Waving Life ~波瀾万丈の日常~
20話 一時休戦
一時休戦
1
6月7日金曜日。
梅雨の真っ只中、外はそれに反して快晴である。
夏が間近にやって来ていることを実感させる蒸し暑さだ。自然と汗が出てきて鬱陶しい。
今の時期、学校はイベントというイベントが無くとても退屈である。
期末考査は来月にある。
そのための勉強には励まなくてはいけないが、1ヶ月先ということもあって身が入らない。
月曜日、狭間先輩にアドバイスを聞いた。
それを未だに実行できていない。
今日出来ないと休日に入ってしまう。
その前には解決しておきたいのだ。
なぜなら、休日を何一つ考えずにゆっくり過ごしたいからだ。
最近は全然休めてなくて、心が痛い…。
正直、限界なのだ。
教室で何気なく1限開始を待っていると、半弥が1つ前の席に座ってこちらを向いてきた。
「なぁなぁ、最近お前と皆田さんが話しているの見かけないけど何かあったのか?」
ギクッ!
「その顔は図星の様だな。ハハッ、お前分かりやすいな!」
なんかこいつに馬鹿にされるとすげー腹立つ。
「まぁちょっとな」
ちょっと所ではないのだが。
あっ…。
やってしまった…。
「喧嘩か?」
詳しく聞かれるということは間違いなく告白されたことを言わなければいけない。
そんなことになれば口の軽いこいつから学年、学校中に広まってしまう…。
「なぁ半弥」
「ん?」
頭の中でふと思いついた作戦を実行してみる。
「職員室に用事があるのを思い出したからちょっと行ってくる」
授業5分前。
もし用事があっても普通は行かない時間帯だが…。
通用したらラッキーってことで。
「それなら俺も一緒に…、っておい剣也!」
作戦失敗。でも咄嗟に逃げ出したお陰で半弥からは逃げ切ることが出来た。
当然、用事がある訳がないので俺は教室の外で背中を壁に預けて待機することにした。
『蘭華ちゃんは、スイーツ好き?』
『好きだよ!だから今日は…』
女の子2人がこちらへ近づいてきた。
蘭華と絵里だ。
絵里は月曜日、体調が悪くて早退していたが次の日からはいつも通り登校してきて元気そうな姿を見せている。
「あ、剣也。どうしたの?こんな所で」
蘭華がいつもの声のトーンで話してくる。
隣の絵里は何やら気まずそうに廊下の床を見ている。
「いやまぁ、色々な」
「授業始まるよ!」
「そうだな…。あ、そうだ。絵里、ちょっといいか?」
「う、うん」
丁度いい所に絵里が来たのでこれを見逃す手はない。
「蘭華は先に行っててくれ」
「分かった、早めに話終わらせてね」
蘭華が教室に入っていったのを見て、話を始める。
「今日の放課後、教室に残っててくれないか?」
「な、なんで?もしかして答えが出た?」
答えとは、蘭華の留学の件で出てきた選択肢、そのどちらを選ぶかという問題の回答である。
「あぁ、出た。だから伝えておきたくてな」
「分かった」
絵里は素直に用件をのんでくれた。
後は伝えられるかどうかという問題のみである。
2
「それで、どういう結論が出たの?」
放課後、2人きりの教室。
2人きりになった教室と言えば告白シーンを思い出すかもしれないけど、残念ながらそれはなさそうだ。
「俺は変わらないよ。蘭華の背中を押すのが正しいと思う」
「そう…」
そう、俺の結論は変わっていない。
確かに絵里の意見に賛同するところもある。
でも、もし自分が同じ立場ならそうして欲しいと思った。
『もし、蔭山自身が蘭華の立場ならどうして欲しい?』
月曜日の喫茶店で聞かれた質問。
『自分、なら背中を押して欲しいです』
『自分がそう思うならそれでいいんじゃないか?理由なんてそれだけでいい。単純でもいいんだ』
理由なんてそれだけでいい。その言葉に心を打たれた。
先輩のアドバイスで俺は決心を更に固めることができた。
だから、俺は背中を押すことを改めて決めたのである。
「寂しいとは思わない?」
「寂しいよ…。もちろん」
今日の絵里はこの前家に来た時の絵里と違い、かなり冷静だった。
寂しいか、寂しくないかと聞かれればもちろん寂しい。この質問は妹にもされていた。
「行って欲しくないでしょ?」
「あぁ」
行って欲しくない、いてほしい。
ずっと傍にいて支えてくれる存在であってほしい。
「もっと、もっと思い出…。作りたいでしょ?」
「あぁ」
絵里の声は次第に涙声に変わっていた。
楽しい思い出も悲しい思い出も。
もっと作りたい。蘭華と一緒に。
「お前の気持ち、分かるよ。もちろん俺自身、止めたい気持ちはあるんだよ」
「じゃあ、なんで?」
その答えは先輩の言葉の中にある。
「絵里…。蘭華の立場なら絵里はどうして欲しい?」
「私なら、私なら止めて欲しい。行かないで!って心から言ってほしい」
そう答えて来るのは正直予想外だった。
これでは問題解決には至らない。
仕方ない部分もあるかもしれない。
考えることなど人それぞれだから。
「そうか…」
思いは伝わらない。
そう諦めようとした時。
絵里が唐突に名前を呼ぶ。
「ねぇ、剣也君」
「どうした?」
「この話、まだ保留でいいんじゃないかな?」
「え?」
「私、あの日帰ってから思い返したの。そうしたら、結論急いでもいい結果なんて生まれないなぁって思えてきて。多分あの時、気が動転してたからちゃんと考えられなかったんだと思う」
「そうか…。分かった。ゆっくり考えていこう」
「それにさ、こんな深刻に捉えてたら他のこと考えられなくて、学校生活も楽しめないでしょ?だから、そのことを極力考えずにやって行こうよ!」
確かにそのことばかり気にしていても良いことなんて1つもない。
「もうこんな時間だし、帰るか!」
時間は6時を回っている。
既に下校時刻を越していた。
「そうだね!」
彼女はさっきまでの涙声ではなく弾む声で返事をしてきた。
こうして、俺達は帰宅の途に着いた。
問題は解けることこそ無かった。
だけどまだ急ぐ必要も無いだろう。
蘭華の留学まで約10ヵ月。
時間をかけて正しい選択肢を選べばいい。
そう思えた。
それから俺達は学生の楽園、夏休みへと着々と日付を進めていったのだった。
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6月7日金曜日。
梅雨の真っ只中、外はそれに反して快晴である。
夏が間近にやって来ていることを実感させる蒸し暑さだ。自然と汗が出てきて鬱陶しい。
今の時期、学校はイベントというイベントが無くとても退屈である。
期末考査は来月にある。
そのための勉強には励まなくてはいけないが、1ヶ月先ということもあって身が入らない。
月曜日、狭間先輩にアドバイスを聞いた。
それを未だに実行できていない。
今日出来ないと休日に入ってしまう。
その前には解決しておきたいのだ。
なぜなら、休日を何一つ考えずにゆっくり過ごしたいからだ。
最近は全然休めてなくて、心が痛い…。
正直、限界なのだ。
教室で何気なく1限開始を待っていると、半弥が1つ前の席に座ってこちらを向いてきた。
「なぁなぁ、最近お前と皆田さんが話しているの見かけないけど何かあったのか?」
ギクッ!
「その顔は図星の様だな。ハハッ、お前分かりやすいな!」
なんかこいつに馬鹿にされるとすげー腹立つ。
「まぁちょっとな」
ちょっと所ではないのだが。
あっ…。
やってしまった…。
「喧嘩か?」
詳しく聞かれるということは間違いなく告白されたことを言わなければいけない。
そんなことになれば口の軽いこいつから学年、学校中に広まってしまう…。
「なぁ半弥」
「ん?」
頭の中でふと思いついた作戦を実行してみる。
「職員室に用事があるのを思い出したからちょっと行ってくる」
授業5分前。
もし用事があっても普通は行かない時間帯だが…。
通用したらラッキーってことで。
「それなら俺も一緒に…、っておい剣也!」
作戦失敗。でも咄嗟に逃げ出したお陰で半弥からは逃げ切ることが出来た。
当然、用事がある訳がないので俺は教室の外で背中を壁に預けて待機することにした。
『蘭華ちゃんは、スイーツ好き?』
『好きだよ!だから今日は…』
女の子2人がこちらへ近づいてきた。
蘭華と絵里だ。
絵里は月曜日、体調が悪くて早退していたが次の日からはいつも通り登校してきて元気そうな姿を見せている。
「あ、剣也。どうしたの?こんな所で」
蘭華がいつもの声のトーンで話してくる。
隣の絵里は何やら気まずそうに廊下の床を見ている。
「いやまぁ、色々な」
「授業始まるよ!」
「そうだな…。あ、そうだ。絵里、ちょっといいか?」
「う、うん」
丁度いい所に絵里が来たのでこれを見逃す手はない。
「蘭華は先に行っててくれ」
「分かった、早めに話終わらせてね」
蘭華が教室に入っていったのを見て、話を始める。
「今日の放課後、教室に残っててくれないか?」
「な、なんで?もしかして答えが出た?」
答えとは、蘭華の留学の件で出てきた選択肢、そのどちらを選ぶかという問題の回答である。
「あぁ、出た。だから伝えておきたくてな」
「分かった」
絵里は素直に用件をのんでくれた。
後は伝えられるかどうかという問題のみである。
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「それで、どういう結論が出たの?」
放課後、2人きりの教室。
2人きりになった教室と言えば告白シーンを思い出すかもしれないけど、残念ながらそれはなさそうだ。
「俺は変わらないよ。蘭華の背中を押すのが正しいと思う」
「そう…」
そう、俺の結論は変わっていない。
確かに絵里の意見に賛同するところもある。
でも、もし自分が同じ立場ならそうして欲しいと思った。
『もし、蔭山自身が蘭華の立場ならどうして欲しい?』
月曜日の喫茶店で聞かれた質問。
『自分、なら背中を押して欲しいです』
『自分がそう思うならそれでいいんじゃないか?理由なんてそれだけでいい。単純でもいいんだ』
理由なんてそれだけでいい。その言葉に心を打たれた。
先輩のアドバイスで俺は決心を更に固めることができた。
だから、俺は背中を押すことを改めて決めたのである。
「寂しいとは思わない?」
「寂しいよ…。もちろん」
今日の絵里はこの前家に来た時の絵里と違い、かなり冷静だった。
寂しいか、寂しくないかと聞かれればもちろん寂しい。この質問は妹にもされていた。
「行って欲しくないでしょ?」
「あぁ」
行って欲しくない、いてほしい。
ずっと傍にいて支えてくれる存在であってほしい。
「もっと、もっと思い出…。作りたいでしょ?」
「あぁ」
絵里の声は次第に涙声に変わっていた。
楽しい思い出も悲しい思い出も。
もっと作りたい。蘭華と一緒に。
「お前の気持ち、分かるよ。もちろん俺自身、止めたい気持ちはあるんだよ」
「じゃあ、なんで?」
その答えは先輩の言葉の中にある。
「絵里…。蘭華の立場なら絵里はどうして欲しい?」
「私なら、私なら止めて欲しい。行かないで!って心から言ってほしい」
そう答えて来るのは正直予想外だった。
これでは問題解決には至らない。
仕方ない部分もあるかもしれない。
考えることなど人それぞれだから。
「そうか…」
思いは伝わらない。
そう諦めようとした時。
絵里が唐突に名前を呼ぶ。
「ねぇ、剣也君」
「どうした?」
「この話、まだ保留でいいんじゃないかな?」
「え?」
「私、あの日帰ってから思い返したの。そうしたら、結論急いでもいい結果なんて生まれないなぁって思えてきて。多分あの時、気が動転してたからちゃんと考えられなかったんだと思う」
「そうか…。分かった。ゆっくり考えていこう」
「それにさ、こんな深刻に捉えてたら他のこと考えられなくて、学校生活も楽しめないでしょ?だから、そのことを極力考えずにやって行こうよ!」
確かにそのことばかり気にしていても良いことなんて1つもない。
「もうこんな時間だし、帰るか!」
時間は6時を回っている。
既に下校時刻を越していた。
「そうだね!」
彼女はさっきまでの涙声ではなく弾む声で返事をしてきた。
こうして、俺達は帰宅の途に着いた。
問題は解けることこそ無かった。
だけどまだ急ぐ必要も無いだろう。
蘭華の留学まで約10ヵ月。
時間をかけて正しい選択肢を選べばいい。
そう思えた。
それから俺達は学生の楽園、夏休みへと着々と日付を進めていったのだった。
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