覚ますくらいのキリッとした快晴。
 お陰で眠さの割には気分が随分とスッキリしていた。

「行ってきま〜す!」

 と、まるで小学生のような元気な声を出し、俺は集合場所へと向かった。

 俺は、予め決めておいた集合時間より数分早く着くように家を出た。
 原因は、今日の楽しみにある。
 楽しみで仕方なく、待ちきれなかったのだ。
 いつもの集合場所に着いた。
 まだ来ていないだろうな……、と思っていたのだが、その場所には既に蘭華の姿があった。

「おはよ!」

 今日の蘭華は、いつもよりも一層元気に見えた。
 俺と同じように楽しみにしているのだろう。
 だからこそ、俺と同じく予定より早くここに来ているのだ。

「さっ!行こっ!」

 着いて早々、俺は腕を取られた。
 そしてそのまま引っ張られ、最終日を見える学校祭の会場へと向かった。

『だから!腕が当たってるって!む、胸に!』

 そんな心の叫びは、届くはずもない。

 2

 時刻は9時。
 出店や模擬店は、開店から30分経過し次第に忙しくなってくる時間帯だ。
 とりあえず、俺たちは教室に向かうことにした。
 運営委員として、現状を見ておくのも大切だろうと感じたからだ。

 教室を見る限りかなりの盛り上がりようだ。
 売り上げも上々と聞いているので、かなりホッとした。

「で?どこ行く?」

 軽い視察を終え、俺は蘭華に訊ねた。

「とりあえず、全部!」

 蘭華の事だから、可能性はあるだろうと思っていたが……。
 昨日も回ったんだよなぁ……。
 でも、蘭華と一緒にいれば楽しくなるだろう。
 こうして、俺たちは10件の出店を一通り回ることにした。

 一通り見た後に1度劇を見て、気付けばお昼時。
 今日は、昨日のハンバーグ店ではなくうどん屋にした。
 かけうどん、温玉うどん、冷やしうどん、などといった定番で安いメニューが揃えられていた。
 更には、天ぷらやおむすびなどサイドメニューも充実していた。

 蘭華は温玉うどんと天ぷら。
 俺は大盛りの肉うどんを注文した。
 この店は、ハンバーグ店ほど混んでおらずすぐに席につけた。
 面倒くさがり屋の俺にとっては、うどん屋は強い味方だ。
 俺たちは、早速割り箸を割って麺をすすった。

 チラッと、2階の窓から外を覗く。
 すると、今日行われる夕方祭りの準備が行われていた。
 予定では、そのイベントにも二人で行く予定でとても楽しみにしている。
 確か、フォークダンスをするとか花火を打ち上げるとか、そんなイベントがあると聞いている。

「ねぇ剣也?」

 外をボーッと眺めていた俺は、蘭華の呼びかけに応答できていなかった。

「なんだ?」
「それ頂戴!」

 彼女が欲しがるのは俺の肉うどんだ。

「頼めばいいだろ?」
「いいじゃん!」
「何がいいんだよ?」
「いいから、いいから!」

 このままでは、話が終わらないと判断した俺は仕方なく、彼女に渡した。
 彼女は、でうどんを一口食べた。

 ……、?
 か、か、か……。
 間接キス!
 俺の顔は一気に赤くなり、温度が上がっているのを感じた。
 というか、既に俺と蘭華ってキスしているよな?それも2度も。
 そう思い出した俺の顔から一気に熱が冷めていく。
 今更、恥ずかしがる事でもないか……。

 俺は、返ってきた肉うどんをさっきの箸で平らげた。
 蘭華が食べ終わったのを見て、2人で店を出た。

「次はどこに行く?」

 午後からの予定はまだ立てていない。

「劇を見に行こうよ!」
「またかよ……」

 劇は3種類ある。
 2年1組はロミオとジュリエット。
 2年2組はシンデレラ。
 2年3組は不思議の国のアリス。
 昨日見たのは、ロミオとジュリエット。
 午前中に見たのは不思議の国のアリス。
 蘭華は全部見たいらしい……。
 確かに高校生の演技には見えないほど上手くて面白かったから、そう思わなくはない。

「えっと、あとはシンデレラだね!」

 俺は手元の表を見る。
 そこに、時間やイベントの内容が記されている。

「……、って、あと5分で始まるじゃねぇか!」
「んじゃあ、急いでいくよ!」
「え、ちょっ……、おい!」

 朝と同様に俺の腕を掴んで、劇の会場の体育館へと向かう。
 それにしても、元気だな!
 午前中はずっと歩きっぱなしだったのに……。

 3

 静かな体育館で、劇を見てその後は色々な所を回った。
 結局、休めたのは劇の時だけで俺の足は既に悲鳴をあげていた。

「次は?」

 蘭華は、弾む声でそう言ってくる。
 時刻は夕時。4時を回っていた。
 夕方祭り開始が、あと30分と迫っていた。
 外では着々と準備が進められ、後は本番を待つのみという状態になっている。

「夕方祭りまでは時間あるけど、どうする?」
「こういう時は、いつものあそこに行こう!」
「あそこって?」

 またしても、俺は蘭華に腕を引っ張られ連れ出された。
 俺の腕はリードで、俺は犬かよ……。

「ここだよ!」

 そこは1階にある、ある出店。
 学校の坂の下にある喫茶店が、出店したものだ。

「コーヒーでも飲むか……」
「うん!思いっきり甘いやつをね!」

 コーヒーが思いっきり甘いと、大事な苦味が消えてしまう気がするのだが……。
 甘党にはそれくらいが丁度いいのだろうか?

 俺たちは、時間潰しを兼ねてその店に入った。


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