Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

43話 運営委員の発足

 運営委員の発足
 1

 次の日。
 外は、夜の間に降った雨が太陽によって蒸発。その影響で、とてもジメジメして暑い。
 何とも過ごしにくかったが何とか乗り越え、今は放課後。
 朝、西島に昨日の件について伝えると今日から早速会議をしたいと言うことだったので教室に待機している。
 教室には俺と蘭華が静かな教室でボーッとしている。西島を待っているのだ。
 西島は担任に模擬店の詳細を聞きに行っている。その帰りをただ静かに待っている。
 俺はその間に考えていた。
 昨日の西島の問題の解決策を。
 西島に過去を聞かない限りは解決の糸口を掴めない。だからこの会議が終わったあと屋上で話す予定だ。

「剣也、まだ?」

 蘭華が怠そうにこちらに問いかけてくる。
 怠くなるのも分からなくはない。西島が職員室に行ってからかれこれ30分近くたっているからだ。

「お金のこととか、場所のこととか聞いているんだろ?だったら仕方ないだろ……」

 すると、教室の前の戸が勢いよく開く。
 西島が急いで来たからか息を切らしていた。

「ご、ごめん。待たせたね……。じゃあ早速始めようか」
「そうだな、待ちくたびれた」

 30分間特に何もせずに待っていたのだ。
 さすがに俺でも待ちくたびれるさ。

「ごめん……」

 急に申し訳なさそうな顔になる。

「いや、別に良いけど。それより早く始めようぜ!」
「そうだね」

 西島が息を整えながら、教卓の前に立つ。
 俺たちは教卓のすぐ側の椅子に座っている。

「とりあえず、すべき仕事について説明するよ」

 こうして最初の会議が始まった。

 2

 長々と約30分話をされた。
 あまりに長いので要点をまとめる。
 仕事は、企画と運営。この3人でこの企画が良くも悪くもなるから注意してとの事だ。
 次に模擬店について。
 模擬店は調理室で作ったものを教室で販売するというシステム。作る側と売る側の二手に別れて作業をする必要がある。そのため多くの人数を必要とすることを頭に入れておいてくれとの事だ。
 最後にお金について。
 基本的には、お金は上限はあるが生徒会が払ってくれるらしい。そのためどれ位の値段にするかはこちらに委ねられている。高く売れば多く儲けられるが、売れる数は減る可能性がある。逆に安く売れば多く売れるが、売上は下がる可能性がある。そのバランスを上手く考えて欲しいと担任から伝えられたとの事だ。
 会議は俺たちがほぼ喋ることなく、西島からの説明のみで進められた。
 俺たちは、真剣に耳を傾けていた。

 たくさんの事があって蘭華は混乱していたが、俺は一通り頭に入れた。
 と言っても、もう1度言えと言われたら答えるのは難しいけど……。

「今日はとりあえずこの説明だけにしておくよ。何か質問はあるかい?」
「いや、ない」
「私も」
「じゃあ、会議を終わろう」

 そう言って西島は教卓を離れ自分の席へと向かった。鞄を持って帰ろうとする。

「西島」
「?」
「話がある」
「学校祭、の事ですか?」

 どこか含みのある言い方だ。恐らく俺の話の意図が掴めているらしい。
 もちろん、学校祭の話ではない。

「その顔は、どうやら別のことみたいですね……。分かりました」
「じゃあ屋上に行くぞ」
「はい」

 俺たちは2人で屋上に向かおうとする。

「蘭華、ごめん。先に玄関に行っててくれ。すぐに行くから」
「早く来てね!女の子を待たせたら後が怖いよ!」

 とイタズラっぽい表情でそう返してきた。
 それを聞いて俺は屋上へと向かう。

 3

 屋上に着く。
 とりあえず西島には、ベンチに腰を下ろしてもらう。その横に俺も座る。

「要件は何ですか?」
「何のことかくらい自分でも把握してるだろ?」
「……」

 西島にいつもの輝く笑顔は全く見られない。
 昨日のあの時の表情とほぼ同じだ。

「西島の様なやつが人に信頼されないわけがないだろ?一体過去に何があったんだよ?」
「その件ですか……」
「答えてくれ。勉強会の時の借りは返しておきたい」
「別にお返しは求めてませんよ。それにあなたは僕という人を過大評価し過ぎだ」
「?」

 俺の彼に対する印象。頭が良くて、スポーツも出来る。人に対しては優しくて、信頼されている。決してお世辞でも過大評価でもない。素で思ったことを口にしただけだ。
 屋上のコンクリートには所々水溜まりが見受けられる。それが蒸発して蒸し蒸しとした空気を作り上げている。
 俺たちの間にはその空気とは逆に、カラッとした空気が出来ていた。

「僕は、蔭山君のように優しい人間でない。だから信頼されることは無い。ただそれだけ…。話すことなんてないよ」
「そんな訳ないだろ?何かあっただろ?」
「人の話に首を突っ込まないでくれるかな……」

 西島の声は小さくて、低い。
 その声には怒りも込められているように思えた。

「話してくれよ。相談に乗るから」
「人の話に首を突っ込むな!君のそんな態度を見ているとイラッとくるんだ!だから、だから……。もう2度とこの話をするな!」

 西島の怒りは爆発していた。
 普段見せない彼の本当の面かもしれない。

「な、何でだよ……。人が折角相談に乗るって言っているのに……」
「そんなのは要らないんだよ!自分で解決するべき問題だ。君に余計なことを言ったのが間違いだったね……。じゃあ、僕は帰るよ」

 彼は怒りを抑えていつもの冷静さに戻っていた。
 そして、西島は側に置いた鞄を持って屋上を出ていった。

「おい、待てよ!」

 そんな声は、彼には届いてなどいなかった。ただ屋上に響くだけだった。
 首を突っ込むな、か……。
 そんな訳にはいかない。
 多分、昨日のあれは俺にだけ見せた彼の弱みだと思うからだ。
 でも、これでは話が出来ない……。
 俺は、今ようやく思い出した。
 半弥があの時に言っていた言葉の意味を。

「その優しさは、人を傷つける」

 それは、こういう事だったのかもしれない。


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