Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

36話 待つうちが花

 待つうちが花
 1

 桃山さんを連れて3人で屋台を回っていると、再び蘭華と絵里に会った。

「あれ?みっちゃんだ〜!」
「こんばんは、実咲ちゃん」

 蘭華と絵里が、桃山さんに話しかける。
 この言い方だと知り合いなのだろうか?

「うん。こんばんは、2人とも」
「で、何で剣也たちと一緒にいるの?」
「というか、岸川さんの友達?ビックリ!」

 何か色々と疑問が浮かんできたな…。
 事情を話すと長くなりそうだ。

「とりあえず、ゆっくり話さないか?お互い聞きたいことあるだろうし」

 俺がそう提案すると、皆が素直に受け入れた。
 そして、祭りの運営側が出店の近くにセットした長椅子に座る。


「えっ?本当?」

 蘭華がそう言うのは、沖縄に来ていたということに対する疑問だ。
 まさか、近くに住んでいる人と遠く離れた同じ沖縄という地にいたとは誰が想像しただろうか。
 事実、俺もさっき知ったばかりだ。

「まぁ、いろいろあって蔭山君とは知り合いみたいになったのかな。で、このド変態とは飛行機でナンパされて知り合ったって感じかな」

 桃山さんが俺たち2人の接点を話する。
 半弥の話になると、蘭華と絵里が急に冷たい目線で本人を見始めた。
 そして、

「最低…」

 と一言もらした。
 その言葉を聞いた半弥は、桃山さんの言葉と今ので心が折れたらしく、テンションが大きく下がっていた。
 半弥は何やら独り言を呟いている。
 よく聞こえないが、耳を澄ませると…、

「俺って最悪だよな…。うん、駄目人間だ…」

 と今の自分を受け入れようとしていた。
 女子3人にこんなこと言われては、例え俺でもこうなっただろう。
 そもそも自業自得なので、敢えて慰めなかった。

「それで、何で蘭華たちと桃山さんは知り合いなんだ?」

 俺は、桃山さんと2人の関係を知らない。
 どのような接点があるのかは興味があった。

「えっ?知らないの?みっちゃん、3組だよ?」
「は?」

 と思わず驚きの声を上げてしまった。
 蘭華の方はなぜ知らないの?と不思議そうな表情をしている。

「同じ学年なのに、1度も顔みたこと無かったの?」
「うん…。無いかな」

 俺たちの学校は、髪を染めることを認めている。
 そのため、ピンク色の髪の毛をしていても1人に特定しずらい。
 意外にもピンク色の髪の人は多いのだ。
 でも、正直今はワクワクしている。
 というのも、彼女が同じ学校だと知って新たな友達が増えた。
 だから、更に楽しい日々が待っているのだ。
 2学期が待ちきれない。
 夏休みははなく終わって欲しくないが。

「2学期はより楽しめそうだよ」
「確かに、いい友達が増えたから楽しさも増えそうです。1人邪魔者はいるんですが」

 そう桃山さんが返すと、追い打ちを食らった半弥が更に沈んでしまった。
 さすがに、可哀想に思った桃山さんが救いの手を伸ばす。

「ほらほら、そう落ちこまないで…。せっかくの夏祭りだから楽しまないと」
「…。うん…。桃山さんがそう言うのなら」

 半弥も単純なもので僅かこの一言で持ち直した。
 こういう頑丈さは素直に見習いたいものだ。
 他のことは一切見習いたくないが。

「ねぇ、剣也君」
「?」

 蘭華の隣に座っている絵里が声をかけてくる。
 座り方を見ている限りでは、食べ過ぎて苦しそうだ。
 自由人の蘭華に合わせるのは相当大変らしい。

「そろそろ花火でしょ?」

 祭りの終わり際に上がる花火の開始時刻は九時だ。
 あと30分で始まる。

「そうだね」
「見やすいところに行かない?」
「あぁ、それなら俺がいい所に案内するよ!」


 2

 毎年来ている俺は、花火の見やすい場所を知っている。
 鳥居側から見て左側の通路を少し行った所に、小さな公園がある。
 その場所は、周りより少し高い所にあるので街を一望できる。
 つまり、花火が見やすいポイントなのだ。
 俺たちは、皆に起立を促しその場所へと移動した。

 ものの5分ほどでその公園に着いた。
 未だにこの場所は、知る人ぞ知る名所らしくあまり人の姿は見られない。
 まさに絶好スポットなのだ。
 是非、皆さんには感謝してもらいたい。
 ここは言わば、プレミア席だからね。

「へぇ〜、こんな場所があるんだね」

 蘭華がそう呟く。

「私も知らなかったわ」

 俺の左隣にいた絵里も知らなかった場所らしい。
 随分前のことだろうか。
 幼い頃、美香と一緒に来たら迷ってこの場所に出た。
 その時にたまたま見つけた。
 初めて来た人には、目につかない場所。
 ましてや、地元の人でも知らないくらいだ。
 見つけたのは奇跡と言っても過言ではない。

 ここに着いたは良いが早く着きすぎた。
 まだ20分もある。

「ねぇ、剣也。飲み物買ってきていい?」
「あ、あぁ」
「私も行くよ!」

 蘭華は、時間に余裕があるのを利用して飲み物を買いに行った。
 絵里もそれについていった。
 その姿を見届けた後半弥は、

「俺、ポテト食いたいから買ってくるわ」

 と言って屋台へと向かった。
 今は、俺と桃山さんの2人きりだ。

「2人きりだね…」
「はい」

 居心地の悪い雰囲気が流れる。
 お互いどんな距離間をとればいいのか、いまいち掴めていない。
 そのためだろうか。

「桃山さんはいつも来てるの?」
「はい。でもいつもは1人で来てるので、こうして大人数で動くのは初めてだと思います」
「大人数の方がいい?」
「そうですね。1人で来てても楽しかったですけど、やっぱり大人数で遊んだ方が楽しいです。だから今、すごく感じます。友達がいるっていいなぁって」

 この言い方だと、昔は1人だったのだろうか。
 彼女の話す姿はどこか寂しげだ。

「桃山さんがいたら、より一層楽しい日々になるよ」
「本当ですか?邪魔になりそうですけど…」
「そんな事ないって。きっとまた違った景色が見られて、日々に新たな色が見られると思う。そんな日常が待ち遠しいよ」

 俺の言葉を聞くと、彼女は微笑む。

「蔭山さんはいい人ですね。きっといろんな人に信頼される人。私、そんな人に会うのは初めて」
「そ、そんなこと言われると照れるなぁ」

 俺は、すごく照れていた。
 こんな、可愛い人にそんな事言われると照れてしまう…。

「だから、私も蔭山さんを信頼してます。だから、もしもの時はよろしくお願いしますね!」

 ふふっと彼女は小さく笑う。
 俺の反応を見て楽しんでいるのだろうか。
 でも、人に頼られるってことは悪い気がしない。

「うん。任せてよ!」

 俺はそう力強く彼女に誓った。
 その言葉を聞いた彼女は空を見上げた。

「ところで、桃山さん」
「はい?」
「敬語はやめて下さい。なんか恥ずかしいので。同級生ですし」
「命の恩人なので、敬いの気持ちで言ってました。あと、そう言う蔭山さんも敬語ですよ!」
「ごめん。改めて宜しく!」
「こちらこそ」

 時刻はいつの間にかかなり経っている。
 間もなく9時を迎える。
 だが蘭華と絵里、そして半弥は未だ帰ってきていない。
 どうやら2人きりで見ることになりそうだ。

『バ〜ン!』

 花火の音が空いっぱいに響く。
 多色の花火は夜の星空を、都会でありながらも美しく彩っていた。
 その光景を花火が終わるまでの間、よそ見などせず目に焼き付けるのだった。


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